不足ふそく)” の例文
學生がくせい平日いつもよりはかず不足ふそくであつた。不審ふしんことには、自分じぶんより三四さんよまへかへつてゐるべきはず安井やすゐかほさへ何處どこにもえなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
みすぼらしいふうをして、かさもっていなかったが、いてみると、一せん不足ふそくのためというのだった。もっとも、あのころだけれど。
かたい大きな手 (新字新仮名) / 小川未明(著)
顏中かほぢゅうのどこも/\釣合つりあひれて、何一なにひと不足ふそくはないが、まん一にも、呑込のみこめぬ不審ふしんがあったら、傍註わきちゅうほどにもの眼附めつきや。
ですから彼等かれらのゐる村落附近そんらくふきん山林さんりんは、のちにはだん/\にせまく、まばらになつてて、つひにはまき材料ざいりようにも不足ふそくするようになりました。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
またこれをたとへばあらまし三百六十五文はらふべき借金しやくきんを、毎月まいつき二十九文五づゝの濟口すみくちにて十二はらへば一年におよそ十一文づゝの不足ふそくあり。
改暦弁 (旧字旧仮名) / 福沢諭吉(著)
余は不足ふそくしなと余分のしなとの直接交換ちよくせつこうくわんのみならず、必要以外の品と雖も後日ごじつようを考へて取り換へ置く事も有りしならんと思惟するなり
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
あひだかれなんにも不足ふそくおもつてはなかつた。それを勘次かんじかへつてると性來しやうらいきでない勘次かんじたちまちに二人ふたりなびいてしまつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
きつかたき不足ふそくはせぬ。花片はなびらゆきにかへて、魔物まもの煩悩ぼんなうのほむらをひやす、価値ねうちのあるのを、わたくしつくらせませう、……おぢいさん
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
つまはおみつつて、今歳ことし二十になる。なにかとふものゝ、綺緻きりやうまづ不足ふそくのないはうで、からだ発育はついく申分まをしぶんなく、どうや四釣合つりあひほとん理想りさうちかい。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
つうの手紙がいこんできた。切手きってらないので、郵税ゆうぜい二ペンスの不足ふそくとなっている。透明人間からのものだ。消印けしんはヒントンディーンきょく
けれども、ママはお仕事しごとの手をめようともしないで——一たいあんなにのべつ縫物ぬいものばかりして何が面白おもしろいんだろう!——不足ふそくそうな声でいった。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
なにしろ、ここにはたべものがどっさりあるので、たべものに不足ふそくしたというような話は、まだきいたことがありません。
また何等の目的を持ツて生まれなかツた。いたづらに出來た子は、何處までも徒らに出來た子になツてゐたからと謂ツて、誰からも不足ふそくを聞く譯は無い筈だ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
たのみてあやにかけたる許嫁いひなづけのえにしおやなりなり同舅同士あひやけどうしなり不足ふそくしなあらばたまへと彼方かなたにばかり親切しんせつ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
進め用金ようきんをばあつめける京都にても五萬五千兩程集まりきやう大坂にて都合十五萬兩餘の大金と成ば最早もはや金子は不足ふそくなし此勢にじようじて江戸へ押下おしくだりいよ/\大事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
三十スーに一スーでも不足ふそくがあれば、不足だけむちでぶたれるのだ。きみ、三十スーもうけるにはずいぶんほねれる。けれどぶたれるのはもっとつらい。
しかしをとこころさずとも、をんなうばこと出來できれば、べつ不足ふそくはないわけです。いや、そのときこころもちでは、出來できるだけをとこころさずに、をんなうばはうと決心けつしんしたのです。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
やがて、その商人あきうどは、やう/\のことでもと天竺てんじくにあつたのをもとめたといふ手紙てがみへて、皮衣かはごろもらしいものをおくり、まへあづかつた代金だいきん不足ふそく請求せいきゆうしてました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
ただ一細君さいくんに対しては、もはや自分は大きいのぞみのないことをさらけだし、いまの自分に不足ふそくがあるならばどうなりともおまえのままにしてくれというた。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
それから、ふたりは、しばらくのあいだ、なに不足ふそくなく、しあわせにくらしておりました。ところがあるとき、ふと、わかいおきさきさまがおもい病気びょうきにかかりました。
「いや、それには及ぶまいよ、伊之さんの字はこんなに澤山あるんだから、手本にするに不足ふそくはねえ」
こめたはらよりぜに蟇口がまぐちよりいづ結構けつこうなかなに不足ふそく行倒ゆきだふれの茶番ちやばん狂言きやうげんする事かとノンキに太平楽たいへいらく云ふて、自作じさく小説せうせつ何十遍なんじつぺんずりとかの色表紙いろべうしけて売出うりだされ
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
当代とうだい一の若女形わかおやま瀬川菊之丞せがわきくのじょうなら、江戸えどばんのおまえ相手あいてにゃ、すこしの不足ふそくもあるまいからの。——わかった。相手あいてがやっぱり役者やくしゃとあれば、堺屋さかいやうのはそう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
海底戰鬪艇かいていせんとうてい製造せいぞうには、きわめて細密さいみつなる設計せつけい出來できて、一人ひとり不足ふそくをもゆるさぬかはりに、一人ひとり増加ぞうかする必要ひつえうがないのです、ちやんと三十三めい水兵すいへいある年月ねんげつあひだはたらいて
不足ふそくてん適當てきたう外語ぐわいごもつ補充ほじうするのはつかへないが、ゆゑなく舊來きうらい成語せいごてゝ外國語ぐわいこくご濫用らんようするのは、すなはみづからおのれを侮辱ぶじよくするもので、もつてのほか妄擧まうきよである。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
