薄暗うすぐら)” の例文
『あんな名僧めいそう知識ちしきうたわれたかたがまだこんな薄暗うすぐら境涯ところるのかしら……。』時々ときどき意外いがいかんずるような場合ばあいもあるのでございます。
いたにはあまり人がりませぬで、四五にんりました。此湯このゆ昔風むかしふう柘榴口ざくろぐちではないけれども、はいるところ一寸ちよつと薄暗うすぐらくなつてります。
年始まはり (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
けれど二三時間休んだために、短い冬の日はもう暮れかけて、おまけに曇り日なものですから、途中で薄暗うすぐらくなってしまいました。
天下一の馬 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
見世は大戸おおどが下ろされて薄暗うすぐらく、通された離れの座敷には、お由利の床がまだそのままに、枕辺まくらべに一本線香と、水が供えてあるばかり。
若いころの自分には親代々おやだい/\薄暗うすぐらい質屋の店先みせさきすわつてうらゝかな春の日をよそに働きくらすのが、いかにつらくいかになさけなかつたであらう。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
卯平うへい薄暗うすぐらうちなかたゞ煙草たばこかしてはおほきな眞鍮しんちう煙管きせる火鉢ひばちたゝいてた。卯平うへい勘次かんじとはあひだろくくちきかなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ひとへに寄縋よりすがる、薄暗うすぐらい、えさうに、ちよろ/\またゝく……あかりつてはこの一點ひとつで、二階にかい下階した臺所だいどころ内中うちぢう眞暗まつくらである。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
木立生ひ繁るをかは、岸までりて、靜かな水の中へつづく。薄暗うすぐらい水のなかば緑葉りよくえふを、まつさをなまたのなかば中空なかぞらの雲をゆすぶる。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
薄暗うすぐらい仏壇の奥、独り者の主人が昼でも時々はこもっている八畳の間には、床から抜け出したままの佐兵衛、血の海の中にこと切れております。
刷毛ブラツシおとんでも中々なか/\でふからないので、またつてると、薄暗うすぐら部屋へやなかで、御米およねはたつた一人ひとりさむさうに、鏡臺きやうだいまへすわつてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
日がみじかい頃で、葬式が家を出たのは日のくれ/″\であった。青山あおやま街道かいどうに出て、鼻欠はなかけ地蔵じぞうの道しるべから畑中を一丁ばかり入り込んで、薄暗うすぐらい墓地に入った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
一體俺は、何だつて、此様な薄暗うすぐらい、息のつまるやうな室に閉ぢ籠つて、此様な眞似をしてゐるんだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
廊下の行詰りになったかべをおすと、薄暗うすぐら寝室しんしつで、ランプがついていて、マントルピイスの上が白く光るので、近よってみると、人骨がばらばらにおいてあるのでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
老人らうじんさきたつくので若者わかもの其儘そのまゝあとき、つひ老人らうじんうちつたのです、砂山すなやまえ、竹藪たけやぶあひだ薄暗うすぐらみちとほると士族屋敷しぞくやしきる、老人らうじん其屋敷そのやしきひとつはひりました。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
山田やまだ書斎しよさいは八ぢやうでしたが、それつくゑ相対さしむかひゑて、北向きたむきさむ武者窓むしやまど薄暗うすぐら立籠たてこもつて、毎日まいにち文学の話です、こゝ二人ふたりはなならべてるから石橋いしばししげく訪ねて来る
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
貢さんがのぞいたのは薄暗うすぐら陰鬱いんうつな世界で、ひやりとつめたい手で撫でる様にあたる空気がえて黴臭かびくさい。一間程前けんほどまへに竹と萱草くわんざうの葉とがまばらにえて、其奥そのおくは能く見え無かつた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
突然とつぜん、ちょうど私の頭上にある、その周囲だけもうすっかり薄暗うすぐらくなっている大きなもみの、ほとんど水平にびたえだの一つに、ばたばたとびっくりするような羽音をさせながら
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
薄暗うすぐらいもみの木の森のあいだ、ロクセン湖の陰気いんきな岸辺近くに、古いブレタの僧院そういんがあります。わたしの光はかべ格子こうしをとおって、広い円天井まるてんじょうの部屋へすべりこんで行きました。
をとこもさうすればわたしの太刀たちに、ことにはならなかつたのです。が、薄暗うすぐらやぶなかに、ぢつとをんなかほ刹那せつな、わたしはをとこころさないかぎり、此處ここるまいと覺悟かくごしました。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
あたりは薄暗うすぐらくなり家の方ではあかりがつきました。樋にひっかかっている羽子はだんだん心細くなりました。屋根の上の空には三月みかづきが見え、星がかがやいてきました。とうとう夜になったのです。
屋根の上 (新字新仮名) / 原民喜(著)
その趣味しゆみしぶれいげると、三上みかみがその著名ちよめいなる東京市内出沒行脚とうきやうしないしゆつぼつあんぎやをやつて、二十日はつかかへつてないと時雨しぐれさんは、薄暗うすぐら部屋へやなか端座たんざして、たゞ一人ひとり双手もろて香爐かうろさゝげて、かういてゐる。
しかし何となく陰気に薄暗うすぐらくじめじめして、みょうに気味の悪いいやな感じがしたので、夫人が直覚的に反対したにもかかわらず、ヘルンは一見して大いに気に入り、『面白いの家』『面白いの家』と
そのうちに、だんだんあたりは薄暗うすぐらくなった。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
薄暗うすぐらまち片角かたかど車夫しやふ茫然ばうぜんくるまひかへて
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
薄暗うすぐら角店かどみせ二重にぢゆうこしかけて
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
