むね)” の例文
かりうどが、りにつかうかたなをぬいて、なにも知らない白雪姫のむねをつきさそうとしますと、お姫さまは泣いて、おっしゃいました。
ことしは芳之助よしのすけもはや廿歳はたちいま一兩年いちりやうねんたるうへおほやけつまとよびつまばるゝぞとおもへばうれしさにむねをどりて友達ともだちなぶりごともはづかしく
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
くなったな。」赤シャツの農夫はつぶやいて、も一度いちどシャツのそででひたいをぬぐい、むねをはだけて脱穀小屋の戸口に立ちました。
耕耘部の時計 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
たちまち、縣下けんか豐岡川とよをかがは治水工事ちすゐこうじ第一期だいいつき六百萬圓ろつぴやくまんゑんなり、とむねらしたから、ひとすくみにつて、内々ない/\期待きたいした狐狸きつねたぬきどころの沙汰さたでない。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かれは、このつめたいかぜが、かえって、かなしい自分じぶんむねにしみるように、いつまでもここにいて、かぜかれていたい気持きもちがしました。
花の咲く前 (新字新仮名) / 小川未明(著)
顔のまわりの白いレースがちょうど白百合しらゆりの花びらのようでした。それを見るとおかあさんは天国をむねに抱いてるように思いました。
子家鴨こあひるはみんながれだって、そらたかくだんだんとのぼってくのを一心いっしんているうち、奇妙きみょう心持こころもちむねがいっぱいになってきました。
ガチョウはこんどもこの忠告にしたがおうとしました。けれども高くのぼろうとしますと、息ぎれがして、まるでむねがはりさけそうです。
ぞなし居たり感應院が食事しよくじ仕果しはてし頃を計り寶澤も油掃除あぶらさうぢなしはて臺所だいところへ入來り下男げなん倶々とも/″\食事をぞなしぬむねに一物ある寶澤が院主ゐんしゆの方を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かれくるしさにむねあたりむしり、病院服びやうゐんふくも、シヤツも、ぴり/\と引裂ひきさくのでつたが、やが其儘そのまゝ氣絶きぜつして寐臺ねだいうへたふれてしまつた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
いきなりシューラの両肩りょうかたつかんで、自分の寝室しんしつへ引っぱって行った。シューラは心配しんぱいになって、むねがどきりとした。ママはこういった。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
てんにでもいゝ、にでもいゝ、すがらうとするこゝろいのらうとするねがひが、不純ふじゆんすなとほしてきよくとろ/\と彼女かのぢよむねながた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
くど/\とながたらしいこといた手紙てがみよりか『御返事ごへんじつてります』の葉書はがきの方が、はるかにきみむねをゑぐるちからつてゐたんだね。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
勘次かんじはおしな病氣びやうきかゝつたのだといふのをいて萬一もしかといふ懸念けねんがぎつくりむねにこたへた。さうして反覆くりかへしてどんな鹽梅あんばいだといた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
前足をむねの上で十文字に組んで、まず主人に向かってていねいにおじきをすると、かぶっている巡査じゅんさのかぶとぼうが地べたについた。
諸君しよくん御經驗ごけいけんであらうが此樣こんときにはとてもねむられるものではない、いらだてばいらだほどまなこえてむねにはさま/″\の妄想もうざう往來わうらいする。
、三このいのりをりかえしてうちに、わたくしむねには年来ねんらいみこと御情思おんなさけがこみあげて、わたくし両眼りょうがんからはなみだたきのようにあふれました。
それから三千代のる迄、代助はどんな風にときすごしたか、殆んど知らなかつた。おもてに女の声がしたとき、彼はむね一鼓動いつこどうを感じた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
りよ小女こをんなんで、汲立くみたてみづはちれていとめいじた。みづた。そうはそれをつて、むねさゝげて、ぢつとりよ見詰みつめた。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
だが、私のむねの中からは、なに物もわき上つては来なかつた。私は私の心に詮つてゐるものをふるひ落とすやうに、私の心をたゝいてみた。
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
このから、少年せいねんのちいさいむねにはおほきなくろかたまりがおかれました。ねたましさににてうれしく、かなしさににてなつかしい物思ものおもひをおぼえそめたのです。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
高岡軍曹たかをかぐんそうしばらくみんなのかほてゐたが、やがて何時いつものやうにむねつて、上官じやうくわんらしい威嚴いげんせるやうに一聲ひとこゑたかせきをした。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
あっと思うひまもなく、ホールは、なにものともしれぬつよい力に、どんとむねをつかれ、ひとおしに廊下ろうかにつきだされてしまった。
竹童ちくどうむねがなんで安かろうはずはない。かれは、一こくもはやく、この大へんを、小太郎山こたろうざんのとりでへしらせたいともだえている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かたないておどしますと、いぬはなおなおはげしくくるまわって、りょうしのげるかたなの下をくぐって、いきなりそのむねびつきました。
忠義な犬 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
この二つの心がわたしのむねの中でいつもかみあっておりますので、わたしはこんなに憔悴しょうすいいたしてしまったのでございます。ええそうです。
おしどり (新字新仮名) / 新美南吉(著)
