無事ぶじ)” の例文
わたしが、お約束やくそくをいたします。いさましい、とお船出ふなでから、あなたのおかえりなさるを、氏神かみさまにご無事ぶじいのって、おちしています。」
海のまぼろし (新字新仮名) / 小川未明(著)
でもまあ無事ぶじでよかつた。人間にんげんめ! もうどれほど俺達おれたち仲間なかまころしやがつたか。これを不倶戴天ふぐたいてんてきとゆはねえで、なにふんだ。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
わたしゑりかぶつてみゝふさいだ! だれ無事ぶじだ、とらせてても、くまい、とねたやうに……勿論もちろんなんともつてはません。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さて最初さいしょ地上ちじょううまでた一人ひとり幼児おさなご——無論むろんそれはちからよわく、智慧ちえもとぼしく、そのままで無事ぶじ生長せいちょうはずはございませぬ。
このぶんで今年の冬を無事ぶじに経過し得ればたしかなものだと、人もそう思い自分もそう思うた。けれどもこれは空頼そらだのみであった。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そしてその竹童も、無事ぶじにこのたちをやぶってげのびたと卜斎ぼくさいいて、てきでも味方みかたでもないが、なんとなくうれしくおぼえた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
造船所ざうせんじよない一部いちぶ貯藏ちよぞうされてあつたのだが、あゝ、昨夜さくや大海嘯おほつなみではその一個いつこ無事ぶじではるまい、イヤ、けつして無事ぶじはづはありません。
「あのやばん人どもは、だれだって見つかりしだい、殺してたべてしまうのです。無事ぶじににげ出して来たのは、きっとあなた一人でしょう。」
それは、新吉が、ファットマンの鼻の上から無事ぶじに下へ下りたとき、れい団長だんちょうがいきなりんで来て、新吉の横面よこつらをぴしゃりとなぐったことでした。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
ところが、つかまえられる鳥よりは、つかまえられないで無事ぶじに天の川のすなの上にりるものの方がおおかったのです。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
つぎ週間しうかんには、小六ころくず、佐伯さへきからの音信たよりもなく、宗助そうすけ家庭かていまた平日へいじつ無事ぶじかへつた。夫婦ふうふ毎朝まいあさつゆひかころきて、うつくしいひさしうへた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ロミオ なに、無事ぶじで、勝誇かちほこって? マーキューシオーがころされたのに! 此上このうへ禮儀れいぎ寛大くわんだい天外てんぐわいなげうった。
その年うるう五月五日、咸臨丸かんりんまる無事ぶじ帰朝きちょうし、かん浦賀うらがたっするや、予が家の老僕ろうぼくむかいきたりし時、先生老僕ろうぼくに向い、吾輩わがはい留守中るすちゅう江戸において何か珍事ちんじはなきやと。
「そうか。じゃあかってにおし。わたしはただおまえさんのためにと思っただけだ。さようなら。無事ぶじで」
火災かさいさへなければ無事ぶじたすさるべきものまで燒死しようし不幸ふこうるにいたるものが多數たすうしようずるからである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
「ピストル」猟銃も亦あめ湿うるうてさびを生ぜる贅物ぜいぶつとなり、唯帰途の一行無事ぶじ祝砲しゆくはうはりしのみ。
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
するとあいちやんはなんおもつたか一生懸命しやうけんめいしてたちま欝蒼こんもりしたもりなか無事ぶじみました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
寺田屋には無事ぶじ平穏へいおんな日々が流れて行ったが、やがて四、五年すると、西国方面の浪人たちがひそかにこの船宿に泊ってひそびそと、時にはあたりはばからぬ大声を出して
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
それにでえいち、あのこえがいけやせん。おせんの浴衣ゆかたかたからすべるのを、ていなすったまでは無事ぶじでげしたが、さっといでりると同時どうじに、きゃっとこえた異様いよう音声おんせい
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
それとも此様こんなのが実際じつさい幸福かうふくなので、わたしかんがへてゐたことが、ぶんぎたのかもれぬ。が、これで一しやうつゞけばまづ無事ぶじだ。あつくもなくつめたくもなし、此処こゝらが所謂いはゆる平温へいおんなのであらう。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
この風波にさらされて発育はついくして来た末実りが、将来幸福に生きて行けるであろうか、今日までは無事ぶじらしく過ぎて来たが、親の方もかなり疲れて七つさがりになって来ているので
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
おゝあのよく泣いて母を困らせたせがれはどうしたろう。あの小さな、かわゆいやつは無事ぶじに育っているだろうか。(間)もしや清盛きよもりが。(ふるえる)いや、そんなことは決してない。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
みなのぞきていさゝかも家内に故障さゝはりなく平安無事ぶじなる者をえらび、神㕝じんじの前のあけ神主沐浴斎戒もくよくさいかい斎服さいふくをつけて本社にのぼり、えらびたる人々の名をしるして御鬮みくじにあげ、神慮しんりよまかせて神使とす。
雲助は乘掛のりかゝりつゝ打のめしたるをりからに昌次郎は歸り來り拔手も見せず雲助が肩先かたさきふかく切付ればウンとたふれるを上臺は漸々やう/\起上おきあがり一息ほつとつき親子三人はかほを見合せ互ひに無事ぶじよろこびつゝやがて四傍を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あるいてとほ旅人たびびと無事ぶじいのるためには、道祖神だうそじんまつりました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
