うか)” の例文
すると其時そのとき夕刊ゆふかん紙面しめんちてゐた外光ぐわいくわうが、突然とつぜん電燈でんとうひかりかはつて、すりわる何欄なにらんかの活字くわつじ意外いぐわいくらゐあざやかわたくしまへうかんでた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
振返ると背面の入江は幾百の支那ジヤンクをうかべて浅黄色に曇つたのが前面のせはしげな光景とちがつて文人画の様な平静を感ぜしめる。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
例のやさしい表情を眼にうかべて、わたしにこうささやいたのだ、——「今夜八時に、うちへいらっしゃいね、よくって、きっとよ……」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
こんなうたになると、自由じゆううかれるような調子ちようしが、ぴったりともりを鯨船くぢらぶねのすばやい動作どうさあらはすに適當てきとうしてゐるではありませんか。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
れがしきりに交代かうたいされるので、卯平うへいは一しか郷里きやうりつちまなくても種々しゆ/″\變化へんくわみゝにした。かれは一ばんおつぎのことが念頭ねんとううかぶ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
が、うちもんをはひらないまへに、かれはからつぽになつた財布さいふなかつま視線しせんおもうかべながら、その出來心できごころすこ後悔こうくわいしかけてゐた。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
もう二十年以上も前のことであるが、あの時の状景は今でもありありと思いうかべることが出来る。勿論もちろん全く根も葉もない流言であった。
流言蜚語 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
お日さまの光が、ガラスの天井からさしこんできて、水の上や、大きな水盤すいばんうかんでいる美しい水草を、キラキラと照らしていました。
いやいや迂闊うかつな事は出来ない。私は涙ぐんで来た。大阪駅に出迎えている筈の友人のとがめるような残念そうな顔が眼の前にうかんで来た。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
叔母のかたをばんでいるうち、夜も大分だいぶけて来たので、源三がついうかりとして居睡いねむると、さあ恐ろしい煙管きせる打擲ちょうちゃくを受けさせられた。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
三千代みちよの顔をあたまなかうかべやうとすると、顔の輪廓が、まだ出来あがらないうちに、此くろい、湿うるんだ様にぼかされたが、ぽつとる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
話けるに吉兵衞心におどろき夫は何時頃いつごろの事なるやと尋問たづねければ和尚は指折算ゆびをりかぞへ元祿二年九月の事なりと聞より吉兵衞は涙をうかべ其子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しよめしなぞべると、かれはいつでもこゝろ空虚くうきようつたへるやうな調子てうしでありながら、さうつてさびしいかほ興奮こうふんいろうかべてゐた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
で、長者は奴隷の体に傷をつけないで、らしめになる苦しい刑罰はないかと考えました。そして、長者の頭に一つの考えがうかみました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
電話のベルが廊下のあなたに三度四度と鳴らされて行きました。「坩堝るつぼたぎりだした」不図こんな言葉が何とはなしに脳裡のうりうかびました。
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
更に岸をくだつて水上すゐじやううかかもめと共にゆるやかな波にられつゝむかうの岸に達する渡船わたしぶねの愉快を容易に了解する事が出来るであらう。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
処へ縁と云うものは妙なもので、の紀伊國屋の伊之助が髪結の長次を連れて、八重花やえはなと呼ぶ花魁のところへうかれに参りました。
蜥蜴とかげ鉛筆えんぴつきしらすおと壓潰おしつぶされて窒息ちつそくしたぶた不幸ふかう海龜うみがめえざる歔欷すゝりなきとがゴタ/\に其處そこいらの空中くうちゆううかんでえました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
そして、生命力の薄い、物にうかやすい兄は、到底弟のこの本能の一徹な慾求を理解もし負担もしてやる力はないのだと思つた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
あっさりとさばけた態度たいどで、そうわれましたので、わたくしほうでもすっかり安心あんしんして、おもうかぶまま無遠慮ぶえんりょにいろいろなことをおききしました
何故なぜだらう、これはのこぎり所爲せゐだ、)とかんがへて、やなぎいたむといつたおしなことばむねうかぶと、また木屑きくづむねにかゝつた。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
空には白い雲がうかび、鳥は高く飛んでるけれども、時間は流れて人を待たず、自分は次第に老いるばかりになってしまったという咏嘆えいたんである。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
都のうかは、せめてわたくしたちの幸福にあやかりたいと、名前までも祇一、祇二、祇福、祇徳などと争って改めてみたものでございます。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いくらまじめにながめていても、そんなおおきなちょうざめは、泳ぎもうかびもしませんでしたから、しまいには、リチキは大へん軽べつされました。
毒もみのすきな署長さん (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
その擧動ふるまひのあまりに奇怪きくわいなのでわたくしおもはず小首こくびかたむけたが、此時このとき何故なにゆゑともれず偶然ぐうぜんにもむねうかんでひとつの物語ものがたりがある。
