すみ)” の例文
すると、すみは生まれつきせっかちだったものですから、このできたばかりの橋の上を、むてっぽうに、ちょこちょこかけだしました。
うつるにつれて黄蝋の火は次第にすみにおかされて暗うなり、燭涙しょくるいながくしたたりて、ゆかの上にはちぎれたるうすぎぬ、落ちたるはなびらあり。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
思い出しても、しゃくにさわってならねえ。おととしからのすみまきや魚の代だ。あの道場でつかうのだからちッとやそっとの物じゃあない。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あるなつのこと、おとこは、あせをたらして、おもすみだわらを二つずつおって、やまをくだり、これをまちのある素封家そほうかくらへおさめました。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
たゞ、いひかはされるのは、のくらゐなこと繰返くりかへす。ときに、鶺鴒せきれいこゑがして、火桶ひをけすみあかけれど、山茶花さざんくわかげさびしかつた。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その季節きせつ彼等かれら最後さいご運命うんめいであるまきすみられるやうに一ばん適當てきたうした組織そしき變化へんくわすることを餘儀よぎなくされるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
旅籠屋はたごやをはじめ、小商人こあきんど、近在のすみまき等をまかなうものまでが必至の困窮に陥るから、この上は山林の利をもって渡世を営む助けとしたいものであると
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
トランクをかついだ腹話術師と運転手が、ぐねぐねまがった森の中のほそ道を百メートルもすすむと、そこに小さな、すみやき小屋がたっていました。
サーカスの怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いつもかまどのはいすみこなにまみれたみにくい下司女げすおんなではなくって、もう天人てんにん天下あまくだったかとおもうように気高けだかい、十五、六のうつくしいおひめさまでした。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
相變あひかはらずせいますね」とつたなり、長火鉢ながひばちまへ胡坐あぐらをかいた。あによめ裁縫しごとすみはうつていて、小六ころくむかふて、一寸ちよつと鐵瓶てつびんおろしてすみはじめた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「ならんわに」お絹はそう言いながら、かんかんすみをたいて飯をたいていた。幅一間ばかりの長い廊下で、黒い板がつるつる光っていた。戸棚や何かがそこにあった。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
炭取すみとりをさしいだしてれは中皿ちうざらもゝつた姿すがた、これはわたし蕩樂だうらくさとおくさますみつぎにかゝられぬ。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その間に正成は士卒を督し、城中に大なる穴を掘らせ、堀の中にて討たれた死人の中、二三十人ばかりを持ち来たしその穴の中へ埋没まいぼつさせ、その上にすみたきぎを積み重ねさせた。
赤坂城の謀略 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すみのおこしかたに就いて一册の書物が出てゐるとか、「けだものの機械」といふ或る新進作家の著書に私がべたべたと機械油を塗つて置いて、かうして發賣されてゐるのだが
思ひ出 (旧字旧仮名) / 太宰治(著)
しき是へ御上りあれといふゆゑ長八は御構下おかまひくださるなと其所へあが四邊あたりを見るにかべの方は破れたる二まい屏風びやうぶを立回し此方にはくづれ懸りし一ツべつゝひすみ鑄懸いかけか眞黒にくすぶりたるなべ一ツを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
余は奥座敷で朝来ちょうらいの仕事をつゞける。寒いので、しば/\火鉢ひばちすみをつぐ。障子がやゝかげって、丁度ちょうど好い程のあかりになった。さあと云う音がする。ごうと云うひびきがする。風が出たらしい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
すみ燒灰等やけばいなどが、小石こいしかこまれた一小部分せうぶぶん滿ちてるのを見出みいだしただけである。
じつまたじつかれかせぎにかせぎ、百姓ひやくしやう勿論もちろんすみやけば、材木ざいもくす、養蠶やうさんもやり、地木綿ぢもめんらし、およ農家のうかちから出來できることなら、なんでも手當次第てあたりしだい、そして一生懸命いつしやうけんめいにやりました。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
中村の脱ぎ捨てた仕事着のポケットの中からは時々、小料理屋の勘定書かんじょうがきや請求書などが出てきた。そのくせ彼は、台所の入費にゅうひを節約しろの、すみの使い方があらいだのと母に小言こごとを言っているのだった。
つまりまきすみ材料ざいりようとして森林しんりん利用りようするようになつたわけです。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
すみビスケ 夏 第百六十七 炭ビスケ
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
夜半よは火桶ひをけすみへにけり
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
しかし、すみをたくさんうだけの資力しりょくのないものはどうしたらいいか、それよりしかたはないのだ。近所きんじょに、宏荘こうそう住宅じゅうたくはそびえている。
三月の空の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
旅人をのせて浪華なにわへ通う舟もある。この里の雑穀やすみまきを京のいちへ運輸する荷舟もある。鵜匠うしょうの鵜舟はつなぎ捨てられたまま今はかえりみられもせぬ。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
がどツさり。すみやすい。有難ありがたい。平泉ひらいづみ晝食ちうじきでも、昨夜ゆうべ松島まつしまのホテルでもうだつた。が、がどツさり。すみやすい。有難ありがたい。鐵瓶てつびんはたぎる。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ばあさんは、ぷうぷうすみをふいて、小さなふかいなべをかけ、なにかをはじめました。それを見ますと、むすめはふたりに気をつけるように注意ちゅういして
