むか)” の例文
吉坊よしぼうは、両手りょうてあたまうえにのせて、きよちゃんがあちらへゆけば、そのほう見送みおくり、こちらへくればまたはなさずに、むかえていました。
父親と自転車 (新字新仮名) / 小川未明(著)
卯平うへい久振ひさしぶり故郷こきやうとしむかへた。彼等かれらいへ門松かどまつたゞみじかまつえだたけえだとをちひさなくひしばけて垣根かきね入口いりくちてたのみである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
写真班しやしんはん英雄えいゆうは、すなはちこの三岐みつまたで一自動車じどうしや飛下とびおりて、林間りんかんてふ逍遥せうえうする博士はかせむかふるために、せて後戻あともどりをしたところである。——
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さて春をむかへて寒気次第にやはらぎ、その年の暖気だんきにつれて雪も降止ふりやみたる二月のころ水気すゐき地気ちきよりも寒暖かんだんる事はやきものゆゑ
いまさらおまえさんとこの太夫たゆうが、金鋲きんびょうった駕籠かごむかえにようが、毛筋けすじぽんうごかすようなおんなじゃねえから安心あんしんしておいでなせえ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
教場へ出ると生徒は拍手をもってむかえた。先生万歳ばんざいと云うものが二三人あった。景気がいいんだか、馬鹿にされてるんだか分からない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
垢離場こりば板敷いたじきにワラの円座えんざをしいて、数日つつしんでいた人々は、いちやくあたたかい部屋へやとうやうやしいもてなしにむかえられてきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしこゝろむかへなければならなかつた……それはちからよわふゆだからだらうか? いや! どうして彼女かのぢよちからあなどこと出來できよう。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
あらためてこゝふ。意味いみおいての大怪窟だいくわいくつが、學術がくじゆつひかり如何どうらされるであらうか。ふか興味きようみもつ此大發掘このだいはつくつむかへざるをない。
赤心まごゝろばかりはびとにまれおとることかは、御心おこゝろやすく思召おぼしめせよにもすぐれし聟君むこぎみむかまゐらせて花々はな/″\しきおんにもいまなりたまはん
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
この八月はちがつ十五日じゆうごにちにはてんからむかへのものるとまをしてをりますが、そのときには人數にんずをおつかはしになつて、つきみやこ人々ひと/″\つかまへてくださいませ
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
軍艦ぐんかん」の甲板かんぱんでは、後部艦橋こうぶかんけうのほとりより軍艦旗ぐんかんきひるがへ船尾せんびいたるまで、おほくの乘組のりくみは、れつたゞして、わが端艇たんてい歸艦きかんむかへてる。
ところで、その陽虎様がこの間から孔丘を用いようと何度もむかえを出されたのに、何と、孔丘の方からそれをけているというじゃないか。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
誰人だれむかえにてくれるものはないのかしら……。』わたくしはまるで真暗闇まっくらやみ底無そこなしの井戸いど内部なかへでもおとされたようにかんずるのでした。
しかし、いまからもう病家びやうかまはりでもあるまいし、自宅じたく方々はう/″\から、のつくやうにむかへの使つかひたことを想像さうざうして、こしをもぢ/\さしてゐた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「むずかしいもんだね。今度でもう十回目だが、私自身でも、いざ新しく塾生をむかえるとなると、やはりちょっと悲壮ひそうな気持ちになるよ。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
桑港フリスコの日当りの好いおかの下に、ぼく達をむかえて熱狂ねっきょうする邦人ほうじんの一群があり、その中に、一人ぽつねんと、たたずんでいる男がいた。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
さて又同く十月二十七日の暮方くれがた名主用右衞門方へ五六人の侍士來りしゆゑ用右衞門きもひやして出むかひける所さきに立し者此御このお侍士を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
だからみんなは、今日この道を新らしい女先生が歩いてくるとばかり思っていたのに、それをむかえるまえに小林先生にあってしまったのである。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
爺やは目をさまして、わたしを見るなり、母がまたぞろわたしに腹を立てて、またもむかえに人を出そうとしたが、父が止めたのだ、と報告した。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
それとも、おばさんをなつかしがって、むかえにきてくれたのでしょうか。おばさんのほうでもハトの姿すがたを見て、なつかしそうに話しかけました。
わたし去年きよねんふゆつまむかへたばかりで、一たい双方さうはうとも内気うちきはうだから、こゝろそこから打釈うちとけるとほどれてはゐない。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
友は大喜びでわたしむかえてくれた。その晩は何年ぶりかで一しょに酒をみかわしながら、私はくわしくようすを聞いた。
幾月いくつきたないで、正月をその場末のカフェーでむかえると、また、私は三度目の花嫁はなよめとなっていまの与一と連れ添い
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
シェルブールの停車場には、父を預けておいた兵器庫の役人のフロベルヴァルが、十二三歳になる娘のシャルロットを連れて少年をむかいに出ていた。
こうして、ふたりは、その小さなカタツムリの娘をむかえにいきました。娘は、ここまで来るのに八日もかかりましたが、でも、それでよかったのです。
