いと)” の例文
旧字:
そとで、たこのうなりごえがする。まどけると、あかるくむ。絹糸きぬいとよりもほそいくものいとが、へやのなかにかかってひかっている。
ある少年の正月の日記 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「だから、はないツちやない。」と蘿月らげつは軽くにぎこぶし膝頭ひざがしらをたゝいた。おとよ長吉ちやうきちとおいとのことがたゞなんとなしに心配でならない。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
……次第しだいちか此処こゝせまやまやまみねみねとのなかつないで蒼空あをぞらしろいとの、とほきはくも、やがてかすみ目前まのあたりなるは陽炎かげらふである。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それからそのいとなほとほばして、これ位牌ゐはいにもならずにながれて仕舞しまつた、はじめからかたちのない、ぼんやりしたかげやう死兒しじうへげかけた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
左膳の妖刃、濡れ燕も、いといとしと言う心……戀の一字のこころのもつれだけは、断ちきることができないでございましょう。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
末子すゑこよ。おまへは『おばこ』といふくさつてあそんだことがりますか。あのくさいとにぬいて、みんなよく真似まねをしてあそびませう。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
秋の水がつめたくなって、はや山魚やまめもいなくなったいまじぶん、なにをる気か、ひとりの少年が、蘆川あしかわとろにむかって、いとをたれていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よしや千萬里ばんりはなれるとも眞實まこと親子おやこ兄弟けうだいならば何時いつかへつてうといふたのしみもあれど、ほんの親切しんせつといふ一すぢいとにかヽつてなれば
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
すると中では、かすかなやぶ行灯あんどんかげで、一人ひとりのおばあさんがしきりといとっている様子ようすでしたが、そのとき障子しょうじやぶれからやせたかおして
安達が原 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そして、よりいとをぐつぐつました。糸が煮えますと、それをかわいそうなむすめのかたにかけて、それから一ちょうのおのをわたしました。そして
「誰が、彼處あすこ彼様あんないとをかけたのだらう。」と周三は考へた。途端とたんに日はパツとかゞやいて、無花果の葉は緑のしづくこぼるかと思はれるばかり、鮮麗にきらめく。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
早化はやけるるならんか)鮞水にある事十四五日にして魚となる。かたいとの如く、たけ一二寸、はらさけちやうをなさず、ゆゑに佐介さけの名ありといひつたふ。
底光そこびかりのするかがみなかに、めばほどほのかになってゆく、おのがかお次第しだいあわえて、三日月形みかづきがた自慢じまんまゆも、いつかいとのようにほそくうずもれてった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
彼女かのぢよはレースいと編物あみものなかいろめたをつと寫眞しやしんながめた。あたかもそのくちびるが、感謝かんしやいたはりの言葉ことばによつてひらかれるのをまもるやうに、彼女かのぢよこゝろをごつてゐた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
大阪では「お嬢さん」のことを「いとさん」あるいは「とうさん」といい姉娘に対して妹娘を「小糸こいとさん」あるいは「こいさん」などと呼び分けること現在もしかり。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
嘉永五年には四月二十九日に、抽斎の長子恒善が二十七歳で、二の丸火の番六十俵田口儀三郎たぐちぎさぶろうの養女いとめとった。五月十八日に、恒善に勤料つとめりょう三人扶持を給せられた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
十分間ばかりしたころ、たちまち物につきあたったようなひびきがあって、かごがゆらゆらとゆれた、富士男は時間からおして、たこのいとがのびをはったのだと知った。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
と、死のような静寂の中から、かすかに、かすかに、いとより細いうめき声が聞こえて来た。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かくてほどへてある夜枕の畳を咬み鳴らす音す。驚きて見れば鼠なり。ししと追わば逃げ入りぬ。再び眠るほどにまた来りて咬み鳴らす事いと騒がし。枕をもたぐればまた逃げ入る。
こういうひとたちも、みなごんごろがねと、えないいとむすばれているのだ。ぼくはいまさら、このおおきくもないかねが、じつにたくさんのひと生活せいかつにつながっていることにおどろかされた。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
安全あんぜん進航しんかう表章ひやうしようとなるべき球形きゆうけい檣燈しやうとうが、なにかの機會はづみいとえんはなれて、檣上しやうじやう二十フヒートばかりのところから流星りうせいごと落下らくかして、あはやと船長せんちやうてる船橋せんけうあたつて、とう微塵みじんくだ
残った家族というのは、十六になる娘のおいとと、六つになる男の子の栄三郎えいざぶろうと、一年ばかり前にめとった後妻のちぞいのおたきだけ、世間並に考えると、この継母けいぼのお滝が一番疑われる地位にあるわけです。
ってもれぬかたえにしいとは、そのときむすばれたらしいのでございます。
(それは漢語交かんごまじりでや六ヶ言葉ことばでしたが、説明せつめいすれば、みんなで、おほきな麻布あさふくろなかへ、最初さいしよあたまつたぶたそつれ、そのくち緊乎しつかいとしばり、それからうへすわれとふことでした)
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
緒合をあはせの調しらべのいとぞなかえし。
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
