すゑ)” の例文
『見ろ、何が食へる。薄ら寒い秋のすゑに熱い汁が一杯へないなんてなさけないことがあるものか。下宿屋だつて汁ぐらゐ吸はせる。』
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
南滿洲みなみまんしゆうには、やはり石器時代頃せつきじだいころからすでに人間にんげんんでをりましたが、しゆうすゑからかんはじめに支那人しなじんさかんに植民しよくみんしてゐたのです。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
主上叡感えいかん有りて「たぐひありとたれかはいはむすゑにほふ秋より後のしら菊の花」と申す古歌の心にて、白菊と名附なづけさせたもうよし承り候。
興津弥五右衛門の遺書 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
此間このあひだうまれたすゑをとこが、ちゝ時刻じこくたものか、ましてしたため、ぞく書齋しよさいけてにはげたらしい。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かうむり度此上は我々共御家來のすゑに召し出さるれば身命をなげうつて守護仕しゆごつかまつるべし御心安く思し召さるべし然れども我々は是迄これまで惡逆あくぎやく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
此一言さへおもいでらるゝを、無情つれなかかりしも我が為、厳しかりしも我が為、すゑかれとて尽くし給ひしを、思ふも勿躰なきは伯母君のことなり。
雪の日 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
鏡子は我子の言葉から、春のすゑの薄寒い日の夕暮に日本の北の港を露西亜船ろしやぶねに乗つて離れた影の寂しい女をまぼろしに見て居た。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
或一年あるひとゝせはるすゑかた遠乗とほのりかた/″\白岩しらいはたふ見物けんぶつに、割籠わりご吸筒すゐづゝ取持とりもたせ。——で、民情視察みんじやうしさつ巡見じゆんけんでないのがうれしい。
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
低落ていらくして十二ぐわつすゑには百六十二・九九となり六ぐわつくらべて十三・三二すなはち七りん下落げらくとなつたのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
蒲原かんばら郡の新潟にひがたは北海第一のみなとなれば福地たることろんまたず。此余このよ豊境はうきやうしばらくりやくす。此地皆十月より雪る、そのふかきあさきとは地勢ちせいによる。なほすゑろんぜり。
それのみならず去年の夏のすゑ、おいと葭町よしちやうへ送るため、待合まちあはした今戸いまどの橋からながめたの大きなまるい/\月を思起おもひおこすと、もう舞台は舞台でなくなつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
すゑちかづくと、青木さんはいつもくら顏付かほつきでそんなことをつぶやきながら、ためいきづいたり、いらだつたりした。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
或時あるときぐわつすゑ、ドクトル、ハヾトフは、院長ゐんちやう用事ようじつて、其室そのへやつたところらぬのでにはへとさがしにた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
翁は画集を喜んでしばらくわんを放たずに眺め込み、蕙斎けいさいの略伝を問うたのち、日本人の名は覚えにくいからと云つて画集のすゑに作者と水落君との名を記す事を望まれた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
すゑにはう「初雪はつゆきやせめてすゞめの三まで」どころではないすゞめくびつたけになるほど雪がつもりました。
れば小松殿も時頼をすゑ頼母たのもしきものに思ひ、行末には御子維盛卿の附人つきびとになさばやと常々目を懸けられ、左衞門が伺候しこうの折々に『茂頼、其方そちは善きせがれを持ちて仕合者しあはせものぞ』
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
柿本人麿かきのもとのひとまろは、平安朝へいあんちようすゑになると、神樣かみさまとしてまつられるほど尊敬そんけいをうけるようになりました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
頭の毛は春夏秋冬しゆんかしうとうの風に一度に吹かれた様に残りなく逆立つて居る、しかも其一本々々のすゑは丸く平たい蛇の頭となつて、その裂目から消えんとしては燃ゆる如き舌を出して居る。
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
時は一げつすゑ、雪と氷にうづもれて、川さへ大方姿を隠した北海道を西から東に横断して、ついて見ると、華氏零下二十—三十度といふ空気もいてたやうな朝が毎日続いた。氷つた天、氷つた土。
弓町より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
前年ぜんねんすゑわたしたづねて来たのが、神田かんだ南乗物町みなみのりものちやう吉岡書籍店よしをかしよじやくてん主人しゆじん理学士りがくし吉岡哲太郎よしをかてつたらうくんです、わたし文壇ぶんだんに立つにいては、前後ぜんご三人さんにん紹介者せうかいしやわづらはしたので、の第一が吉岡君よしをかくん
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
かういふ風に僕は郊外に住んでゐるから余計よけいそんな感じがするのだが、十一月のすゑから十二月の初めにかけて、夜おそく外からなんど帰つて来ると、かうなんともしれぬ物のにほひが立ちめてゐる。
一番気乗のする時 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
カピ長 いや、はやるものははやくづるゝ。すゑたのみをみなからし、たゞ一粒ひとつぶだけのこった種子たね此土このよたのもしいは彼兒あればかりでござる。さりながら、パリスどの、言寄いひよってむすめこゝろをばうごかしめされ。
先方せんぱうではおほい恐縮きようしゆくして、いろ/\相談さうだんすゑ名高なだか針醫はりいなくなつて、藥箱くすりばこ不用ふようになつてゐたのをり、それを療法れうはふれいとしておくつてたのが、この藥箱くすりばこで、見事みごと彫刻てうこくがしてあつて
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
こは諸人のもちいつかまどの神なり。次に大山咋おほやまくひの神。またの名はすゑ大主おほぬしの神。この神は近つ淡海あふみの國の日枝ひえの山にます。また葛野かづのの松の尾にます鳴鏑なりかぶらちたまふ神なり。次に庭津日にはつひの神。
