人目ひとめ)” の例文
出入りの多い客商売であるから、人目ひとめに付くのをおそれて、娘と三甚をほかの家にかくまってあるのかも知れないと、半七は考えた。
半七捕物帳:64 廻り灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おのづから智慧ちゑちからそなはつて、おもてに、隱形おんぎやう陰體いんたい魔法まはふ使つかつて、人目ひとめにかくれしのびつゝ、何處いづこへかとほつてくかともおもはれた。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いつともなく菊亭右大臣家きくていうだいじんけばしにたたずんだ三人づれの旅僧たびそうは、人目ひとめをはばかりがちに、ホトホトと裏門のをおとずれていた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さういふ伴侶なかまことをんな人目ひとめすくな黄昏たそがれ小徑こみちにつやゝかな青物あをものるとつひした料簡れうけんからそれを拗切ちぎつて前垂まへだれかくしてることがある。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
すべてが豪放ごうほうで、雄大で、何でも人目ひとめを驚かさなければ止まないと云う御勢いでございましたが、若殿様の御好みは、どこまでも繊細で
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それも人目ひとめを忍びつゝ刹那せつなのよろこびに生きたのであって、しみ/″\打ち解けて語り合う折などは一と夜もなかったであろう。
わけてもその夜は、おたな手代てだいと女中が藪入やぶいりでうろつきまわっているような身なりだったし、ずいぶん人目ひとめがはばかられた。
姥捨 (新字新仮名) / 太宰治(著)
しかし、もっと人目ひとめにつくようにしなくちゃ、誰も知らないで通ってしまう。よろしい。僕が君のために画看板えかんばんをかいてやろう
一坪館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかしこれもまた、長吉ちやうきちには近所の店先みせさき人目ひとめこと/″\く自分ばかりを見張みはつてるやうに思はれて、とても五分と長く立つてゐる事はできない。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
自分じぶんのような人目ひとめをひかないはなには、どうして、そんなに空想くうそうするような、きれいなちょうがきてまることがあろう?」
くもと草 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ロレ ロミオよ、てござれ、てござれよ、こりゃ人目ひとめおそはゞかをとこ。あゝ、そなた憂苦勞うきくらう見込みこまれて、不幸ふしあはせ縁組えんぐみをおやったのぢゃわ。
はかなきゆめこゝろくるひてより、お美尾みをありれにもあらず、人目ひとめければなみだそでをおしひたし、れをふるとけれども大空おほそらものおもはれて
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
アアいう人目ひとめに着くよそおいの婦人に対してはとかくにあらぬ評判をしたがるもんだから、我々は沼南夫人に顰蹙しながらも余りに耳を傾けなかった。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
花茎かけいは一株から一、二本、えた株では十本余りも出ることがある。そして濃紫色のうししょくの花が、いつも人目ひとめくのである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
衣服いふく調度類ちょうどるいでございますか——鎌倉かまくらにもそうした品物しなものさば商人あきうどみせがあるにはありましたが、さきほどももうしたとおり、べつ人目ひとめくように
如何に貧乏な書生生活でも、東京で二十円の借家から六畳二室ふたま田舎いなかのあばら家への引越しは、人目ひとめには可なりの零落れいらくであった。奉公人にはよい見切時みきりどきである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
余は鰥寡孤独かんかこどくうれいに沈むもの、或は貧困縷衣るいにして人目ひとめはばかるもの、或は罪にはじ暗処あんしょに神のゆるしを求むるもののもとを問い、ナザレの耶蘇いえすの貧と孤独とめぐみとを語らん
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
人目ひとめ附易つきやす天井裏てんじやうゝらかゝげたる熊手くまでによりて、一ねん若干そくばく福利ふくりまねべしとせばたふせ/\のかずあるのろひの今日こんにちおいて、そはあまりに公明こうめいしつしたるものにあらずや
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
つめたいつきひかりされて、人目ひとめかゝらぬいしなか封込ふうじこめられた蟾蜍ひきがへるごとく、わがみにく鉱皮くわうひしためられてゐるとき、ほかのひとたちは清浄しやうじやう肉身にくしん上天じやうてんするのだらう。
人目ひとめけるために、わざと蓙巻ござまきふかれた医者駕籠いしゃかごせて、男衆おとこしゅう弟子でし二人ふたりだけが付添つきそったまま、菊之丞きくのじょう不随ふずいからだは、その午近ひるちかくに、石町こくちょう住居すまいはこばれてった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
しまみやまがりのいけはなどり人目ひとめひていけかづかず 〔巻二・一七〇〕 柿本人麿
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
彼が人目ひとめき世にはびこったことを喜ばぬものがいかに多かったであろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
振舞ふるまひ小遣こづかひなど與へて喜ばせ聲をひそめつゝ其方そなたの主人の娘お高殿に我等われら豫々かね/″\こゝろかくる所お高殿も氣のある容體ようすなれども御母殿おふくろどの猿眼さるまなこをして居る故はなし出來難できがたければ貴樣に此文をわたあひだ能々よく/\人目ひとめ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
人目ひとめを避けて、うなだるゝあはれの君よ。
きその日は (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ここには人目ひとめないものを。
ゴンドラの唄 (旧字旧仮名) / 吉井勇(著)
人目ひとめ惹かなきや
おさんだいしよさま (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
