ほそ)” の例文
遠方えんぽうへ、およめにいってしまわれたのよ。」と、おかあさまも、そのむすめさんのことをおもされたように、ほそくしていわれました。
青い花の香り (新字新仮名) / 小川未明(著)
いままでながもとしきりにいていたむしが、えがちにほそったのは、雨戸あまどからひかりに、おのずとおびえてしまったに相違そういない。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
これと云う句切りもなく自然じねんほそりて、いつの間にか消えるべき現象には、われもまたびょうを縮め、ふんいて、心細さの細さが細る。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
火入ひいれにべた、一せんがおさだまりの、あの、萌黄色もえぎいろ蚊遣香かやりかうほそけむりは、脈々みやく/\として、そして、そらくもとは反對はんたいはうなびく。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ただお母様が毎日毎日他所よそへ行つて着物のすすぎ洗濯や針仕事をしていくらかの賃金を貰つて来てやつとほそい煙を立てゝりました。
金銀の衣裳 (新字旧仮名) / 夢野久作(著)
最もほそく作られたるものは其原料げんれう甚だ見分みわけ難けれどややふときもの及び未成みせいのものをつらね考ふれば、あかがひのへり部分ぶぶんなる事を知るを得。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
ふと麥藁むぎわらにはかなら一方いつぱうふしのあるのがります。それが出來できましたら、ほそはう麥藁むぎわらふと麥藁むぎわらけたところへむやうになさい。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そういう時期に、私は北海道の一隅で、三年目の学生たちを相手に、ほそ々と雪の結晶の写真を撮ろうと努力していたのである。
二つの序文 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
まちは、いつまでもいつまでもたれなにはなかつたら、その青白あをしろほそ川柳かはやなぎつめてゐたかもしれない。この川柳かはやなぎ古郷こきやうおほい。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
地図を辿って行くに、河は西南独逸の山中からほそくなって出て来ている。僕は民顕ミュンヘンに来てから、“die Donau”という書物を買った。
ドナウ源流行 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
或る時尋ねると、ごくほそ真書しんかきで精々せっせと写し物をしているので、何を写しているかと訊くと、その頃地学雑誌に連掲中の「鉱物字彙じい」であった。
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「そうよ、あたしアラビアンナイトで見たわ」あねほそぎんいろの指輪ゆびわをいじりながらおもしろそうにはなししていました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そつとけて這入はひつてると、自分じぶんうちながらおつぎはひやりとした。とやにはとりくらなか凝然ぢつとしてながらくゝうとほそながめうこゑした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
れはうでほそかつたが、このなかには南蠻鐵なんばんてつ筋金すぢがねはひつてゐるとおもふほどの自信じしんがある。ほそきにいてゐるてのひらが、ぽん/\とつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
さうでせう。』と、かれほそめてふた。『貴方あなただの、貴方あなた補助者ほじよしやのニキタなどのやうな、然云さうい人間にんげんには、未來みらいなどはなんえうわけです。 ...
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
よしありましても、直線ちよくせんなどをほそんだもので、まへべた土器どきのように、曲線きよくせんだとかなはだとかむしろだとかのかたちしたものは見當みあたりません。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
ほそあしのおかげではしるわ、はしるわ、よつぽどとほくまでげのびたが、やぶのかげでそのうつくしいつのめがさヽ引掛ひつかかつてとう/\猟人かりうどにつかまつたとさ。
ダリヤの園を通ると、二尺あまりの茶色ちゃいろひもが動いて居る、と見たは蛇だった。蜥蜴とかげの様なほそい頭をあげて、黒いはりの様なしたをペラ/\さして居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
エンヂェル・フィッシュに似た黒い派手な竪縞たてじまのある魚と、さよりの樣な飴色のほそい魚とが盛んに泳いでゐるのを見下してゐる中に、眠くなつて來た。
りやうさん今朝けさ指輪ゆびわはめてくださいましたかとこゑほそさよこたへはむねにせまりてくちにのぼらず無言むごんにさしひだりせてじつとばかりながめしが。
闇桜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
其晩そのばん湿しめやかな春雨はるさめつてゐた。近所隣きんじよとなりひつそとして、れるほそ雨滴あまだれおとばかりがメロヂカルにきこえる。が、部屋へやには可恐おそろしいかげひそんでゐた。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
だが、わたしは、そのおりの印象を、ふらんすの貴婦人のように、ほそやかに美しい、りんとしているといっている。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
あいちやんのおどろきや如何いかばかり、白兎しろうさぎが、そのほそ金切聲かなきりごゑ張上はりあげて、『愛子あいこ!』とげましたときの。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
かさねしも女房お光が忠實敷まめ/\しく賃裁縫ちんしごとやら洗濯等せんたくなどなしほそくも朝夕あさゆふけむりたてたゞをつとの病氣全快ぜんくわいさしめ給へと神佛へ祈念きねんかけまづしき中にも幼少えうせうなる道之助の養育やういく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
遊人の舟は相ふくみて洞窟より出で、我等は前に渺茫べうばうたる大海を望み、しりへ琅玕洞らうかんどうの石門の漸くほそりゆくを見たり。
金太郎が帽子ぼうしをとつてお辭儀じぎをすると、山下先生はを絲のやうにほそくして、春やすみは何日までか訊ねた。
坂道 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
これ此の通り廿五両をやろうと思っている処、一本よこせと云われちゃア、どうせほそった首だから、素首そっくびが飛んでも一文もやれねえ、それにお前よく聞きねえ
そのさびといひ、といひ、幽玄ゆうげんといひ、ほそみといひ、以て美の極となす者、ことごとく消極的ならざるはなし。
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そのかせとはほそき丸竹を三四尺ほどの弓になしてそのつるに糸をかけ、かせながら竿さをにかけわたしてさらす也。
と、見事な京壁、稲荷いなり聚楽じゅらくをまぜた土が、ジャリッ! と刃をすり、メリメリッとほそわりの破れる音!
