飛出とびだ)” の例文
その鞭にあきたらずして塾の外に飛出とびだした者はその行動の自由であることを喜ぶであろうが、その喜びはしばらくのことであろうと思う。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
拂曉ふつげう目醒めさめて、海岸かいがん飛出とびだしてると、櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさ日出雄少年ひでをせうねん武村兵曹等たけむらへいそうらすで浪打際なみうちぎわ逍遙せうえふしながら、いづれも喜色滿面きしよくまんめんだ。
訴えて聴かれなかったので、腹を据え兼ねて万田九郎兵衛を斬って捨て、江戸に飛出とびだして、心細い浪人生活を続けているのでした。
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
う/\う次第で僕は長崎にられぬ、余りしゃくさわるからこのまゝ江戸に飛出とびだつもりだが、実は江戸に知る人はなし、方角が分らぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
おその上、四国遍路に出る、その一人が円髷まるまげで、一人が銀杏返いちょうがえしだったのでありますと、私は立処たちどころしゃくを振って飛出とびだしたかも知れません。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
われ/\は子供こども時分じぶんにはをしへられた。最初さいしよ地震ぢしんかんじたなら、もどしのないうち戸外こがい飛出とびだせなどといましめられたものである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
無論むろんふたはしてるが往來わうらい飛出とびだされても難儀なんぎ至極しごくなり、夫等それらおもふと入院にふゐんさせやうともおもふがなにかふびんらしくてこゝろひとつにはさだめかねるて
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そのときりて小鳥ことりをびつくりさせるものは、きふ横合よこあひから飛出とびだ薄黒うすぐろいものと、たか羽音はおとでもあるやうなプウ/\うなつておとです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
こゝろ不覺そゞろ動顛どうてんして、匇卒いきなりへや飛出とびだしたが、ばうかぶらず、フロツクコートもずに、恐怖おそれられたまゝ、大通おほどほり文字もんじはしるのであつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
兎も角も眼の悪い重二郎のおふくろ怪我けががあってはならんと、明店を飛出とびだす、是から大騒動おおそうどうのお話に相成ります。
やはり吒祇尼法であったろうことは思遣おもいやられるが、他の者に祈られて狐が二匹室町御所から飛出とびだしたなどというところを見ると、将軍長病で治らなかった余りに
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
都会にあこがれて、両親の言うことをきかず、東京市内の知人しりびとをたよって家を飛出とびだし、高輪たかなわある屋敷へ女中奉公に住込すみこんだ。それは年号の変る年の春ごろであった。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
其時そのときは、俵形たはらがた土器どき兩手りやうてつて、眞先まつさきにあなから飛出とびだすと、高等野次馬かうとうやじうまこゑそろへて。
同じ屋敷うちに住む本家の家族は大概もう移転したあとで、あたりはひっそりしていた。わたしが部屋の外側まで来た時、母は迎えに出て来た。八歳になる甥の宏兒こうじ飛出とびだして来た。
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
あのひと足先あしさきへお風呂ふろつたすきて、足袋跣足たびはだし飛出とびだしたんださうでございますの。それで駈出かけだして、くるまでステーションまでて、わたくしのところへげこんでまゐりました。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
あの蟹口運転手のメチャメチャになった妖怪じみた死骸を見た瞬間に……壊れた額から飛出とびだした二つの眼球めだまが私を白眼にらんでいるのに気付いた時に私はモウ一度気が遠くなりかけました。
衝突心理 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
叫喚あっと云ってふるえ出し、のんだ酒も一時にさめて、うこんなうちには片時も居られないと、ふすまひらき倉皇そうこう表へ飛出とびだしてしまい芸妓げいぎも客の叫喚さけびに驚いて目をさまし、幽霊ときいたので青くなり
