さら)” の例文
かつらならではとゆるまでに結做ゆひなしたる圓髷まるまげうるしごときに、珊瑚さんご六分玉ろくぶだま後插あとざしてんじたれば、さら白襟しろえり冷豔れいえんものたとふべきく——
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
こゝに住むこと約半年、さらに同町内の他へ移転した。すると、出入でいり酒商さかやが来て、旧宅にゐる間に何か変つた事は無かつたかと問ふ。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
それが一だん向上こうじょうすると浅黄色あさぎいろになり、さらまた向上こうじょうすると、あらゆるいろうすらいでしまって、なんともいえぬ神々こうごうしい純白色じゅんぱくしょくになってる。
さら猛進もうしんしたが、如何どうおもはしくなく、かへつて玄子げんしはう成功せいかうして、鍋形なべがた側面そくめんせうなる紐通ひもとほしのある大土器だいどきが、ほとん完全くわんぜんた。
そして、撮影法さつえいほうにも、現像法げんぞうほうにも、無論むろんせい裝置そうちにも改善かいぜんくはへてさらに何まいかをこゝろみたが、あゝ、それは何といふ狂喜けうきだつたか?
『それにここは電車や自動車も通らず、両側町だからなおさら綺麗でもあるしにぎやかでもあるんだね。ちょっと浅草の仲見世みたいに』
早稲田神楽坂 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
さらに邸内に総計十二箇の巣箱を配置し、その箱の板にはヘットなどを塗り附けて、いとも熱心にすずめ以上の羽客を歓迎しているのである。
私はその間ここにいては邪魔じゃまになるから、例の小説の資料を採訪すべく、五六日の予定でさらに深く吉野川の源流地方をきわめて来る。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いえうぢやないのです。』ミハイル、アウエリヤヌヰチはさら云直いひなほす。『の、きみ財産ざいさん總計そうけい何位どのくらゐふのをうかゞうのさ。』
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
夏にはさら千鳥草ちどりそうの花がある。千鳥草、又の名は飛燕草。葉は人参の葉の其れに似て、花は千鳥か燕か鳥の飛ぶ様なさまをして居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
さらに聞き入ず否々和主達おまへたちが殺したりと云には非ず御知らせ有しは少しの災難さいなん手續てつゞきなればやむを得ず夫ともたつて止まるをいなとならばなは
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ところでメイヨーはさらにこの硝酸のなかに空気のなかに含まれると同じ物質のあるのを見つけ出し、これを硝気と名づけました。
ラヴォアジエ (新字新仮名) / 石原純(著)
さらにいい実物をつくり上げるよう、心がけねばならぬ”——ということばが、深く一郎の心に、きざみつけられたものと見える。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これと同時どうじにその論議ろんぎ具體化ぐたいくわした建築物けんちくぶつ實現じつげんさらのぞましいことである。假令たとひその成績せいせき多少たせう缺點けつてんみとめられてもそれ問題もんだいでない。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
さら博物館はくぶつかんではそとより見物人けんぶつにん學者達がくしやたち研究けんきゆうさせるばかりでなく、博物館はくぶつかんにゐるひと自身じしんがその陳列品ちんれつひん利用りようして研究けんきゆうかさ
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
道子みちこ一晩ひとばんかせげば最低さいていせん五六百円ぴやくゑんになる身体からだ墓石ぼせき代金だいきんくらいさらおどろくところではない。ふゆ外套ぐわいたうふよりもわけはないはなしだとおもつた。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
けれども両人ふたりが十五六間ぎて、又はなしり出した時は、どちらにも、そんな痕迹はさらになかつた。最初にくちを切つたのは代助であつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
やはらかさに滿たされた空氣くうきさらにぶくするやうに、はんはなはひら/\とまずうごきながらすゝのやうな花粉くわふんらしてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「それなら、なおさら急がなくては、倭文子さんが殺されてしまうではありませんか。君は一体どうしようというお考えなのです」
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
『これがわたくしつま春枝はるえ。』とわたくし紹介ひきあはせ、さら夫人ふじんむかつて、わたくしかれとがむかしおなじまなびのともであつたことわたくし今回こんくわい旅行りよかう次第しだい
女中のふさは手早く燗瓶かんびん銅壺どうこに入れ、食卓の布をつた。そしてさらに卓上の食品くひもの彼所かしこ此処こゝと置き直して心配さうに主人の様子をうかがつた。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
「よい文学もタマには見られ、よい批評もマレには聞かされるが、よい生活だけは得られそうもないなあ」と。そうしてさらに附け加えました。
又復与太話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おんあるひと二年目にねんめせていまあるじ内儀樣かみさま息子むすこ半次はんじはぬもののみなれど、此處こゝ死場しにばさだめたるなればいやとてさら何方いづかたくべき
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
窮厄きゅうやくにおりながら、いわゆる喉元のどもと過ぎて、熱さを忘るるのならい、たてや血気の壮士は言うもさらなり、重井おもい葉石はいし新井あらい稲垣いながきの諸氏までも
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
僕の尊敬する所は鹿島さんの「人となり」なり。鹿島さんの如く、熟してやぶれざるていの東京人は今日こんにち既に見るべからず。明日みやうにちさらまれなるべし。
田端人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
大地震おほぢしん場合ばあひおいて、二階建にかいだてあるひ三階建さんがいだてとう最下層さいかそうもつと危險きけんであることは、さら詳説しようせつようしないほどによくられてゐる。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
