なゝめ)” の例文
眞紅しんくへ、ほんのりとかすみをかけて、あたらしい𤏋ぱつうつる、棟瓦むねがはら夕舂日ゆふづくひんださまなる瓦斯暖爐がすだんろまへへ、長椅子ながいすなゝめに、トもすそゆか
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
なゝめに振り上げて、亂れかゝる鬢の毛を、キリキリと噛んだ女の顏は、そのまゝ歌舞伎芝居かぶきしばゐの舞臺にせり上げたいほどのあでやかさでした。
我等に山のなゝめにて上りうべきところを告げよ、そは知ることいと大いなる者時を失ふを厭ふことまたいと大いなればなり。 七六—七八
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
横手よこて桟敷裏さじきうらからなゝめ引幕ひきまく一方いつぱうにさし込む夕陽ゆふひの光が、の進み入る道筋みちすぢだけ、空中にたゞよちり煙草たばこけむりをばあり/\と眼に見せる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ると、太陽たいやうがキラ/\とかゞやいてひがしほうの、赤裸あかはだかやまいたゞきなゝめかすめて、一個いつこ大輕氣球だいけいききゆうかぜのまに/\此方こなたむかつてんでた。
草木さうもくおよ地上ちじやうしもまばたきしながらよこにさうしてなゝめけるとほ西にし山々やま/\ゆき一頻ひとしきりひかつた。すべてをつうじて褐色かつしよくひかりつゝまれた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
花吉はがツくり島田の寝巻姿ねまきすがた、投げかけしからだを左のひぢもて火鉢にさゝへつ、何とも言はず上目遣うはめづかひに、低き天井、なゝめに眺めやりたるばかり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
たゞされしかば富右衞門の女房にようばうみね其子城富は申に及ばず親族しんぞくに至る迄みな大岡殿の仁智じんちを感じ喜悦きえつなゝめならずことさらに實子城富は見えぬなみだ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
こゝを先途せんどとまづたくはへたまひけるが、何れの武官にやそゝくさ此方へ来らるゝ拍子ひやうしに清人の手にせし皿をなゝめめにし、鳥飛んで空にあり、魚ゆかに躍り
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
其れとなゝめに対して右方うはうそびえたウフイツチ邸は階下の広大な看棚ロオヂアを広場に面せしめて、その中には希臘ギリシヤ羅馬ロオマ時代の古彫像が生ける如くぐんを成して居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
暫時しばらくすると箱根はこね峻嶺しゆんれいからあめおろしてた、きりのやうなあめなゝめぼくかすめてぶ。あたまうへ草山くさやま灰色はひいろくもれ/″\になつてはしる。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
日本につぽん最初さいしよつくられた銅器どうきまへよりははゞひろどうつるぎほこるいでありまして、そのひとつはくりすがたといふつるぎで、このつるぎはつばにあたるところがなゝめにまがつてゐます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
庵室の屋根はつい其處に見えてゐるのに、いざ辿り着くまでの細路がなか/\遠くて、石徑せきけいなゝめなりといふ風情があつた。もう三月ではあつたが、山懷には霜柱が殘つてゐた。
ごりがん (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
水はなゝめに巨巖の上を幾段にも錯落離合してほとばしり下るので、白龍きそひ下るなどと古風の形容をして喜ぶ人もあるのだが、この瀧の佳い處はたゞ瀧の末のところに安坐して
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
純紫色じゆんしゝよくは自然の神の惜みて容易に人間に示さゞる所、晩秋の候、天の美しく晴れたる日、夕陽せきやうを帶びて、この木曾の大溪を傳ひ行けば、駒ヶ嶽絶巓ぜつてんの紅葉なゝめに夕日の光を受けて
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
代助は椅子のあしなゝめに立てゝ、身体からだうしろのばした儘、答へをせずに、微笑して見せた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
つたへていふ、白髪はくはつ老翁らうをうへいをもちてなだれにくだるといふ。また此なだれ須川村の方へ二十町余の処真直まつすぐつき下す年は豊作ほうさく也、菖蒲村の方へなゝめにくだす年は凶作きやうさく也。其験そのしるしすこしたがふ事なし。
みのるは机に寄つかゝつて頭を右の手で押へながら男の顏をなゝめに見てゐた。義男の顏は、眼の瞬きと、蒼い顏の筋肉の動きと、唇のおのゝきと、それがちやんぽんになつて電光をはしらしてゐた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
「また始めやがツた。」と俊男はまゆの間に幾筋いくすぢとなくしわを寄せて舌打したうちする。しきり燥々いら/\して來た氣味きみで、奧の方を見て眼をきらつかせたが、それでもこらえて、體をなゝめに兩足をブラりえんの板に落してゐた。
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
函館の棧橋さんばしからそこへ通ふ小蒸汽船に乘つて、暗褐色あんかつしよくの波のたゆたゆとゆらめく灣内わんないなゝめに横切る時、その甲板かんぱんに一人たゞずんでゐた私の胸にはトラピスト派の神祕な教義と、嚴肅げんしゆくな修道士達の生活と
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
とて、なゝめならず王鬼わうおに勘氣かんきかうふり、くわんがれうとま
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
こころもちなゝめに坐つて。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
蟻はなゝめに、まじくらに
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
なゝめにおとす
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
八五郎は少しなゝめになつて、プイと外へ出てしまひました。此上お北の爲に、働いてやる工夫のないのが、淋しくも張合のない樣子です。
