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法華僧
渠さへあらずば
無事なるべきにと、
各々我命を
惜む
餘に、
其死を
欲するに
至るまで、
怨恨骨髓に
徹して、
此の
法華僧を
憎み
合へり。
斯く
言ひつゝ
法華僧は
哄然と
大笑して、
其まゝ
其處に
肱枕して、
乘客等がいかに
怒りしか、いかに
罵りしかを、
渠は
眠りて
知らざりしなり。
恰も
加能丸の
滅亡を
宣告せむとて、
惡魔の
遣はしたる
使者としも
見えたりけむ、
乘客等は二
人三
人、
彼方此方に
額を
鳩めて
呶々しつゝ、
時々法華僧を
流眄に
懸けたり。