なん)” の例文
下にはその顔が鏡にうつしたように、くっきりと水にうつッていました。それはそれはなんとも言いようのない、うつくしい女でした。
湖水の女 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
然れどもつひに交合は必然に産児を伴ふ以上、男子には冒険でもなんでもなけれど、女人には常に生死をする冒険たるをまぬかれざるべし。
娼婦美と冒険 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
わたし其時分そのじぶんなんにもらないでたけれども、母様おつかさん二人ふたりぐらしは、この橋銭はしせんつてつたので、一人前ひとりまへ幾于宛いくらかづゝつてわたしました。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
今日きょうは、かぜがおもしろくないと、つい、自分じぶんのことのようにかんがえるのです。仕事しごとをするようになって、もうなんねんかわへいきません。
窓の内と外 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかしあなたさまがわざわざおいで下さつたのですから、なんとかして還りたいと思います。黄泉よみの國の神樣に相談をして參りましよう。
おくさんのこゑにはもうなんとなくりがなかつた。そして、そのままひざに視線しせんおとすと、おもひ出したやうにまたはりうごかしはじめた。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
「おまえきつねであろうとなんであろうと、子供こどものためにも、せめてこの子が十になるまででも、もとのようにいっしょにいてくれないか。」
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
這麼老朽こんならうきうからだんでも時分じぶんだ、とさうおもふと、たちままたなんやらこゝろそここゑがする、氣遣きづかふな、こといとつてるやうな。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
すると良人おっとわたくし意見いけんちがいまして、それはあま面白おもしろくない、是非ぜひ若月わかつき』にせよとって、なんもうしてもれないのです。
三が日の晴着はれぎすそ踏み開きてせ来たりし小間使いが、「御用?」と手をつかえて、「なんをうろうろしとっか、はよ玄関に行きなさい」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「いや、むほどのことでもなかろうが、なんわかおんな急病きゅうびょうでの。ちっとばかり、あさから世間せけんくらくなったようながするのさ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
貴方あんたにはなんでアノ業平橋で侍に切られる処を助かった大恩があるから、お礼をしていと思っても受けないから、なんぞと思っていた処
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それで、百姓村でもずいぶんふるい歴史れきしをもった村があり、なんだいつづいたかわからないような百姓家が、方々に残っているわけです。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
かぞどしの二つにしかならないおとこであるが、あのきかない光子みつこさんにくらべたら、これはまたなんというおとなしいものだろう。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
B また俳句はいくだらう。先年せんねん電車でんしやのストライキのあつたとき、あれはなんとかつたつけな、めう俳句はいくやうなものをいてよこしたぢやないか。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
一体この社会の源はなんであるか。国の源はなんであるということについて考えてみますると、まず国民。国民の源はなんである。夫婦。
国民教育の複本位 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
うちとき齋藤さいとうむすめ嫁入よめいつては原田はらだ奧方おくがたではないか、いさむさんのやうにしていへうちおさめてさへけばなん子細しさい
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それは丁度ちやうど日本にほん國號こくがう外人ぐわいじんなんなんかうとも、吾人ごじんかならつね日本にほん日本にほんかねばならぬのとおな理窟りくつである。(完)
誤まれる姓名の逆列 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
二号にがう活字くわつじ広告くわうこく披露ひろうさるゝほかなんよくもなき気楽きらくまい、あツたら老先おひさきなが青年せいねん男女なんによ堕落だらくせしむる事はつゆおもはずして筆費ふでづひ紙費かみづひ
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
し名前をきかれたら、自作の小説中にある女の名を言おうと思ったが、巡査はなんにも云わず、外套や背広のかくしを上から押え
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
なになんでも望遠鏡ばうゑんきやうのやうにまれてはたまらない!ちよツはじめさへわかればもうめたものだ』此頃このごろではにふりかゝる種々いろ/\難事なんじ
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
と、冷やかすようにおっしゃった。己は藝術家のなんたるかを知らないのだから“Yes”とも“No”とも答える訳に行かなかった。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
自分じぶんそれ澤山たくさんだとかんがへて、器械きかいなんぞとひざあはかたならべたかのごとくに、きたいところまで同席どうせきして不意ふいりて仕舞しまだけであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