東方、早川の谿谷が、群峰の間にたゞ一筋、開かれてゐるすゑはるかに、地平線に雲のゐぬ晴れた日の折節には、いぶした銀の如く、ほのかに、雲とも付かず空とも付かず、光つてゐる相模灘が見えた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
笹屋さゝやとはさゝのやうにしげいへ扇屋あふぎやとはあふぎのやうにすゑひろがるいへといふ意味いみからでせう。でも笹屋さゝやつてもそれを『さゝ』とおもふものもなく、扇屋あふぎやつても『あふぎ』とおもふものはありません。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
九一目鼻めはなあざやかなる人の、僧衣そうえかいつくろひて座のすゑにまゐれり。
寂しく貧しくましますが故、へりくだり、常に悲しくましましき。いといと悲しくましましき。それ故にすゑ遂に神を知らしき。そのひじり道のべに立たしたまへば雀子は御後みあとべ慕ひ、御手みてにのり、肩にとまりき。
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
げにすゑつ世の反抗表裏の日にありては
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
すゑおぼろゆれども
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
今迄いままで小六ころくついて、夫程それほど注意ちゆういはらつてゐなかつた宗助そうすけは、突然とつぜんこのとひつて、すぐ、「何故なぜ」とかへした。御米およねはしばらく逡巡ためらつたすゑ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ところが五年目に突然この手紙、何事かと驚いて読みくだすとその意味は——お別れしてから種々の運命あつすゑ今はある男と夫婦同様になつて居る
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
この土器どき石器せつきも、日本につぽんのものは餘程よほどちがつたところがありまして、石器時代せつきじだいすゑ金屬きんぞく使用しようされるようになつた時代じだいのものかもれません。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
すゑしもの識語がある。「万延元年庚申小春二十八夜三更燈下収筆、養竹翁五十四歳。」是は浜野氏の曾て寓目する所である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
なげ空敷むなしくなりたりけりあんずるに鬼女の如き面體めんていになりしをはぢて死にけるかたゞし亂心にや一人はすゑに名を上一人はすゑに名をけがせりと世に風聞さたせしとなん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ゆふおはりての宵々よひ/\いゑいでては御寺參おんてらまい殊勝しゆしように、觀音くわんをんさまには合掌がつしようを申て、戀人こひびとのゆくすゑまもたまへと、おこゝろざしのほどいつまでもえねばいが。
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
蒲原かんばら郡の新潟にひがたは北海第一のみなとなれば福地たることろんまたず。此余このよ豊境はうきやうしばらくりやくす。此地皆十月より雪る、そのふかきあさきとは地勢ちせいによる。なほすゑろんぜり。
ぐわつすゑであつた。府下ふか澁谷しぶやへんある茶話會さわくわいがあつて、工學士こうがくしせきのぞむのに、わたしさそはれて一日あるひ出向でむいた。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
気候が夏の末から秋に移つてく時と同じやう、春のすゑから夏の始めにかけては、折々をり/\大雨おほあめふりつゞく。千束町せんぞくまちから吉原田圃よしはらたんぼめづらしくもなく例年のとほりに水が出た。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ぐわつすゑかたえがてなりしゆきも、次第しだいあとなくけた或夜あるよ病院びやうゐんにはには椋鳥むくどりしきりにいてたをりしも、院長ゐんちやう親友しんいう郵便局長いうびんきよくちやう立歸たちかへるのを、門迄もんまで見送みおくらんとしつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
このひと明治めいじ以後いご新派しんぱ和歌わかといふものに、非常ひじよう影響えいきようあたへたひとですが、それまではあまりひとからさわがれなかつたのです。江戸えどすゑから明治めいじはじめにかけてきてゐたひとです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
それより両国尾上町りやうごくをのへちやう京屋きやうや楼上ろうじやう集会しふくわいする事十とせあまり、これを聞くものおれれに語り、今は世渡よわたるたつきともなれり、峨江がこうはじめさかづきうかめ、すゑ大河たいがとなるはなしすゑ金銭きんせんになるとは
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
汽車から持つて出た氷を包んだタオルはこの時まだ大事さうに鏡子の手に持たれて居たので、指ににじむそのしづくつめたく思つたのは十月のすゑの日比谷の寂しい木立の中を車の進む時であつた。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
藥屋くすりやしゆ寫眞材料店しやしんざいれうてん、名かたかん板のはんダース、現像液げんぞうえきていえきさら、赤色とう、それだけは懇願こんぐわんすゑ母から金をもらつたのだつたが、むねをどらせながら、おし入へもぐりんでかん板を裝置そうちして
しかしながら十ぐわつすゑから英米えいべいとも金利きんり段々だん/\低落ていらくして十一ぐわつの二十になると日本にほん金利きんり外國ぐわいこく金利きんりよりむしたかいと事情じじやうになつたから、其虞そのおそれさらになくなつて、したがつ金解禁きんかいきんを一ぐわつ十一にちにしても
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
寂しくて貧しきが故、へりくだり、常に悲しくましましき。いといと悲しくましましき。それ故に、すゑ遂に神を知らしき。その聖道のべに立たしめたまへば、雀子は御後みあとべ慕ひ、御手みてにのり、肩にとまりき。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
此の度勝四郎が商物あきもの買ひてみやこにゆくといふをうたてきことに思ひ、ことばをつくしていさむれども、一四常の心のはやりたるにせんかたなく、一五梓弓あづさゆみすゑのたづきの心ぼそきにも、かひがひしく一六調こしらへて
さうしてすゑには天下てんかを…………などゝ大気焔だいきえんも有つたのです
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
すゑへは たしみ竹一一生ひ
すゑさま。』
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)