たひら)” の例文
「はじめはえらく噴き出しましたよ。場所は中宿なかじゆくたひらですがね。それがあんた、どういふもんか、だんだんに勢ひがなくなりましてね」
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
せい元來ぐわんらい身分みぶん分類ぶんるゐで、たとへばおみむらじ宿禰すくね朝臣あそんなどのるゐであり、うぢ家系かけい分類ぶんるゐで、たとへば藤原ふじはらみなもとたひら菅原すがはらなどのるゐである。
誤まれる姓名の逆列 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
雪下ゆきふるさかんなるときは、つもる雪家をうづめて雪と屋上やねひとしたひらになり、あかりのとるべき処なく、ひる暗夜あんやのごとく燈火ともしびてらして家の内は夜昼よるひるをわかたず。
畳半分ほどの大きさでしかも上がたひらな石である。私はその上に腰をかけて額の汗をぬぐつた。あたりには人影もない明るい秋の午後である。
赤蛙 (新字旧仮名) / 島木健作(著)
お仕着せの一本づつをたひらげて、八五郎は陶然としましたが、まだお勝手ではコトコトとお料理の品を揃へてゐる樣子です。
たゞ服のまへの方だけが、くびのところから足のあたりまで、すべつこく、まつすぐに見え、まつたひらになつてゐます。
青い顔かけの勇士 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
おつぎは勘次かんじおこしたかたまりを一つ/\に萬能まんのうたゝいてさらりとほぐしてたひらにならしてる。輕鬆けいしようつちから凝集こゞつてかたまりほぐせばすぐはらはれた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そして、變化へんくわのない街道かいだう相變あいかはらず小川をがは沿うて、たひら田畑たはたあひだをまつぐにはしつてゐた。きりほとんあがつて、そらには星影ほしかげがキラキラとした。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
その、はじめてみせをあけたとほりの地久庵ちきうあん蒸籠せいろうをつる/\とたひらげて、「やつと蕎麥そばにありついた。」と、うまさうに、大胡坐おほあぐらいて、またんだ。
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
宮はこの散歩の間につとめて気をたひらげ、色ををさめて、ともかくも人目をのがれんと計れるなり。されどもこは酒をぬすみて酔はざらんと欲するにおなじかるべし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そしてそれに対する町奉行以下諸役人の処置にたひらかなることが出来なかつた。賑恤しんじゆつもする。造酒ざうしゆに制限も加へる。しかし民の疾苦しつくは増すばかりで減じはせぬ。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
とうさんの田舍ゐなか信濃しなの山國やまぐにからたひら野原のはらおほ美濃みのはうおりたうげの一ばんうへのところにあつたのです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
立ちたる者顏を後額こめかみのあたりによすれば、より來れるざい多くして耳たひらなる頬の上に出で 一二四—一二六
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
 おな平地へいちでも臺灣たいわん本州ほんしゆう北海道ほつかいどうとでは樹木じゆもくちがつてゐるように地球上ちきゆうじよう緯度いどにつれて、ひかへると赤道せきどうからみなみきたとへむかつてたひらにすゝんでいくとすれば
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
神のたくみが削りなしけん千仞の絶壁、うへたひらに草生ひ茂りて、三方は奇しき木の林に包まれ、東に向ひて開く一方、遙の下に群れたる人家、屈曲したる川の流を見るべし。
花枕 (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
電信柱の一列がどこまでも續いて行つて、マツチの棒をならべたやうになり、そしてそれが見えなくなつても、まだたひらであり、何んにも眼に邪魔になるものがなかつた。
防雪林 (旧字旧仮名) / 小林多喜二(著)
遠くの八ヶ岳の裾までひろがつてゐる佐久さくたひらを見下ろしながら中山道となつて低くなつてゆく。
ふるさとびと (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
これが古い物語の中から、わたしの前に浮んで来た「あめした色好いろごのみ」たひら貞文さだぶみの似顔である。
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
まちにいでてなにをし食はばたひらけき心はわれにかへり来むかも」などとんだ気もちであろうか。
茂吉の一面 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
織田たひらノ信長没落後、家臣鳥屋尾とりやを左京ト申ス者、当所ニ来住ス。傍輩はうばいノ浪人ハ其ノ縁ヲ以テ諸大名ニ奉公ニ出デ、又左京儀ハ他家ノ主人ニ仕フル事、本意ナラズ存ゼラレ候。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
菓子くわしくにたひらげてしまつて、其後そのあと持參ぢさん花竦薑はならつきやうを、びんから打明うちあけて、さけさかなにしてる。
やますそひらいて、一二ちやうおくのぼやうてたてらだとえて、うしろはういろたかふさがつてゐた。みち左右さいう山續やまつゞき丘續をかつゞき地勢ちせいせいせられて、けつしてたひらではないやうであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
秋風あきかぜに白波さわぎと萬葉集にうたはれたのはおもへば久遠の時代であるやうだけれど、たひら將門まさかどが西の大串おほくしから、ひがし小渡こわたりへ船を漕いだ時は、一面の水海みづうみだつたとはいふまでもない。
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
