覺束おぼつか)” の例文
新字:覚束
平次は何やら考込みながら、八五郎をうながしました。ものの判斷は覺束おぼつかないが、見ることと聞くことは人後に落ちない筈の八五郎です。
いかに、わが世の、あだなるや、くうなるや、うつろなるや。げに、人間のあとかたの覺束おぼつかなくて、數少なき。いたづらなるは月日なり。
郡奉行へ相談の上見知人みしりにんの爲江戸表へ連行つれゆく事と定めけれど老人らうじんなれば途中とちう覺束おぼつかなしと甚左衞門をも見知人みしりにんに出府致す樣申渡し直に先觸さきぶれ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
鹿じかなく山里やまざとえいじけむ嵯峨さがのあたりのあきころ——みねあらし松風まつかぜか、たづぬるひとことか、覺束おぼつかなくおもひ、こまはやめてくほどに——
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その菓子を得れば私は恐らく、いくらか元氣を恢復することが出來るだらう、さうでもしなければ、先へ歩くことさへ覺束おぼつかない。
この運命の定まるべき日の、せちに待たるゝと共に、あるときは其成功の覺束おぼつかなき心地せられて、熱病む人の如くなることあり。
幾度いくたび幾通いくつう御文おんふみ拜見はいけんだにせぬれいかばかりにくしと思召おぼしめすらん、はいさば此胸このむね寸斷すんだんになりてつね決心けつしんえうせん覺束おぼつかなさ
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
わたしは我慢して八つ目までは書いたものゝ、無事に大詰まで書き負せるか何うだか、我ながら覺束おぼつかないやうに思はれる。
近松半二の死 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
かんがへてると隨分ずゐぶん覺束おぼつかないことだが、それでも一縷いちるのぞみつながやうにもかんじて、吾等われら如何いかにもして生命いのちのあらんかぎり、櫻木大佐さくらぎたいさ援助たすけつもりだ。
宗助そうすけ此間このあひだ公案こうあんたいして、自分じぶんだけ解答かいたふ準備じゆんびしてゐた。けれども、それははなは覺束おぼつかない薄手うすでのものにぎなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
世に望みなき身ながらも、我れから好める斯かる身の上の君の思召おぼしめしの如何あらんと、折々をり/\思ひ出だされては流石さすが心苦こゝろぐるしく、只〻長き將來ゆくすゑ覺束おぼつかなき機會きくわいを頼みしのみ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
なんゆえに一にんえきなきものをころして多人數たにんずえきすることしきことなしといふ立派りつぱなる理論りろんをもちながら流用りうようすること覺束おぼつかなき裝飾品そうしよくひん數個すこうばひしのみにして立去たちさるにいたりしか
「罪と罰」の殺人罪 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
わたくしかんがへでは今日こんにち學生がくせいものをしゆるにしても、一をしへてわすれたところがあれば、再度さいどをしへる、またわすれたところがあればまたをしへるといふやうな教授法けうじゆはふでは中々なか/\成効せいかう覺束おぼつかないとおもひます。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
「一十五分前ふんまへだ‥‥」と、わたし覺束おぼつかない星明ほしあかりに腕時計うでどけいをすかしてながらこたへた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
戰場の人員、備立そなへたてのみを軍法として心得ては、大局の利を收めることは覺束おぼつかない。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
ロレ 手短てみじかまうしませう、くだ々しうまうさうにはいのち覺束おぼつかなうござりまする。
俺は何うだ、繪具とテレビンとに氣を腐らして、年中ねんぢゆう齷齪あくせくしてゐる………それも立派な作品でも出來ればだが、ま、覺束おぼつかない。そりや孑孑ぼうふらどぶの中でうよ/\してゐるのよ、だが、俺は人間だ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