……それが、どぶはしり、床下ゆかしたけて、しば/\人目ひとめにつくやうにつたのは、去年きよねん七月しちぐわつ……番町學校ばんちやうがくかう一燒ひとやけにけた前後あとさきからである。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
リノリウムのゆかには何脚なんきゃくかのベンチも背中合せに並んでいた。けれどもそこに腰をかけるのはかえって人目ひとめに立ち兼ねなかった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
でもしめやかにかたうた兩性りやうせい邂逅であへば彼等かれらは一さいわすれて、それでも有繋さすが人目ひとめをのみはいとうて小徑こみちから一あひだける。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
かえって人目ひとめくつきやすいところへ放り出して置くのが流行はやっていると、こんな話を面白可笑おかしく、この海原力三うなばらりきぞうという船員が話して聞かせた。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
呂宋兵衛るそんべえが身をぬいた空駕籠からかごのなかへ、咲耶子さくやこのからだをしこんで、その、人目ひとめにつく身なりの上へ、蚕婆かいこばばあと同じくろいふくをふわりとかぶせた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
パリス 侍童わらはよ、その炬火たいまつをおこせ。彼方あちて、つッとはなれてゐい。……いや、それをせ、人目ひとめかゝりたうない。
人目ひとめを忍ぶ身には煙草の火も禁物きんもつである。まして迂闊にしゃべることも出来ないので、二人は無言のぎょうに入ったように、桜の蔭にしゃがんで黙っていた。
半七捕物帳:65 夜叉神堂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かれはせめて貨車かしゃなかにでもかくすことができたら、幸福しあわせだとかんがえましたので、人目ひとめをしのんで、貨車かしゃもうとしますと、なかから、おもいがけなく
海へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
すてんか明日あすこそはとうかゞこゝろおこたりなけれど人目ひとめ關守せきもりなんとしてひまあるべき此處こゝ七年しちねんはまだ籠中ろうちゆうとり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
格子戸かうしど格子かうしを一本々々一生懸命にみがいてるのもある。長吉ちやうきち人目ひとめの多いのに気後きおくれしたのみでなく、さて路地内ろぢうち進入すゝみいつたにしたところで、自分はどうするのかと初めて反省の地位に返つた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ひとでいい、ひとでいいからいたいとの、せつなるおもいのがたく、わざと両国橋りょうごくばしちかくで駕籠かごてて、頭巾ずきん人目ひとめけながら、この質屋しちやうらの、由斎ゆうさい仕事場しごとばおとずれたおせんのむねには
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
うかするといし手水鉢てうづばちが、やなぎかげあをいのに、きよらかな掛手拭かけてぬぐひ眞白まつしろにほのめくばかり、廊下らうかづたひの氣勢けはひはしても、人目ひとめにはたゞのきしのぶ
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼等かれらそとからの人目ひとめ雨戸あまどけて唯一ゆゐいつ娯樂ごらくとされてある寶引はうびきをしようといふのであつた。たゝみには八ほんこん寶引絲はうびきいとがざらりとされた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
これは何も彼等の好みの病的だったためではない。ただ人目ひとめを避けるためにやむを得ずここを選んだのである。
早春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
帰府の道中も同道しては人目ひとめに立つので、お近は一と足おくれて帰って来て、そっと音羽の屋敷に忍び込んだ。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
くにも人目ひとめはぢれば二かい座敷ざしきとこなげふしてしのなみだ、これをばとも朋輩ほうばいにもらさじとつゝむに根生こんぜうのしつかりした、のつよいといふものはあれど
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
つとめにるときは、お化粧けしょうをして、そのふうがりっぱなので、人目ひとめには、いきいきとして、うつくしくうつるので、さぞゆかいなおくってるだろうとおもうけれど、いえかえって
アパートで聞いた話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかし踊り子がいつも左へ傾いた顔をしていたのでは美感びかん上困る。そこで気のつくたびに、ヒョイと首を逆にひねる。この場合、右へは、右へ振ったが振りすぎて人目ひとめを引くようになる。
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
人目ひとめくるは相身互あひみたがひ、浮世うきようるさおもをりには、身一みひとつでさへもおほいくらゐ、あなが同志つれはずともと、たゞもうおのこゝろあとをのみうて、人目ひとめくる其人そのひとをば此方こちらからもけました。
〽落ちて行衛ゆくゑ白魚しらうをの、舟のかゞりにあみよりも、人目ひとめいとうて後先あとさきに………
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
公卿輩くげばら公達きんだちなかまでは、やごとなき摂家せっけの姫君をすら、はぎすすきの野ずえにき盗み出しまいらせて、朝月のほの白むまで、露しとどな目にお遭わせして、人目ひとめひそに、帰しまいらせたとか。
二足にそくつかみの供振ともぶりを、見返みかへるおなつげて、憚樣はゞかりさまやとばかりに、夕暮近ゆふぐれぢか野路のぢあめおもをとこ相合傘あひあひがさ人目ひとめまれなる横※よこしぶきれぬききこそいまはしも
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おとしなさるな、とびもならず、にはかに心付こヽろづき四邊あたりれば、はなかぜれをわらふか、人目ひとめはなけれど何處どこまでもおそろしく、庭掃除にはそうぢそこそこにたヾひとはじとはか
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
先頃大殿様おおとのさま御一代中で、一番人目ひとめおどろかせた、地獄変じごくへん屏風びょうぶの由来を申し上げましたから、今度は若殿様の御生涯で、たった一度の不思議な出来事を御話し致そうかと存じて居ります。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)