おつぎは手桶てをけそここほつた握飯にぎりめし燒趾やけあとすみおこして狐色きつねいろいてそれを二つ三つ前垂まへだれにくるんでつてた。おつぎはこつそりとのぞくやうにしてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
自慢じまんじる親切しんせつ螢火ほたるび大事だいじさうにはさげて、てしすみうへにのせ、四邊あたり新聞しんぶんみつ四つにりて、すみほうよりそよ/\とあほぐに、いつしかれよりれにうつりて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
御寒おさむ御座ございませう」とつて、圍爐裏ゐろりなかふかけてあつたすみはひしたからした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
がけを下りて渓川の流に近づかんとしたれど、路あまりにけわしければ止みぬ。渓川の向いはすみく人の往来する山なりという。いま流を渡りて来たる人に問うに、水浅しといえり。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そして、せまい小屋の中を、忙しく見まわしていましたが、土間のすみに、すみのあきだわらが二つ三つ立てかけてあるのに気づきますと、いきなり、そのそばに近づき、あき俵をパッとはねのけました。
妖怪博士 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ちいさな火鉢ひばちにわずかばかりのすみをたいたのでは、湯気ゆげてることすらぶんで、もとよりしつあたためるだけのちからはなかった。
三月の空の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「いいえ、もうお恥かしい山家暮し、冬はかりをし、夏はすみまきを里に出して、細々すごしている親子でござります」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さむいので、すみをどつさりおまをしあげたものですから、先生樣せんせいさまはおかへりがけに、もう一度いちどよくけなよ、とたしか御注意ごちういあそばしたのでございますものを、ついわたくし疎雜ぞんざいで。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その豆は、ゆかの上のわらのそばに、ころころところがっていきました。すると、すぐそのあとから、まっかにおこっているすみがかまどからはねだして、このふたりのところへやってきました。
御米およね其時そのときもうかまちからけてゐた。すぐ腰障子こししやうじけるおとがした。宗助そうすけそのおとおくつて、たつた一人ひとり火鉢ひばちまへすわつて、はひになるすみいろながめてゐた。かれあたまには明日あしたまるうつつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いつもごと臺所だいどころからすみ持出もちだして、おまへひなさらないかとけば、いゝえ、とおきやうつむりをふるに、ではればかり御馳走ごちそうさまにならうかな、本當ほんたう自家うち吝嗇奴けちんばうめやかましい小言こごとばかりやがつて
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
勘次かんじすみのやうにつたせたはしらはり垣根かきねそばんだ。かれあたらしい手桶てをけみづんでまださうはりはしらへばしやりとみづけた。かれはひあつめて處々ところどころ圓錘形ゑんすゐけい小山こやまつくつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「あのしんだいで、そのうえ、鉄工場てっこうじょうの、利益配当りえきはいとうが、たくさんあるのに、なんで、山男やまおとこすみなんかをごまかすような、けちなことをするのか。」
(新字新仮名) / 小川未明(著)
つき世界せかいれば、に、はたに、山懷やまふところに、みねすそに、はるかすみく、それはくもまがふ、はたとほ筑摩川ちくまがはさしはさんだ、兩岸りやうがんに、すら/\と立昇たちのぼるそれけむりは、滿山まんざんつめたにじにしきうら
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「これですみまき八百石御上納とあるが、これだけの山で、この石量になるのか」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところが、こういいおわるかおわらないうちに、頭の上でバタ、バタいう、はねの音がきこえてきました。空をながめますと、すみのようにまっ黒なカラスが、高くまいあがって、とびさっていきます。
ひとり、むらをはなれて、やま小舎こや寝起ねおきをして、をきり、すみをたいていた治助じすけじいさんは自然しぜんをおそれる、まちひとたちがなんとなくおかしかったのです。
手風琴 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彫刻ほりしたふなおよぐもい。面白おもしろうないとははぬが、る、く、あるひなまのまゝにくくらはうとおもふものに、料理りやうりをすれば、すみる、はひる、きれなににせい、と了見れうけんだ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
山上にまで、テンカン、テンカン、こだましてきたのはここの鎚音つちおと鉄台かなしきの響きにちがいない。手を休めた三人の鍛冶工は、鼻の穴から目ヤニまですみにした真っ黒けな顔を揃えて、智深の姿を見まもった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すみも、煉炭れんたんも、じき、切符制度きっぷせいどとなって、ぼく仕事しごとがなくなるから、工場こうじょうか、会社かいしゃつとめようとおもっているのさ。」と、かえりに勇蔵ゆうぞうが、達吉たつきちはなしました。
僕はこれからだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
あのあたりへ、夕暮ゆふぐれかねひゞいたら、姿すがたちかもどるのだらう、——とふともなく自分じぶん安心あんしんして、益々ます/\以前もとかんがへふけつてると、ほだくか、すみくか、谷間たにまに、彼方此方かなたこなた、ひら/\
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おじいさんは、ちょうど、その昼時分ひるじぶんでありました。やまに、息子むすこがいって、すみいていますので、そこへ、こめや、いもっていってやろうとおもいました。
すみくろいが、いましがたいだばかりで、じようにもらず、火氣くわきちぎは。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)