たちまともしびの光の消えてくやうにあたりは全体に薄暗うすぐらく灰色に変色へんしよくして来て、満ち夕汐ゆふしほの上をすべつて荷船にぶねのみが真白まつしろ際立きはだつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「もうしませう。彼方あつちつて、御飯ごはんでもたべませう。叔父おぢさんもゐらつしやい」と云ひながら立つた。部屋のなかはもう薄暗うすぐらくなつてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そのうちにも、雲は次第しだいに空一面に広がって、あたりが薄暗うすぐらくなったかと思うまに、ざーっと大粒の雨が降り出しました。
ひでり狐 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
薄暗うすぐらい処でお休みなさいと命令されるが、私は夜がけるまでることが出来ないから、その間の心持といったらない、ことにこのごろは夜は長し
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
青菜あをな下葉したばはもうよく/\黄色きいろれてた。おしな二人ふたり薄暗うすぐらくなつたいへにぼつさりしててもはたけ收穫しうくわく思案しあんしてさびしい不足ふそくかんじはしなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
私達わたくしたち辿たど小路こみちのすぐした薄暗うすぐら谿谷たにになってて、樹叢しげみなかをくぐる水音みずおとが、かすかにさらさらとひびいていましたが、せいか、その水音みずおとまでがなんとなくしずんできこえました。
前通には皿や鉢や土瓶やドンブリや、何れもきず物の瀬戸類が埃に塗れて白くなつてゐた。漆の剥げた椀も見える。其の薄暗うすぐらい奥の方に金椽のがくが一枚、鈍《にぶ》い光をはなツてゐた。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
えらう早くたな、まだ薄暗うすぐらいのに。金「エヘヽヽ昨晩さくばんおほきにおやかましうございます。坊「ウム値切ねぎつた人か、サ此方こつち這入はいんなさい。金「へい、有難ありがたう。坊「穏坊をんばう/\、見てげろ。 ...
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
マッグはいつも薄暗うすぐら部屋へや七色なないろ色硝子いろガラスのランタアンをともし、あしの高い机に向かいながら、厚い本ばかり読んでいるのです。僕はある時こういうマッグと河童の恋愛を論じ合いました。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その中へ這入ると急に薄暗うすぐらくなったようだけれど、私たちの眼底にはいまの空地の明るさがこびりついているせいか、しばらく私たちの周りには一種異様な薄明りがただよっているように見えた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
あたりは、もう薄暗うすぐらくなりはじめました。もうじき夜になってしまいます。
「あすこにつく頃には薄暗うすぐらくなる頃だ」
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ひかりもあからさまにはさず、薄暗うすぐらい、冷々ひや/\とした店前みせさきに、帳場格子ちやうばがうしひかへて、年配ねんぱい番頭ばんとうたゞ一人ひとり帳合ちやうあひをしてゐる。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ちゝ正月しやうぐわつになると、屹度きつとこの屏風びやうぶ薄暗うすぐらくらなかからして、玄關げんくわん仕切しきりにてて、其前そのまへ紫檀したんかく名刺入めいしいれいて、年賀ねんがけたものである。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
薄暗うすぐらつるしランプの光がせこけた小作こづくりの身体からだをば猶更なほさらけて見せるので、ふいとれがむかし立派りつぱな質屋の可愛かあいらしい箱入娘はこいりむすめだつたのかと思ふと
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
夕方薄暗うすぐらくなると、大きなおぜんの上へごちそうを飾り立て、強い酒の徳利とくりをいくつも並べ、ろうそくを何本もともして、天狗が来るのを待ち受けました。
天狗の鼻 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
其處らがしんとして薄暗うすぐらい。體が快くものうく、そして頭が馬鹿に輕くなツてゐて、近頃ちかごろになく爽快さうくわいだ………恰で頭の中に籠ツてゐた腐ツたガスがスツカリ拔けて了ツたやうな心地である。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
げんにあの岩屋いわやにしても、最初さいしょなにやら薄暗うすぐら陰鬱いんうつところのようにかんぜられましたが、それがいつとはなしにだんだんあかるくなって、最後しまいには全然ぜんぜん普通ふつうあかるさ、すこしもあな内部なかというかんじがしなくなり
やが脊戸せどおもところひだり馬小屋うまごやた、こと/\といふ物音ものおと羽目はめるのであらう、もう其辺そのへんから薄暗うすぐらくなつてる。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
此間このあひだからあたま具合ぐあひがよくないため、寐付ねつきわるいのをにしてゐた御米およねは、時々とき/″\けて薄暗うすぐら部屋へやながめた。ほそとこうへせてあつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あそんでツてよ。」と周囲しうゐ人込ひとごみはゞかり、道子みちこをとこうでをシヤツのそでと一しよに引張ひつぱり、欄干らんかんから車道しやだうやゝ薄暗うすぐらはうへとあゆみながら、すつかりあまえた調子てうしになり
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
與吉よきち薄暗うすぐらなかる、材木ざいもくと、材木ざいもく積上つみあげた周圍しうゐは、すぎまつにほひつゝまれたあなそこで、みはつて、ひざまづいて、のこぎりにぎつて、そらざまにあふいでた。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そこで手拭をぶらげて、御先おさきへと挨拶をして、風呂場へ出て行つた。風呂場は廊下の突き当りで便所の隣りにあつた。薄暗うすぐらくつて、大分不潔の様である。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
なだらかにながれて、うすいけれどもたひらつゝむと、ぬまみづしづかつて、そして、すこ薄暗うすぐらかげわたりました。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼はいへに帰つた。ちゝに対しては只薄暗うすぐらい不愉快のかげあたまに残つてゐた。けれども此影は近き未来に於て必ず其くらさを増してくるべき性質のものであつた。其他には眼前に運命の二つの潮流を認めた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)