東京とうきやうにも歌人うたよみ大家先生たいかせんせい澤山たくさんあれど我等われらのやうに先生せんせい薫陶くんたう大島小學校おほしませうがくかうもんまなさふらふものならで、我等われら精神感情せいしんかんじやう唱歌しやうかうたいだるものるべきや、はなは覺束おぼつかなく存候ぞんじさふらふ
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
覺束おぼつかなし、わらは夜叉神やしやじん一命いちめいさゝげて、桃太郎も〻たらう
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
窺はば鎌倉の治世覺束おぼつかなかるべしなど語合ふおもへ治承ぢしようの昔し頼朝には北條時政といふ大山師おほやましが付き義經には奧州の秀衡ひでひらといふ大旦那だいだんなあり義仲には中三權頭兼遠ちうさんごんのかみかねとほといふわづかの後楯うしろだてのみなりしに心逞ましき者なればこそ京都へ度々忍びのぼつて平家の動靜を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
お源の指す方を見ると、六十近い老婆が覺束おぼつかない恰好で客の支度らしく、納戸から膳などを取出してゐるのが、こゝからよく見えます。
雖然けれども心覺こゝろおぼえで足許あしもと覺束おぼつかなさに、さむければとて、三尺さんじやく前結まへむすびにたゞくばかりにしたればとて、ばた/\駈出かけだすなんどおもひもらない。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
われは手に瓔珞くびたまを捧げて、心にこれをマリアに與へんことを願ひぬ。マリアの顏の紅をせしは、我心をはかり得たるにやあらん、覺束おぼつかなし。
願ふ所にてうらみもはれたれば一ト通りの歎願たんぐわんにてはとても助命覺束おぼつかなく思ひ六右衞門の申立たる棄子に事寄吉兵衞が差當りての作意さくいにてかゝることを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
なんとかして永久にこの幽靈を追ひはらつてしまふのでなければ、小幡一家の平和を保つことは覺束おぼつかないやうに思はれた。
半七捕物帳:01 お文の魂 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
私は、長い間、書面を調しらべた。筆蹟は、年老としとつた婦人のものらしく舊式で、どちらかと云へば覺束おぼつかない方であつた。この條件コンデイションはまづ申分がなかつた。
いまはそれさへ天涯でんがい彼方かなたちて、見渡みわたかぎ黒暗々こくあん/\たるうみおも、たゞ密雲みつうん絶間たへまれたるほしひかりの一二てん覺束おぼつかなくもなみ反射はんしやしてるのみである。
すゑのほど覺束おぼつかなければとひかゝるをうちけして、そは御懸念ごけねんふかすぎずや、釣合つりあふとつりあはぬは御心おこゝろうへのことなり、一おういとさまの御心中ごしんちううかゞくだされたし
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
つれなしと見つる浮世に長生ながらへて、朝顏のゆふべを竣たぬ身に百年もゝとせ末懸すゑかけて、覺束おぼつかなき朝夕あさゆふを過すも胸に包める情の露のあればなり。戀かあらぬか、女子のいのちはそも何に喩ふべき。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
されどかかる烏滸をこのしれもの果して喜んで記實の文を讀むを必とすべきか。これもいと/\覺束おぼつかなし。一世の傾向を釀さむとするものは積極なる教育の道に由るべきは、固より其所なり。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
しかしそれは自分じぶんむかちゝからいたおぼえのある、朧氣おぼろげ記憶きおく好加減いゝかげんかへすにぎなかつた。實際じつさい價値かちや、また抱一はういつついてのくはしい歴史れきしなどにいたると宗助そうすけにも其實そのじつはなは覺束おぼつかなかつたのである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
が、惡人のあせりやうも一段猛烈を極めて、その三日を無事に暮せるかどうか、甚だ覺束おぼつかない有樣になつてゐることも事實でした。
彼と云ひ此と云ひ、今宵の受用の覺束おぼつかなかるべき前兆ならぬものなけれど、われは猶せめて第一折を觀んとおもひて、獨り觀棚に坐し居たり。
……ところ千丈せんぢやうみねからくづれかゝる雪雪頽ゆきなだれしたたきゞるよりあぶなツかしいのに——度胸どきようでないと復興ふくこう覺束おぼつかない。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
