てら)” の例文
ほたるもすそしのつまりて、うへ薄衣うすぎぬと、長襦袢ながじゆばんあひだてらして、模樣もやうはなに、に、くきに、うらきてすら/\とうつるにこそあれ。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
これ等が黄色なてらされて居るのを私は云ひ知れない不安と恐怖の目で見て居るのであつた。しまひには両手で顔を覆ふてしまつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
で、更に念の為に蝋燭を揚げて、高い岩の上を其処そここことてらしてると、遠い岩蔭に何か知らず、星のように閃く金色こんじきの光をた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
てら行列ぎやうれつたゞしく出仕有に程なく夜も明渡あけわたり役人方そろはれしかばやゝあつて嘉川主税之助一件の者共呼込よびこみになり武家の分は玄關にて大小を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
幹子みきこ目蓋まぶたは、もう開けられないほど重くなって来ました。けれどお月様は、やっぱり窓からお母様や幹子の寝床をてらしました。
(新字新仮名) / 竹久夢二(著)
さら取直とりなをして、暗黒々あんこく/\岩窟内がんくつないてらると、奧壁おくかべちかくにあたつてる、る、ひとほねらしいもの泥土でいどまりながらよこたはつてえる。
広い風呂場をてらすものは、ただ一つの小さき洋灯ランプのみであるから、この隔りでは澄切った空気をひかえてさえ、しか物色ぶっしょくはむずかしい。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夏の日にてらされて、墓地の土は白く乾いて、どんなかすかな風にもすぐちりが立ちさうである。わたしの記憶も矢張やはりこの白い土のやうに乾いてた。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
すぎとし北国より人ありてこぶしの大さの夜光やくわうの玉あり、よく一しつてらす、よきあたひあらばうらんといひしかば、即座そくざに其人にたくしていはく、其玉もとめたし
しかし今の方法によって、それがしんになって霧粒が出来ると、その霧粒は、強い光でてらしてやれば、光って肉眼にも見える。
「茶碗の湯」のことなど (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「幸に濃妝のうせうをもつて妾が雙頬さうけふ啼痕ていこんおほふを得るも菱華りやうくわは独り妾が妝前せうぜん愁眉しうびてらさざる殆ど稀なり」という文体である。
婦人と文学 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
巻中の画、老人が稿本かうほん艸画さうぐわしんにし、あるひは京水が越地にうつし真景しんけい、或里人さとびとはなしきゝに作りたるもあり、其地にてらしてあやまりせむることなかれ。
前には田なども作ってあり、対岸の尾沼谷にはとちの大木が多い。山頂は雲に掩われているが、日にてらされた谷の緑は燃えるように鮮かであった。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
その時、玉簾のうしろに今まで身を潜めていた訶和郎かわろは、八尋殿やつひろでんの廻廊から洩れくる松明の光にてらされて、突然に浮き出た不弥の女の顔を目にとめた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
お母さんが道々よく教えてくれた、黒い大きなシルクハットの帽子の看板が、青い電燈にてらされてかかっていました。
手袋を買いに (新字新仮名) / 新美南吉(著)
あらゆる癒着ゆちゃくの幻影がじつは錯覚にすぎないこと、それだけが確実なことであるのを、私は「死」の光にてらしだされながら、全身の肌で感じていた。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
あわただしいわだちの音を聞き伝え、果たして八方から炬火たいまつが飛んできた。客舎をつつんでいた枯れ柴や焔硝はいちどに爆発し、炎々、道を赤くてらした。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
法律ほうりつてらしても明白あきらかだ、何人なにびといえども裁判さいばんもなくして無暗むやみひと自由じゆううばうことが出来できるものか! 不埒ふらちだ! 圧制あっせいだ!
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
河面かはづら対岸たいがんそらかゞや朝日あさひビールの広告くわうこくと、東武電車とうぶでんしや鉄橋てつけううへえず徃復わうふくする電車でんしや燈影ほかげてらされ、かしボートをわか男女だんぢよ姿すがたのみならず
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
けれども、自分のその当時の欲求にてらして、彼は一部分の対象でしかないのが、彼に対してあわれに気の毒であった。
桃のある風景 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その巌丈がんじょうな後ろ姿をてらして、赤々と照る秋の陽、箱根全山の緑は老いて、何んとなく裏淋しい昼下りの風物でした。
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
じつ不思議ふしぎだ——あの船脚ふなあしはやことは——』と右手ゆんで時辰器じしんき船燈せんとうひかりてらして打眺うちながめつゝ、じつかんがへてるのは本船ほんせん一等運轉手チーフメートである。つゞいて
かれ大豆だいづいてにははこんだころはまだあつ落付おちついていがはじめたくりこずゑからにはをぢり/\とてらしてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
懐中電灯でてらしてみると、中に階段が現われた。ボートルレがその階段を降りながら数えると、四十五段あった。
月光げつこうてらもときこえてるそのなみひゞきも、おもへばけたかんじのすることだ。かうしたばんに、このうみ舟旅ふなたびをして、ふねなかめてゐるひともあらう。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
孝孺のこのげんてらせば、鄭暁ていぎょうの伝うるところ、実にむなしからざる也。四箴ししんの序のうちの語に曰く、天にがっして人に合せず、道に同じゅうして時に同じゅうせずと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かくて彼の煩悶いよいよ加わる時、遂に父はキリストにおいてその姿を現わしその光彼をめぐりてらし、その光の中にすべての懐疑や懊悩がおのずと姿を収めるのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