眼裏がんりちりあれば三界はせまく、心頭しんとう無事ぶじなれば一しょうかんなり」
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
どうかかうか、今月も無事ぶじに暮らしたりと
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「なに、心配しんぱいすることはない。きっと、無事ぶじかえってくるから。」と、おとうさんはこたえて、いくらやめさせようとしてもだめでした。
青いランプ (新字新仮名) / 小川未明(著)
うだ、んだとへば、生死いきしにわからなかつた、おまへ無事ぶじかほうれしさに、張詰はりつめたゆるんで落胆がつかりして、それきりつたんだ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
無事ぶじであつてなによりじや。そのくろおほきなやまとは、くじらぢやつた。おそろしいこと、おそろしいこと、いただけでもぞつとする」
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
皇孫命様こうそんのみことさま竜神様りゅうじんさままた産土神様うぶすなかみさま礼拝らいはいし、今日きょうにち任務つとめ無事ぶじつとめさせてくださいますようにと祈願きがんめることにしました。
わたくしんだか心配しんぱいなんです、稻妻いなづまがいくらつよくつたつて、あの澤山たくさん猛獸まうじうなかを、無事ぶじ海岸かいがんいへかへこと出來できませうか。
「——この山城やまじろは三だんぐるわおくとりでのものは毒水どくみずをのんでたおれたにしろ、まだ八ごう外城そとじろのものは、無事ぶじでなにも知らずにいるかも知れない」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さいはひ小火ぼやのまゝでめ、下敷したじきになつた六十五名中ろくじゆうごめいちゆう五十八名ごじゆうはちめい無事ぶじたすされたが、のこりの七名しちめい遺憾いかんながら崩壞物ほうかいぶつ第一撃だいいちげきによつて即死そくししたのであつた。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
「どうせまた雪はってくるよ。とちゅうで雪に会ってはたまらない。夜はよけい寒くなる。今夜はここでくらすほうが無事ぶじだ。足のぬれないだけでもいいじゃないか」
出京しゆつきやう當座たうざは、大分だいぶん身體からだおとろへてゐたので、御米およね勿論もちろん宗助そうすけもひどく其所そこ氣遣きづかつたが、今度こんどこそはといふはら兩方りやうはうにあつたので、はりのあるつき無事ぶじ段々だん/\かさねてつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
一行驚喜けうきして曰く之れ即ち会津街道なりと、人影を見ざるもすでに村里にるのおもひをなせり、歓呼くわんこして一行の無事ぶじしゆくす、昨暮遠望えんばうしたる一小板屋は尚之より岩代の方角にむかつて一里余のとほきに在り
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
かたはらより後藤はコリヤ八五郎殿まことに久しぶりなり貴樣の世話に成しもやゝ十七八年にもなるべし思へば一と昔し半の餘なるが貴樣の娘は無事ぶじ成人せいじんせしなるべし最早もはや年頃としごろゆゑむこにてももらひしかかはる事もなきやと尋ねられ八五郎は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「どうか、この荷物にもつ無事ぶじ先方せんぽうとどけてくれ。そうすればかえりにあんころもちをってやるぞ。」と、おとこは、うしにいったのであります。
ある男と牛の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
かれさへあらずば無事ぶじなるべきにと、各々おの/\わがいのちをしあまりに、そのほつするにいたるまで、怨恨うらみ骨髓こつずゐてつして、法華僧ほつけそうにくへり。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そして、まだこのとりでにゆきのあるころ、山をくだって京都へ向かった伊那丸の上にも、どうぞ、この山のように無事ぶじがあるように——といのった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またかの天女てんによごと春枝夫人はるえふじんが、萬一まんいちにも無事ぶじであつて、このいさましい姿すがたたならば、どんなにおどろよろこことであらう。
わたくしこころからほがらかな気分きぶんになって、ふたたれい小娘こむすめみちびかれて玄関げんかんで、そこからはただ一途中とちゅう通過つうかして、無事ぶじ自分じぶんやま修行場しゅぎょうばもどりました。
またその蒼々あを/\としたおほきなうみ無事ぶじにわたりつて、をかからふりかへつてそのうみ沁々しみ/″\ながめる、あの氣持きもちつたら……あのときばかりは何時いつにかゐなくなつてゐる友達ともだち親族みうちもわすれて
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
しか折角せつかく此所こゝまでながら、此所こゝきみかほないのは遺憾ゐかんだから、この手紙てがみ次第しだい一寸ちよつといからいといふ端書はがきた。無事ぶじ退屈たいくつ宗助そうすけうごかすには、この十數言すうげん充分じゆうぶんであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「ああよく無事ぶじでいてくれた」とかれはたびたび言った。
「おじいさん、あんまりきゅうじゃないか。名残惜なごりおしいな。しかし、めでたいことで、なによりけっこうだ。無事ぶじらさっしゃい。」
なつかしまれた人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
一杯いつぱい……無事ぶじ直江津なほえつ上陸じやうりくしたが、時間じかんによつて汽車きしや長野ながのまつた。扇屋あふぎやだつたか、藤屋ふぢやだつたか、土地とちほしくらかつた。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いもと無事ぶじ明日あすあさかへるとあつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そして、どうか無事ぶじかえってくれるようにとっていましたけれど、ついに、うみていったせがれは、それぎりかえってきませんでした。
一本の銀の針 (新字新仮名) / 小川未明(著)