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
そこで猿は花火というものが、どんなに大きな音をして飛出とびだすか、そしてどんなに美しく空にひろがるか、みんなに話して聞かせました。そんなに美しいものなら見たいものだとみんなは思いました。
赤い蝋燭 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
むかへ申しても祝盃さかづきさへも致さぬうち後家ごけなすのが最惜いとほしければ此度の縁はなきものと思し絶念下あきらめくださるやと申して參れと長左衞門が吩咐いひつけに依て態々わざ/\參りましたるがまことにお氣の毒の次第にてといひたるまゝ戸外おもて飛出とびだあと
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ワナワナと顫え乍ら、ともすれば寿美子を払い退けて、部屋の外へ飛出とびだしそうにするのですが、其処そこにはもう肝腎の鍵が無かったのです。
ならんだぜんは、土地とち由緒ゆゐしよと、奧行おくゆきをものがたる。突張つツぱるとはづれさうなたなから飛出とびだした道具だうぐでない。くらからあらはれたうつはらしい。御馳走ごちそうは——
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
何分なにぶん此頃このごろ飛出とびだしがはじまつてわしなどは勿論もちろん太吉たきちくら二人ふたりぐらゐのちからでは到底たうていひきとめられぬはたらきをやるからの、萬一まんいち井戸ゐどへでもかゝられてはとおもつて
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
こころ不覚そぞろ動顛どうてんして、いきなり、へや飛出とびだしたが、ぼうかぶらず、フロックコートもずに、恐怖おそれられたまま、大通おおどおり文字もんじはしるのであった。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
弦月丸げんげつまる萬山ばんざんくづるゝがごとひゞきとも左舷さげん傾斜かたむいた。途端とたんおこ大叫喚だいけうくわん二百にひやく船員せんゐんくるへる甲板かんぱんへ、數百すうひやく乘客じやうきやく一時いちじ黒雲くろくもごと飛出とびだしたのである。
なんかと突倒つきたふして、なはから外へ飛出とびだ巡査じゆんさつままれるくらゐの事がございますが、西京さいきやうは誠にやさしい
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
横合よこあひから飛出とびだした薄黒うすくろいものは、鳥屋とやひと竹竿たけざをさきについたふる手拭てぬぐひなにかのきれでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
もし偶然ぐうぜんかような位置いち居合ゐあはせたならば、機敏きびん飛出とびだすが最上策さいじようさくであること勿論もちろんである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
僕、ハッと思った拍子に夢中で外へ飛出とびだしたんですけど四十か五十ぐらい出していたもんですから飛び降りるなりタタキ付けられちゃったんです。相手の車ですか……えるものですか。
衝突心理 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
怪飛けしとんだようになって、蹌踉よろけて土砂降どしゃぶりの中を飛出とびだすと、くるりと合羽かっぱに包まれて、見えるは脚ばかりじゃありませんか。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
飴の中から飛出とびだしたような愉快な江戸っ子で、大柄の縞の背広は着ておりますが、その上から白木綿しろもめんの三尺を締めて、背広に弥蔵やぞうでもこさえたい人柄です。
周章狼狽あわてふためき戸外こぐわい飛出とびだしてると、今迄いまゝで北斗七星ほくとしちせい爛々らん/\かゞやいてつたそらは、一面いちめんすみながせるごとく、かぎりなき海洋かいやう表面ひやうめん怒濤どたう澎湃ぼうはい水煙すいえんてんみなぎつてる。
れといふとやつ中間なかまがばらばらと飛出とびだしやあがつて、どうだらうちいさなもの萬燈まんどううちこわしちまつて、胴揚どうあげにしやがつて、やがれ横町よこてうのざまをと一にんがいふと
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
へい、芝居茶屋しばゐぢややの若いしゆさんのお世辞せじだよ、うむ、其方そのはうからう、エヽ此手このてでは如何いかゞでございます。と機械きかいへ手をかけてギイツとくとなかから世辞せじ飛出とびだしました。
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