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
およそ我に遇ふ者我を殺さむといひ、雲にはかに裂くればおとほそりてきゆるいかづちのごとく過ぐ 一三三—一三五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
たしか戦争前であったか、寒中二、三人で東上線志木駅下車の柳瀬川へタナゴ釣りに出かけたが、連れの百面相の鶴枝という男が足をすべらしてほそに落ちてしまった。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
髪の毛は真っ白になり、手足はほそり、腰は立たず、ひどく年をとって死にかかってるのでした。
魔法探し (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
途中で、放れ馬をひろい、やっと秀次をそれに乗せ、ほそという所で、ひと息ついていると、またも、敵の襲撃にあい、さんざんになって、稲葉いなば方面へ落ちのびた。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
氏は五十歳を幾つも越えないであらう。肉づきの締つた、ほそやかな、背丈の高い体に瀟洒せうしやとした紺の背広を着て、調子の低いさうして脆相もろさうな程美しい言葉で愛想あいそよく語つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
人々ひと/″\同意どういえて一時いちじくちとぢたけれど、其中そのうち二三人にさんにんべつ此問このとひめず、ソフアにうづめてダラリと兩脇りやうわきれ、天井てんじやうながめてほそくしてものもあれば
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
二十けんにもあま巨大きよだい建物たてものは、るから毒々どく/\しい栗色くりいろのペンキでられ、まどは岩たたみ鐵格子てつがうしそれでもまぬとえて、内側うちがはにはほそい、これ鐵製てつせいあみ張詰はりつめてある。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
かくいてはいてはみすること五六回ごろつかいにして次第しだいおとろつひんでしまつた。あとには所々ところ/″\ちひさな土砂とさ圓錐えんすいのこし、裂口さけぐち大抵たいていふさがつてたゞほそせんのこしたのみである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
はなひくくてほそくて、何處どこけたかんじのするひらべつたいかほ——そのかほながいので「うまさん」と綽名あだながついた。が、中根なかね都會生とくわいうまれの兵士達へいしたちのやうにズルではなかつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
頭部あたまほうにもモー一ぽんえますが、それは通例つうれいまえのよりもよほどほそいようで……。
□夕方西にくれないほそき雲棚引たなびき、のぼるほど、うす紫より終に淡墨うすずみに、下に秩父の山黒々とうつくしけれど、そは光あり力あるそれにはあらで、冬の雲は寒く寂しき、たとへんに恋にやぶれ
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ささげばたけでは、ささげがほそほそいあるかないかの銀線ぎんせんの、いな、むづかしくいふなら、永遠えいゑん刹那せつなきてもききたいやうなのでる樂器がくきに、そのこゑをあはせて、しきり小唄こうたをうたつてゐました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
やがて彼女は戸口に立った、背の高い、ほそった青年の姿を認めた。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
草假名は心ゆくなりほそがきの面相めんさうに書けばなほとおもしろ
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
濱島はまじま浩然かうぜん大笑たいせうした、春枝夫人はるえふじんほそうして
わが姿、しよんぼりとほそりやつるる。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
身はほそけれど胸広きエルフの群は
鳩酢草はとかたばみ呼吸いきほそしずく湿うる
夏の日 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
つきほそくかゝれるとき
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
ひかりは、ほのかにあしもとをあたためて、くさのうちには、まだのこったむしが、ほそこえで、しかし、ほがらかにうたをうたっていました。
丘の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)