くれ)” の例文
そのとしも段々せまって、とう/\慶応三年のくれになって、世の中が物騒ぶっそうになって来たから、生徒も自然にその影響をこうむらなければならぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
索搜たづね密々こつそり呼出よびだし千太郎に小夜衣よりの言傳ことづてくはしく語りおいらんは明てもくれても若旦那の事のみ云れて此頃はないてばつかり居らるゝを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
日永ひながの頃ゆえ、まだくれかかるまでもないが、やがて五時も過ぎた。場所は院線電車の万世橋まんせいばしの停車じょうの、あの高い待合所であった。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここおいせいぐんものをして、(五三)萬弩ばんどみちはさんでふくせしめ、(五四)していはく、『くれがるをともはつせよ』
それがまた、この九年間、少しも時刻をたがえずに、くれ六ツにいてあけ六ツに消えるので、里人たちには時刻を知る便宜にもなっていた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど何等の響きも聞えない。左に小道をるれば、例の墓所はかしょに出るので、誰れ見るともなく、静かな秋はいつとなくくれて行くのである。
やがて、男は、日のくれに帰ると云って、娘一人を留守居るすいに、あわただしくどこかへ出て参りました。そのあとの淋しさは、また一倍でございます。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
さてくれなんとするにいたれば、みな水面すゐめんにおちいりてながれくだる、そのさま白布しらぬのをながすがごとし。其蝶のかたち燈蛾ひとりむしほどにて白蝶しろきてふ也。
不幸ふかうにも、この心配しんぱいくれ二十日過はつかすぎになつて、突然とつぜん事實じじつになりかけたので、宗助そうすけ豫期よき恐怖きようふいたやうに、いたく狼狽らうばいした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それに雨は降るし日はくれるし、もうお客も有りますまいから心配しないで留守をして居て下さい、少しの間に往って来ますから
葬式にやとわれた帰りでもないらしい。と云って、これから傭われて行くにしては、時間が変だ。長い春の日が、もうくれるに間もないのだから。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
媒妁人ばいしやくにんたゞさけんでさわいだだけであつた。おしなもなくをんなんだ。それがおつぎであつた。季節きせつくれつまつたいそがしいときであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「天のはら富士の柴山木のくれの」までは「くれ」(夕ぐれ)に続く序詞で、空にそびえている富士山の森林のうす暗い写生から来ているのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
私はくさの中へこしを降ろすと煙草たばこを取り出した。つまも私のよこすわつて落ちついたらしく、くれて行く空のいろながめてゐた。——
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
くれのお席書せきがきの方が、試験よりよっぽど活気があった。十二月にはいると西にしうち一枚を四つに折ったお手本が渡る。
日のくれに平潟の宿に帰った。湯はぬるく、便所はむさく、魚はあたらしいが料理がまずくてなまぐさく、水を飲もうとすれば潟臭かたくさく、加之しかもおびただしい真黒まっくろにたかる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
我等はゆふべの間、まばゆきくれの光にむかひて目の及ぶかぎり遠く前途ゆくてを見つゝ歩みゐたるに 一三九—一四一
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
どこに往つて見ても、防備はまだ目も鼻も開いてゐない。土井はくれ六つどきに改めて巡見することにした。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
よく廿にぢう三年の七月になると、妄執まうしうれずして、又々また/\江戸紫えどむらさきふのを出した、これが九号の難関なんくわんへたかと思へば、あはれむべし、としくれ十二号にして、また没落ぼつらく
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
家敷町で、この近処に何もそう、せわしい商売をして居る家もないのでくれらしい気持もしない。
午後 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
如何いかきゝ如何いかばかりあんじやしけん、どくのことしてけるよ、いで今日けふくれなんとするを、れいあしおとするころなり、日頃ひごろくもりしむねかゞみすゞしき物語ものがたりはらさばやとばかり
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いわばすッてんてんののみのままでうじくのも面白おもしろかろうと、おとこやもめのあかだらけのからだはこんだのが、去年きょねんくれつまって、引摺ひきずりもちむこ鉢巻ぱちまきあるいていた
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「馬鹿だなア、松が取れたばかりぢやないか。そんなのは年のくれに出て來る臺詞せりふだよ」
彼がひそかに一挺いっちょうの三味線を手に入れようとして主家から給される時々の手あてや使い先でもら祝儀しゅうぎなどを貯金し出したのは十四歳のくれであって翌年の夏ようよう粗末そまつな稽古三味線を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
一昨年のくれごろであったが、その新たな構想がまだまとまらないうちに、たまたま、宗教雑誌「大法輪」の編集者がたずねて来て、同誌上に第五部を連載れんさいしたいという希望をのべた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
かくてはその災害さいがいを待つにおなじくして本意ほんいに非ざれば、今より毎年寸志すんしまでの菲品ひひんていすべしとて、その後はぼんくれ衣物いぶつ金幣きんへい、或は予が特に嗜好しこうするところの数種をえておくられたり。
