半身はんしん)” の例文
白襯衣君が、肩をそびやかして突立つったって、窓から半身はんしん乗出のりだしたと思うと、真赤な洋傘こうもりが一本、矢のように窓からスポリと飛込とびこんだ。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼は土の下で腐乱ふらんしきった妻の死体を想像した。いまの雨に、その半身はんしんが流れ出されて、土の上に出ているかもしれないと思った。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
昼は蓬莱山ほうらいさんの絵ともみえた竹生島ちくぶしまが、いまは湖水から半身はんしんだしている巨魔きょまのごとく、松ふく風は、その息かと思われてものすごい。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寤寐ごびにもはなれず起居ききよにもわすれぬ後來のち/\半身はんしん二世にせつま新田につたむすめのおたかなり、芳之助よしのすけはそれとるより何思なにおもひけん前後ぜんご無差別むしやべつ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
輕氣球けいききゆううへでは、たちま吾等われら所在ありか見出みいだしたとへ、搖藍ゆれかごなかから誰人たれかの半身はんしんあらはれて、しろ手巾ハンカチーフが、みぎと、ひだりにフーラ/\とうごいた。
の士が大刀のつかへ手を掛けて詰め寄りますから、文治は半身はんしんさがって身構えを致しましたが、一寸ちょっとと息きましてすぐあとを申し上げます。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
くさなか半身はんしんぼつして、二人ふたりはいひあらそつてゐた。をとこはげしくなにかいひながら、すぶるやうにをんなかた幾度いくど小突こづいた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
何分なにぶんにも呼吸いきが詰まるような心持で、終局しまいには眼がくらんで来たから、にかく一方の硝子ガラス窓をあけて、それから半身はんしんを外に出して、ずほっと一息ついた。
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼は半身はんしんを起すように体を俯向うつむけにして顔をあげた。八畳ばかりの何も置いてないへやががらんとしている。
指環 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
盡し神佛かみほとけへも祈りしかど其しるしかつてなく後には半身はんしん叶はず腰も立ねば三度のしよくさへ人手をかりるほどなれどもお菊は少しも怠らず晝は終日ひねもす賃仕事ちんしごと或ひはすゝ洗濯せんたく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
をつと簑笠みのかさを吹とられ、つま帽子ばうしふきちぎられ、かみも吹みだされ、咄嗟あはやといふ眼口めくち襟袖えりそではさら也、すそへも雪を吹いれ、全身ぜんしんこゞえ呼吸こきうせま半身はんしんすでに雪にめられしが
まどから半身はんしんしてゐたれいむすめが、あの霜燒しもやけのをつとのばして、いきほひよく左右さいうつたとおもふと、たちまこころをどらすばかりあたたかいろまつてゐる蜜柑みかんおよいつむつ
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
本舞台いつもの処に置かれたる格子戸こうしどは恋人を見送る娘をして半身はんしんをこれにらしめ、もっ艶麗えんれいなる風姿に無限の余情を添へしめ、忠臣義士が決然いえを捨てて難におもむかんとする時
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今、此の海の何處かで、半身はんしん生温なまぬるい水の上に乘出したトリイトンが嚠喨と貝殼を吹いてゐる。何處か、此の晴れ渡つた空の下で、薔薇色の泡からアフロディテが生れかかつてゐる。
其所そこには廿歳はたち位の女の半身はんしんがある。代助はを俯せてじつと女の顔を見詰めてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
わたしはそれにしたがはないではゐられなかつた。をのべて、しかしなか/\とゞきさうもなかつたので半身はんしんして、それでも駄目だめだつたのでたうとうあがつてまで、障子しやうじ左右さいうひらいた。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
にわか鈴虫すずむしに、浴衣ゆかたかたからすべらせたまま、半身はんしん縁先えんさきりだした。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
つまにはわかれ、たよりとする子供こどもも、また病気びょうきでなくなり、わたしは、中風ちゅうふう気味きみで、半身はんしんがよくきかなくなりましたので、はたらくにもはたらかれず、たとえ番人ばんにんにさえもやとってくれるひとがありませんので
窓の下を通った男 (新字新仮名) / 小川未明(著)
半身はんしんだけを窓に出し
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
その群集ぐんしゅうのなかに立って、かれの挙動きょどう凝視ぎょうししているふたりの浪人ろうにん——深編笠ふかあみがさまゆをかくした者の半身はんしんすがたがまじって見えた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
怒鳴どなつて、かさはらつて、むつくりと半身はんしん起上おきあがつて、かしてると、なにらぬ。くせ四邊あたりにかくれるほどな、びたくさかげもない。
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いそ其方そなたると少年せうねんは、いまこゑおどろ目醒めざめ、むつときて、半身はんしん端艇たんていそとしたが、たちまおどろよろこびこゑ
神経の所為せいか知らぬが今夜も何だか頭の重いような、胸の切ないような、云うに云われぬ嫌な気持になって、思わず半身はんしんおこそうとする折こそあれ、くらい、くら
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ましてや往来ゆきゝの人は通身みうち雪にいられて少時すこしのま半身はんしんゆきうづめられて凍死こゞえしする㕝、まへにもいへるがごとし。
玉太郎は、ベットの上に半身はんしんを起した。そのときだった。彼はポチのほえる声を、たしかに耳にしたと思った。しかしそれは、遠くの方で聞えた。どこであるか分らない。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこには洋館の入口の扉を半ば開けて島田髷しまだまげの女が半身はんしんあらわしていた。それは昨夜ゆうべ飲み物をはこんで来た女であった。謙作は昨夜ゆうべの家の前に帰っていることに気がいた。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