威王ゐわう莊周さうしうけんなるをき、使つかひをして(三一)へいあつうしてこれむかへしめ、(三二)ゆるすにしやうすをもつてす。莊周さうしうわらつて使者ししやつていは
民さんのお内儀さんが来てたすけてくれといい、彼は海岸にある大森警察署に行って、請人うけにん印形いんぎょうしてこの男が鉄柵てっさくの中から出てくるのをむかえた。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
彼はその故国の友人に手紙を書き、日本での生活実況じっきょうを次のように詳述しょうじゅつしている。いわく、学校の講義が終ると、車夫が人力車を持ってむかえに来ている。
あの「御料人様ごりょうにんさん」と云う言葉にふさわしい上方風かみがたふうよめでもむかえて、彼もいよいよ島の内の旦那衆だんなしゅうになり切ることだろうと、想像していた次第であった。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その音がつまり、私の祖父じじいの耳に聞えたんです。それから、その女郎屋の主人は、祖父じじいところむかいに来たんです。
夜釣の怪 (新字新仮名) / 池田輝方(著)
でもそのときには、もう奥がたも気が遠くなって、死んだようになっていましたから、とても立ちあがって、兄弟きょうだいたちをむかえる気力きりょくはありませんでした。
青ひげ (新字新仮名) / シャルル・ペロー(著)
へえゝ綺麗きれいなもんですなア、私共わたしども家内かないは、時々とき/″\わたし貴方あなたところへお療治れうぢまゐつてるとむかひにた事もありますが、わたし女房にようばうは今のやうなをんなですか。
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
祭司次長がすぐ進んで握手あくしゅしました。みんなは歓呼の声をあげ熱心に拍手してこの新らしい信者をむかえたのです。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
隣村となりむら妻籠つまごには、お前達まへたち祖母おばあさんのうまれたおうちがありました。妻籠つまご祖父おぢいさんといふ人もまだ達者たつしや時分じぶんで、とうさんたちをよろこんでむかへてれました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あとへ深川の牛乳屋ぎゅうにゅうやそれがしがくる、子宮脱しきゅうだつができたからというので車でむかえにきたのである。家のありさまには気がつかず、さあさあといそぎたてるのである。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
三人兄弟なのだが、その真ん中の子が村の小学校からまだ帰らぬので峠の下までむかえに行くのだと言っていた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
それに、生徒監せいとかんはとても愛想あいそよく母親ははおやむかえて、さんざんおわびをいったのだから、その上どう仕様しようがあろう?
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
以上いじよう樹木じゆもくはるしてから、しまひにふゆむかへ、ふたゝはるをまつまでのおはなしを、ひととほりすましました。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
帝都の暗黒界からは鬼神きしんのように恐れられている警視庁の大江山捜査課長は、その朝ひさかたぶりのこころよ目覚めざめをむかえた。それは昨夜ゆうべの静かな雨のせいだった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
成程なるほど一日いちにちの苦とうつかれていへかへツて來る、其處そこには笑顏ゑがほむかへる妻子さいしがある、終日しうじつ辛勞しんらう一杯いつぱいさけために、陶然たうぜんとしてツて、すべて人生の痛苦つうくわすれて了ふ。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
台州たいしうから天台縣てんだいけんまでは六十はんほどである。日本にほんの六はんほどである。ゆる/\輿かせてたので、けんから役人やくにんむかへにたのにつたとき、もうひるぎてゐた。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
こういうたのしい、平和へいわ月日つきひおくむかえするうちに、今年ことし子供こどもがもう七つになりました。それはやはり野面のづらにはぎやすすきのみだれたあきなかばのことでした。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
カピューレット長者ちゃうじゃさきに、ヂュリエットおよ同族どうぞくもの多勢おほぜいぱうよりで、他方たはうよりきた賓客ひんきゃく男女なんにょおよびロミオ、マーキューシオー假裝者かさうしゃの一ぐんむかふる。
「ばかなことをいうでねえ。」と、おとっつあんは林太郎のからだをゆすぶり、「おとっつあんがむかいにきただ。もう、だいじょうぶだからしっかりするんだぞ。」
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
御飯ごはんたべたらむかひに来てよ。」とつたがあとで、「をばさんも一所いつしよにいらツしやるでせうね。」
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
復一が六年前地方の水産試験所を去って、この金魚屋の跡取あととりとして再び育ての親達にむかえられて来たときも、まだこの谷窪に晩春の花々が咲き残っていたころだった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
男は、思いがけない事だと思ったが、とにかくはいると、女がむかえて(その戸を閉めてから、お上り下さい)と、云ったので上った。上ると、みすの中に引き入れた。
女強盗 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そこで王子おうじは、ラプンツェルをれて、くにかえりましたが、くに人々ひとびとは、大変たいへん歓喜よろこびで、この二人ふたりむかえました。その二人ふたりは、ながあいだむつまじく、幸福こうふくに、くらしました。
勝伯かつはくが徳川方の大将となり官軍をむかえ戦いたりとせよ、その結果けっかはいかなるべきぞ。人をころざいさんずるがごときは眼前のわざわいぎず。もしそれしんの禍は外国の干渉かんしょうにあり。