一日いちにち)” の例文
一日いちにちでも二日ふつかでも女中の居なくなつて下等な労働をさせられてはならないと思ふ心を離さなかつたからであるなどとも思ふのです。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
うちへ帰つて、一日いちにち部屋に這入つたなり考へ込んでゐた。あによめを連れて音楽会へ行くはづの所を断わつて、大いにあによめに気を揉ました位である。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
きのうまでの僕とは、ちがうのだ。自信をもっ邁進まいしんしよう。一日いちにち労苦ろうくは、一日いちにちにてれり。きょうは、なんだか、そんな気持だ。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
餘念よねんもなくたわむれてるので、わたくし一人ひとり室内しつない閉籠とぢこもつて、今朝けさ大佐たいさから依頼いらいされた、ある航海學かうかいがくほん飜譯ほんやくにかゝつて一日いちにちくらしてしまつた。
一體いつたいあのへんには、自動車じどうしやなにかで、美人びじん一日いちにちがけと遊山宿ゆさんやど乃至ないし温泉をんせんのやうなものでもるのか、うか、まだたづねてません。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
どんよりと曇りて風なく、雨にもならぬ秋の一日いちにち、浅草伝法院でんぽういんの裏手なる土塀どべいに添える小路こうじを通り過ぎんとしてたちまちとある銘酒屋めいしゅやの小娘にたもと引かれつ。
葡萄棚 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
熟々つら/\かんがふるにてんとんびありて油揚あぶらげをさらひ土鼠もぐらもちありて蚯蚓みゝずくら目出度めでたなか人間にんげん一日いちにちあくせくとはたらきてひかぬるが今日けふ此頃このごろ世智辛せちがら生涯しやうがいなり。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
こゝを一應いちおう見物けんぶつするだけでも一日いちにちようしますが、入場にゆうじよう無料むりようであり、かさつゑあづかつてくれても賃錢ちんせんりません。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
是非ぜひ吾助ごすけ拜見はいけんたければ、此頃このごろ姉樣ねえさまにおねがひなされ、おてをいたゞきてたまはれ、かならず、屹度きつと返事へんじ通路つうろ此處こヽにをしへ、一日いちにち二日ふつか
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ほどおほきな身體からだでも卯平うへいは八十にちか老衰者らうすゐしやである。一日いちにち食料しよくれうがどれほどるかそれはれたものである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
とても今日こんにち一日いちにちではききるまい、といふ氣持きもちを、つまじき景色けしきかな、とかういつたのです。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
成程なるほど一日いちにちの苦とうつかれていへかへツて來る、其處そこには笑顏ゑがほむかへる妻子さいしがある、終日しうじつ辛勞しんらう一杯いつぱいさけために、陶然たうぜんとしてツて、すべて人生の痛苦つうくわすれて了ふ。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
此莊園でラクダルはゴロリところがつたまゝ身動みうごきもろくにず、手足てあしをダラリのばしたまゝ一言ひとことくちひらかず、たゞ茫乎ぼんやりがな一日いちにちねんから年中ねんぢゆうときおくつてるのである。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
たれもよくいふ口ですが気の長いわけさね 或一人あるひとり嘲笑あざわらひますとまた或一人あるひとりがさうでねえ、あれで一日いちにち何両なんりやうといふものになる事があるわつちうちそば鰻捺うなぎかぎはめかけを置いてますぜと
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
帰ると溜息ためいきついて曰く、全く田舎がえナ、浅草なンか裏が狭くて、雪隠せっちんに往ってもはなつっつく、田舎にけえると爽々せいせいするだ、親類のやつが百姓は一日いちにちにいくらもうかるってきくから
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
其中そのうち活火山かつかざんはストロムボリ(たか九百二十六米くひやくにじゆうろくめーとる)とヴルカーノ(たか四百九十九米しひやくくじゆうくめーとる)との二箇にこであるが、前者ぜんしや有史以來ゆうしいらい一日いちにち活動かつどう休止きゆうししたことがないといふので有名ゆうめいであり
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
オルガンティノは翌日のゆうべも、南蛮寺なんばんじの庭を歩いていた。しかし彼の碧眼へきがんには、どこか嬉しそうな色があった。それは今日一日いちにちの内に、日本の侍が三四人、奉教人ほうきょうにんの列にはいったからだった。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
島路を彼方かれかたへ遣わしては如何いかゞとの仰せに助七は願うところとすみやかに媒酌を設け、龜甲屋方へ婚姻の儀を申入れました処、長二郎も喜んで承知いたしたので、文政五午年うまどし三月一日いちにちに婚礼を執行とりおこな
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一冊いつさつの本を三四十人して見るのでは一人ひとり一日いちにちとしても一月余ひとつきよかゝるので、これでは奈何どうもならぬとふので、じゆくしたのであるから、印行いんかうして頒布はんぷする事にたいとせつ我々われ/\三名さんめいあひだおこつた
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
のらくら のらくらと一日いちにちなまけてゐるではないか
梅雨つゆの晴れ一日いちにちを、せめて樂しく浮かれよと
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
暮れやすい一日いちにち
測量船 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
一日いちにちもの言はず
抒情小曲集:04 抒情小曲集 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
先生今日けふ一日いちにち御勉強ですな。どうです、と御散歩になりませんか。今夜こんや寅毘沙とらびしやですぜ。演芸館で支那人ちやんの留学生が芝居をつてます。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
一日いちにち此塲このば立去たちさことかなはねば、そこでわたくしと、日出雄少年ひでをせうねんと、武村兵曹たけむらへいそうと、二名にめい水兵すいへいとが、鐵車てつしや乘組のりくことになつた。
