立上たちあが)” の例文
可愛かはいさうに景氣けいきのよいこゑ肺臟はいざうからこゑいたのは十ねんぶりのやうながして、自分じぶんおもはず立上たちあがつた。れば友人いうじんM君エムくんである。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
らば』とドードてう嚴格げんかくつて立上たちあがり、『この會議くわいぎ延期えんきされんことを動議どうぎします。けだし、もつとはや有効いうかう治療ちれう方法はうはふが——』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
よろめくように立上たちあがったおせんは、まど障子しょうじをかけた。と、その刹那せつなひくいしかもれないこえが、まどしたからあがった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
金工かざりや仕事場しごとばすわって、黄金きんくさりつくっていましたが、家根やねうえうたっているとりこえくと、いいこえだとおもって、立上たちあがってました。
女客——幽里子は、三枚の手紙を丁寧に畳むと、手提袋から出した可愛らしい封筒に入れて、静かに立上たちあがりました。そして
それで怒って突然立上たちあがって女を殴り大騒ぎをやらかしたことがある。義理人情というものは大概この程度に不自然なものだ。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
立上たちあがりつゝ。今汝は汝のために燃ゆるわが愛の大いなるをさとるをえむ、そは我等の身の空しきを忘れて 一三三—一三五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
悠然いうぜんとして巻煙草まきたばこを吸ひ初める。長吉ちやうきちは「さうか」と感服したらしく返事をしながら、しか立上たちあがつたまゝに立見たちみ鉄格子てつがうしから舞台のはうながめた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ちごしづかに寢床ねどこうつして女子をなごはやをら立上たちあがりぬ、まなざしさだまりて口元くちもとかたくむすびたるまゝ、たゝみやぶれにあしられず
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
敦夫は臥破がばと起上った。そして記録の紙を一枚一枚、光に透かして叮嚀ていねいに見ていたが、急にそれを投出して立上たちあがった。
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
すこぎ、ミハイル、アウエリヤヌヰチはかへらんとて立上たちあがり、玄關げんくわん毛皮けがは外套ぐわいたう引掛ひつかけながら溜息ためいきしてふた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
わたくしだまつて點頭うなづくと夫人ふじんしづか立上たちあがり『皆樣みなさまのおみゝけがほどではありませんが。』とともなはれてピアノだいうへのぼつた。
あゝとばかり我れ知らず身を振はして立上たちあがり、よろめく體を踏みしむる右手の支柱、曉の露まだ冷やかなる内府の御墳みはか、哀れ榮華十年の遺物かたみなりけり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
船頭の老夫じいさんともの方に立上たちあがって、戕牁かしぐいに片手をかけて今や舟を出そうとしていながら、片手を挙げて、乗らないか乗らないかといって人を呼んでいる。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
私はとっさに、汽笛きてきをならし、制動機せいどうきに手をかけて、汽車をめようとしました。火夫かふたちもみな立上たちあがりました。むこうの汽車でも、汽笛きてきをならしています。
ばかな汽車 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
小児等こどもらは絶えず唄ふ。いづれも其のあやしき物の姿を見ざるおもむきなり。あとの三の烏でて輪に加はる頃より、画工全く立上たちあがり、我を忘れたるさまして踊りいだす。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
河岸へ立上たちあがりますに、ブーと吹きおろす寒風に袖もたもともつらゝのように氷って、ずぶ濡れゆえ、えいが醒めてみると夢のような心もちで、判然はっきり分りませんけれども
ゴットフリートはびっくりし、感動かんどうして、「なんだ、何だ?」とくりかえしながら、おなじように彼をきしめた。——それからかれ立上たちあがり、子供こどもの手をとっていった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
この人若いに似合にあわ沈着おちついたちゆえ気をしずめて、見詰めおりしが眼元めもと口元くちもと勿論もちろん、頭のくしから衣類までが同様ひとつゆえ、始めて怪物かいぶつなりと思い、叫喚あっと云って立上たちあが胖響ものおと
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
引明ひきあけて金三四十兩懷中ふところに入れ立上たちあがる處に横面よこつらひやりとさはる物あり何かとうたがひ見れば縮緬ちりめん單物ひとへもの浴衣ゆかた二三枚と倶に衣紋竹えもんだけに掛てありしにぞどくくはさら迄と是をも引外ひきはづして懷中へ捻込ねぢこみ四邊あたりうかゞひ人足の絶間たえま
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そうして二人ふたりは、いつしよに椅子いす立上たちあがつてしまつた。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
髑髏どくろあたへ、いでや出陣しゆつぢん立上たちあがれば、毒龍どくりようふたゝさく
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
 (太吉はにわか立上たちあがりて、再び父に取縋とりすがる。)
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
健気けなげな姉娘の須美は父の声のもと立上たちあがると
おさなき灯台守 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
健三はすぐ立上たちあがろうとした。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
俺達おれたち立上たちあがりマントを
紛れもないお染の品——と思うと、ツイ抱き締めるように立上たちあがりました。お染は此処ここを通って、何処どこへ行ったことでしょう。
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