とソフアにけてたオックスフオード出身しゆつしん紳士しんしおこしていた。其口元そのくちもとにはなんとなく嘲笑あざけりいろうかべてる。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
……そんなむなしい努力の後、やっと私の頭にうかんだのは、あのお天狗てんぐ様のいるおかのほとんど頂近くにある、あの見棄みすてられた、古いヴィラであった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
余は思うともなく今年一年の出来事をさま/″\と思いうかべた。身の上、家の上、村の上、自国の上、外国の上、さま/″\と事多い一年であった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
私は、涙を流し放題に流して、だんだをふまないばかりにせき立てて、震える手をのばして妹の頭がちょっぴり水の上にうかんでいる方を指しました。
溺れかけた兄妹 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そしてまち自分じぶんなんめに、いつともれずこんなあしになつたのだらうか、といふことかんがへてると、いつのにかなみだうかんでてならなかつた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
はじめちょっとかれには前院長ぜんいんちょうかぬようであったがやがてそれとて、その寐惚顔ねぼけがおにはたちま冷笑れいしょううかんだので。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「いや、社長に話してあります。社長丈けは僕の心持が分っています。『団君、君には申訳がないな』と言ってくれました。この一言で僕はうかばれます」
冠婚葬祭博士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それゆゑ海上かいじよううかんでゐる船舶せんぱくには其存在そのそんざいまた進行しんこうわかりかねる場合ばあひおほい。たゞしそれが海岸かいがん接近せつきんすると、比較的ひかくてききゆううしほ干滿かんまんとなつてあらはれてる。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
うかの群れに入って東国あずままで漂泊したか、いずれ泥水の中に暗い月日も送ったことであろうに、梢の顔にはそうした過去の陰影はすこしも見られない。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あをみづうへには、三十石船さんじつこくぶねがゆつたりとうかんで、れた冬空ふゆぞらよわ日光につくわうを、ともからみよしへいツぱいにけてゐた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
三日月みかづきなりにってある、にいれたいくらいのちいさなつめを、母指おやゆび中指なかゆびさきつまんだまま、ほのかな月光げっこうすかした春重はるしげおもてには、得意とくいいろ明々ありありうかんで
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そも/\ながれにちり一ツうかびそめしはじめにて、此心このこゝろさらへどもらず、まさんとおもふほどきにごりて、眞如しんによつきかげ何處いづく朦々朧々もう/\ろう/\ふちふかくしづみて
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
と、不意に、(意見せられて、さし俯向うつむいて——)という、おけさの一節が、頭にうかびました。(泣いていながらぬしのこと)なにかうったえるものが欲しかった。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「イヤこれはこれは、今日は全家うちじゅうが出払って余り徒然つれづれなので、番茶をれてひとりでうかれていた処サ。」と。
ベンヺ そのかぜうかばなしに、大分だいぶんときつぶれた。ようせぬと、夜會やくわいてゝ、時後ときおくれになってしまはう。
今でも、その折の彼女の一語一語を、まざまざと思いうかべることが出来る程である。だが、ここには、この物語の為には、彼女の身の上話をことごとくは記す必要がない。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
うかがないので、味噌みそとか、ゴマのようなものを混ぜて買って来ては、結構利潤りじゅんがのぼっていた。
河沙魚 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
己が母の乳を棄て、思慮こゝろなく、うかれつゝ、好みて自ら己と戰ふこひつじのごとく爲すなかれ。 八二—八四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
それから三千ねんぜん往古わうこかんがへながら、しんくと、不平ふへい煩悶はんもん何等なんら小感情せうかんじやううかぶなく、われ太古たいこたみなるなからんやとうたがはれるほどに、やすらけきゆめるのである。
う云いながら、巡査は無闇に松明を振廻ふりまわすと、火の光は偶中まぐれあたりに岩蔭へ落ちて、さんたる金色こんじきの星の如きものがやみうかんだ。が、あれと云う間に又朦朧もうろうと消えてしまった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その山の上には白いくもうかんでいて、さらにその上とおくに、大空がまるくかぶさっていました。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
海河の神たちに悉く幣帛へいはくを奉り、わたしの御魂みたま御船みふねの上にお祭り申し上げ、木の灰をひさごに入れ、またはしと皿とを澤山に作つて、悉く大海にらしうかべておわたりなさるがよい
しほてば水沫みなわうか細砂まなごにもわれけるかひはなずて 〔巻十一・二七三四〕 作者不詳
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
武矦ぶこう西河せいがうかびてくだる、中流ちうりうにしてかへりみて呉起ごきつていはく、『なる哉乎かな山河さんがかため、魏國ぎこく寶也たからなり』と。こたへていはく、『((國ノ寶ハ))とくりてけんらず。 ...
「私や子供のために、こんなにせながらはたらかなければならないのだなんて、おんにばつかりせてゐるのよ。」と仰言つたあなたの美しい寂しい笑顏ゑがほを、私は今思ひうかべてゐます。
冬を迎へようとして (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)