以前いぜん)” の例文
したがつてわたしは、以前いぜん同郷的愛着どうきやうてきあいちやく同藩的偏見どうはんてきへんけんうしなつたとおなじやうに、いま次第しだい國民的愛着こくみんてきあいちやく國家的偏見こくかてきへんけんうしなつたのであつた。
父親ちちおやは、ずっと以前いぜんに、このからくなられて、わすれかかっていた父親ちちおやかおを、おじいさんをて、はっきりとおもしました。
幸福のはさみ (新字新仮名) / 小川未明(著)
ことによると、戸締りをする以前いぜんからひそかに這入っておって……うフフフ、そも何者がこの屋敷へひそかにはいっておるというのじゃ?
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「えゝ、れが矢張やはり手前てまへこゝろから仕方しかたがないのでござりまして、以前いぜん、おうちりました時分じぶんから、うもわるいので、」
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いつものように学校がっこうってみると、袖子そでこはもう以前いぜん自分じぶんではなかった。ことごとに自由じゆううしなったようで、あたりがせまかった。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それでかれとほ利根川とねがは工事こうじへもつたのであつた。かれ自分じぶん伎倆うでたのんでる。かれ以前いぜんからもすこしづつ開墾かいこん仕事しごとをした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
仰付らるゝにより迅速すみやか正路しやうろの人になるべきはずなれども又人間に出る時は以前いぜんに一そう惡事の効をつみつひには其身をうしなひ惡名を萬世に流すを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もちろんこれは、ふるくからのいひつたへで、あなたがたが、古代こだいかんがへてゐられる奈良朝ならちようよりも、もつと/\以前いぜんから、さうしんじてゐたのです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
くちるきおひとこれをきて、さてもひねくれしおんなかな、いまもし學士がくしにありて札幌さつぽろにもゆかず以前いぜんとほなまやさしく出入でいりをなさば
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
したがつてそれ以前いぜん原始人げんしじんだとか、ハイデルベルグじんだとかにいたつては何萬年前なんまんねんまへであるか、にはかに見當けんとうがつかないくらゐです。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
いまから數分すうふん以前いぜんにかのふね本船ほんせん右舷うげん後方こうほう海上かいじやうおい不思議ふしぎにも難破信號なんぱしんがうげたこととでかんがあはせるとかゝ配慮しんぱいおこるのも無理むりはあるまい。
それから二、三日ののち、マチアはぐうせん往来おうらいで、以前いぜんガッソーの曲馬団きょくばだんで知り合いになったイギリス人のボブに出会った。
竹童ちくどうはヒラリと身をかえして、また以前いぜんのお花畑はなばたけから陣馬じんばはらけぬけて、愛鷲あいしゅうクロをっておく深林しんりんのくぼへ走りこんだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まあなにからはひつてもおなじであるが」と老師らうし宗助そうすけむかつてつた。「父母ふぼ未生みしやう以前いぜん本來ほんらい面目めんもくなんだか、それをひとかんがへてたらかろう」
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そのあいだには随分ずいぶんくことも、またわらうこともありましたが、ただ有難ありがたいことに、以前いぜん良人おっとったときのような、あの現世げんせらしい、へん気持きもちだけは
其處そこぼく昨日きのふチエホフの『ブラツクモンク』をよみさしておもはずボズさんのことかんがし、その以前いぜん二人ふたり溪流たにがは奧深おくふかさかのぼつて「やまめ」をつたことなど
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
さうして以前いぜんから所有しよいう政府せいふ日本銀行にほんぎんかうぶんくはへると三億圓おくゑん在外正貨ざいぐわいせいくわ蓄積ちくせきすることが出來できたのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
へい/\。主「以前いぜんしかるべきおかたれのはてで、まア此時節このじせつかはつたから、当時いまういふ御身分ごみぶん零落おちぶれなさつたのだらうが、うもお気の毒なことで…。 ...
それ以前いぜんから、安藤あんどう某学校ぼうがっこう学費がくひまで補助ほじょしてもらい、無二むに親友しんゆうとして交際こうさいしておったのだが、安藤がいまの会社へはいって二年めの春、母なる人がなくなり
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
以前いぜんねこつて、不潔ふけつなものをかれてこまつたばかりか、臺所だいどころらしたといふので近所きんじよから抗議かうぎまうまれて、ために面倒めんどう外交關係がいかうかんけいおこしたことがあつてから
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
これといふこともなかつた。みんなはやがて椅子いすはなれた。そして以前いぜん部屋へやかえつてた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
其後そのご山津浪やまつなみのこした土砂どしや溪流けいりゆうのために次第しだいさらはれて、ふたゝ以前いぜん村落地そんらくち暴露ばくろしたけれども、家屋かおく其處そこからあらはれてなかつたので、山津浪やまつなみ一村いつそん埋沒まいぼつしたといふよりも
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
「まあまあ、何をおっしゃるやら、以前いぜんのようには、茂々しげしげお目にかかれませぬに——」
江戸えど町醫者まちいしや小田東叡をだとうえい安政あんせいねん十二ぐわつ出版しゆつぱん防火策圖解ばうくわさくづかい)なるものかかべすぢかひをれることを唱道しやうだうしたくらゐのことでそれ以前いぜんべつ耐震的工夫たいしんてきくふう提案ていあんされたことはかぬのである。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
昨日きのふ小膽せうたんつたことも、つきさへも氣味きみわることも、以前いぜんにはおもひもしなかつた感情かんじやうや、思想しさうありまゝ吐露とろしたこと、すなは哲學てつがくをしてゐる丁斑魚めだか不滿足ふまんぞくことふたことなども
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
