そゝ)” の例文
夫婦ふうふはこれに刎起はねおきたが、左右さいうから民子たみこかこつて、三人さんにんむつそゝぐと、小暗をぐらかたうづくまつたのは、なにものかこれたゞかりなのである。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
勘次かんじはおつたの姿すがたをちらりと垣根かきね入口いりぐちとき不快ふくわいしがめてらぬ容子ようすよそほひながら只管ひたすら蕎麥そばからちからそゝいだのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そのとき西にしのぎらぎらのちぢれたくものあひだから、夕陽ゆふひあかくなゝめにこけ野原のはらそゝぎ、すすきはみんなしろのやうにゆれてひかりました。
鹿踊りのはじまり (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
赤鉢卷隊あかはちまきたい全力ぜんりよく山頂さんてうむかつてそゝぎ、山全體やまぜんたいとりくづすといふいきほひでつてうちに、くはさきにガチリとおとしてなにあたつた。
わたくし此時このときまでほとんど喪心そうしん有樣ありさまで、甲板かんぱん一端いつたん屹立つゝたつたまゝこの慘憺さんたんたる光景ありさままなこそゝいでつたが、ハツと心付こゝろついたよ。
堂堂どうどう遠慮えんりよなくあらそつべく、よわき者やぶるる者がドシドシ蹴落けおとされて行く事に感傷的かんせうてき憐憫れんびんなどそゝぐべきでもあるまい。
己が壜子とくりの酒を與へて汝のかわきをとゞむることをせざる者は、その自由ならざること、海にそゝがざる水に等し 八八—九〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
自分は珈琲の中に強いアルコオル性のコニヤツクをそゝいで、立上たちのぼる湯氣と共に其の薫りを深く吸ひ込んだ。一時の悲愁は忽ち消えて心がうつとりとなる。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
じつきみはなしたい事があるんだが」と代助はついに云ひした。すると、平岡は急に様子を変へて、落ちかないを代助のうへそゝいだが、卒然そつぜんとして
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
現今げんこんでは精神病者せいしんびやうしや治療ちれう冷水れいすゐそゝがぬ、蒸暑むしあつきシヤツをせぬ、さうして人間的にんげんてき彼等かれら取扱とりあつかふ、すなは新聞しんぶん記載きさいするとほり、彼等かれらために、演劇えんげき舞蹈ぶたふもよほす。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
もつれ毛があごの下に渡してある白い紐の下からはみ出し、半ばは頬の上と云ふよりは寧ろ顎の上にかゝつてゐた。彼女の眼は直ぐに無遠慮に眞直まつすぐに私にそゝがれた。
目は地上にそゝがるゝことしばらくなりき、アヌンチヤタは忽ち右手めてを擧げて、ゆるやかにそのぬかを撫でたり。
そゝいでぎられしあとまた人音ひとおとこのたびこそはとれげなさけなし三軒許さんげんばかり手前てまへなるいへりぬ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「だから貴様達は馬鹿だと云ふんだ」突如落雷の如き怒罵どばの声は一隅より起れり、衆目しゆうもく驚いて之にそゝげば、いま廿歳前はたちぜんらしき金鈕きんボタンの書生、黙誦もくじゆしつゝありし洋書を握り固めて
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
からすあらそふとものがるゝことはかなはずすみやかに白状せよとさとされければ大膽無類の長庵も最早もはやかなはじとや思ひけん見る中に髮髯かみひげ逆立さかだち兩眼りやうがんそゝ惡鬼羅刹あくきらせつの如きおもて振上ふりあげ一同の者を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一人ひとり毒瓦斯どくがすくべくつてまどすこけた。人々ひと/″\新來しんらいきやくそゝいだ。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
膝行ゐざり寄つたお京は、赤ん坊のやうな素直な心持で、音次郎の首つ玉に、犇々ひし/\とすがりつくのです。どつと留めどのない涙が、死に化粧の白粉を流して、男の襟へ首筋へとそゝぎます。
薙刀なぎなたかゝへた白衣姿の小池と、母親が丹精たんせいこらした化粧けしやうの中に凉しい眼鼻を浮べて、紅い唇をつぼめたお光とが、連れ立つて歸つて行くのを、町の人は取り卷くやうにして眼をそゝいだ。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
養生やうじやう榮燿えいやうやうおもふは世上せじやう一般いつぱん習慣ならはしなり。いまへる養生法やうじやうはふは、いかなる貧人ひんじん、いかなる賤業せんげふひとにても、日夜にちやこゝろそゝげば出來できことなり。よつその大意たいい三首さんしゆ蜂腰ほうえうつゞることしかり。
養生心得草 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
パリス (廟の前へ進みて)なつかしいはな我妹子わぎもこはなこの新床にひどこうへいて……あゝ、天蓋てんがいいし土塊つちくれ……そのいた草花くさはな夜毎よごとかほみづそゝがう。しそれがきたなら、なげきにしぼわしなみだを。
みづ燃燒ねんしようもとそゝぐこと、ほのほけむりいでも何等なんら效果こうかがない。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
