おそ)” の例文
やがて大きなつめでひっかくようなおとがするとおもうと、はじめくろくもおもわれていたものがきゅうおそろしいけもののかたちになって
(新字新仮名) / 楠山正雄(著)
しるべの燈火ともしびかげゆれて、廊下らうかやみおそろしきをれし我家わがやなにともおもはず、侍女こしもと下婢はしたゆめ最中たゞなかおくさま書生しよせい部屋へやへとおはしぬ。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
土神は俄に両手で耳をおさえて一目散に北の方へ走りました。だまっていたら自分が何をするかわからないのがおそろしくなったのです。
土神ときつね (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
あいちやんはたゞちにれが扇子せんすつて所爲せいだとことつていそいで其扇子そのせんすてました、あだかちゞむのをまつたおそれるものゝごとく。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
津浪つなみとはなみすなはみなとあらはれる大津浪おほつなみであつて、暴風ぼうふうなど氣象上きしようじよう變調へんちようからおこることもあるが、もつとおそろしいのは地震津浪ぢしんつなみである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
そのうちに彼女の身体を吊下つりさげている紐が切れ、下へ落ちてしまったのであろう。おそらくそれは広い海の中であったことと思われる。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おそろしいをむきだした、茶と白のブチ犬が、アシのあいだをつき進んでくるのを見ますと、それこそいのちのちぢまる思いをしました。
おそかなおのれより三歳みつわか山田やまだすで竪琴草子たてごとざうしなる一篇いつぺんつゞつて、とうからあたへつ者であつたのは奈何どうです、さうふ物を書いたから
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
もつとも、あれでしどつちかが斷然だんぜんつよくでもなつたとしたら、おそらくすゝまぬ方は憤然ふんぜん町内をつてつたかも知れない。くは原、くは原!
彼處あすこ通拔とほりぬけねばならないとおもふと、今度こんど寒氣さむけがした。われながら、自分じぶんあやしむほどであるから、おそろしくいぬはゞかつたものである。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
陶器師とうきしは、おそって御殿ごてんがりました。それから、その有名ゆうめい陶器師とうきしは、厚手あつでちゃわんをつく普通ふつう職人しょくにんになったということです。
殿さまの茶わん (新字新仮名) / 小川未明(著)
貝塚に於て發見はつけんさるる獸骨貝殼の中には往々わう/\黒焦くろこげに焦げたるもの有り。是等はおそらく獸肉ぢうにくなり貝肉なり燒きて食はれたる殘餘ならん。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
彼女の仕事をさまたげることをおそれて、其処そこに彼女をひとり残したまま、その渓流に沿うた小径をぶらぶら上流の方へと歩いて行った。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
もう忍耐にんたい出來できない、萬年まんねんペンをとつてりあげた、そのおそろしいしもとしたあわれみをふかのようにいてゐる、それがたゝけるか。
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
餘程よほど大火おほびかなければ、馬籠まごめにてたるごとあとのこすものでない。かまどとか、とか、それくらゐため出來できたのではおそらくあるまい。
つてユーゴのミゼレハル、銀器ぎんきぬす一條いちでうみしときその精緻せいちおどろきしことありしが、このしよするところおそらくりんにあらざるべし。
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
読者は上述の説明を読んでどういう風な面立おもだちをかべられたかおそらく物足りないぼんやりしたものを心にえがかれたであろうが
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかそのもつとおそれをいだくべき金錢きんせん問題もんだいそのこゝろ抑制よくせいするには勘次かんじあまりにあわてゝかつおどろいてた。醫者いしや鬼怒川きぬがはえてひがしる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「こりやおそろしいもんだ」と云ひながら、与次郎は鉄のとびらをうんとしたが、錠が卸りてゐる。「一寸ちよつと御待ちなさい聞いてくる」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
弦月丸げんげつまるには、めづらしく澤山たくさん黄金わうごん眞珠しんじゆとが搭載とうさいされてます、眞珠しんじゆ黄金わうごんとがおびたゞしく海上かいじやう集合あつまる屹度きつとおそたゝりがあります。
「では、おそれながら、今、皇后のお腹においでになりますお子さまは、男のお子さまと女のお子さまと、どちらでいらっしゃりましょう」
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
かういふてんからますと、これらの土器どきおそらく專門せんもん土器製造人どきせいぞうにんが、その工場こうばつくつたのを各地かくちしたものにちがひありません。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
問はゞ左りへあやなし越前とやらめい奉行でも何のおそるゝ事やあらんと高手たかて小手こていましめの繩のよりさへ戻す氣で引れ行くこそ不敵ふてきなれ。
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
たゞ同棲後どうせいご彼女かのぢよは、けつして幸福かうふくではなかつた。おそらく彼女かのぢよもさう運命うんめいつかまうとおもつて、かれのところへたのではなかつたであらう。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
