“陰氣(いんき)” の例文
新字:陰気
「貴方(あなた)は、何(な)んかてえと家(うち)が淋しい淋しいツて有仰(おつしや)いますけれども、そりや家に病身の人がゐりや、自然(しぜん)陰氣(いんき)になりもしますわ。」
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
落(お)ち掛(か)けた日(ひ)が少時(しばし)竹藪(たけやぶ)を透(とほ)して濕(しめ)つた土(つち)に射(さ)し掛(か)けて、それから井戸(ゐど)を圍(かこ)んだ井桁(ゐげた)に蒞(のぞ)んで陰氣(いんき)に茂(しげ)つた山梔子(くちなし)の花(はな)を際立(はきだ)つて白(しろ)くした。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
その晩おそく、——多分十一時から十二時迄の間だつたと思ふけれど——陰氣(いんき)な床に就く前に私は神樣にお祈りしたのです。
「何(なん)だか陰氣(いんき)に成(な)りました。こんな時(とき)、むかし一(ひと)つ夜具(とこ)を被(かぶ)つた女(をんな)の墓(はか)へ行(ゆ)くと、かぜを引(ひ)きさうに思(おも)ひますから。」
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
其(その)うち年(とし)が段々(だん/\)片寄(かたよ)つて、夜(よる)が世界(せかい)の三分(さんぶん)の二(に)を領(りやう)する樣(やう)に押(お)し詰(つま)つて來(き)た。風(かぜ)が毎日(まいにち)吹(ふ)いた。其音(そのおと)を聞(き)いてゐる丈(だけ)でも、生活(ライフ)に陰氣(いんき)な響(ひゞき)を與(あた)へた。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
二では謠(うたい)の「善知鳥(うとう)」など、三では「阿漕(あこぎ)」、「鵜飼(うがひ)」など其(その)適例(てきれい)である。幽靈(ゆうれい)は概(がい)して全體(ぜんたい)の性質(せいしつ)が陰氣(いんき)で、凄(すご)いものである。相貌(さうぼう)なども人間(にんげん)と大差(たいさ)はない。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
坊主(ぼうず)までが陰氣(いんき)らしう沈(しづ)んで仕舞(しまい)ましたといふに、みれば茶椀(ちやわん)と箸(はし)を其處(そこ)に置(お)いて父(ちゝ)と母(はゝ)との顏(かほ)をば見(み)くらべて何(なに)とは知(し)らず氣(き)になる樣子(やうす)、こんな可愛(かわひ)い者(もの)さへあるに
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
警鐘(けいしよう)が陰氣(いんき)に響いてくる
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
……話(はなし)が騷々(さう/″\)しい。……些(ち)と靜(しづか)にしよう。それでなくてさへのぼせて不可(いけな)い。あゝ、しかし陰氣(いんき)に成(な)ると氣(き)が滅入(めい)る。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
それは京都(きやうと)に共通(きようつう)な暗(くら)い陰氣(いんき)な作(つく)りの上(うへ)に、柱(はしら)や格子(かうし)を黒赤(くろあか)く塗(ぬ)つて、わざと古臭(ふるくさ)く見(み)せた狹(せま)い貸家(かしや)であつた。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そして此の陰氣(いんき)なじめ/\した室にも、何處となく、小意氣(こいき)な瀟洒(さつぱり)した江戸的氣風が現はれてゐた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
内(うち)は只(たゞ)陰氣(いんき)で出(で)る時(とき)に端(はし)を捲(まく)つた夜具(やぐ)も冷(つめ)たく成(な)つて居(ゐ)た。彼(かれ)は漸(やうや)く火鉢(ひばち)に麁朶(そだ)を燻(くべ)た。彼(かれ)は側(そば)に重箱(ぢゆうばこ)と小鍋(こなべ)とが置(お)かれてあるのを見(み)た。蓋(ふた)をとつたら重箱(ぢゆうばこ)には飯(めし)があつた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
あちらの方には、立派な道具などがあるには違ひないのでございますが、ひどく陰氣(いんき)でガランとしてをりまして、私なぞとても一人で寢(やす)む氣にはなれませんのでございますよ。
何(ど)うしたからとて人並(ひとな)みでは無(な)いに相違(さうい)なければ、人並(ひとなみ)の事(こと)を考(かんが)へて苦勞(くろう)する丈(だけ)間違(まちが)ひであろ、あゝ陰氣(いんき)らしい何(なん)だとて此樣(こん)な處(ところ)に立(た)つて居(ゐ)るのか、何(なに)しに此樣(こん)な處(ところ)へ出(で)て來(き)たのか
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
一枚(まい)……二枚(まい)、と兩方(りやうはう)で、ペエジを遣(やツ)つ、取(とツ)つして、眠氣(ねむけ)ざましに聲(こゑ)を出(だ)して讀(よ)んで居(ゐ)たが、恁(か)う夜(よ)が更(ふ)けて、可恐(おそろ)しく陰氣(いんき)に閉(とざ)されると、低(ひく)い聲(こゑ)さへ