今や吾が手にして居る電報に氣のそゝがぬといふ事は無い。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
青天あをぞらの光、咲き亂れたる花にそゝ
しか彼等かれらは一ぱういうして矛盾むじゆんした羞耻しうちねんせいせられてえるやうな心情しんじやうからひそか果敢はかないひかりしゆとしてむかつてそゝぐのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
木彫きぼりのあの、和蘭陀靴オランダぐつは、スポンとうらせて引顛返ひつくりかへる。……あふりをくつて、論語ろんごは、ばら/\と暖爐だんろうつつて、くわつしゆそゝぎながら、ペエジひらく。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
其樣そんことだらうとはおもひました、じつひどにおあひになりましたな。』と、いましも射殺ゐたをしたる猛狒ゴリラ死骸しがいまなこそゝいで
けれども、代助の精神は、結婚謝絶と、其謝絶にいで起るべき、三千代と自分の関係にばかりそゝがれてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あゝ我をして視る力の盡くるまで、永遠とこしへの光の中に敢て目をそゝがしめし恩惠めぐみはいかにゆたかなるかな 八二—八四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
おそらく此後こののちからうとおもふ。いまところでは養子やうしやうともかんがへてらぬ。されば生活せいかつあまりあるときには、それをこと/″\そゝいで遺跡ゐせき發掘はつくつるのである。
ぼくは一ねんこゝにおよべば倫理學者りんりがくしや健全先生けんぜんせんせい批評家ひゝやうか、なんといふ動物どうぶつ地球外ちきうぐわい放逐はうちくしたくなる、西印度にしいんど猛烈まうれつなる火山くわざんよ、何故なにゆゑなんぢ熱火ねつくわ此種このしゆ動物どうぶつ頭上づじやうにはそゝがざりしぞ!
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ちひさな土橋どばしひとつ、小川をがは山川やまがはそゝぐところにかゝつてゐた。山川やまがはにははしがなくて、香魚あゆみさうなみづが、きやう鴨川かもがはのやうに、あれとおなじくらゐのはゞで、あさくちよろ/\とながれてゐた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
むすびて口にそゝぎなどしてあつ介抱かいはうなしけるに半四郎は未だ口はきかざれども眼を開き追々にいきも入たる樣子を見て先々まづ/\強き怪我けがもなかりしやして其許そのもとは何國の者ぞ又如何成る用事有て夜中只一人此原中を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「火に油そゝぐ者の火傷くわしやうは、我等の微力に救ふことは出来ませぬ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「どれ、あのとほくのがゝ、わかるもんか何處どこだか」勘次かんじえたところだけがつくりとつた蚊燻かいぶしの青草あをくさそゝぎながら氣乘きのりのしないやうにいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
もうすこしで双方がぴたりと出合であつてひとつにおさまると云ふ所で、ときながれが急にむきを換へて永久のなかそゝいで仕舞ふ。原口さんの画筆ブラツシそれより先には進めない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
はやわが目は再びわが淑女の顏にそゝがれ、目とともにこゝろもこれに注がれて他の一切の思ひを離れき 一—三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
與吉よきち父親ちゝおやめいぜられて、こゝろめてたから、きしあがると、おもふともなしに豆腐屋とうふやそゝいだ。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
此處こゝところ印度洋インドやうその不屆ふとゞき小忰こせがれめは何處どこる。』と艦上かんじやう速射砲そくしやほうそゝいで
そゝぎ掛け忠兵衞なれば恍惚みとれもせず其儘おくへ入たればよくは見ねども一寸ちよつとるさへ比ひまれなる美婦人と思へばうちの若旦那が見染みそめて思ひなやむ道理だうり要こそあれと主個あるじに向ひチト率爾そつじなるお願ひにて申し出すも出しにくきが吾儕わたくしは本町三丁目小西屋長左衞門こにしやちやうざゑもん方の管伴ばんたうにて忠兵衞と申す者なるが今日出番かた/″\にて御覽ごらんの通り丁稚こぞう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あはれ良匠りやうしやうがなあれかしと、あまたある臣下等しんかどもえず御眼おんめそゝがれける。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その時分じぶん宗助そうすけは、つねあたらしい世界せかいにばかりそゝがれてゐた。だから自然しぜん一通ひととほり四季しきいろせて仕舞しまつたあとでは、ふたゝ去年きよねん記憶きおくもどすために、はな紅葉もみぢむかへる必要ひつえうがなくなつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
けれども其驚ろきは、論理なき急劇の変化のうへそゝがれた丈であつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
まどけると、こほりそゝぐばかり、さつあめつめたい。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)