まど)” の例文
そとで、たこのうなりごえがする。まどけると、あかるくむ。絹糸きぬいとよりもほそいくものいとが、へやのなかにかかってひかっている。
ある少年の正月の日記 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ひとりきりになると、男はまどぎわにいって、まだ昼間ひるまだというのに、カーテンをひいた。へやのなかが、きゅうに、うす暗くなった。
近所きんじょいえの二かいまどから、光子みつこさんのこえこえていた。そのませた、小娘こむすめらしいこえは、春先はるさきまち空気くうきたかひびけてこえていた。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
赤シャツの農夫は、まどぶちにのぼって、時計のふたをひらき、針をがたがたうごかしてみてから、ばんに書いてある小さな字を読みました。
耕耘部の時計 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ひとり苦笑くせうする。のうちに、何故なぜか、バスケツトをけて、なべして、まどらしてたくてならない。ゆびさきがむづがゆい。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
狐の妖魅えうみをなす事和漢わかんめづらしからず、いふもさらなれどいふ也。われ雪中にはあかりをとらんため、二階のまどのもとにて書案つくゑる。
宗助そうすけ二人ふたり七條しちでうまで見送みおくつて、汽車きしやまでへやなか這入はいつて、わざと陽氣やうきはなしをした。プラツトフオームへりたときまどうちから
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ひだりれたところに応接室おうせつしつ喫煙室きつえんしつかといふやうな部屋へやまどすこしあいてゐて人影ひとかげしてゐたが、そこをぎると玄関げんかんがあつた。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「どうもはらのなかがおもくるしくてしかたがない。おきさきさまのまどの下にあった指輪ゆびわを、あわてて、いっしょにのみこんじまったんだ。」
後世こうせい地上ちじやうきたるべき善美ぜんびなる生活せいくわつのこと、自分じぶんをして一ぷんごとにも壓制者あつせいしや殘忍ざんにん愚鈍ぐどんいきどほらしむるところの、まど鐵格子てつがうしのことなどである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
平常つね部屋へやりかゝる文机ふづくゑ湖月抄こげつせうこてふのまき果敢はかなくめてまたおもひそふ一睡いつすゐゆめ夕日ゆふひかたぶくまどすだれかぜにあほれるおとさびし。
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
『それも駄目だめだ』とこゝろひそかにおもつてるうちあいちやんはうさぎまどしたたのをり、きふ片手かたてばしてたゞあてもなくくうつかみました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
明治十二年めいじじゆうにねんふね横濱よこはまきまして、そのころ出來できてゐました汽車きしや東京とうきよう途中とちゆう汽車きしやまどからそこらへん風景ふうけいながめてをりました。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
よろめくように立上たちあがったおせんは、まど障子しょうじをかけた。と、その刹那せつなひくいしかもれないこえが、まどしたからあがった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
わたしたちの部屋へやまどから見ていると、かれは雪の中を行ったり来たりしていた。わたしはどんな番組をかれが作るか、心配であった。
ピカピカしたまどガラスのうしろに、テンジクアオイのある、裏通うらどおりのこじんまりとした家は、ニールスの目には、はいりませんでした。
かねのありそうないえたら、そこのいえのどのまどがやぶれそうか、そこのいえいぬがいるかどうか、よっくしらべるのだぞ。いいか釜右ヱ門かまえもん
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
昨夜さくやも、一昨夜いつさくやも、夕食ゆふしよくてゝのち部室へやまど開放あけはなして、うみからおくすゞしきかぜかれながら、さま/″\の雜談ざつだんふけるのがれいであつた。
「眼に立つや海青々と北の秋」左のまどから見ると、津軽海峡の青々とした一帯の秋潮しゅうちょうを隔てゝ、はるかに津軽の地方が水平線上にいて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
どこの家も、それは、まども戸も、まる一日しめきりで、中にいる人は、ねているのか、どこかよそへ出ているとしかおもえないようでした。
その時一はとが森のおくから飛んで来て、ついたなりで日をくらす九十に余るおばあさんの家のまど近く羽を休めました。
そばまどをあけて上氣じやうきしたかほひやしながらくらいそとをてゐると、一けんばかりの路次ろじへだててすぐとなりうちおなじ二かいまどから
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
まどからさしてくるぼーっとした明るみのなかに、こうけむりがもつれ、ろうそくの火がちらついて、僧正そうじょういのりの声はだんだん高まってきました。
活人形 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
余は室内しつないには大小種々のたなの有りし事をしんずる者なり。入り口の他にも數個すうこまど有りしなるべければ、室内しつない充分じうぶんあかるかりしならん。(續出)
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
まちつかれた身體からだをそつと椅子いすにもたれて、しづかなしたみちをのぞこふとまどをのぞくと、窓際まどぎは川柳かはやなぎ青白あをしろほそよるまどうつくしくのびてた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
左門さきにすすみて、八九南のまどもとにむかへ、座につかしめ、兄長このかみ来り給ふことの遅かりしに、老母も待ちわびて、あすこそと臥所ふしどに入らせ給ふ。