抽斗ひきだしすかして、そつ背負揚しよいあげ引張出ひつぱりだしてると、白粉おしろいやら香水かうすゐやら、をんな移香うつりがはなかよつて、わたしむねめうにワク/\してた。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「もしどうしても返さなかったら」の一念が起ろうとする時、自分はむねおしつけられるような気がするのでその一念を打消し打消し歩いた。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
心のそこでは、小父のほうただしいとわかっていた。ゴットフリートの言葉がむねおくきざみこまれていた。彼はうそをついたのがはずかしかった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
むねに組みあわせた手にもたせようとしたが、冷たい手はもうそれをうけとってはくれず、チエノワはすべってかんの底に落ちた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
ついでに着せもしてやらうと青山の兄から牡丹餅ぼたもちの様にうま文言もんごん、偖こそむねで下し、招待券の御伴おともして、逗子より新橋へは来りしなりけり。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
「チョンチョンチョン。とざい、とーざい。」と一寸法師は、むねり、あたりを見まわしながら口上こうじょうをのべはじめました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
にわ若草わかくさ一晩ひとばんのうちにびるようなあたたかいはるよいながらにかなしいおもいは、ちょうどそのままのように袖子そでこちいさなむねをなやましくした。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
をつとはわたしをさげすんだまま、「ころせ」と一言ひとことつたのです。わたしはほとんどゆめうつつのうちに、をつとはなだ水干すゐかんむねへ、ずぶりと小刀さすがとほしました。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
糟谷かすやはいよいよ平凡へいぼんな一獣医じゅうい估券こけんさだまってみると、どうしてもむねがおさまりかねたは細君であった。どうしてもこんなはずではなかった。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
あるはかなかからは、木棺内もくかんない死體したいむねのあたりに、まるぎよくつくつたへきといふものや、くちへんからはせみかたちをしたぎよくかざりなどがました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
ロミオ はて、それは深切しんせつ爲過しすごし。いっそ迷惑めいわく。おのが心痛しんつうばかりでも心臟しんざういたうなるのに、足下きみまでがいてくりゃると、一だんむねせまる。
余はことに彼ヤイコクが五束いつつかもある鬚髯しゅぜん蓬々ぼうぼうとしてむねれ、素盞雄尊すさのおのみことを見る様な六尺ゆたかな堂々どうどう雄偉ゆうい骨格こっかく悲壮ひそう沈欝ちんうつな其眼光まなざし熟視じゅくしした時
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
見ると、自分はしろにわ芝生しばふの上にころんでるのでした。からだ中あせぐっしょりになってむねが高く動悸どうきしていました。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
と、明兵みんぺいはあおむけに、打ちたおれたところを、起こしも立てず、そのむねにいなごのように、とびかかった清兵衛せいべえ
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
が、おせんのむねそこにひそんでいる、思慕しぼねんは、それらのうわさには一さいおかまいなしに日毎ひごとにつのってゆくばかりだった。それもそのはずであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
わが応援おうえんの士官たちも思わず顔を見合わせましたが、M大尉の顔はりんとしてかがやいているだけでしたので、人々はまずあんどのむねをなでおろしました。
国際射的大競技 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
わたし翌朝よくちょう早くむねをおどらして北の谷へとでかけた。わなをしかけておいた場所へくると、突然とつぜん大きな灰色はいいろ姿すがたが、むくりと立ってげ出そうともがいた。
貴女が知らぬはずは有りますまい倉「はい」と漸くいわんとして泣声にむねふさがり暫し言葉も続かざりしが漸くに心を
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
いろいろと躊躇ちゅうちょしています。王子はしきりとおせきになります。しかたなくむねのあたりの一まいをめくり起こしてそれを首尾しゅびよく寡婦かふの窓から投げこみました。
燕と王子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
道子みちこ小岩こいは色町いろまち身売みうりをしたとき年季ねんきと、電話でんわ周旋屋しうせんやと一しよくらした月日つきひとをむねうちかぞかへしながら
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
もう下界したても、なにもかもわからないほどだ。はじめの元気げんきもどこへやら、ペンペはむねがドキドキする。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
けれどまたく考えると、春泉はるずみの婢と小歌とが話合って居た始終の詞に、あれだとかそれだとか符牒のようなことのあったのが、なお幾分の疑いをむねのこして
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
ああ是れ皆此の身、此の横笛のせしわざやいばこそ當てね、可惜あたら武士を手に掛けしも同じ事。——思へば思ふほど、乙女心をとめごゝろむねふさがりてくより外にせんすべもなし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
かゝる人はむねあきらかなるかゞみありて、善悪ぜんあくを照してよきあしきをりて其ひとりつゝしむ、これ明徳めいとくかゞみといふ。