人間にんげん)” の例文
それは、ひろい、さびしい野原のはらでありました。まちからも、むらからも、とおはなれていまして、人間にんげんのめったにゆかないところであります。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
といいながら、はちをつかんでげますと、したから人間にんげん姿すがたあらわれたので、びっくりして、はなしてげていってしまいました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「なあに、できないことがあるものか。なみの力でできるのに、人間にんげんにできないってことがあるものか。ようするに、時間じかん問題もんだいさ。」
ラクダイ横町 (新字新仮名) / 岡本良雄(著)
それがまへつたように人間にんげんおほくなるにつれて木材もくざいがいよ/\おほ必要ひつようとなり、どんどんるため、村落そんらくちかやまはもとより
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
人間にんげん女房にようぼうこひしくるほど、勇気ゆうきおとろへることはない。それにつけても、それ、そのかばんがいたはしい。つた、またばしやり、ばしやん。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
でもまあ無事ぶじでよかつた。人間にんげんめ! もうどれほど俺達おれたち仲間なかまころしやがつたか。これを不倶戴天ふぐたいてんてきとゆはねえで、なにふんだ。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
(なんというはくじょうな、ひれつなやつらだ。幕府ばくふ人間にんげんは、みな、これだからいけない。よし、おれが一人ひとりでひきうけてやる。)
代助はちゝおこらせる気は少しもなかつたのである。かれの近頃の主義として、ひとと喧嘩をするのは、人間にんげんの堕落の一範鋳はんちうになつてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そして冷靜れいせいな藝術的鑑賞かんしやうは、熱烈ねつれつ生理せいり憧憬どうけいとなつて、人形にんぎやうにはたましいが入つた。何も不思議はないことだらう。周三だつて人間にんげんである。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
それでの一ちやうはう晝間ひるまめたといふほど、ひどい臭氣しうきが、ころくさつた人間にんげんこゝろのやうに、かぜかれてつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
さてさういふさる人間にんげんとの中間ちゆうかんのものゝほね今日こんにちまでにいかほど發見はつけんされたかといふに、殘念ざんねんながら中々なか/\おもふようにてまゐりません。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
で、わたくしかたしんじています。もし来世らいせいいとしたならば、そのときおおいなる人間にんげん智慧ちえなるものが、早晩そうばんこれを発明はつめいしましょう。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
……畜生ちくしゃう兩方りゃうはう奴等やつらめ!……うぬ! いぬねずみ鼷鼠はつかねずみ猫股ねこまた人間にんげん引掻ひっかいてころしをる! 一二三ひふうみいけん使つか駄法螺吹家だぼらふきめ! 破落戸ごろつき
(やつのたましい悪魔あくまにみいられているにちがいない。でなければ、ふつうの人間にんげんに、そんなおそろしいことがたえきれるはずがないんだ)
などと年甲斐としがひもなくをとこぴきがそんなくだらないことをかんがへたりするのも、麻雀マアジヤン苦勞くらうした人間にんげんでなければわからないあぢかもれない。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
イヤイヤあれはれいによりて人間にんげんどもの勝手かって仮構事つくりごとじゃ。乙姫様おとひめさまけっして魚族さかな親戚みうちでもなければまた人魚にんぎょ叔母様おばさまでもない……。
だのに、人間にんげん死体したいのことではなくて、んだ金魚きんぎょのことをきにいつたから、いかにもそれは滑稽こっけいかんじがしたのであつた。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
が、そのあひだ勿論もちろんあの小娘こむすめが、あたか卑俗ひぞく現實げんじつ人間にんげんにしたやうなおももちで、わたくしまへすわつてゐることえず意識いしきせずにはゐられなかつた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そのまづしさには決してへられません。私達はもう少し人間にんげんらしく生きなければなりません。今にもうすぐ私達の一生にもふゆがまゐります。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
なんてまぶしくって、人間にんげんがどっさりいて、馬だのくるまだのがはしりまわって、おまけに、さむい身をきるような風が、きまわっているのだろう。
見るは此御白洲がはじめてなり一言も有のないのと言るゝは如何なる事やと空嘯そらうそぶいてたりしかば無量庵は然樣で有う人間にんげんうまれておんを知らぬを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
勿論もちろんかれ仲間なかまだけがことにさうだとはへなかつた。見渡みわたしたところ、人間にんげんみんひとつ/\の不完全ふくわんぜん砕片かけらであるのに、不思議ふしぎはないはずであつた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
しかしこの句の生命は、人間にんげんという言葉の奇警で力強い表現に存するのだから、某氏のように読むとすれば、平凡で力のない作に変ってしまう。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
だれからかねえでも、おいらの見透みとおしだて。——人間にんげんは、四百四びょううつわだというが、しげさん、おめえのやまいは、べつあつらえかもれねえの」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
おそらくわたくし想像さうぞうあやまるまい、じつてんわざはひ人間にんげんちからおよところではないが、今更いまさらかゝ災難さいなんふとは、じつ無情なさけな次第しだいです。