あいちやんは爪先つまさき立上たちあがり、きのこふちのこくまなくうちはしなくもそのたゞちにおほきなあを芋蟲いもむし出合であひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
すこぎ、ミハイル、アウエリヤヌイチはかえらんとて立上たちあがり、玄関げんかん毛皮けがわ外套がいとう引掛ひっかけながら溜息ためいきしてうた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
長吉ちやうきち後姿うしろすがた見送みおくるとまたさらうらめしいあの車を見送みおくつた時の一刹那せつな思起おもひおこすので、もうなんとしても我慢がまん出来できぬといふやうにベンチから立上たちあがつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
吾等われらおどろいて立上たちあがる、途端とたんもあらせず! ひゞきたちま海上かいじやうあたつて、天軸てんじく一時いちじくだぶがごとく、一陣いちぢん潮風ていふうなみ飛沫とばしりともに、サツと室内しつない吹付ふきつけた。
さて食事がすむと挨拶して博士は立上たちあがった。そして傍の男になにか命令すると静かに元のドアから次の間へ去った。
骸骨島の大冒険 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
田端たばた停車ていしやしたときその立上たちあがつて、夕靄ゆうもやにぽつとつゝまれた、あめなかなるまちはうむかつて、一寸ちよつと会釈ゑしやくした。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
男はれているから、さからわなかった。落付いて立上たちあがって、並んで外へでた。そのとき女は椅子を踏み台にしてスタンドの卓をとび降りて跣足はだしでとびだした。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
つにさてじようさまのこゝろくみとりたまひてかとうれしきにもこゝろぽそく立上たちあがをとこかほそとうかゞひてホロリとこぼすなみだ
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おりから夕餉ゆうげぜんむかおうとしていたおれんは、突然とつぜんにしたはし取落とりおとすと、そのまま狂気きょうきしたように、ふらふらッと立上たちあがって、跣足はだしのまま庭先にわさきへとりてった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ト老僧は奥を指さして極めて物静ものしずかに優しくいってくれた。大噐氏は自然に叩頭おじぎをさせられて、その言葉通りになるよりほかはなかった。洋燈ランプを手にしてオズオズ立上たちあがった。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
萩原様は嬉しそうな顔をしていると其の側に丸髷まるまげの女がいて、此奴こいつやせて骨と皮ばかりで、ズッと立上たちあがって此方こちらへくると、矢張やっぱり裾が見えないで、腰から上ばかり、まるで絵にいた幽霊の通り
稍〻やゝありて太息といきと共に立上たちあがり、昔ありし我が屋數やしきを打見やれば、其邊は一面の灰燼となりて、何處をそれとも見別みわけ難し。さても我父は如何にしませしか、一門の人々と共に落人おちうどにならせ給ひしか。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
また二箇ふたつ髑髏どくろを与え、いでや出陣と立上たちあがれば
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
立上たちあがる。)夢でも見たのか。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
助けてやらん是より道程みちのり何程なにほどあるやと問ひければ八五郎然樣さやうさ四里八町と申せども多分たぶん中頃なかごろで爲す仕事ならん一筋道すぢみちゆゑ御出おいでなされば間違ひなけれ共餘程時刻もおくれたれば贅足むだあしならんといふに半四郎は最早もはや立上たちあが假令たとへ贅足むだあしになればとて元々なり某し一ト走りに追着おひつきたすけてやらん大方おほかた渠等かれら怪我けがもあらんにより本道ほんだう外科げくわ兩人の醫師を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
お秋は立上たちあがると、小袖を取って投げかけるように着ました。キリキリと帯を締めると、小褄こづまをとって、二つ三つ足踏みを
十字架観音 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
舞台の奥から拍子木ひやうしぎおとが長いを置きながら、それでも次第しだいに近くきこえて来る。長吉ちやうきち窮屈きうくつこしをかけたあかりの窓から立上たちあがる。するときちさんは
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
『あら、あら、あのおとは——。』と日出雄少年ひでをせうねんをまんまるにして母君はゝぎみやさしきかほあふぐと、春枝夫人はるえふじん默然もくねんとして、その良君をつとる。濱島武文はまじまたけぶみしづかに立上たちあがつて
外部ぐわいぶだとか、内部ないぶだとか……。いやわたくしには然云さういことすこしもわからんです。わたくしつてゐることたゞ是丈これだけです。』と、かれ立上たちあがり、おこつた院長ゐんちやうにらける。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
いまはと決心けつしんほぞかたまりけんツト立上たちあがりしがまた懷中ふところをさしれて一思案ひとしあんアヽこまつたと我知われしらず歎息たんそくことばくちびるをもれて其儘そのまゝはもとのとほ舌打したうちおとつゞけてきこえぬ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
三日月みかづきあわひかりあお波紋はもんおおきくげて、白珊瑚しろさんごおもわせるはだに、くようにえてゆくなめらかさが、秋草あきぐさうえにまでさかったその刹那せつな、ふと立上たちあがったおせんは
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
悠々ゆうゆうとしていった時、少なからず風采ふうさい立上たちあがって見えた。勿論もちろん対手あいてくだんの親仁だけれど。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
フ相談つかぬは知れた事、百両出すなら呉れてもやろうがとお辰をとら立上たちあがすそを抑え、吉兵衛の云う事をまあ下に居てよく聞け、人の身を売買うりかいするというは今日こんにちの理に外れた事
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)