振返ふりかへ)” の例文
返事をきくと、おいとれですつかり安心したものゝごとくすた/\路地ろぢ溝板どぶいた吾妻下駄あづまげたに踏みならし振返ふりかへりもせずに行つてしまつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
振返ふりかへり樣三刀四刀に切殺せり其中に下女はおもて迯出にげいで人殺々々ひとごろし/\よばはりながら金盥かなだらひたゝき立てしかば近隣の人々馳付はせつける樣子を見て金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
こゝはや藪の中央ならむともとかた振返ふりかへれば、真昼は藪に寸断されて点々星にさもたり。なほ何程なにほどの奥やあると、及び腰に前途ゆくてながむ。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
此時このときにふと心付こゝろつくと、何者なにものわたくしうしろにこそ/\と尾行びかうして樣子やうす、オヤへんだと振返ふりかへる、途端とたんそのかげまろぶがごとわたくし足許あしもとはしつた。
其夜そのよ征西将軍せい/\しやうぐんの宮の大祭で、町はにぎやかであつた。街頭をぞろぞろと人がとほつた。花火が勇ましい音を立てゝあがると、人々がな足を留めて振返ふりかへつた。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
振返ふりかへればむねひか徽章きしやうやら、勳章くんしやうやらをげたをとこが、ニヤリとばか片眼かためをパチ/\と、自分じぶんわらふ。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
竹村たけむらはそのことについて、その当時たうじべつ批評ひひやうがましい意見いけんをもたうとはおもはなかつたけれど、ずつとのちになつて振返ふりかへつてみると、彼女かのぢよかれ作品さくひん実際じつさい手紙てがみによつて
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
ねずちやん!もどつておでよ、可厭いやなら、もうねこいぬことはなさないから!』ねずみはこれをいて振返ふりかへり、しづかにふたゝあいちやんのところおよいでましたが、其顏そのかほ眞青まツさをでした
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
それとるより美登利みどりかほあかりて、のやうの大事だいじにでもひしやうに、むね動悸どうきはやくうつを、ひとるかと背後うしろられて、おそる/\もんそばれば、信如しんによもふつと振返ふりかへりて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
振返ふりかへ
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
時に後ろの方に當り生者必滅しやうじやひつめつ會者定離ゑしやじやうり嗚呼あゝ皆是前世ぜんせ因縁いんえん果報くわはう南無阿彌陀佛と唱ふる聲に安五郎は振返ふりかへり見れば墨染すみぞめの衣に木綿もめん頭巾づきん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
其處そこ町屋まちやを、うま沓形くつがた一廻ひとまはりして、振返ふりかへつたかほると、ひたひかくれてくぼんだ、あごのこけたのが、かれこれ四十ぐらゐなとしであつた。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
濱島はまじまふね舷梯げんていまでいたつたときいま此方こなた振返ふりかへつて、夫人ふじんとその愛兒あいじとのかほ打眺うちながめたが、なにこゝろにかゝることのあるがごとわたくしひとみてんじて
次のの時計が九時を打出うちだした時突然とつぜん格子戸かうしどががらりと明いた。の明けやうでおとよはすぐに長吉ちやうきちの帰つて来た事を知り急に話を途切とぎらはう振返ふりかへりながら
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
とおきやうものさしつゑ振返ふりかへりて吉三きちざうかほ諦視まもりぬ。
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
引合ひきあつて、もつれるやうにばら/\とてらもんけながら、卵塔場らんたふばを、ともしびよるかげそろつて、かはいゝかほ振返ふりかへつて
夜釣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
云つゝ同くたつに這入はひりしに女房お梅は振返ふりかへりオヤ長兵衞樣能こそ御入下されしと少しあかくなりしが早々さう/\ながし元ヘ行甲斐々々しく酒肴の支度を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
甲板かんぱんちて微塵みじんくだけた物音ものおとのしたので、わたくしいそ振返ふりかへつてると、其處そこではいましも、二三の水夫すゐふ滑車くわつしやをもつて前檣ぜんしやうたかかゝげんとした一個いつこ白色燈はくしよくとう——それはふね航海中かうかいちゆう
「アラ、みつちやん」とびかけられ、おどろいて振返ふりかへつてると、小岩こいは私娼窟ししやうくつにゐたころ姉妹きやうだいのやうに心安こゝろやすくしてゐた蝶子てふこといふをんな、もとは浅草あさくさ街娼がいしやうをしてゐたこともあるといふをんななので、わけはなして
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
「よう。」とつて、茫然ばうぜんとしてつた。が、ちよこ/\と衣紋繕えもんづくろひをして、くるまけはじめる。とたぼ心着こゝろづいたか一寸々々ちよい/\此方こなた振返ふりかへる。
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
