くち)” の例文
友染いうぜんきれに、白羽二重しろはぶたへうらをかさねて、むらさきひもくちかゞつた、衣絵きぬゑさんが手縫てぬい服紗袋ふくさぶくろつゝんで、そのおくつた、しろかゞや小鍋こなべである。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
蜘蛛はただどんな商人が、新聞紙に広告してゐないかをよく見定めておいて、その店のくちに網を張らうとしてゐたに過ぎません。
しなには與吉よきち惡戯いたづらをしたり、おつぎがいたいといつてゆびくはへてせれば與吉よきち自分じぶんくちあてるのがえるやうである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ひげむしやの鳥居とりゐさまがくちから、ふた初手しよてから可愛かわいさがとおそるやうな御詞おことばをうかゞふのも、れい澤木さわぎさまが落人おちうど梅川うめがはあそばして
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
今一人の柄本家の被官ひかん天草平九郎というものは、主の退くちを守って、半弓をもって目にかかる敵を射ていたが、その場で討死した。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
イヽエくちにはいわぬけれど本統だよ、来てお泊りな、エ、お前今夜もあすの晩も大丈夫、イエ月の中に二三度は家を開るよ横浜へ行てサ
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
笠森かさもりのおせんだと、だれいうとなくくちからみみつたわって白壁町しろかべちょうまでくうちにゃァ、この駕籠かごむねぱなにゃ、人垣ひとがき出来できやすぜ。のうたけ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
こうして、しごとをするあいだは、たがいにくちをきかなかったけれど、自分じぶんをなぐさめるために、無心むしんうたをうたうものもありました。
はたらく二少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
多分たぶん被害者ひがいしゃは、くるしみもがき、金魚鉢きんぎょばちのところまでいよつてきて、くちをゆすぐか、または、はちなかみずもうとしたのだろう。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
砧村きぬたむら途中とちう磨石斧ませきふひろひ、それから小山こやまあがくちで、破片はへんひろつたが、此所こゝまでに五ちかあるいたので、すこしくまゐつてた。
くちもうしたらその時分じぶんわたくしは、えかかった青松葉あおまつばが、プスプスとしろけむりたてくすぶっているような塩梅あんばいだったのでございます。
これなどは、たかやまうへつめてうたつてゐるので、くちから出放題でほうだいつくつたものでは、けっして、かうはうまくゆきません。つぎのは
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
「さあ。事情次第だが。実はゆつくり君に相談して見様と思つてゐたんだが。うだらう、きみにいさんの会社の方にくちはあるまいか」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
『さあ、ひとくちに出してつて御覽なさいな。』とお吉に言はれると、二人共すぐ顏を染めては、『さあ』『さあ』と互ひに讓り合ふ。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
それから、しろきつね姿すがたをあらはした置物おきものいてありました。その白狐しろぎつねはあたりまへのきつねでなくて、寶珠はうじゆたまくちにくはへてました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あれよ/\とみてゐると水煙みづけむりきゆうおとろくちぢて噴出ふんしゆつ一時いちじまつてしまつたが、わづか五六秒位ごろくびようくらゐ經過けいかしたのちふたゝはじめた。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
「オ、とっツアん、いつものくちを、五ごうばかりもらおうじゃあねえか。くちに待っていられてみると、どうも手ぶらじゃアけえれねえや」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
アンドレイ、エヒミチはせつなる同情どうじやうことばと、其上そのうへなみだをさへほゝらしてゐる郵便局長いうびんきよくちやうかほとをて、ひど感動かんどうしてしづかくちひらいた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それはまるつかまへほうびて四角しかくになつたかたちで、ちょっとむかしくちひろつぼせて、よこからたようなかたちをしてゐるものであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
が、太田平八を始め、馬卒たちの告げることは、余りにうわずっていて、敵の兵力、かかくち、その主将など、何ひとつ、要領を得ない。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
背負せおひ歩行あるく辨慶がのそ/\と出きたりモシ/\文さん今日は雨降あめふりで御互に骨休ほねやすみ久しぶりなれば一くちのむべし夫に今さんまの生々なま/\としたるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
べて神聖しんせいものはてよろこびる。われらがしゆきみはこのあかいばらうへに、このわがくちに、わがまづしい言葉ことばにも宿やどつていらせられる。
玄竹げんちく其方そちつたのは、いつが初對面しよたいめんだツたかなう。』と、但馬守たじまのかみからさかづき玄竹げんちくまへして、銚子てうしくちけながらつた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
……このへんはじょくちで、まだまだ後があるンですが、そういうふうに息をひそめていて二年目ぐらいずつにどえらい大きな仕事をする。
顎十郎捕物帳:13 遠島船 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