あすこにきたない一軒立いっけんだちの家があって、たった一つのまどがこっちを向いて開いている。あの窓の中をよく見てごらん。
燕と王子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
おかあさんもおもしろそうに、にこにこわらっていていました。そのとききこりはしぬけにまどからくびをぬっとして
金太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
というのは、竹ノ子がさ燕作えんさくが、正則まさのり密書みっしょをわたしたようすを、休息所のまどから、とっくりにらんでいたのである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは豆潜水艇の横腹についている、丈夫なガラスをはめたまどに、あかりがともったのであります。もちろんそのあかりは、艇の中にあるあかりです。
豆潜水艇の行方 (新字新仮名) / 海野十三(著)
漸くにふみしめ勝手かつて屋根やねいたらんとするをり思ひも寄らぬ近傍かたへまどより大の男ぬつくと出ければ喜八はハツと驚き既に足を踏外ふみはづさんとするに彼の男は是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
道翹だうげうかゞめて石疊いしだゝみうへとら足跡あしあとゆびさした。たま/\山風やまかぜまどそといてとほつて、うづたかには落葉おちばげた。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
はかか? いや/\、こりゃはかではない、あかまどぢゃ、なア、足下きみ。はて、ヂュリエットがるゆゑに、その艶麗あてやかさで、このあなむろひかかゞや宴席えんせきともゆるわい。
が、小娘こむすめわたくし頓著とんぢやくする氣色けしきえず、まどからそとくびをのばして、やみかぜ銀杏返いてふがへしのびんそよがせながら、ぢつと汽車きしやすす方向はうかうやつてゐる。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その晩になって李が来て、桑に二語三語話しかけたところ、まどの外でせきばらいの音がした。すると李は急に逃げて往った。そこへ蓮香が入って来て言った。
蓮香 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
少しはなれたお寺の庫裡くりまどからあたたかそうなの光がれて見えましたが、雪が子供こどもたちのむねほどももっていましたので、そこまでも行くことも出来ません。
神様の布団 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
道子みちこきやくよりもはやてゐるものをぬぎながら、枕元まくらもとまど硝子障子がらすしやうじをあけ、「こゝのうちすゞしいでせう。」
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
わたしは、人をかきわけて、鉄格子てつごうしのはまったまどに向かった自分の場所ばしょへたどりつくと、両手りょうてあたまの下へあてがってあおむけにごろりとて、目をつぶりました。
煤や赤土で塗りこめた開かずの化粧まどのならんでいる宏大な灰色の木造建物や、それを取囲んでいる恐ろしく長い半崩れの塀のことは、いまだに記憶に残っている。
無邪氣な惡戲いたづらの末、片意地に芝居見を強請せがんだ末、弟を泣かした末、私は終日土藏の中に押しめられて泣き叫んだ。そのまどの下には露草つゆくさの仄かな花が咲いてゐた。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
れいなるかなこの石、てんあめふらんとするや、白雲はくうん油然ゆぜんとして孔々こう/\より湧出わきいたにみねする其おもむきは、恰度ちやうどまどつてはるかに自然しぜん大景たいけいながむるとすこしことならないのである。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
まどごしにつきおしりてあしひきのあらしきみをしぞおもふ 〔巻十一・二六七九〕 作者不詳
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
新しい洋服ようふくにからだをつつんで、全校の視線しせんをあびながら、はれの壇上だんじょうに立った光吉こうきちは、まどのそとの冬がれのおかから、母の慈愛じあいのまなこが自分を見まもっていてくれることを
美しき元旦 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
壁にあるのは円形の窓で、天井にあるのはこれも円形の、玻璃はりで造られたあかまどで、そこに灯火ともしびが置いてあると見え、そこから鈍い琥珀色の光が、部屋を下様に照らしていた。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
花月かげつ雨雪風流うせつふうりゅうまどにこれをひらいて、たちまち座を賑わそうというのだが、これは膳の上のはなしで、その膳の下には、いつどこで開いてもたちまち座を賑わすに足る
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
二十けんにもあま巨大きよだい建物たてものは、るから毒々どく/\しい栗色くりいろのペンキでられ、まどは岩たたみ鐵格子てつがうしそれでもまぬとえて、内側うちがはにはほそい、これ鐵製てつせいあみ張詰はりつめてある。
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
西八條の花見の宴に時頼もつらなりけり。其夜更闌かうたけて家に歸り、其の翌朝は常に似ず朝日影まどに差込む頃やうやく臥床ふしどを出でしが、顏の色少しく蒼味あをみを帶びたり、終夜よもすがら眠らでありしにや。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
ひかりをおほひかくしてまどのなかに息をはくねずみいろのあめ
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)
このまどからのぞいてみやう シーッしづかにしづかに
彼女かのぢよはじめてがついたやうにまどそとつぶやく。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)