風鈴屋ふうりんやでもとほことか。——振返ふりかへつた洋館やうくわんをぐわさ/\とゆするがごとく、貨物車くわもつしやが、しか二臺にだいわたしをかばはうとした同伴つれはう水溜みづたまりみこんだ。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
こらへよ、暫時しばし製作せいさくほねけづり、そゝいで、…苦痛くつうつくなはう、とじやうぬまたいして、瞑目めいもくし、振返ふりかへつて、天守てんしゆそらたか両手りやうてかざしてちかつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
(お前達まへだち生意気なまいきだよ、)とはげしくいひさま、わきしたからのぞかうとしたくだん動物どうぶつ天窓あたま振返ふりかへりさまにくらはしたで。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なににしてもおそろしいいまえだにはひるつてるのであらうとあまりことおもつて振返ふりかへると、見返みかへつたなんえだらず矢張やツぱりいくツといふこともないひるかはぢや。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しのんで小説せうせつうちは、にもかやにもこゝろいたので、吃驚びつくりして、振返ふりかへると、またぱら/\ぱら/\といつた。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
無理むりこらへてうしろを振返ふりかへつてようといふ元氣げんきもないが、むず/\するのでかんがへるやうに、小首こくびをふつて、うながところあるごとく、はれぼつたいで、巡査じゆんさ見上みあげた。
迷子 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かう買物かひもの出掛でかけるみちだ。中里町なかざとまちから寺町てらまちかうとする突當つきあたり交番かうばんひとだかりがしてるので通過とほりすぎてから小戻こもどりをして、立停たちどまつて、すこはなれたところ振返ふりかへつてた。
迷子 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
元二げんじが、一膳いちぜんめしまへはなれて、振返ふりかへる、とくだん黒猫くろねこが、あとを、のそ/\と歩行あるいてる。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
今度こんどくらまない。背後うしろはうえるから、振返ふりかへつて背後うしろると、むすめ何故なぜか、途中みちしやがんでてうごかない。さうして横腹よこばらかゝへながら、もうしておくれ/\とつてる。
廓そだち (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
には小皿こざらちたり。四五軒しごけん行過ゆきすぎたる威勢ゐせい煮豆屋にまめや振返ふりかへりて、よう!とふ。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
振返ふりかへれば聖天しやうでんもり待乳まつちしづんでこずゑ乘込のりこ三谷堀さんやぼりは、此處こゝだ、此處こゝだ、と今戸いまどわたしいたる。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
土間どまはしまでゐざりでて、ひざをついて、あはすのを、振返ふりかへつて、母衣ほろりた。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あのさかあがぐちところで、うへからをとこが、あがつて中年増ちうどしまなまめかしいのと行違ゆきちがつて、うへしたへ五六はなれたところで、をとここゑけると、なまめかしいのはぐに聞取きゝとつて、嬌娜しなやか振返ふりかへつた。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
これよりして、天下御免てんかごめん送狼おくりおほかみえんにしてかつなのもまたくるまうへから幾度いくたび振返ふりかへ振返ふりかへりする。それわざとならずじやうふくんで、なんとももつ我慢がまんがならぬ。のあたり、神魂迷蕩不知兩足䟜跚也しんこんめいたうりやうそくのとつさんをしらざるなり
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まあ、おそろしいところからくらゐはなれたらうとおもつて怖々こは/″\振返ふりかへると、ものの五尺ごしやくとはへだたらぬわたし居室ゐま敷居しきゐまたいで明々地あからさま薄紅うすくれなゐのぼやけたきぬからまつて蒼白あをじろをんなあしばかりが歩行あるいてた。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
さか見霽みはらしで、駕籠かごかへる、とおもひながら、傍目わきめらなかつた梶原かぢはらさんは、——そのこゑ振返ふりかへると、小笠原氏をがさはらしが、諸肌もろはだぬぎになつて、肥腹ふとつぱらをそよがせ、こしはなさなかつた古手拭ふるてぬぐひくびいた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はひつてよう……いま前途ゆきさきいたのに、道草みちぐさをするは、とがさして、燒芋屋やきいもやまへ振返ふりかへると、わたしをしへたとき見返みかへつた、のまゝに、そといて、こくり/\とぬくとさうな懷手ふところで居睡ゐねむりする。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
與吉よきち半被はつぴそで掻合かきあはせて、つてたが、きふ振返ふりかへつて
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「え、つてるかい、わかしう。」と振返ふりかへつてじつた。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
雪枝ゆきえ老爺ぢいむかいて、振返ふりかへつて左右さいうながめた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)