“頃(ころ)” の例文
ところで、どういふ譯(わけ)で、そんな子供(とも)の私が寫眞(しやしん)などはじめるやうになつたかといへば、その頃(ころ)私(わたし)は、三宅克巳氏著(ちよ)の「少(せう)年寫眞術(しやしんじゆつ)」
もうこの頃(ころ)じゃ、門附けは流行(はや)らんでな。ことしあもう止(や)めよかと思うだ。五、六年前まであ、東京へ行った連中も旅費の外(ほか)に小金を
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
その頃(ころ)良人(おっと)はまだ若(わこ)うございました。たしか二十五歳(さい)、横縦(よこたて)揃(そろ)った、筋骨(きんこつ)の逞(たくま)ましい大柄(おおがら)の男子(おとこ)で、色(いろ)は余(あま)り白(しろ)い方(ほう)ではありません。
可笑(をかしき)事可憐(あはれ)なる事可怖(おそろし)き事種々(しゆ/″\)さま/″\筆(ふで)に尽(つく)しがたし。やう/\東雲(しのゝめ)の頃(ころ)に至(いた)りて、水も落(おち)たりとて諸人(しよにん)安堵(あんど)のおもひをなしぬ。
つい、その頃(ころ)、門(もん)へ出(で)て——秋(あき)の夕暮(ゆふぐれ)である……何心(なにごころ)もなく町通(まちどほ)りを視(なが)めて立(た)つと、箒目(はゝきめ)の立(た)つた町(まち)に、ふと前後(あとさき)に人足(ひとあし)が途絶(とだ)えた。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
うつくしき顏(かほ)に似合(にあは)ぬは心(こゝろ)小學校通(せうがくかうがよ)ひに紫袱紗(むらさきふくさ)對(つゐ)にせし頃(ころ)年上(としうへ)の生徒(せいと)に喧嘩(いさかひ)まけて無念(むねん)の拳(こぶし)を我(わ)れ握(にぎ)る時(とき)同(おな)じやうに涙(なみだ)を目(め)に持(も)ちて
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
この頃(ころ)の人(ひと)はすべて、あまり自分(じぶん)の生活(せいかつ)が歌(うた)に現(あらは)れるといふことを嫌(きら)つたので、さういふふうなのを無風流(ぶふうりゆう)だとしりぞけてゐました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
その時分はまだ道路の改正ができない頃(ころ)なので、坂の勾配(こうばい)が今よりもずっと急でした。道幅も狭くて、ああ真直(まっすぐ)ではなかったのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
海戰(かいせん)は午前(ごぜん)二時(じ)三十分(ぷん)に始(はじま)つて、東雲(しのゝめ)の頃(ころ)まで終(をは)らなかつた。此方(こなた)は忠勇(ちうゆう)義烈(ぎれつ)の日本軍艦(につぽんぐんかん)なり、敵(てき)は世界(せかい)に隱(かく)れなき印度洋(インドやう)の大海賊(だいかいぞく)。
其(それ)が少(すこ)し過(す)ぎて、ポカ/\する風(かぜ)が、髯面(ひげつら)を吹(ふ)く頃(ころ)となると、もう気(き)が重(おも)く、頭(あたま)がボーツとして、直(ひた)と気焔(きえん)が挙(あが)らなくなつて了(しま)ふ。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
波斯軍がアラビヤを過ぎ、いよいよ埃及の地に入った頃(ころ)から、このパリスカスの様子の異常さが朋輩(ほうばい)や部下の注意を惹(ひ)きはじめた。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
頃(ころ)しも一月の初(はじめ)つ方(かた)、春とはいへど名のみにて、昨日(きのう)からの大雪に、野も山も岩も木も、冷(つめた)き綿(わた)に包まれて、寒風坐(そぞ)ろに堪えがたきに。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
丁度蜘蛛が林の入口(いりくち)の楢(なら)の木に、二銭銅貨の位の網をかけた頃(ころ)、銀色のなめくじの立派なおうちへかたつむりがやって参りました。
蜘蛛となめくじと狸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
扱ひにくいその頃(ころ)の小銃で、一分間七発もうつて、それがいづれも黒点をうちぬくのだから、神技ともいふべき素晴しい腕前であつた。
風変りな決闘 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
その布団の持ち主の住んでいた家の家賃(やちん)は、その頃(ころ)ただの六十銭(せん)でした。それだけでもどんなにみすぼらしい家かはおわかりでしょう。
神様の布団 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
一二月(いちにがつ)の頃(ころ)に枯(か)れ木(き)のような小枝(こえだ)に、黄色(きいろ)い花(はな)を着(つ)けたり、また蝋梅(ろうばい)のようにもっと早(はや)く雪(ゆき)の中(なか)で香(かを)りたかく咲(さ)き誇(ほこ)るものもあります。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
それで其(そ)の一町(ちやう)四方(はう)は晝間(ひるま)も戸(と)を締(し)めたといふほど、ひどい臭氣(しうき)が、其(そ)の頃(ころ)の腐(くさ)つた人間(にんげん)の心(こゝろ)のやうに、風(かぜ)に吹(ふ)かれて飛(と)び散(ち)つた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