秋の日の暮れ切つたくれはん(午後七時)頃である。小僧はどこへか使つかいに出た。
赤膏薬 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
としくれになると鴨や雁を籠詰めにして進物にするのをもらった人がつるしておけばようございますがそのままとこの温い処へ飾っておいて二、三日過ぎて外の家へ転送する事があります。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
みちはたゞやまばかり、さかあり、たにあり、溪流けいりうあり、ふちあり、たきあり、村落そんらくあり、兒童じどうあり、はやしあり、もりあり、寄宿舍きしゆくしやもん朝早あさはやくれうちくまでのあひだ自分じぶん此等これらかたちいろひかり
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
我が国は当時の地理上の知識において、知りうる限りの世界の最東にあるが故に、所謂日出処ひいづるところ、すなわち「あさ」の国であり、これに対して西方なる支那は日のる国、すなわち「くれ」の国である。
国号の由来 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
大丈夫だいじやうぶだといふところで、望生ぼうせいに一たい如何どうしたのかとうてると、草刈くさかりながに、子供こどもて、去年きよねんくれ此處こゝ大穴おほあなけたのは、此人達このひとたちだとげたために、いくらお前達まへたちねこかぶつても駄目だめだと
あたかもとしくれにて、春のいそぎの門松かどまつを、まだ片方かたほうはえ立てぬうちにはや元日になりたればとて、今もこの家々にては吉例として門松の片方を地に伏せたるままにて、標縄しめなわを引き渡すとのことなり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
やがてグリフォンが海龜うみがめふには、『もつときをサ!はやくしないとくれるよ!』うながされてやうやかれは、『まつたく、わたしどもはうみなか學校がくかうつたのです、お前方まへがたしんじないかもれないけど—』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
あけてもくれてもひじさすきもを焦がし、うえては敵の肉にくらい、渇しては敵の血を飲まんとするまで修羅しゅらちまた阿修羅あしゅらとなって働けば、功名トつあらわれ二ツあらわれて総督の御覚おんおぼえめでたく追々おいおいの出世
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
わきてこのくれこそそでは露けけれ物思ふ秋はあまた経ぬれど
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
 をまつ ときまつ くれをまあつ……
桜さく島:春のかはたれ (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
双六すごろくの目をのぞくまでくれかゝり 翁
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
菜の花やくじらも寄らず海くれ
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
いたち鳴く庭の小雨こあめくれの春
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
おひさまくれれや
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
打越て堅石部かたいしべや草津宿草枯時くさがれどきも今日とくれ明日あしたの空も定め無き老の身ならねど坂の下五十三次半ば迄ふところの兒に添乳そへぢを貰ひ當なき人の乳を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
るにはるがあづけてある。いきほへいわかたねばらない。くれから人質ひとじちはひつてゐる外套ぐわいたう羽織はおりすくひだすのに、もなく八九枚はつくまい討取うちとられた。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
くるくれがたのこと、ゆきがちらちらとかぜにまじってっていました。こまどりは、ひとりいいこえで、この木立こだちまっていていました。
美しく生まれたばかりに (新字新仮名) / 小川未明(著)
長「おめえさんのとこあんまり御無沙汰になって敷居が鴨居でかれねえから、いず春永はるながに往きます、くれの内は少々へまになってゝ往かれねえから何れ…」
文七元結 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「まあ、そんな見当けんとうだな。どうしてもまた、五十両ばかりることができちゃって、くれじゃああるし、弱ってるんだ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勘次かんじとおしな相思さうし間柄あひだがらであつた。勘次かんじ東隣ひがしどなり主人しゆじんやとはれたのは十七のふゆで十九のくれにおしな婿むこつてからも依然いぜんとして主人しゆじんもとつとめてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
しからばこゝならんかしこならんなど家僕かぼくとはかりて尋求たづねもとめしかどさら音問おとづれをきかず、日もはやくれなんとすればむなしく家にかへりしか/\のよし母にかたりければ
そして、無情の時は、容赦ようしゃもなくたって行った。一時間、二時間、だが、まだやっと日がくれた時分だ。石炭が焚かれるのは、夜更けてからというではないか。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
御米およね臺所だいどころで、今年ことし去年きよねんやう水道すゐだうせんこほつてれなければたすかるがと、くれからはるけての取越苦勞とりこしぐらうをした。よるになると夫婦ふうふとも炬燵こたつにばかりしたしんだ。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ボロ市過ぎて、冬至もやがてあとになり、行く/\年もくれになる。へびは穴に入り人は家にこもって、霜枯しもがれの武蔵野は、静かなひるにはさながら白日まひるの夢にじょうに入る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)