其間そのあひだかほあはせることがあつても、くちでは其事そのことんにもはない。そしてうちかへつてから葉書はがきす。チヨイト面白おもしろいものだよ。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
普通の目かくしでは、外から見て疑われる心配があるので、繃帯を使って怪我人と見せかけるのであろう。実に万遺漏いろうなきくちである。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
良久しばらくして芋蟲いもむしくちから煙管きせるはなし、二つ三つあくびをして身振みぶるひしたかとおもふと、やがきのこしたくさなかへ這ひみました、たゞのこして
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
あらたまつてのはなしとは何事なにごとだらうと、わたくしにわかにかたちあらためると、大佐たいさ吸殘すひのこりの葉卷はまきをば、まど彼方かなたげやりて、しづかにくちひらいた。
「人類」をくちにすることは近ごろの流行である。しかし真実に「人類」を感じているものが、我々の前にどれほどあるだろう。
兒玉こだま先程來さきほどらいおほくちひらかず、微笑びせうして人々ひと/″\氣焔きえんきいたが、いま突然とつぜん出身しゆつしん學校がくかうはれたので、一寸ちよつとくちひらなかつたのである。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
彼は私と同じく東京一中の出身であるが、生れは多摩川の向う川岸のみぞくちあたりであるから、東京人とはいえないのである。
文壇昔ばなし (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
したが、これも時代ときよとあきらめるがいぞよ。これさ、うのたかのつて世間せけんくちにか〻るではないか、そんなこははせぬものぢや
曲者はいづれ、守隨の家に仇をするため、たつくち評定所へ秤座はかりざ御朱印紛失の旨を訴へ出るだらう。——其處が此方のつけ目だ。
へゝゝ不断ふだんやりつけてるもんですから……(一くちんで猪口ちよこを下に置き)有難ありがたぞんじます、どうも……。小「さめないうちにおひよ、おわんを。 ...
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
諭吉ゆきちは、そのまえのとしの六がつにアメリカからかえってきましたが、そのかえりのふねなかで、幕府ばくふのわるくちをいったというので
「けれども、」と私はくちはさんで、「けれども其の一種の性格が僕等の特長とくてうなんぢやないか。此の性格がうしなわれた時は、すなわち僕はほろびたのだ。 ...
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
そればかりか、折角せつかくのごちさう はとみれば、そのあひだに、これはまんまと、あなげこんでしまつてゐるのです。そしてあなくちからあたまをだして
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
明ら樣に云つては夫が一くちに迷信だとけなして生米なまごめなんか口に入れないだらうからと、おたねは御飯ごはんの中へそつと落して食べさせることにした。
母と子 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
此故このゆゑ当世たうせい文学者ぶんがくしやくち俗物ぞくぶつ斥罵せきばする事すこぶはなはだしけれど、人気じんきまへ枉屈わうくつして其奴隷どれいとなるはすこしもめづらしからず。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
腰を屈めて裏口から、くちらす米の汁をでも貰はなければならない。隔てが出来て困窮するのは彼女ばかり、彼女ばかり。彼女の一家ばかり。
夜烏 (新字旧仮名) / 平出修(著)
日本のくちはどうも分らない! 大きな顔をしてひとの国の交戦地帯に軍隊を駐屯させて置いたら、不祥事が起るにきまつてゐるではないか。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
みぎくち合計がふけいするときは四億圓おくゑん在外資金ざいぐわいしきん保有ほいうする次第しだいであつて、金解禁きんかいきん準備じゆんびとしては充分じうぶんであるとかんがへるのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
程遠いところに住む人さえ知っているくらいだから、もはや、一般の常識化して、世間のくちに上っているに相違ない。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
新子が、黙って聴いているので美和子もさすがに、気がさしたのか、ちょっとの間くちとざしていたが、やがてしんみりと
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
よひくちにははしうへ与太よた喧嘩けんくわがあるし、それから私服しふくがうるさく徘徊うろついてゝね、とう/\松屋まつやよこで三にんげられたつてふはなしなんだよ。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
二人ふたりいろとりどりの金平糖こんぺいとうを、天井てんじょうかってげあげてはそれをくちでとめようとしましたが、うまくくちにはいるときもあれば、はなにあたったり
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
いまでも世界中せかいちうからすくちなかには、そのとき火傷やけどのあとが真赤まつかのこつてゐるといふ。ひときらはれながらも、あのあはれなペンペのためにいてゐるのだ。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
あなたは、急におくちもお上手になって、私を一そう大事にして下さいましたが、私は自身が何だか飼い猫のように思われて、いつも困って居りました。
きりぎりす (新字新仮名) / 太宰治(著)
「あゝ、はらがへつた!」MMえんじをはるとかたへの卓子たくしうえから、ビスケツトかなにかをつまんでくちほうりこんだ。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
くちは きたないから おとうみょうを ふきけしては いけないと おっしゃいましたが、その きたない くちで、とうとい おきょうを よんでは
一休さん (新字新仮名) / 五十公野清一(著)