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
空(そら)を見(み)ると凍(こほ)つてゐる樣(やう)であるし、家(うち)の中(なか)にゐると、陰氣(いんき)な障子(しやうじ)の紙(かみ)を透(とほ)して、寒(さむ)さが浸(し)み込(こ)んで來(く)るかと思(おも)はれる位(くらゐ)だのに、御米(およね)の頭(あたま)はしきりに熱(ほて)つて來(き)た。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
二三日(にち)の間(あひだ)は片口(かたくち)や摺鉢(すりばち)に入(い)れた葬式(さうしき)の時(とき)の残物(ざんぶつ)を喰(た)べて一家(か)は只(たゞ)ばんやりとして暮(くら)した。雨戸(あまど)はいつものやうに引(ひ)いた儘(まゝ)で陰氣(いんき)であつた。卯平(うへい)を加(くは)へて四人(にん)はお互(たがひ)が只(たゞ)冷(ひやゝ)かであつた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
傍(そば)へゆけば逃(に)げる、はなしを爲(す)れば怒(おこ)る、陰氣(いんき)らしい氣(き)のつまる、どうして好(よ)いやら機嫌(きげん)の取(と)りやうも無(な)い、彼(あ)のやうなこ六づかしやは思(おも)ひのまゝに捻(ひね)れて怒(おこ)つて意地(いぢ)はるが爲(し)たいならんに
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
俺が死んだら何(ど)うする? 其の癖(くせ)お前は、俺の體が虚弱(きよじやく)だとか、俺の性質が陰氣(いんき)だとか謂(い)ツて、絶えず俺のことを罵倒(ばたう)してゐる、罵倒しながら、俺(おれ)に依ツて自己(じこ)の存立(そんりつ)を安全にしてゐるのだから
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
裏町(うらまち)、表通(おもてどほ)り、火(ひ)を警(いまし)むる拍子木(ひやうしぎ)の音(おと)も、石(いし)を噛(か)むやうに軋(きし)んで、寂然(しん)とした、臺所(だいどころ)で、がさりと陰氣(いんき)に響(ひゞ)く。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
元來(もとより)一腹(ぷく)一對(つゐ)の中(なか)に育(そだ)ちて他人(たにん)交(ま)ぜずの穩(おだや)かなる家(いへ)の内(うち)なれば、さして此兒(このこ)を陰氣(いんき)ものに仕立(したて)あげる種(たね)は無(な)けれども、性來(せいらい)をとなしき上(うへ)に我(わ)が言(い)ふ事(こと)の用(もち)ひられねば兎角(とかく)に物(もの)のおもしろからず
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
地震(ぢしん)めつたになし。しかし、其(そ)のぐら/\と來(く)る時(とき)は、家々(いへ/\)に老若(らうにやく)男女(なんによ)、聲(こゑ)を立(た)てて、世(よ)なほし、世(よ)なほし、世(よ)なほしと唱(とな)ふ。何(なん)とも陰氣(いんき)にて薄氣味(うすきみ)惡(わる)し。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
珍(めづ)らしい事(こと)陰氣(いんき)のはなしを聞(き)かせられる、慰(なぐさ)めたいにも本末(もとすゑ)をしらぬから方(はう)がつかぬ、夢(ゆめ)に見(み)てくれるほど實(じつ)があらば奧樣(おくさま)にしてくれろ位(ぐらい)いひそうな物(もの)だに根(ね)つからお聲(こゑ)がゝりも無(な)いは何(ど)ういふ物(もの)だ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
闇(やみ)に咲(さ)く花(はな)の、たとへば面影(おもかげ)はほのかに白(しろ)く、あはれに優(やさ)しくありながら、葉(は)の姿(すがた)の、寂(さび)しく、陰氣(いんき)に、黒(くろ)いのが、ありとしも見(み)えぬ雲(くも)がくれの淀(よど)んだ月(つき)に
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
……急(きふ)ごしらへの油(あぶら)の足(た)りない白(しら)ちやけた提灯(ちやうちん)一具(ひとつ)に、小(ちひ)さくなつて、家中(うちぢう)が目(め)ばかりぱち/\として、陰氣(いんき)に滅入(めい)つたのでは、何(なん)にも出來(でき)ず、口(くち)もきけない。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
五月雨(さみだれ)の陰氣(いんき)な一夜(あるよ)、坂(さか)の上(うへ)から飛蒐(とびかゝ)るやうなけたゝましい跫音(あしおと)がして、格子(かうし)をがらりと突開(つきあ)けたと思(おも)ふと、神樂坂下(かぐらざかした)の其(そ)の新宅(しんたく)の二階(にかい)へ、いきなり飛上(とびあが)つて
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
