かさ)” の例文
そうして、人馬の悲鳴が高く一声発せられると、河原の上では、かさなった人と馬と板片とのかたまりが、沈黙したまま動かなかった。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
うしたときにはまたみょう不思議ふしぎ現象ことかさなるものとえまして、わたくし姿すがたがそのみぎ漁師りょうしつま夢枕ゆめまくらったのだそうでございます。
茶色ちゃいろ表紙ひょうしに青いとじ糸を使い、中のかみ日本紙にほんし片面かためんだけにをすったのを二つりにしてかさねとじた、純日本式じゅんにほんしき読本とくほんでした。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
さかずきかずがだんだんかさなるうちに、おかしららしいおには、だれよりもよけいにって、さもおもしろそうにわらいくずれていました。
瘤とり (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
やがて、とことはのやみとなり、くもすみうへうるしかさね、つきほしつゝてて、時々とき/″\かぜつても、一片いつぺんうごくともえず。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
すげのたたみを八まい皮畳かわだたみを六枚に、絹畳きぬだたみを八枚かさねて、波の上に投げおろさせるやいなや、身をひるがえして、その上へ飛びおりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
かさね右のおもぶきまで願書にしたゝめ居たるに加賀屋長兵衞入り來り我等何分なにぶんにも取扱ひ候間いますこし御待ち下さるべし白子屋方へ能々よく/\異見いけん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さら博物館はくぶつかんではそとより見物人けんぶつにん學者達がくしやたち研究けんきゆうさせるばかりでなく、博物館はくぶつかんにゐるひと自身じしんがその陳列品ちんれつひん利用りようして研究けんきゆうかさ
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
昨年さくねん、ご当地とうちで、おどおりいたしましたむすめは、さる地方ちほうにおいて、たわらかさねまするさいに、腹帯はらおびれて、非業ひごう最期さいごげました。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
斯様かうなればたがひ怨恨ゑんこんかさなるのみであるが、良兼の方は何様どうしても官職を帯びて居るので、官符はくだつて、将門を追捕すべき事になつた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
うして、其樣そんところ這入はいつたのだ。當分たうぶん其所そこにゐるつもりなのかい」と宗助そうすけかさねていた。安井やすゐはたゞすこ都合つがふがあつてとばかりこたへたが
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
八百膳やおぜん」の料理をおごられても、三日続けて食わさるれば、不足を訴える。帝国ホテルの御馳走ごちそうでも、たびかさなればいやになる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
つきすると、木々きぎこずえ青葉あおばつつまれ、えだえだかさなりって、小鳥ことりもりこだまこして、うえはならすくらいに、うたしました。
下部かぶ貝塚かひづかが、普通ふつうので、其上そのうへ彌生式やよひしき貝塚かひづかかさなつてるとか、たしかそんなことであつた。いま雜誌ざつし手元てもといのでくはしくはしるされぬ。
へだては次第しだいかさなるばかり、雲霧くもきりがだんだんとふかくなつて、おたがひのこゝろわからないものにりました、いまおもへばそれはわたしから仕向しむけたので
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そのうえに袷のかさが追々と無くなって、中綿がたっぷりと入れられるようになれば、また別様べつようの肩腰の丸味ができてくる。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
爾来じらい東京に大阪にた神戸に、妾は表面同志として重井と相伴い、演説会に懇親会に姿を並べつ、その交情日と共にいよいよかさなり行きぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
煮たのも来る。舞茸まいたけ味噌汁みそしるが来る。焚き立ての熱飯あつめしに、此山水の珍味ちんみえて、関翁以下当年五歳の鶴子まで、健啖けんたん思わず数碗すうわんかさねる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
かぼちゃも、きゅうりも、いねも昔の三等寝台しんだいのように、何段もかさなったたなの上にうえられていた。みんなよく育っていた。
三十年後の東京 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ちょっとたゞけでは、わかつたようでわからぬうたです。おなじようなかさなつてゐると、自然しぜん片一方かたいつぽうほうは、一部分いちぶぶんりやくする習慣しゆうかんがあります。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
互にたてを突き合ふやうな不愉快な時間が幾度かかさなつた。或る時は首藤に質問された「かりかる」の用法で、先生は一時間を苦しめられた。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
また、向こうのさくのそばには、見まわりの三人組が三人とも、むねに一本ずつの短刀たんとうをうけて、かさなり合ってころげている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
身にあまる大難問が三つも四つもかさなり合つて、女の思考情願、判断を混乱させてしまつたので、たどるべき径路の系統の発見に長い間苦しんだ。
計画 (新字旧仮名) / 平出修(著)
天草あまくさはらの城の内曲輪うちくるわ。立ち昇る火焔。飛びちがふ矢玉。伏しかさなつた男女の死骸しがい。その中に手を負つた一人の老人。
商賈聖母 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「それは漢字かんじばかりでいたほんで、おまへにはまだめない」とふと、かさねて「どんなこといてあります」とふ。