なんというよいはなだろう。しろべんがふかぶかとかさなりあい、べんのかげがべつのべんにうつって、ちょっとクリームいろえる。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
そして悪口が見つかったので、やはり顔を地面じべたうずめたまま、わらいこけながら大声おおごえでそれをいってやった。けれどなんの返事もなかった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
『おまへ亞尼アンニーとかつたねえ、なんようかね。』とわたくししづかにふた。老女らうぢよむしのやうなこゑで『賓人まれびとよ。』と暫時しばしわたくしかほながめてつたが
家じゅうしめっぽかったりなんかするところのないさっぱりした気分で、例の茶の間に坐って小説よんでいたら、青い八つ手の葉かげが
理科大學人類學教室りくわだいがくじんるゐがくけうしつには磨製石斧三百計り有れど、兩端りやうたんに刄有るものはただのみ。コロボックルは磨製石斧をなん目的もくてきに用ゐしや。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
でも大人おとなしくて、なんにも悪い事はあるんじゃありませんけれども、私の祖父じじいは、「口を利くから、怖くって怖くって、仕方がなかった。」
「ああしんど」 (新字新仮名) / 池田蕉園(著)
なんゆえ私宅教授したくけふじゆの口がありても錢取道ぜにとるみちかんがへず、下宿屋げしゆくやに、なにるとはれてかんがへることるとおどろかしたるや。
「罪と罰」の殺人罪 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
何故なにゆえにこれを排斥するかの理由わけもわからず、ただなんかなしに「筋の違ったもの」として、これから遠ざかろうとしているのです。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
はじめは俳畫はいぐわのやうだとおもつてたが、これじつでもなんでもない。細雨さいうれなんとする山間村落さんかんそんらく生活せいくわつもつとしづかなる部分ぶゝんである。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
百姓家ひゃくしょうや裏庭にわで、家鴨あひるなかうまれようとも、それが白鳥はくちょうたまごからかえ以上いじょうとりうまれつきにはなんのかかわりもないのでした。
あれと私達わたしたちとはなん關係くわんけいいやうなものの、あれも着物きもの私達わたしたちたがひ着物きものなんとなく世間せけんたいして、わたし氣耻きはづかしいやうでなりませんのよ
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
「だからヨ、一てえその十七の首はどこの誰で、また、なにやつがなんのために、十七の首をころがそうてえのか、それから聞こう」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あひだかれなんにも不足ふそくおもつてはなかつた。それを勘次かんじかへつてると性來しやうらいきでない勘次かんじたちまちに二人ふたりなびいてしまつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
なんだって、おまえへい乗越のりこえてて、盗賊ぬすびとのように、わたしのラプンツェルをってくのだ? そんなことをすれば、いことはいぞ。」
「そりゃ覚えてなくって!」と男もニッコリしたが、「なんしろまあいいとこで出逢であったよ、やっぱり八幡様のお引合せとでも言うんだろう。 ...
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
だれ戦争せんそうまうけ、だれなんうらみもない俺達おれたちころひをさせるか、だれして俺達おれたちのためにたたかひ、なに俺達おれたち解放かいほうするかを
「先生には色々御厄介をかけたものですよ。かう言つてはなんのやうですが、先生もお弟子のなかでは、一番僕を頼りになすつたやうです。」
んでゐるむねには、どんな些細ささいふるえもつたはりひゞく。そして凝視みつめれば凝視みつめほどなんといふすべてがわたししたはしくなつかしまれることであらう。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
物の音を耳には聴いたが、なんにも考えることは出来なくなったんだ。それでもその時忽然こつぜんとして、万事が会得せられたのだね。
で、其手紙そのてがみは一わたし押収おうしうすることにして、一たんつくゑ抽斗ひきだしそこれてたが、こんな反故屑ほごくづ差押さしおさへてそれなんになるか。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「決してそんなわけでは無いけれど、お酌をされると、どうしても勤氣つとめぎが出て、なんていつたらいゝかなあ、つまりもひとつ味ないんだよ。」
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
さて其外そのほかでは、なんであらうか? 性根しゃうねみだれぬ亂心らんしん……いきをもむるにがもの。……いのち砂糖漬さとうづけにするほどあまもの。さらば。
ふつうの人間にんげん持物もちものらしいのは、トランクだけだった。トランクは二個あった。そのほかの荷物にもつときたら、なんともいえずふうがわりなのだ。
立んとて此大雪に出で行きたれどもなん甲斐かひやあらん骨折損ほねをりぞん草臥くたびれ所得まうけ今に空手からてで歸りんアラ笑止せうしの事やとひとごと留守るすしてこそは居たりけり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
おまへの妹は黄昏色たそがれいろの髮を垂れて、水のほとりに愁へてゐる、亂倫らんりんまじはりを敢てするおまへたち、なんぞ願があるのかい、なかうどをして上げようか。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
わが越後のごとく年毎としごと幾丈いくぢやうの雪をなんたのしき事かあらん。雪のためちからつくざいつひやし千しんする事、しもところておもひはかるべし。
墓を去つて、笠松かさまつあひだみちを街道に出やうとしたのは、それから十分ほど経つてからのことであつた。なんだか去るに忍びないやうな気がした。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)