今、この海の何処どこかで、半身はんしん生温なまぬるい水の上に乗出したトリイトンが嚠喨りゅうりょうと貝殻を吹いている。何処か、この晴れ渡った空の下で、薔薇ばら色の泡からアフロディテが生れかかっている。
今世こんせ主君きみにも未來みらい主君きみにも、忠節ちうせつのほどあらはしたし、かはあれど氣遣きづかはしきは言葉ことばたくみにまことくなきがいまつねく、誰人たれびと至信ししん誠實せいじつに、愛敬けいあいする主君きみ半身はんしんとなりて
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
再び刀をつえ半身はんしんを屋根の方へ突出してよくよく見れば、消えようとして更にあかしきりまたたきする石燈籠の火影ほかげにそれは誰あろう、先ほど湯呑に都鳥の菓子を持添えて来たかのお園ではないか。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
障子しょうじれるひかりさえない部屋へやなかは、わずかにとなりから行燈あんどん方影かたかげに、二人ふたり半身はんしんあわせているばかり、三ねんりでったあにかおも、おせんははっきり見極みきわめることが出来できなかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
片足を瓔珞ようらく鈴環れいかんにかけ、そろそろと手をのばして、屋根の青銅瓦せいどうがわら半身はんしんほど乗りだしたところで、小文治こぶんじのさしだしたやりをつかんでやる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さうたま乳房ちぶさにも、糸一条いとひとすぢあやのこさず、小脇こわきいだくや、彫刻家てうこくか半身はんしんは、かすみのまゝに山椿やまつばきほのほ𤏋ぱつからんだ風情ふぜい
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ましてや往来ゆきゝの人は通身みうち雪にいられて少時すこしのま半身はんしんゆきうづめられて凍死こゞえしする㕝、まへにもいへるがごとし。
それには枝に後半身こうはんしんを巻きつけたねずみ色の縞蛇しまへびたけの一けん位もありそうなのが半身はんしんおどりあがるように宙に浮かしながら、武士の眼の前に鎌首をもったてて赤い舌を見せていた。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
車から降りる時、歩哨ほしょうの大きい声がおそいかかって来ました。見ると半身はんしんを衛門の上に輝く煌々こうこうたる門灯に照し出された歩哨が、剣付銃をこっちへ向けて身構えをしていました。
壊れたバリコン (新字新仮名) / 海野十三(著)
おそる/\搖籃ゆれかごから半身はんしんあらはして下界げかいると、いま何處いづこそら吹流ふきながされたものやら、西にしひがし方角ほうがくさへわからぬほどだが、矢張やはり渺々べう/\たる大海原おほうなばら天空てんくう飛揚ひやうしてるのであつた。
お葉はいよいよ驚いて、縁から半身はんしん乗出のりだした。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
やや暫し、あしの洲に半身はんしんを没して、じっと行手を見定めていたが、何思ったか、俄かに芦をき分けて走りだした。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かたほそく、片袖かたそでをなよ/\とむねにつけた、風通かぜとほしのみなみけた背後姿うしろすがたの、こしのあたりまでほのかえる、敷居しきゐけた半身はんしんおびかみのみあでやかにくろい。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
二人は裏通うらどおりに出て左の方へ五六けん戻ったが、黒い裏門らしい扉をあけて山西の姿がさきにかくれた。女は半身はんしんを入れて門の扉を締めながら、白い小さな顔を岩本の方へ見せて隠れた。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
和尚なだれに押落おしおとされ池に入るべきを、なだれのいきほひに手鞠てまりのごとく池をもはねこえて掘揚ほりあげたる雪に半身はんしんうづめられ、あとさけびたるこゑに庫裏くりの雪をほりゐたるしもべらはせきたり
とつぜんハルクは、半身はんしんをおこすと、竹見の手から、ナイフをうばった。が、ナイフをうばったというだけのことだ。そのまま、また土間どまにかおを伏せて、うんうんと、高くうなりだした。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
小菊を一束、寒中の事ゆえ花屋のむろのかこいですな——仏壇へお供えなさるのを、片手に、半身はんしんで立ちなすった、浅葱あさぎの半襟で、横顔が、伏目は、特にお優しい。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「寒い、寒い、えらい目にあったよ」女房は寒そうにびしょぬれの傘のかしらつかんで入って来たが、蒲団をはねけて半身はんしんを起した主翁を見つけると、「ほんとに恐がりねえ、恥かしくはないの」
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
いまにもはるか石壇いしだんへ、面長おもながな、しろかほつまほそいのが駈上かけあがらうかとあやぶみ、いらち、れて、まどから半身はんしんしてわたしたちに、慇懃いんぎんつてくれた。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と、半身はんしんを斜めにして、あふれかゝる水の一筋ひとすじを、たましずくに、さっと散らして、赤く燃ゆるやうな唇にけた。ちやうど渇いても居たし、水のきよい事を見たのは言ふまでもない。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ひとえぐられては半身はんしんをけづりられたもおなことこれがために、第一だいいちさく不用ふようした。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「いけ可煩うるせ畜生ちくしやうぢやねえか、畜生ちくしやう!」と、怒鳴どなつて、かさはらつてむつくりと半身はんしん起上おきあがつて、かしてるとなにらぬ。くせ四邊あたりにかくれるほどな、びたくさかげもなかつた。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おなじ半帕ハンケチでも、金澤かなざは貸本屋かしほんや若妻わかづまふのが、店口みせぐち暖簾のれんかたけた半身はんしんで、でれりとすわつて、いつも半帕ハンケチくちくはへて、うつむいてせたは、永洗えいせん口繪くちゑ艷冶えんやてい眞似まね
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
れた手を間近まぢかな柳の幹にかけて半身はんしんを出した、お品は与吉を見て微笑ほほえんだ。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)