寒山拾得縁起 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
私達はかさなりかさなった山々を眼の下に望むような場処へ来ていた。谷底はまだ明けきらない。遠い八ヶ岳は灰色に包まれ、その上に紅い雲が棚引たなびいた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
前夜ぜんやあめはれそら薄雲うすぐも隙間あひまから日影ひかげもれてはるものゝ梅雨つゆどきあらそはれず、天際てんさいおも雨雲あまぐもおほママかさなつてた。汽車きしや御丁寧ごていねい各驛かくえきひろつてゆく。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
冬がれの木や、つみかさねられた黒い枕木まくらぎはもちろんのこと、電信柱でんしんばしらまでみんなねむってしまいました。遠くの遠くの風の音か水の音がごうと鳴るだけです。
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
かういふ關係かんけいかさなるような場所ばしよおいては、津浪つなみたかさがいちじるしく増大ぞうだいするわけであるが、それのみならず、なみあさところればつひ破浪はろうするにいたること
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
かさねてこれをあやしとすることあらじ、そは愛欲のれざるところ即ち天にて我自ら汝に誇りたればなり 四—六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
てん恩惠めぐみかさね/″\くだり、幸福かうふく餘所行姿よそゆきすがた言寄いひよりをる。それになんぢゃ、意地いぢくねのまがった少女こめらうのやうに、口先くちさきとがらせて運命うんめいのろひ、こひのろふ。
何かの切っかけで、地道よりもよこしまの方を手っ取り早いように思い込む。それがかずかさなると、世の中を太く短くという暗示になって、悪い方へ転向してしまう。
善根鈍根 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
われ、世に在りて何かさむ、一帶の砂上に立ちて、まなこ常に、あのうちかさなれる晶光七天しやうくわうしちてんを眺むるのみ。
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
緑陰りょくいんかさなった夕闇にほたるの飛ぶのを、雪子やしげ子と追い回したこともあれば、寒い冬の月夜を歌留多かるたにふかして、からころと跫音あしおと高く帰って来たこともあった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
僕は外套がいとうの上にまた大外套をかさしていながら、風に向いた皮膚にしみとおる風の寒さを感じました。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
辛抱しんぼう辛抱しんぼうかさねてたとどのつまりが、そこはおんなみだれるおもいのがたく、きのうときょうの二つづけて、この仕事場しごとばを、ひそかにおとずれるになったのであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
其後そのご幾年月いくねんげつあひだ苦心くしん苦心くしんかさねた結果けつくわ一昨年いつさくねんの十一ぐわつ三十にちわたくし一艘いつそう大帆走船だいほまへせんに、おびたゞしき材料ざいれうと、卅七めい腹心ふくしん部下ぶかとを搭載のせて、はる/″\日本につぽん
きょうも昼間から場がひらけたところ、見たことのねえ風来坊がきて、初めは何の不思議もなかったが、だんだんやりとりがかさなると、そ奴の素振りが怪しくなった、で。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
正面しやうめんにはもう多田院ただのゐん馬場先ばばさきの松並木まつなみきえだかさねて、ずうつとおくふかくつゞいてゐるのがえた。松並木まつなみき入口いりくちのところに、かはにして、殺生せつしやう禁斷きんだんつてゐた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
なんことアねへ態々わざ/\心配しんぱいしてたさにようなもんで一盃いつぱい一盃いつぱいかさなれば心配しんぱいかさなつて
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
かれはそれをみんなすみっこにかさねた。わたしたちはからだじゅう捜索そうさくされて、金もマッチもナイフも取り上げられた。それからそのばんじこめられることになった。
晏平仲嬰あんぺいちうえいは、(三六)らい夷維いゐひとなりせい靈公れいこう莊公さうこう景公けいこうつかへ、節儉力行せつけんりよくかうもつせいおもんぜらる。すでせいしやうとして、(三七)しよくにくかさねず、せふ(三八)きぬず。
瘠我慢やせがまん一篇の精神せいしんもっぱらここにうたがいを存しあえてこれを後世の輿論よろんたださんとしたるものにして、この一点については論者輩ろんしゃはいがいかに千言万語せんげんばんごかさぬるも到底とうてい弁護べんごこうはなかるべし。
このあはれなちひさなものは、あいちやんがつかまへたとき蒸氣じやうき機關きくわんのやうなおそろしい鼻息はないきをしました、それからわれとからだを二つにかさねたり、また眞直まつすぐばしたりなどしたものですから
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
けれども、ネズミたちは一ぴきずつ上へ上へとかさなって、そこまでよじのぼりました。
米の飯を食わせずにまそうとする、二度三度かさなると与八は怒って、もう頼みに行っても出て来ない、その時は前祝いに米の飯を食わせると、前のことは忘れてよく力を貸します。
孟宗の重きしだれのかさなりのそのに抜けて、ただひとり揺るるのあり。目か醒めし、夜風か出でし、さわさわと揺れて遊べり。しだれつつ前にうしろに、照りかげり揺れて遊べり。
私は憂鬱になつてしまつて、自分が拔いたままかさねた本のぐんながめてゐた。
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
ハムーチャはまっ裸となって、立派な衣装のかさねてある側に立っていました。
手品師 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
しろがねのひげさへひかり新幸にひさちもいよよかさねむ君がいのちやおのづからなる
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)