勘次(かんじ)は利根川(とねがは)の開鑿工事(かいさくこうじ)へ行(い)つて居(ゐ)た。秋(あき)の頃(ころ)から土方(どかた)が勸誘(くわんいう)に來(き)て大分(だいぶ)甘(うま)い噺(はなし)をされたので此(こ)の近村(きんそん)からも五六人(にん)募集(ぼしふ)に應(おう)じた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
爺(ぢい)やは御飯(ごはん)の時(とき)でも、なんでも、草鞋(わらぢ)ばきの土足(どそく)のまゝで爐(ろ)の片隅(かたすみ)に足(あし)を投(な)げ入(い)れましたが、夕方(ゆふがた)仕事(しごと)の濟(す)む頃(ころ)から草鞋(わらぢ)をぬぎました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
お千代が娘のおたみを養女にやったのは、今から十四、五年前、雑貨商の妻になると間(ま)もなく、別ればなしの起りはじめた頃(ころ)であった。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
明治十二年(めいじじゆうにねん)に船(ふね)で横濱(よこはま)に着(つ)きまして、その頃(ころ)出來(でき)てゐました汽車(きしや)で東京(とうきよう)へ行(ゆ)く途中(とちゆう)、汽車(きしや)の窓(まど)からそこら邊(へん)の風景(ふうけい)を眺(なが)めてをりました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
その頃(ころ)は、随分辺鄙(へんぴ)なむさくるしい土地であった。江戸下谷源空寺門前(げんくうじもんぜん)といった所で、大黒屋繁蔵というのが大屋さんであった。
笑(わら)ひ事(ごと)では無(な)い、既(も)う何(なに)か出(で)ても好(い)い頃(ころ)だと、心中(しんちう)いろ/\苦悶(くもん)して居(ゐ)るが如何(どう)も出(で)ない、破片(はへん)、獸骨(じうこつ)、そんな處(ところ)しか見出(みいた)さぬ。
そうして都会にいた頃(ころ)の私はあんまり自分のぼんやりした不幸を誇張(こちょう)し過ぎて考えていたのではないかと疑い出したほどだった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
二人は手を引き合って、ゆっくり歩きながら、折々顔を見て笑い交すのである。口に出る詞(ことば)は昔恋の初めて萌(きざ)した頃(ころ)の詞と同じであった。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
行きは、よいよい帰りは恐(こわ)い、と子供の頃(ころ)うたう童謡(どうよう)があります。あの歌のように人生、行きと帰りとではずいぶん気持が違(ちが)うものです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
いつの頃(ころ)からか僕は、自己を三個の個性に分けて、それらの人物を架空世界で活動させる術(すべ)を覚えて、幾分の息抜きを持った。
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
けれども……皷動(こどう)が全(まつた)く靜(しづ)まつて、血(ち)の流(なが)れがもとのゆるやかさにかへつた頃(ころ)、極(きは)めて靜(しづ)かに歩(あゆ)み寄(よ)つて來(く)るもの侘(わ)びしさを
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
享保(きやうほ)の初(はじめ)の頃(ころ)將軍吉宗公町奉行(まちぶぎやう)大岡越前守と御評議(ごひやうぎ)あつて或は農工商(のうこうしやう)罪(つみ)なるものに仰付けられ追放(つゐはう)遠島(ゑんたう)の替(かは)りに金銀を以て罪(つみ)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その頃(ころ)組紐業(くみひもぎょう)のブルフホルツという人が、ハイドンの窮乏を憐(あわれ)んで百五十フロリン貸してくれたが、後年ハイドンはその恩に酬(むく)いるために
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂、野村あらえびす(著)
土用波(どようなみ)という高い波が風もないのに海岸に打寄(うちよ)せる頃(ころ)になると、海水浴に来(き)ている都(みやこ)の人たちも段々別荘をしめて帰ってゆくようになります。
溺れかけた兄妹 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
いづれの邦(くに)にも古話(むかしばなし)といふものありて、なかなかに近き頃(ころ)の小説家などの作り設くとも及びがたきおもしろみあるものなり。
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
その頃(ころ)、僕達(たち)は郊外(こうがい)の墓場の裏に居を定めていたので、初めの程は二人共妙(みょう)に森閑(しんかん)とした気持ちになって、よく幽霊(ゆうれい)の夢(ゆめ)か何かを見たものだ。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
学生の頃(ころ)は、カンニングは最大の不名誉、落第こそは英雄の仕業と信じているものだが、実社会に出ると、それは逆だった事に気がつきます。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