むかしひと所謂いはゆるもどしは、われ/\が今日こんにちとなへてゐる地震動ぢしんどう主要部しゆようぶである。藤田東湖先生ふぢたとうこせんせい最後さいごしるすならば、かれ最初さいしよ地震ぢしんによつて屋外おくがい飛出とびだし、もどしのために壓死あつししたのである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
ると、親父ちやん湯玉ゆだまはらつて、朱塗しゆぬりつて飛出とびだした、が握太にぎりぶと蒼筋あをすぢして、すね突張つツぱつて、髯旦ひげだんかたへ突立つツたつた。
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
友吉は必死に止めましたが、それを振り切った綾麿は、羊羹色の借着の紋付を着たまま、憑かれたもののように、もう暗くなった往来へ飛出とびだしてしまったのです。
隣りの明店あきだなに隠れて居りました江戸屋の清次は驚きましたが、通常あたりまえの者ならば仰天ぎょうてんして逃げを失いますが、そこが家根屋やねやで火事には慣れて居りますから飛出とびだしまして
ちひさきかみ川村太吉かはむらたきちかいりたるをよみみて此處こゝだ/\とくるまよりりける、姿すがたつけて、おゝ番町ばんちやう旦那樣だんなさまとおさんどんが眞先まつさきたすきをはづせば、そゝくさは飛出とびだしていやおはやいおいで
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
『きやつ、』とつて、わたくし鉄砲玉てつぱうだまのやうに飛出とびだしたが、廊下らうかかべひたひつて、ばつたりたふれた。……よわはゝもひきつけてしまつたさうです。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その夜の話し手遠藤盛近えんどうもりちかは、山羊髥やぎひげしなびた中老人で、羊羹ようかん色になった背広の、カフスから飛出とびだすシャツを気にしながら、老眼鏡の玉を五分間に一度位ずつの割りで拭き拭き
なんだらうと思つてすぐ飛出とびだして格子かうしを明けて見ますると、両側りやうがはとも黒木綿くろもめん金巾かなきん二巾位ふたはゞぐらゐもありませうか幕張まくはりがいたしてございまして、真黒まつくろまる芝居しばゐ怪談くわいだんのやうでございます。
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
ところ中山ちうざん大人物だいじんぶつは、天井てんじやうがガタリとつても、わツと飛出とびだすやうな、やにツこいのとは、口惜くやしいが鍛錬きたへちがふ。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
少くも本人だけは許婚いいなずけ位の心持でいたのでしょうが、鈴子夫人が女子大を卒業して、女流詩人として名を成し始めた頃、不意に横合から飛出とびだした国府老人が、金にモノをいわせて
へい/\有難ありがたぞうじます、何卒どうぞ頂戴致ちやうだいいたしたいもので。姫「少々せう/\ひかへてや。「へい。あはてゝ一ぱい掻込かつこみ、何分なにぶん窮屈きうくつたまらぬからあはつて飛出とびだしたが、あま取急とりいそいだので莨入たばこいれ置忘おきわすれました。 ...
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
しゝ飛出とびだしたやうにまたおどろいて、かれひろつじ一人ひとりつて、店々みせ/\電燈でんとうかずよりおほい、大屋根おほやねいし蒼白あをじろかずた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と田舎の人は正直で親切でございますから、本当に死ぬ了簡と見えて、藻刈鎌もがりがまかついで出掛けまする。文吉も小長こながいのを一本差しまして、さっさと跡から飛出とびだして余程急ぎましたが、間に合いません。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
井上半十郎正景いのうえはんじゅうろうまさかげは、とり刀で飛出とびだしました。
江戸の火術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
で、また飛出とびだす、がけたにもほつゝき歩行あるく、——とくもしろく、やまあをい。……ほかえるものはなんにもない。あをなうあをつてしまつたかとおもふばかり。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
アツ。とくちけたまゝ水屋みづやはう飛出とびだしました。
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
さうとした信玄袋しんげんぶくろは、かへりみるにあまりにかるい。はこせると、ポンと飛出とびだしさうであるから遠慮ゑんりよした。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)