變(へん)に陰氣(いんき)で不氣味(ぶきみ)な晩(ばん)でございました。ちやうど來(き)なすつた時(とき)、目白(めじろ)の九(こゝの)つを聞(き)きましたが、いつもの八(や)つころほど寂寞(ひつそり)して、びゆう/\風(かぜ)ばかりさ、おかみさん。
夜釣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
呼出(よびだ)しを掛(か)ける氣(き)の、勝手(かつて)は知(し)つた裏口(うらぐち)へ𢌞(まは)つて、垣根(かきね)から覗(のぞ)くと、長閑(のどか)な日(ひ)の障子(しやうじ)を開(あ)けて、背戸(せど)にひら/\と蝶々(てふ/\)の飛(と)ぶのを見(み)ながら、壁(かべ)は黒(くろ)い陰氣(いんき)な納戸(なんど)に
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
何(なに)も、油堀(あぶらぼり)だつて、そこにづらりと並(なら)んだ藏(くら)が——中(なか)には破壁(やれかべ)に草(くさ)の生(は)えたのも交(まじ)つて——油藏(あぶらぐら)とも限(かぎ)るまいが、妙(めう)に油壺(あぶらつぼ)、油瓶(あぶらがめ)でも積(つ)んであるやうで、一倍(いちばい)陰氣(いんき)で
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
「沈(しづ)んだ船(ふね)——」と、思(おも)はず私(わたし)が聲(こゑ)を掛(か)けた。隙(ひま)も無(な)しに、陰氣(いんき)な水音(みづおと)が、だぶん、と響(ひゞ)いた……
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
前(まへ)なる縁(えん)の障子(しやうじ)に掛(か)けた、十燭(しよく)と云(い)ふ電燈(でんとう)の明(あかり)の屆(とゞ)かない、昔(むかし)の行燈(あんどん)だと裏通(うらどほ)りに當(あた)る、背中(せなか)のあたり暗(くら)い所(ところ)で、蚊(か)がブーンと鳴(な)く……其(そ)の、陰氣(いんき)に、沈(しづ)んで、殺氣(さつき)を帶(お)びた樣子(やうす)は
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
……寂(さび)しいにつけ、陰氣(いんき)につけ、隨所(ずゐしよ)停車場(ステエシヨン)の燈(ともしび)は、夜汽車(よぎしや)の窓(まど)の、月(つき)でも花(はな)でもあるものを——心(こゝろ)あての川崎(かはさき)、神奈川(かながは)あたりさへ、一寸(ちよつと)の間(ま)だけ、汽車(きしや)も留(とま)つたやうに思(おも)ふまでで
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
中途(ちうと)で落(お)ちるのは、屆(とゞ)かないので。其(そ)の砂利(じやり)が、病院(びやうゐん)の裏門(うらもん)の、あの日中(ひなか)も陰氣(いんき)な、枯野(かれの)へ日(ひ)が沈(しづ)むと云(い)つた、寂(さび)しい赤(あか)い土塀(どべい)へ、トン……と……間(あひ)を措(お)いては、トーンと當(あた)るんです。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
激(はげ)しく動(うご)くは胸(むね)ばかり……づん/\と陰氣(いんき)な空(そら)から、身體(からだ)を壓附(おしつ)けられるやうで
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
手(て)もしびれたか、きゆつと軋(きし)む……水口(みづくち)を開(あ)けると、茶(ちや)の間(ま)も、框(かまち)も、だゞつ廣(ぴろ)く大(おほ)きな穴(あな)を四角(しかく)に並(なら)べて陰氣(いんき)である。引窓(ひきまど)に射(さ)す、何(なん)の影(かげ)か、薄(うす)あかりに一目(ひとめ)見(み)ると、唇(くちびる)がひツつツた。
夜釣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一停車場(あるステイシヨン)で、彼(かれ)の隣(となり)に居(ゐ)た、黒地(くろぢ)の質素(しつそ)な洋服(やうふく)を着(き)て、半外套(はんぐわいたう)を被(はお)つて、鳥打(とりうち)を被(かぶ)つた山林局(さんりんきよく)の官吏(くわんり)とも思(おも)ふ、痩(や)せた陰氣(いんき)な男(をとこ)が、薄暗(うすぐら)い窓(まど)から顏(かほ)を出(だ)して、通(とほり)がかりの驛員(えきゐん)を呼(よ)んで聞(き)いた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
其(そ)の蟋蟀(こほろぎ)と、婦(をんな)の聲(こゑ)を沈(しづ)んで聞(き)いて、陰氣(いんき)らしく
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
寂然(ひつそり)した日中(ひなか)の硫黄(ゆわう)ヶ島(しま)に陰氣(いんき)な音響(ひゞき)。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
と丁(てい)が陰氣(いんき)に怒(おこ)つた。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)