與吉よきちなゝめくのがすこ窮屈きうくつであつたのと、叱言こごとがなければたゞ惡戲いたづらをしてたいのとでそばかまどくちべつ自分じぶん落葉おちばけた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
たもとくろく、こんもりとみどりつゝんで、はるかにほしのやうな遠灯とほあかりを、ちら/\と葉裏はうらすかす、一本ひともとえのき姿すがたを、まへなゝめところ
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
梯子段はしごだんの二三段を一躍ひととびに駈上かけあがつて人込ひとごみの中に割込わりこむと、床板ゆかいたなゝめになつた低い屋根裏やねうら大向おほむかうは大きな船の底へでもりたやうな心持こゝろもち
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
この東風ひがしかぜいてために、輕氣球けいきゝゆうは、たちま進行しんかう方向ほうかうへんじて、今度こんどは、りく方面ほうめんからなゝめに、海洋かいやうほうへときやられた。
かくいへる時彼は目をなゝめにしてふたゝびさちなき頭顱かうべを噛めり、その齒骨に及びて強きこと犬の如くなりき 七六—七八
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「イヤ、例令たとへ如何なる事情があらうとも、此の軍国多事の際、有為いうゐの将校に重傷を負はしむると云ふは容赦ならぬ」と、言ひつゝ将軍はなゝめに篠田の後影をにらみつ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
狭き谷の麦圃に沿ひ、北行ほくかうやゝ久しく、西日まばしく馬影ばえいなゝめに落つる頃、路の左にそびえ起る一千尺ばかりの山を見る。中腹石屏せきびやうを立てたる如き山骨さんこつあらはれ、赭禿あかはげの山頂に小き建物あり。
本殿の眞後まうしろへ𢌞はつた時、なゝめ破風はふの方をあふぎながら、お光はこんなことを言つた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
夜は聴くましら孤樹こじゆいて遠きを、あかつきにはうしほのぼって瘴煙しやうえんなゝめなるを。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
代助は五味台クルエツト、スタンドなかに、少しなゝめれた位地から令嬢のかほを眺める事になつた。代助は其ほゝの肉と色が、いちぢるしくうしろの窓からす光線の影響を受けて、鼻のさかひ暗過くらすぎるかげを作つた様に思つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
亭亭ていてい大毛槍だいけやりを立てた如くに直立し又はなゝめに交錯して十丈以上の高さに達して居る椰子やし林を颯爽さつさうたる驟雨しううに車窓を打たれながら、五台の馬車が赤い土の水けむりを馬蹄の音高く蹴立てて縦断するのは
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
露の深い路地、下水に半分身を落して、乙女の身體はなゝめゆがみ、もすその紅と、蒼白くなつたはぎが、淺ましくも天にちゆうしてゐるのです。
與吉よきち卯平うへいそばからなゝめしてた。卯平うへい與吉よきちちひさなあしかふへそつとれてた。あしどつちもざら/\とこそつぱかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
二羽には一処ひとところにト三羽さんば一処ひとところにトてそして一羽いちはが六しやくばかりそらなゝめあしからいとのやうにみづいてつてあがつたがおとがなかつた、それでもない。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
見よ諸〻の星をたづさふる一の圈、かれらを呼求むる世を足らはさんとて、なゝめにかしこよりわかれ出づるを 一三—一五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
勿論もちろん旋風つむじかぜつねとて一定いつてい方向ほうかうはなく、西にしに、ひがしに、みなみに、きたに、輕氣球けいきゝゆうあだか鵞毛がもうのごとく、天空てんくうあがり、さがり、マルダイヴ群島ぐんたううへなゝめ
夕日なゝめに差し入る狭き厨房くりや、今正に晩餐ばんさんの準備最中なるらん、冶郎蕩児やらうたうじ魂魄たましひをさへつなぎ留めたるみどりしたゝらんばかりなるたけなす黒髪、グル/\と引ツつめたる無雑作むざふさ櫛巻くしまき紅絹裏もみうらの長き袂
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
硝子がらすとほしてなゝめに遠方をかして見るときは猶左様さういふ感じがした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
はく銅の持合もちあはせが無いので一人が十銭銀貨をなげ入れると、彼は黒い大きなたいなゝめに海中に跳らせて銀貨がだ波の間を舞つて居る瞬間に其れを捉へてあがつて来る。ベツクリンの絵の中の怪物の心地がした。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
傷口は喉笛のどぶえから右耳の下へなゝめに割いた凄まじいもので、得物は匕首あひくちか脇差か、肉のハゼて居るところを見ると、相當刄の厚いものらしく
ひと馬鹿ばかにしてるではありませんか。あたりのやまでは処々ところ/″\茅蜩殿ひぐらしどのどろ大沼おほぬまにならうといふもりひかへていてる、なゝめ谷底たにそこはもうくらい。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一とくさりの經が濟むと、後ろの物の氣配に誘はれたものか、女はなゝめに後ろ手を突いて、靜かに振り返りました。實に美しいポーズです。
門外おもてみちは、弓形ゆみなり一條ひとすぢ、ほの/″\としろく、比企ひきやつやまから由井ゆゐはま磯際いそぎはまで、なゝめかさゝぎはしわたしたやうなり
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
金襴もぢくほり和物わものらしく、切り離した刄の跡は、ひどく亂暴でなゝめになつてをりますが、刄物ははさみではなく、鋭い切出しか匕首などの樣子です。
間近まぢかかくれ、むねふせつて、かへつて、なゝめそらはるかに、一柱いつちうほのほいて眞直まつすぐつた。つゞいて、地軸ちぢくくだくるかとおもすさまじい爆音ばくおんきこえた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)