官舎の畳の上に住み、食卓の前に坐って「白米」を食べるのである。夜のランプは兄の家の炬火たいまつに較べると、なんと明るく溢れるように、胸のなかをてらすことであろう。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
みぎひだりひかけては大溝おほどぶなか蹴落けおとして一人ひとりから/\と高笑たかわらひ、ものなくて天上てんじやうのおつきさま皓々こう/\てらたまふをさぶいといふことらぬなればたゞこゝちよくさはやかにて
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
宵寝よいねの習慣を持っている川辺家の人々は、皆寝しずまって、月のみが、樹木の多い庭園を昼のようにてらしていた。小石川の植物園と同じ丘陵の上にある庭は大樹が多かった。
第二の接吻 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ときふゆはじめで、しもすこつてゐる。椒江せうこう支流しりうで、始豐溪しほうけいかは左岸さがん迂囘うくわいしつつきたすゝんでく。はじくもつてゐたそらがやうやうれて、蒼白あをじろきし紅葉もみぢてらしてゐる。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
ロレ ほい、其許そのもとか! さらばはうが、あしこのあの炬火たいまつは、ありゃなんでおじゃる、蛆蟲うじむし髑髏どくろむなしうてらすあのひかりは? かうたところ、カペル廟舍たまやまへぢゃが。
廊下も真暗です。少佐は爪先探つまさきさぐりに進んで行きました。すると、不意に横から少佐目がけて、パッと懐中電灯がてらされました。そうして同時に、固いものが少佐の脇腹わきばらに当りました。
計略二重戦:少年密偵 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「参考の為めに話して聞かせようか。入学試験に出るかも知れないよ。車胤しゃいん、貧にして常に油を得ず。夏月かげつ練嚢れんのうに数十の螢火けいかを盛り、書をてらして読む。夜を以て日に継ぐ。うだね?」
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
世界せかい各國かつこくにある大博物館だいはくぶつかんでは、みな、さうした立派りつぱ目録もくろく出版しゆつぱんされてをりますから、博物館はくぶつかんひとは、それらの目録もくろくやすふことが出來でき、その目録もくろくならべてある品物しなものとをてらあはせて
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
みぎごと大陽暦たいやうれき日輪にちりん地球ちきうとをてらあはせて其互そのたがひ釣合つりあところもつて一年の日數ひかずさだめたるものゆへ、春夏秋冬しゆんかしうとう寒暖かんだん毎年まいとしことなることなく何月何日なんぐわつなんにちといへば丁度ちやうど去年きよねん其日そのひおな時候じこうにて
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
……幽暗ほのくら路次ろじ黄昏たそがれいろは、いま其処そことほごとに、我等われら最初さいしよ握手あくしゆの、如何いか幸福かうふくなりしかをかた申候まをしそろ貴女きぢよわすたまはざるべし、其時そのとき我等われら秘密ひみつてらせるたゞ一つの軒燈けんとうひかりを……
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
しかれどもこれ一家言いっかげんのみ。俳句を以て最上の文学と為す者は同じく一家言なりといへども、俳句もまた文学の一部を占めてあえて他の文学に劣るなし。これ概括的標準にてらしておのずから然るを覚ゆ。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
何も失錯しくじりかどがないものを、何も覚えがないのだから、あとで金の盗人ぬすみてが知れるに違いない、てんまことてらすというから、其の時殿様が御一言でも、あゝ孝助は可愛相かわいそうな事をしたと云って下されば
少しへだたった所に、誰かの大きなおやしきがあって、万里ばんり長城ちょうじょうみたいにいかめしい土塀どべいや、母屋おもや大鳥おおとりの羽根をひろげた様に見える立派な屋根や、その横手にある白い大きな土蔵なんかが、日にてらされて
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ランプの光りは真中にまるいテーブルを置いた室の中をてらした。
警察署長 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
小鳥の巣、日のてらすのみ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
曠野あらのの汽車の窓をてらせり
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
みねてらせる光なりけり
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
月の光にてらされて
北村透谷詩集 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
雪下ゆきふるさかんなるときは、つもる雪家をうづめて雪と屋上やねひとしたひらになり、あかりのとるべき処なく、ひる暗夜あんやのごとく燈火ともしびてらして家の内は夜昼よるひるをわかたず。
鶏鳴けいめい暁を報ずる時、夜のさまが東雲しののめにうつり行くさまは、いつもこれに変らぬのであるけれども、月さえややてらめたほどの宵の内に何事ぞ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寝台ねだいタアブル、椅子の上へ掛けて沢山たくさんの古い舞台が並べられ、其れを明るい夕日がてらす。マドレエヌは一一いちいちうれしさうに眺めて追懐に耽つてゐる。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
犯すに至れること恐るべき次第なりされどもてんまことてらし給ふにより大岡越前守殿の如きけん奉行の明斷めいだんに依てのがれ難き死刑一等を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
大鬼だいき衣冠いかんにして騎馬、小鬼しょうき数十いずれも剣戟けんげきたずさへて従ふ。おくに進んで大鬼いかつて呼ぶ、小鬼それに応じて口より火を噴き、光熖こうえんおくてらすと。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)