昭和元年(せうわぐわんねん)から二年(ねん)の頃(ころ)に金解禁(きんかいきん)を計畫(けいくわく)した場合(ばあひ)に於(おい)ても、巨額(きよがく)の思惑資金(おもわくしきん)が海外(かいぐわい)から來(き)て居(を)つたのであつて、從(したがつ)て金解禁(きんかいきん)を決行(けつかう)せんとしても
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
と一(ひ)ト頃(ころ)、里は暗澹(あんたん)としていたが、なんのことはない、例年のごとく牧の馬や牛を引いた博労(ばくろう)が、ぞくぞく伯耆(ほうき)平野を過(よ)ぎりはじめてもいる。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はだしのまま、砂利(じゃり)の多いこの道を駈(か)けて通学させられた小学生の頃(ころ)の自分を、急になまなましく彼は思い出した。あれは、戦争の末期だった。
夏の葬列 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
夏休みの終り頃(ころ)になると、男の子たちは一層色を黒くしようとして、黒いふんどしの下や、足の裏まで日に焼くのでした。
黒んぼ会 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
すると金魚屋(きんぎょや)は、その頃(ころ)の時刻(じこく)だつたら、パチンコ屋(や)にいたと答(こた)えたから、井口警部(いぐちけいぶ)はその実否(じっぴ)を、平松刑事(ひらまつけいじ)に命(めい)じて確(たし)かめさせることにした。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
但しその頃(ころ)も既に多少の文名ありしかば、十句中二三句づつ雑詠に載(の)るは虚子(きよし)先生の御会釈(ごゑしやく)ならんと思ひ、少々尻こそばゆく感ぜしことを忘れず。
わが俳諧修業 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
『僕(ぼく)ですか、僕(ぼく)は』と言(い)ひ澱(よど)んだ男(をとこ)は年(とし)の頃(ころ)二十七八、面長(おもなが)な顏(かほ)は淺黒(あさぐろ)く、鼻下(びか)に濃(こ)き八字(じ)髭(ひげ)あり、人々(ひと/″\)の洋服(やうふく)なるに引違(ひきちが)へて羽織袴(はおりはかま)といふ衣裝(いでたち)
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
慶応義塾(けいおうぎじゅく)はこの頃(ころ)、弟子いよいよ進(すす)み、その数すでに数百に達し、また旧日の比(ひ)にあらず。或夜(あるよ)、神明社(しんめいしゃ)の辺(ほとり)より失火し、予が門前(もんぜん)まで延焼(えんしょう)せり。
いまぢあ、すこし慣(な)れやしたがね、此處(こゝ)へはじめて南洋(なんやう)から來(き)たときあ、まだ殘暑(ざんしよ)の頃(ころ)だつたがそれでも、毎日々々(まいにち/\/\)、ぶるぶる震(ふる)えてゐましただよ
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
憎む者といえども心中私(ひそ)かにその技を妬(そね)みあるいは恐れていたのである作者の知っている老芸人に青年の頃(ころ)彼女の三絃を
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その頃(ころ)の習慣(ならはし)にしたがつて、三日(みつか)の間(あひだ)、大宴會(だいえんかい)を開(ひら)いて、近所(きんじよ)の人(ひと)たちや、その他(ほか)、多(おほ)くの男女(なんによ)をよんで祝(いは)ひました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
裏(うら)の田圃(たんぼ)へ出て見ると奥(おく)の方(はう)の物置きの中に素裸体(すつぱだか)で年(とし)の頃(ころ)三十二三になる男(をとこ)が棒縛(ぼうしば)りになつて居(ゐ)るのを見て、和尚(をしやう)は驚(おど)ろき、中(なか)へ飛込(とびこ)んで来(き)て、僧
詩好の王様と棒縛の旅人 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
頃(ころ)は旧暦の二月、田舎(いなか)では年中最も手すきな時だ。問題に趣味のあるだけ省作の離縁話はいたるところに盛んである。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
二十五六歳(さい)の頃(ころ)より毎日(まいにち)朝夕(てうせき)實行(じつかう)して、七十七歳(さい)の今日(こんにち)に及(およ)び、爾來(じらい)數十年間(すうじふねんかん)頭痛(づつう)を忘(わす)れ、胃(ゐ)は健全(けんぜん)となり、感冐(かんばう)に犯(をか)されたる事(こと)未(いま)だ一度(いちど)もあらず。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
長い間待(ま)っていなければならないことが多かった。⦅もう今夜(こんや)は歌わないんだな……⦆とクリストフが思ってる頃(ころ)、やっと小父は歌い出(だ)すのだった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
ヂュリ 涙(なみだ)で創口(きずぐち)を洗(あら)はしゃるがよい、其(その)涙(なみだ)の乾(ひ)る頃(ころ)にはロミオの追放(つゐはう)を悔(くや)む予(わし)の涙(なみだ)も大概(たいがい)盡(つけ)う。其(その)綱(つな)を拾(ひろ)うてたも。