つまり、あなたの場合なら二十年前の人間として、二十年前あるいはそれより以前いぜんの生活や社会事情や人格じんかく嗜好しこう言動げんどう、能力などといういろいろな事柄ことがらを研究する材料になることですね。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
以前いぜん私を喜ばせたどんな美しい音樂も、どんな美しい詩の一節も辛抱がならなくなつた。蓄音器を聽かせて貰ひにわざわざ出かけて行つても、最初の二三小節で不意に立ち上つてしまひたくなる。
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
百二十年以前いぜんたるところの人ありとつとところの文珠岩は即ち之れなり、しゆみな拍手喝釆かつさいして探検者たんけんしや一行の大発見をよろこただちに丘下にいたりてあほぎ見れば、丘のたかさ百尺、天然の奇岩きがんこつとして其頂上に
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
以前いぜんなにかにわたしが、「田舍ゐなかから、はじめて新橋しんばしいた椋鳥むくどり一羽いちは。」とかいたのを、紅葉先生こうえふせんせいわらひなすつたことがある。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
うまるか、かごるか、さもなければあるいてたびをした以前いぜん木曾街道きそかいだう時分じぶんには、とうさんのうまれた神坂村みさかむらえき馬籠まごめひました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
老人ろうじんは、以前いぜんとちがって、すでにぜいたくにれてしまったから、むかしのように、やまたり、野原のはらすことができなかった。
ひすいを愛された妃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
以前いぜんから勘次かんじあきになれば掛稻かけいねぬすむとかいふ蔭口かげぐちかれて巡査じゆんさ手帖ててふにもつてるのだといふやうなことがいはれてたのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
かように人類じんるい文化ぶんか三階段さんかいだんがあるといふことをはじめてとなへたひとは、今日こんにちから百年ひやくねんばかり以前いぜんきてゐた、デンマルクの學者がくしやトムゼンであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
やがて食事をえて、わがへやへ帰った宗助は、また父母未生ふぼみしょう以前いぜんと云う稀有けうな問題を眼の前にえて、じっとながめた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また場所ばしょ場所丈ばしょだけに、近頃ちかごろ統一状態とういつじょうたい以前いぜんよりもずっとふかく、ずっとまじりなくなったように自分じぶんにもかんじられました。
それはかれが以前いぜん一座の部長であったとき、座員を前にやりごして、いちいち点呼てんこする習慣しゅうかんがあったからである。
水兵すいへいども澤山たくさん御馳走ごちさうこしらへてつてはづだから、その以前いぜんにヒヨツコリとかへつてはけうい、し/\。
大島仁藏翁おほしまじんざうをう死後しご權藏ごんざう一時いちじ守本尊まもりほんぞんうしなつたていで、すこぶ鬱々ふさいましたが、それも少時しばしで、たちまもと元氣げんき恢復くわいふくし、のみならず、以前いぜんましはたらしました。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
伯母おばさんをもはや安心あんしんさせておあげなさりまし、かげながらわたしいのります、うぞ以前いぜんろくさんにおりなされて、お立派りつぱにおみせをおひらきにりますところせてくだされ
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
持居もちをり候又小網こあみ町三丁目河内屋と申古着ふるぎ屋のうらに九郎兵衞と申藥種やくしゆ屋の若い者にて以前いぜんより出入を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
濱口内閣はまぐちないかく出來でき以前いぜん左樣さやうなことが出來できたらうか、おそらくは不可能ふかのうであつたらうとおもはれる。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
どうも有難ありがたぞんじます……左様さやうなら御遠慮ごゑんりよなしに頂戴ちやうだいいたしますと、亭主ていしゆ河合金兵衛かはひきんべゑちやつてるあひだに、小丼こどんぶりまへ引寄ひきよせて乞食こじきながらも、以前いぜんは名のある神谷幸右衛門かみやかうゑもん
そのあいだに——以前いぜんの場所の楊柳かわやなぎのこずえから、ヒラリと飛びおりたひとりの女がある。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それ以前いぜんうたは、みな表面ひようめん景色けしきんだようにえても、ほんとうにあぢはつてると、たゞのうはっつらだけのところで、實際じつさい景色けしき見据みすゑたものだ、といふことが出來できません。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
いまから大凡おほよそ十三四ねん以前いぜんまちの一ばん大通おほどほりに、自分じぶんいへ所有つてゐたグロモフとふ、容貌ようばう立派りつぱな、金滿かねもち官吏くわんりつて、いへにはセルゲイおよびイワンと二人ふたり息子むすこもある。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
種畜場以来しゅちくじょういらいこの人を知ってる人の話を聞くと、糟谷かすやおくさんは、種畜場にいた時分じぶんとはほとんど別人べつじんのようにおもざしがわってしまった、以前いぜんはあんなさびしい人ではなかったというている。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
この疑問ぎもんわたしなどにも兎角とかくおこりやすい疑問ぎもんである。歌舞伎俳優かぶきはいゆう近代的きんだいてきになるにしたがつて、以前いぜんのやうな荘重典雅そうてうてんが風貌ふうぼうがなくなつて、そこいらのわかしうたいしたちがひがなくなるとおなじことである。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
其男そのをとこ其女そのをんなとは、それより以前いぜんどんな關係くわんけいつたんかい。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
そのは、じつひとたちの、まだ結婚けつこんしない以前いぜんから衣絵きぬゑさんをつてた……とふよりもられてたとつてからう。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ずっと以前いぜんから、このむら一人ひとりのあめりじいさんがはいってきました。チャルメラをいて、ちいさな屋台やたいをかついでまちほうからやってきました。
子供の時分の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)