うめいと 秋 第百九十九 梅料理
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
いとをまかれて、しめくくられて
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
もつれたいとなら
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
なしねと言るゝ程猶彌増いやます未通女心おぼこごゝろ初戀はつこひしたふお方と縁のいとむすんでとけて末長く添るゝ事も父親が承知しようちとあればつひ斯々と言んとすれどかねしが斯てははてじと思ふよりハイ吾儕わたくし彼方あのかたなれば實に嬉しう御座りますと有か無かは聲出して思ひきつてぞ言たる儘發とおもて紅葉もみぢして座にも得堪えたへず勝手の方へにぐるが如く行たるは娘意むすめごころぞ然も有可し父は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その得意先とくいさきの一けん橋場はしば妾宅せふたくにゐる御新造ごしんぞがおいと姿すがたを見て是非ぜひ娘分むすめぶんにして行末ゆくすゑ立派りつぱな芸者にしたてたいと云出いひだした事からである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ぼくのが、一ばんだこだよ。」と、威張いばっているものもあれば、それにけまいとおもって、いとをどんどんくだしているものもありました。
西洋だこと六角だこ (新字新仮名) / 小川未明(著)
二羽には一処ひとところにト三羽さんば一処ひとところにトてそして一羽いちはが六しやくばかりそらなゝめあしからいとのやうにみづいてつてあがつたがおとがなかつた、それでもない。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「どうしてなかなか結構もんだ。いとにも乗れば、ちゃんと舞台いたについている。おめえが、踊りの下地がねえといったのは、ありゃあ嘘だろう」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そして麻糸あさいとかれるにつれて、糸巻いとまきはくるくるとほぐれて、もう部屋へやの中にはたったまわり、になっただけしか、いとのこっていませんでした。
三輪の麻糸 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
今度こんどひだりはうかしぎさうになりました。はやみぎはういといてください。』とときには、とうさんはまたたことほりにみぎはういといてやります。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
これらの事につき熟思つら/\おもふに、きぬおるにはかひこいとゆゑ阳熱やうねつこのみぬのを織にはあさの糸ゆゑ阴冷いんれいこのむ。さてきぬは寒に用ひてあたゝかならしめ、布はしよに用てひやゝかならしむ。
子ヤギはおかあさんにいいつかって、うちへかけていき、はさみと、はりと、よりいととをもってきました。
いととほしたはりがまだ半襟はんえりからかれないであつたとて、それでんだとて、それでいゝのだ! いつわたしがこのからされたつて、あのひかりすこしもかはりなくる。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
たゞなかふくれた。てんなみつてちゞんだ。地球ちきういとるしたまりごとくにおほきな弧線こせんゑがいて空間くうかんうごいた。すべてがおそろしい支配しはいするゆめであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
年目ねんめった、たった二人ふたり世界せかいほとんど一のうちに生気せいきうしなってしまった菊之丞きくのじょうの、なかばひらかれたからは、いとのようななみだが一すじほほつたわって、まくららしていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
しくて屏風べうぶほかに二あしばかりいとよりほそこゑりやうさんとめられてなにぞとへれば。
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
どうにもならないほぐいと。——今の自分の心がちょうどそれともいえる。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鼠すなわち見えず、憎むべきの物を以てまた能く人のために患を防ぐは怪しむべしとあるを思い出で、もしさる事もやとふすまかかげ見ればいと大いなる蜈蚣むかでくぐまりいたりければすなわち取りて捨てつ。
「手頃なのと来たね、有馬屋ありまやのおいとなどはどんなもんで——」
半次郎はんじろうが雨のの怪談に始めておいとの手を取ったのもやはりかかる家の一間ひとまであったろう。長吉は何ともいえぬ恍惚こうこつと悲哀とを感じた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いとつよって、ピン、ピンと、ひくと、いいおとに、一つ一つ、はねがあって、雲切くもぎれのするあおそらへ、おどりがるようながしました。
しいたげられた天才 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それではじめてお婿むこさんが大物主命おおものぬしのみことでいらっしゃったことがかりました。そしていと三輪みわあとにのこっていたので、その山をも三輪山みわやまぶようになりました。
三輪の麻糸 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
……東雲しのゝめくも野末のずゑはなれて、ほそながたて蒼空あをぞらいといて、のぼつてく、……ひとうまも、其処そことほつたら、ほつほつとゑがかれやう、とりばゞえやう
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
たこひました。とうさんが大急おほいそぎでいとしますと、たこ左右さいうくびつたり、ながかみをヒラ/\させたりしながら、さも心持こゝろもちよささうにあがつてきました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
さうして其中そのなか細長ほそながはりやうなものをとほしては、其先そのさきいでゐたが、仕舞しまひいとほどすぢして、神經しんけい是丈これだけれましたとひながら、それを宗助そうすけせてれた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)