立伊賀亮事にはか癪氣しやくき差起さしおこり明日の所全快ぜんくわい覺束おぼつかなく候間萬端ばんたん宜敷御頼み申也と云おく部屋へや引籠ひきこもり居たりけるさて其夜もあけたつ上刻じやうこくと成ば天一坊には八山を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ロチスター氏はそのとき歩き𢌞らうとした、だが空しく——何ももあまりに覺束おぼつかなかつた。彼は手探りに家の方へ引返すと、再び中に這入つて入口を閉めた。
覺束おぼつかないつきに風車かざぐるまてゝせたり、りつゞみなどをつておせなされ、一家いつかうちわれなぐさめるは坊主ばうず一人ひとりだぞとあのいろくろいおかほをおあそばすと
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いま躊躇ちうちよしてはられぬ塲合ばあひわたくし突如いきなり眞裸まつぱだかになつて海中かいちう跳込をどりこんだ、隨分ずいぶん覺束おぼつかないことだが、およぎながらに、端艇たんていをだん/″\としまほうしてかんとのかんがへ艇中ていちうからは日出雄少年ひでをせうねん
第二節目を歌ふ頃から、乳母の聲よりもつと/\若くて美しい聲が、覺束おぼつかない歌詞を辿たどるやうに、乳母の歌にいて行くのです。
雖然けれども曳惱ひきなやんで、ともすれば向風むかひかぜ押戻おしもどされさうにる。暗闇やみおほいなるふちごとし。……前途ゆくさき覺束おぼつかなさ。うやら九時くじのにひさうにおもはれぬ。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
どくなれど此處こゝれて眞直まつすぐゆきしゝと小路こみちりぬ、なんこと此路このみち突當つきあたり、ほかまがらんみちえねば、モシおたくはどのへんでと覺束おぼつかなげにとはんとするとき
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
伜へ遺書くらゐは書いたかも知れないが、それは氣の廻るお茂與が隱したことだらう。中氣で手が顫へるから、武家の出でも刄物の自害じがい覺束おぼつかない。
してるとおまへさんがたのおど/\するのは、こゝろ覺束おぼつかないところがあるからで、つみつくつたものえる。懺悔ざんげさつしやい、發心ほつしんして坊主ばうずにでもならつしやい。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
こゝろまるものもなく、にかゝる景色けしきにもおぼえぬは、れながらひど逆上のぼせ人心ひとごゝろのないのにと覺束おぼつかなく、くるひはせぬかとたちどまる途端とたん、おりき何處どこくとてかたひとあり。
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
多の市は覺束おぼつかなくも言ひ切ります。その間にも、修驗者の道尊坊は、護摩の煙を濛々もう/\となびかせながら、みに揉んで何やら祈り續けて居るのでした。
が、不斷ふだんだと、魑魅ちみ光明くわうみやうで、電燈でんとうぱつけて、畜生ちくしやうつぶてにして追拂おひはらふのだけれど、あかり覺束おぼつかなさは、天井てんじやうからいきけると吹消ふつけされさうである。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
本當ほんたうやつなれば、今度こんどぼくくつしたをみてたまはるときれにもなにこしらへてたまはれ、よろしきか姉樣ねえさま屹度きつとぞかし姉樣ねえさま、と熱心ねつしんにたのみて、覺束おぼつかなき承諾しようだくことば其通そのとほさとしつたふれば
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
伊太松は懷中ふところを探つて手紙一枚に、覺束おぼつかない假名文字で書いた手紙を取出し、しわを伸ばして平次に見せるのです。
つては、置場所おきばしよわすれたにしても、あまりなわすかただからと、をんなたちはわれ我身わがみをさへ覺束おぼつかながつてつのである。つあやかしにでも、かれたやうなくらかほをする。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その下駄げたにておもものちたればあしもと覺束おぼつかなくてながもとこほりにすべり、あれともなくよこにころべば井戸いどがはにてむかずねしたゝかにちて、可愛かわいゆきはづかしきはだむらさき生々なま/\しくなりぬ
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)