一日いちにちわれ芝辺しばへんに所用あつて朝早くよりいえを出で帰途築地の庭後庵ていごあんをおとづれしにいつもながら四方山よもやまの話にそのままをふかし車を頂戴して帰りけり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
常飛脚じやうひきやくなつ三月さんぐわつより九月くぐわつまで)の十日とをか——滿八日まんやうかふゆ十月じふぐわつより二月にぐわつまで)の十二日じふににち——滿十日まんとをかべつとして、はやはう一日いちにち二十五里にじふごり家業かげふだとふ。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おつぎはいまあそびたいさかりに這入はひつたのであるが、勘次かんじからは一日いちにちでもたゞ一人ひとりはなされたことがない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
やとおもへばがな一日いちにちごろ/\としてけぶりのやうにくらしてまする、貴孃あなた相變あいかはらずのうつくしさ、奧樣おくさまにおりなされたといたときからそれでも一おがこと出來できるか
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
一日いちにちはやくかういふふうな民俗博物館みんぞくはくぶつかんまうけられることを希望きぼうするものであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
そのはると、はりののはりとをひっかけてうたつたもの——はりの木原きはらにめちゃくちゃにりこんで、このはる一日いちにちあそんでゐるのは、あの萬葉集まんにようしゆうてゐるひとたちなのからん
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
消息こそせね、夫婦は一日も粕谷の一日いちにち一夜いちやを忘れなかった、と書いてある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
一日いちにちまた一日いちにちはたらいておいいたるのをすこしもかんじない樣子やうすです。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ほんに一日いちにち齷齪あくせく
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
一日いちにちすみやかに日本につぽんかへりたいのは山々やま/\だが、前後ぜんご事情じじやうさつすると、いま此人このひとむかつて、其樣そん我儘わがまゝはれぬのである。
もう一日いちにち二日ふつかしか余つてゐない。間違つたら下宿の勘定をばして置かう抔といふ考はまだ三四郎のあたまのぼらない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
園丁これをオガタマの木と呼べどもわれいまだオガタマなるものを知らねば、一日いちにち座右ざうにありしはぎ先生が辞典を見しに古今集三木さんぼくの一古語にして実物不詳とあり。
来青花 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
まくらいたのは黄昏たそがれころこれ逢魔あふまとき雀色時すゞめいろどきなどといふ一日いちにちうち人間にんげん影法師かげぼふし一番いちばんぼんやりとするときで、五時ごじから六時ろくじあひだおこつたこと、わたしが十七のあきのはじめ。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一日いちにちとこいてふせつてこと一度いちど二度にどでは御座ござりませぬ、わたし泣虫なきむし御座ございますから、その強情がうじやう割合わりあひ腑甲斐ふがひないほど掻卷かいまきえりくひついてきました、唯々たゞ/\口惜くやなみだなので
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
日曜日にちようびには教會きようかいから博物館はくぶつかん一日いちにち愉快ゆかいくらすのであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
三日みつかそとないと、町幅まちはゞ何時いつにかひろげられてゐたり、一日いちにち新聞しんぶんまないと、電車でんしや開通かいつうらずにすごしたりするいまに、ねん二度にど東京とうきやうながら
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
翌年あくるとし(明治四十二年)の春もなほ寒かりし頃かと覚えたりわれは既に国に帰りて父のいえにありき。上田先生一日いちにち鉄無地羽二重てつむじはぶたえ羽織はおり博多はかたの帯着流きながしにて突然おとづれ来給きたまへり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
いやうも團子だんごべさせること出來できぬとて一日いちにち大立腹おほりつぷくであつた、大分だいぶ熱心ねつしん調製こしらへたものとえるから十ぶんべて安心あんしんさせてつてれ、餘程よほどうまからうぞと父親てゝおや滑稽おどけれるに
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かさねてと思う、日をかさねて一月ひとつきにたらず、九月一日いちにちのあの大地震であった。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
旅行を始めてから一日いちにち二日ふつかは、この三つの事情のすべてかあるいは幾分かが常に働くので、これではせっかくの約束も反古ほごにしなければならないという気が強くつのりました。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一日いちにちおのれも菓子折に生田葵山いくたきざん君の紹介状を添へ井上唖々いのうえああ子と打連れ立ちて行きぬ。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
翌日あくるひ一日いちにち寝てござった。ひるすぎに女中が二人ついて、この御堂みどうへ参詣なさった御新姐ごしんぞの姿を見て、私はあわてて、客人に知らさぬよう、暑いのに、貴下あなた、この障子を閉切しめきったでございますよ。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ましてやよるでも夜中よなかでも傘屋かさやきちたとさへへば寢間着ねまきのまゝで格子戸かうしとけて、今日けふ一日いちにちあそびになかつたね、うかおか、あんじてたにとつて引入ひきいれられるものほかにあらうか
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「だつて、御母おつかさんやにいさんから云つたら、一日いちにちも早く君に独立してもらひたいでせうがね」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
秋暑しゅうしょ一日いちにち物かくことも苦しければ身のまはりの手箱用箪笥ようだんす抽斗ひきだしなんど取片付るに、ふと上田先生が書簡四、五通をさぐり得たり。先生きて既に三年今年の忌日きじつもまた過ぎたり。
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)