-
トップ
>
-
滿山
月の
世界と
成れば、
野に、
畑に、
山懷に、
峰の
裾に、
遙に
炭を
燒く、それは
雲に
紛ふ、はた
遠く
筑摩川を
挾んだ、
兩岸に、すら/\と
立昇るそれ
等の
煙は、
滿山の
冷き
虹の
錦の
裏に
斷崖の
上の
欄干に
凭れて
憩つた
折から、
夕颪颯として、
千仭の
谷底から、
瀧を
空状に、もみぢ
葉を
吹上げたのが
周圍の
林の
木の
葉を
誘つて、
滿山の
紅の、
且つ
大紅玉の
夕陽に
映じて
寂しく
然も
高らかに、
向う
斜に
遙ながら、
望めば
眉にせまる、
滿山は
靄にして、
其處ばかり
樹立の
房りと
黒髮を
亂せる
如き、
湯の
原あたり
山の
端に、すぽい/\、すぽい/\と
唯一羽鳥が
鳴いた。