何もそんな奴に頼まなくたっていいじゃないか。そして女というものの、そんなことにかけての、無神経さや残酷さを、今さらのように憎み出した。
愛撫 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
○ベースボールの球(承前) 場中に一人の走者ラナーを生ずる時はボールの任務は重大となる。もし走者同時に二人三人を生ずる時はさらに任務重大となる。
ベースボール (新字新仮名) / 正岡子規(著)
弥陀ヶ原から五葉坂ごようざかを登ると御前平おまえだいらで、さらに一千一尺、雲際に突入する御前岳の頂上に白山神社の本社があるのでした。
天保の飛行術 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
しかしながらさらに詳しいことは動物心理学の沢山たくさんの実験がこれを提供致すだろうと思います。又実は動物は本能と衝動ばかりではないのであります。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
江戸えど民衆みんしゅうは、去年きょねん吉原よしわら大火たいかよりも、さらおおきな失望しつぼうふちしずんだが、なかにも手中しゅちゅうたまうばわれたような、かなしみのどんぞこんだのは
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
釣魚もおもしろいが養魚はなほさら佳趣の多いことで、二ヶ所の養魚場を見て、自分も一閑地を得たら魚を養ひたいナアと、羨み思ふをまぬかれなかつた。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
春日の森にひぐらしとつくつくぼうしが私の汗をなおさら誘惑する。男鹿おじかはそろそろ昂奮こうふんして走るべく身がまえをする。
これが伏見天皇ふしみてんのうのおうたです。後鳥羽上皇ごとばじようこうから、もひとすゝんで、さらにその一種いつしゆくせいた素直すなほなおうたになつてゐます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
ななめ下には、教会堂の尖塔せんとうするどく、空に、つきさって、この通俗的な抒情画じょじょうがを、さらに、完璧かんぺきなものにしていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
◯九節において星辰界せいしんかいの神秘を述べたるヨブは、十節においてはさらに進みて「大なることを行い給うこと測られず、くすしきわざを為し給うこと数知れず」
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
女性じよせい無邪氣むじやきなる輕薄けいはくわらひ、さら一旦いつたんあたへたる財貨ざいか少娘こむすめ筐中きようちうよりうばひて酒亭一塲しゆていいちじやう醉夢すいむするのじようかしめついふたゝ免職めんしよくになりしこと
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
高さは日本の富士山と同じく、一万二千三百尺であるが、シャスタ主峰は、それよりもさらに、約二千尺高く、海抜一万四千百六十二尺と註せられている。
火と氷のシャスタ山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
先づ饅頭笠にて汚水をいだし、さら新鮮しんせんなる温泉をたたゆ、温たかき為め冷水を調合てうごうするに又かさもちゆ、笠為にいたむものおほし、抑此日や探検たんけんの初日にして
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
下剋上げこくじょうの世であった。政治の実権が魯侯ろこうからその大夫たる季孫氏きそんしの手に移り、それが今やさらに季孫氏の臣たる陽虎という野心家の手に移ろうとしている。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
奧羽地方おううちほうではさらくだつて四千七百尺しせんしちひやくしやくから三千五百尺さんぜんごひやくしやくたかさまでになり、北海道ほつかいどう南部なんぶでは一千五百尺いつせんごひやくしやくくだり、その中央ちゆうおうではつひ海水面かいすいめん一致いつちしてゐます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
君ならでは人にして人に非ずとうたはれし一門の公達きんだち宗徒むねとの人々は言ふもさらなり、華冑攝籙くわちゆうせつろく子弟していの、苟も武門の蔭を覆ひに當世の榮華に誇らんずるやから
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
内新好ないしんかうが『一目ひとめ土堤づゝみ』に穿ゑぐりしつう仕込じこみおん作者さくしや様方さまがた一連いちれんを云ふなれば、其職分しよくぶんさらおもくしてたふときは扇子せんす前額ひたひきたへる幇間だいこならんや。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
さらに、人間よりもっとえらい者——それは何だか知らないが、もしそんな者があって、さまざまな違った星の世界をいくつもまわり歩いて来たとしたならば
蝗の大旅行 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
かくて一方には造船所の計画けいかくると同時に、一方においてさらにロセツより申出もうしいでたるその言にいわく、日本国中には将軍殿下しょうぐんでんか御領地ごりょうちも少からざることならん
しからばこゝならんかしこならんなど家僕かぼくとはかりて尋求たづねもとめしかどさら音問おとづれをきかず、日もはやくれなんとすればむなしく家にかへりしか/\のよし母にかたりければ
春田君はさらに、ABC分解やら伊呂波いろは分解や、五十音分解法などを応用して、その文章を検べに取掛った。
危し‼ 潜水艦の秘密 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
気が付かねば、まじないは効くのだとひそかにげんのあらわれるのを待っていたところさらに効目はなかった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
さまさせまゐらせんといへるを、赤穴又かしらりてとどめつも、さらに物をもいはでぞある。左門云ふ。既に九〇夜をぎてし給ふに、心もみ足もつかれ給ふべし。
往々おうおう悲歌ひかしてひと流涕りゆうていす、君山くんざん剗却さんきやくして湘水しようすい平に桂樹けいじゆ砍却しやくきやくして月さらあきらかならんを、丈夫じようふ志有こころざしありて……
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)