ですからことわざは、命令めいれい意義いぎから、だん/\變化へんかして、社會的しやかいてき訓戒くんかいあるひは、人間にんげんとしてのこゝろがけをくといふ方面ほうめんに、意味いみ變化へんかしてました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
かみ創造さう/″\御心みこゝろ人間にんげんたのしましめんとするにありてくるしましめんとするにあらず。無為むゐ天則てんそくなり、無精ぶしやう神慮しんりよかなへり。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
おそろしく潔癖けつぺきしも見窄みすぼらしい草木さうもく地上ちじやうにじりつけた。人間にんげんりたものはでもはたでも人間にんげんりて到處いたるところをからりとさせる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それ深刻しんこく印度いんど化物ばけものとはくらべものにならぬ。たとへば、ケンタウルといふ惡神あくしん下半身しもはんしんうまで、上半身かみはんしん人間にんげんである。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
わたししや地球ちきうつらぬいて一直線ちよくせんちてくのぢやないかしら!さかさになつてあるいてる人間にんげんなかつたらどんなに可笑をかしいでせう!オー可厭いやなこと
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
いやうも永持ながもちはあるまいとおもはれる、ほとんど毎日まいにちぬといつとほ人間にんげんらしき色艷いろつやもなし、食事しよくじ丁度ちやうど一週間いつしうかんばかり一粒いちりふくちれることいに
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
見世物が出る。手軽な飲食店が出る。のどひえが通る様に、店の間を押し合いへし合いしてぞろ/\人間にんげんが通る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あゝれ『きたるこゝろ』だらうか、何故なにゆゑ自然しぜんあいするこゝろきよたかくして、少女せうぢよ人間にんげん)をふるこゝろは『きたるこゝろ』、『いやらしいこゝろ』、『不健全ふけんぜんなるこゝろ
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
しかし御老人ごろうじんこころのよいおかたで、わしらをまっとうな人間にんげんのようにしんじていてくださるのをては、わしはもう御老人ごろうじんをあざむいていることができなくなりました。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
その男というのは、ほかの人に影響えいきょうあたえるなどとは自分でも思っていなかったし、たれても平凡へいぼん人間にんげんだった。——それはクリストフの母親ははおやルイザの兄だった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
運命うんめい人間にんげんかたちきざめり、境遇けふぐう人間にんげん姿すがたつくれり、不可見の苦繩人間の手足を縛せり、不可聞の魔語人間の耳朶を穿てり、信仰しんこうなきのひと自立じりつなきのひと寛裕かんゆうなきのひと
「罪と罰」の殺人罪 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
泣出なきだしもしまいとつたから、ひさしぶりで、こちらも人間にんげんこゑきたくなつて、口元くちもとはなしてやると、あとをきさうにもしないのだ。よそてゐるやうだ。
なにひとつ人にすぐれたことのない人間にんげんからみると、ああいう人間のほうがたしかにおもしろい。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
わたしはどの点より見ても、しごく有福ゆうふくになったのです。お給金きゅうきんはらいもどして、一本だちの人間にんげんにしていただこうとおもえば、いつでもそのくらいのことはできるのですよ。
あやしげな一人間にんげんは、蛾次郎がここへはいったとき、上へ身をけていたものであろう。いまになって知れば、馬糧小屋の天井のはりにつかまって、ジッと、身動みうごきもしないでいる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どうだ!」と、死神が声をかけました、「これは、人間にんげんどもの生命いのち燈火あかりだ。大きいのは子どもので、ちゅうぐらいのは血気けっきさかんな夫婦もの、小さいやつは、じいさん、ばあさんのだ。 ...
火脉くわみやく気息いき人間にんげん日用にちよう陽火ほんのひくはふればもえてほのほをなす、これを陰火いんくわといひ寒火かんくわといふ。寒火をひくかけひつゝこげざるは、火脉の気いまだ陽火をうけて火とならざる気息いきばかりなるゆゑ也。
ひとびのくつというのはふねのことです。だって、ふねのことをいうのにこれよりいい名前なまえがありますか? ですから、みちというのは、人間にんげんが人間のためにこしらえた川のようなものです。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
今夜こんやあなたのおとうさんが、ぼく罵倒ばたうしてしたのも、おやとして無理むりなことではありません。まつたぼくといふをとこは、あなたをなにひとつ幸福かうふくにしてあげることなんかできない人間にんげんなんですから……
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
うだ/\、全體ぜんたい杉村君すぎむらくんは、我々われ/\蠻勇ばんいうおどろいてしまつたのだ。とて太刀打たちうち出來できないから、それで見物けんぶつまはつたのだ。人間にんげん利口りこう出來できてる。我々われ/\馬鹿ばか出來できてるよ』と水谷氏みづたにしふ。
いままでに、度々たび/\はなししようとおもひましたが、御心配ごしんぱいをかけるのもどうかとおもつて、けることが出來できませんでした。じつまをしますと、わたしはこのくに人間にんげんではありません。つきみやこものでございます。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
「どうせ人間にんげんだもの、このくらいのことをするのは当然だ」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
まへかげ人間にんげんかたちうしなひ、おまへ姿すがれ背嚢はいのうかく
さもあれヂュウス人間にんげんの祈願すべてを受け納れず
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
人間にんげんこゑしていどみ、飛びかはし
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)