口惜くやしかつたら不足ふそくひたまへ。それともこの文章ぶんしやうぼく今夜こんやまくらもとへいてくから、これでわるかつたら、どういたがいいか、ひとつそれをぼくをしへてくれたまへ。
「三つの宝」序に代へて (旧字旧仮名) / 佐藤春夫(著)
さあ、なにかほしいものといったところで、このとおりからだ丈夫じょうぶで、毎日まいにちのごぜんをべて、はたらいていれば、なに不足ふそくなことはないが、ただ一つ六十になって、いまだに子供こども一人ひとりもない。
雷のさずけもの (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
さうふやうにかんがへてると、我國わがくに經濟界けいざいかい基礎きそ堅固けんごのものにらずして早晩さうばん變動へんどうすべき状態じやうたいのものであつたので、あたかひと自分じぶん收入しうにふでは生計費せいけいひ不足ふそくぐるをもつ毎月まいつき借入金かりいれきんをして
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
巡業に来ゐる出羽嶽ではがたけわが家にチャンポン食ひぬ不足ふそくもいはず
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
疲勞ひらう睡眠すゐみん不足ふそくとに、Kあをざめてひげさへばしてゐた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
「なかなかいいようですが、少しかおりが不足ふそくですな。」
紫紺染について (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
御米およねはさも心地好こゝちよささうにねむつてゐた。ついこのあひだまでは、自分じぶんはうられて、御米およね幾晩いくばん睡眠すゐみん不足ふそくなやまされたのであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ロレ 手前てまへこそは、力量りきりゃういっ不足ふそくながら、ときところ手前てまへ不利ふりでござるゆゑ、このおそろしい殺人ひとごろしだいばん嫌疑者けんぎしゃでござりませう。
が、うすると、深山しんざん小驛せうえきですから、旅舍りよしやにも食料しよくれうにも、乘客じようかくたいする設備せつび不足ふそくで、危險きけんであるからとのことでありました。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いままで、かもめはなんの不足ふそくもなく、またかんがえることもなくらしてきましたが、このころからようやくかんがえはじめました。
馬を殺したからす (新字新仮名) / 小川未明(著)
しな勘次かんじしてなさけないやうな心持こゝろもちがしてたのであるが、おもつたよりはあきなひをしてれたので一にち不足ふそくまつた恢復くわいふくされた。さうして
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
なし漸く金一兩一分ときまり直八は道具屋に向ひは付たが金子の持合もちあはせは少々せう/\不足ふそくだがやうやして是を手付として置て行ませうと金一取出し翌日あすあさのこりの金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
お医者さんはうつくしい娘をおよめにもらって、なに不足ふそくなくしあわせな日をおくりむかえ、もうこれぎり死神をだしぬくことはよそうと、かたく心をきめました。
ついでにあのかほがうつるとなほおもしろいと相談さうだんはとゝのひて、不足ふそくしな正太しようた買物役かいものやくあせりてまわるもをかしく、いよ/\明日あすりては横町よこちやうまでも其沙汰そのさたきこえぬ。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
巨大おほきいわ裂目さけめがあつて、其處そこから太陽たいやうひかり不足ふそくなく洞中どうちうてらしてをるのである。
にるために持って来たと思うか。ぼくはきょうたった三十六スーしかもらえなかった。だからこの材木ざいもくをぶたれないおまじないにするのだ。これで四スーの不足ふそくの代わりになるだろう
また或は各地の固有に有余ゆうよ不足ふそくあらんには互にこれを交易こうえきするもなり。すなわち天与てんよ恩恵おんけいにして、たがやして食い、製造して用い、交易こうえきして便利を達す。人生の所望しょもうこの外にあるべからず。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
たくさんの田地でんちやおかねがあって、きれいな奥方おくがたって、このの中にべつだん不足ふそくのない気楽きらくの上でしたが、それでもたった一つ、なによりいちばんだいじな子供こどもという宝物たからものけていることを
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
 ノルデ奮起ふんきす。水の不足ふそく
こんなことくちにする宗助そうすけべつ不足ふそくらしいかほもしてゐなかつた。御米およねをつとはなあなくゞ烟草たばこけむながめるくらゐで、それをいてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
戦争せんそうわるころは、品物しなもの不足ふそくしていて、だれでも、すばしっこく、ひとのほしがるしなうごかしたものは、あそんでいても、おおもうけができたのだ。
太陽と星の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
貧乏びんばふ所帶しよたいであれば彼等かれらいく少量せうりやうでも不足ふそくをいはぬ。しか多少たせう財産ざいさんいうしてると彼等かれらみとめてうちでそれををしめば彼等かれら不平ふへいうつたへてまぬ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
でも、こゝには、金銀如山きんぎんやまのごとく綾羅りようら錦繍きんしう嘉肴かかう珍菓ちんくわ、ありあまつて、ほ、りないものは、お使者ししやおにたゝくととゝのへるんです、それに不足ふそくはありません。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
えたるあご二重ふたへなるなど、かゝひとさへあるにてれは二心ふたごゝろちてむべきや、ゆめさら二心ふたごゝろたぬまでも良人をつと不足ふそくおもひてむべきや、はかなし、はかなし
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
……おくよ、をばかみたゞ一人ひとりしかたまはらなんだのを不足ふそくらしうおもうたこともあったが、いまとなっては此奴こやつ一人ひとりすら多過おほすぎる、りもなほさず、呪咀じゅそぢゃ、禍厄わざはひぢゃ、うぬ/\、賤婢はしたをんなめ!