大蛇おろちは人形を見ると、それを生きた人間と思ったのでしょう、いきなり大きな鎌首かまくびをもたげて、おそろしいいきおいってきました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
恁うしてさびしい一生を送ツてかなきやならないかと思ふと、僕は自分じぶん將來せうらいといふものがおそろしいやうな氣がしてならない。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
重二郎もおそる/\入りますと、春見は刀箪笥かたなだんすから刀を出し、此方こちらの箪笥から紋付の着物を出して、着物を着替え、毛布けっと其処そこへ敷き延べて
そして、これを名残なごりの意識のひらめきが、すっと消えると共に、彼女の眼の中でも、末期まつごおそれやおびえの色が、やっと消えたのである。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
おそろしいちからがあって、世間せけんからこわがられている一人ひとり魔女まじょでしたから、誰一人たれひとりなかへはいろうというものはありませんでした。
さてはわがこはがらないのか、ちつともこはいとおもつてゐない。このには、あたしのおそろしい白栲しろたへが、御主おんあるじのそれとおなじにえるのだ。
このあわれな熊は、見るからにおそろしそうなようすをしていましたが、まだ一度も人に害を加えたことはありませんでした。
おそらく大革命の騒ぎの最中さなかでも、世界大戦の混乱と動揺どうようの中でも、食事の時だけはこういう態度を持ち続けたであろう。
異国食餌抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
おそろしさでからだが、がたがたふるえてきた。大あわてで仕事しごとをすませ、道具どうぐを片づけると、あたふたと部屋へやをでていった。
こゝれられてゐるよりも貴方あなたつて奈何どうでせうか? わたくしこゝよりわるところいとおもひます。うならばなに貴方あなた那樣そんなおそれなさるのか?
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
しも太古たいこにおいて國民こくみんが、地震ぢしんをそれほどにおそれたとすれば、當然たうぜん地震ぢしんくわんする傳説でんせつ太古たいこから發生はつせいしてゐるはずであるが、それはとん見當みあたらぬ。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
「それはこうだ。そのにわとりというやつはトッテクーと鳴くのだ。取って食うと鳴いたら最後さいご、どんなものでも取って食ってしまうのだ。おそろしい奴だ。」
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
そのほかには事業じぎょう成功せいこう祈願きがん災難さいなんけの祈願等きがんとういろいろございます。これはいずれの神社じんじゃでもおそらく同様どうようかとぞんじます。
文字の精は、また、彼の脊骨せぼねをもむしばみ、彼は、へそに顎のくっつきそうな傴僂せむしである。しかし、彼は、おそらく自分が傴僂であることを知らないであろう。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そしてかるおどりあがる心をせいしながら、その城壁の頂きにおそる恐る檸檬を据ゑつけた。そしてそれは上出來だつた。
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
そして気味わるく物凄ものすごい顔をした、雲助のような男たちにおびやかされたり、黒塚くろづか一軒家いっけんやのような家にとまって、白髪しらがおそろしい老婆ろうばにらまれたりした。
それほどおそろしいいきおいでかあさんからいてったしおが——十五ねんのちになって——あのかあさんと生命せいめいりかえっこをしたような人形娘にんぎょうむすめしてた。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
... しんひそか(九九)留心りうしんきをおそる」と。武矦ぶこうすなははん、「奈何いかんせん」と。きみつて武矦ぶこうつてへ、「こころみに(一〇〇)くに公主こうしゆもつてせよ。 ...
あなたと語り合うことは、おそろしく、眼を見交みかわすことが、楽しく、もくして身近くあるよりも、ただ訳もなく一緒いっしょに遊んでいるほうが、うれしかったのです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
おそらくくちから出任でまかせに、たいして苦勞くろうなしにつくつたとおもはれますが、それがみな下品げひんでなく、あっさりとほがらかにあかるい氣持きもちでげられてゐます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
「物事は当ってくだけろさ。俺達だけじゃないよ、こんな生活は山のようにあるんだからおそれる事はないだろう」
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
うつくしうて、かしこうて、わしおもじにさするほど賢過かしこすぎた美人びじんゆゑ、おそらくは冥利みゃうりき、よもや天國てんごくへはのぼれまい。
おそらく一生涯いっしょうがいの落ちつく先をちらとでも見たいのだ、ばかばかしい話だが、そんなふうに言うよりほかはない。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
教会内けふくわいない偽善者ぎぜんしや潜伏せんぷくし居るを知りながらその破壊はくわいおそれて之を排除はいぢよし得ざるものなり、教会けうくわい独立どくりつとなへながら世の賛同さんどうを得ざるが故に躊躇ちうちよ遁逃とんとうするものなり
時事雑評二三 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
何よりおそろしいのは、両派の巨頭連きょとうれんが、自分たちの勢力を張るために、青年将校の意をむかえることに汲々きゅうきゅうとして、全軍に下剋上げこくじょうの風を作ってしまったことだ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「いや、つとも。」彼は反對に私が思ひ出を悉く尊重して呉れたと云つた。だが本當に彼は私がさほど氣にするにも當らぬことを氣にするのをおそれてゐた。