宣長の「足引城あしひきき」説が平凡だが一番真に近いか。「あしは山のあし、引は長く引延ひきはへたるを云。とは凡て一構ひとかまへなるところを云て此は即ち山のたひらなる処をいふ」(古事記伝)というのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
岩山を上り下りしてやゝたひらなる浅き谷を行く。午後の日して、馬上すこぶる退屈す。
之もホーロクたひら(一八九二米の一帶を云ふ)の先の鳥屋場とやばを持つてゐる者で隣の鳥屋場へ遊びに行く所だといふ。私達が女達は川俣へ歸る所だといふと、きびすをめぐらして三人の先に立つ。
黒岩山を探る (旧字旧仮名) / 沼井鉄太郎(著)
雨の音、雨の音。私は直と其のまゝ筆を執り、手頸がさはると其のたひらかなふわりとした感覺の云ふに云はれず快い白紙の上に、墨の色も濃く、「雨の音」と大きく三字、表題を書き記した。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
一三八治承ちしよう三年の秋、たひらの重盛やまひかかりて世をりぬれば、一三九平相国へいさうこく入道、一四〇君をうらみて一四一鳥羽とば離宮とつみやめたてまつり、かさねて一四二福原のかやの宮にくるしめたてまつる。
我国本土のうちでも中国の如き、人口稠密ちうみつの地に成長して山をも野をも人間の力でたひらげ尽したる光景を見慣れたる余にありては、東北の原野すら既に我自然に帰依きえしたるの情を動かしたるに
空知川の岸辺 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
それからあいちやんははじめると、きに其菓子そのくわしたひらげてしまひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
... しんもつきみす、じんけんや』と。(三〇)左右さいう(三一)これへいせんとほつす。(三二)太公たいこういはく、『義人ぎじんなり』と。たすけてらしむ。武王ぶわうすでいんらんたひらげ、天下てんかしう(三三)そうとす。
現世うつしよは めでたきみ代ぞ たひらけく 微笑ゑみはせな 百済くだらみほとけ
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
チエロの胸ひたかきむしりたひらなり揺り曳きにけりに光るきゆう
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
アレース皆にたひらなり、打たんずるもの、打ちとらむ。
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
取揃とりそろ自身じしんに持來たれば清兵衞は長兵衞に向ひ嘸々さぞ/\草臥くたひれしならん然樣さう何時までもかしこまり居ては究屈きうくつなりモシ/\御連おつれしゆ御遠慮ごゑんりよなさるなコレサたひらに/\と是より皆々くつろぎ兄弟久しぶりにての酒宴しゆえんとなり女房もそばにてしやく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
まるでたひらとさへみえる、荒模様なる空の下。
佐久さくたひらかたほとり
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
如何いかなるくぼたひらかに
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
このたひらなる心には
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
なだらかにながれて、うすいけれどもたひらつゝむと、ぬまみづしづかつて、そして、すこ薄暗うすぐらかげわたりました。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
日本に来てもないHは、まだ芸者に愛嬌あいけうを売るだけの修業も積んでゐなかつたから、唯出て来る料理を片つぱしからたひらげて、差される猪口ちよくを片つぱしから飲み干してゐた。
東京小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
宜道ぎだうへつつひしてめしをむらしてゐるあひだに、宗助そうすけ臺所だいどころからりてには井戸端ゐどばたかほあらつた。はなさきにはすぐ雜木山ざふきやまへた。そのすそすこたひらところひらいて、菜園さいゑんこしらえてあつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
汁椀しるわんつて、わんはらひだりかるちつけるやうにして納豆なつとうたひらにした。おつぎは午餐ひるから開墾地かいこんちときさいにする干納豆ほしなつとう汁椀しるわんいれかれためぜんゑてつたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
何かたひらかでないものがあるのか、お松は突つ立つたまゝ斯う先手を打ちました。
○かくてなかたひら村(九軒)天酒あまさけ村(二軒)大赤沢おほあかさは村(九軒)をたる道みなけはし山行やまぶみして此日さる下刻さがりやう/\小赤沢にいたりぬ。こゝには人家廿八軒ありて、秋山の中二ヶ所の大村也。
彼は喊声かんせいを上げて来る。打つてこぶこしらへる。癅がたひらになる。又喊声を上げて来る。又癅を拵へる。又それが平になる。Sisypos の石は何度押し上げても又ころがり落ちて来るのである。
金貨 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
興義点頭うなづきていふ。誰にもあれ一人、二四だん家のたひらの助の殿のみたちまゐりてまうさんは、法師こそ不思議に生き侍れ。君今酒をあざらけ二五なますをつくらしめ給ふ。しばらくえんめて寺に詣でさせ給へ。
落つる日の夕かがやきはこの山のたひらに居りてしばしだに見む
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
山畑の雪のたひらに暮がたの青ぞらのいろの吸はれつつぞある
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かれまへには、一座いちざなめらかな盤石ばんじやくの、いろみどりあをまじへて、あだか千尋せんじんふちそこしづんだたひらかないはを、太陽いろしろいまで、かすみちた、一塵いちぢんにごりもない蒼空あをぞら
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)