障子しやうじ)” の例文
障子しやうじを細目に開けて見ると、江戸中の櫻のつぼみが一夜の中にふくらんで、いらかの波の上に黄金色の陽炎かげろふが立ち舞ふやうな美しい朝でした。
かんがへてもたがい。風流人ふうりうじんだと、うぐひすのぞくにも行儀ぎやうぎがあらう。それいた、障子しやうじけたのでは、めじろがじつとしてようはずがない。
湯どうふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
返事がない。わたしは胸さわぎした。立つて行つて障子しやうじを開けて見ると、黄ろい電燈の下に、秋子が包みを持つて悄然しよんぼり立つてゐる。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
したがつて出來上できあがつたものには、所々ところ/″\のぶく/\が大分だいぶいた。御米およねなさけなささうに、戸袋とぶくろけたての障子しやうじながめた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そして、そうつと障子しやうじの蔭から彼をばのぞいた。彼は笑顔でおいで/\をしたが子供はつひに奥の方の母親のひざもとへ逃げて行つてしまつた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
なかに人がるだらう。としからんやつで、指の先へつばけ、ぷつりと障子しやうじへ穴をのぞき見て、弥「いやアなにつてやアがる。 ...
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
それからまたはこころがしたやうな、へだての障子しやうじさへちひさないへをんなをとこみちびくとて、如何どうしても父母ちゝはゝ枕元まくらもとぎねばらぬとき
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
窓の障子しやうじは冬の日をうけて、其光が部屋の内へ射しこんで来たのに、丑松は枕頭まくらもとを照らされても、まだそれでも起きることが出来なかつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
かへで 「若楓わかかへで茶色になるも一盛ひとさかり」——ほんたうにひと盛りですね。もう今は世間並みに唯水水しい鶸色ひわいろです。おや、障子しやうじがともりました。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しようと無き事いはせし物なる可し夫にて思ひ合すれば先刻營業あきなひの歸りみち元益坊主の裏手を通るとには障子しやうじ開放あけはなし庄兵衞と二人してならんで酒をのんでを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
きやくさまは此處こゝにとしめしたるまゝ樓婢ろうひいそきたり障子しやうじそと暫時しばしたゆたひしがつべきことならずと
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
わたしどもははしら障子しやうじほねくろずんだ隔座敷ざしきへとほされた。とこには棕梠しゆろをかいたぢくかヽつてゐたのをおぼえてゐる。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
この風と共に寒さは日にまし強くなつて閉切しめきつた家の戸や障子しやうじ絶間たえまなくがたり/\と悲しげに動き出した。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
いつもりの玄竹げんちくると、但馬守たじまのかみ大抵たいていむかひではなしをして障子しやうじには、おほきな、『××の金槌かなづち』と下世話げせわ惡評あくひやうされる武士髷ぶしまげと、かたあたまとがうつるだけで
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ひとゝせ是を風入れするためみせにつゞきたるしきの障子しやうじをひらき、年賀の帖をひらならべおきたる所へ友人いうじん来り、年賀の作意さくい書画のひやうなどかたりゐたるをりしも
さうつぶやきながら、わたし部屋へやすみからまくらめぐらして、あかるい障子しやうじはうにそのおもてけた。南向みなみむきといふことなんといふ幸福かうふくことであらう、それはふゆ滋養じやう大半たいはん領有りやういうする。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
障子しやうじ一重ひとへの次のに、英文典を復習し居たる書生の大和、両手に頭抱へつゝ、涙のあられポロリ/\
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ふとした拍子ひやうしに、縁側ゑんがは障子しやうじ硝子戸ガラスどごしにえた竹村たけむら幼児えうじに、奈美子なみこはふと微笑ほゝゑみかけた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
何だか新しいうしほの滿ちて來るやうな、さかんな、爽快たうかいな感想が胸にく。頭の上を見ると、雨戸あまどふし穴や乾破ひわれた隙間すきまから日光が射込むで、其の白い光が明かに障子しやうじに映ツてゐる。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
むかふの三層楼さんがいたか部屋へや障子しやうじに、何時いつまでも何時いつまでもりつける辛気しんきくささ
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
其の弟子八五成光なりみつなるもの、興義が八六神妙しんめうをつたへて八七時に名あり。八八閑院の殿との八九障子しやうじにはとりゑがきしに、生けるとりこの絵を見てたるよしを、九〇古き物がたりにせたり。
がた/\、めり/\、みし/\と、物を打ちこはす音がする。しかと聴き定めようとして、とこの上にすわつてゐるうちに、今毀してゐる物が障子しやうじふすまだと云ふことが分かつた。それにまじつて人声がする。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
静なる朝の障子しやうじの破れ目より菊の花などのぞくもかはゆ
かろきねたみ (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
枕辺まくらべ障子しやうじあけさせて
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
キヤツとく、と五六しやく眞黒まつくろをどあがつて、障子しやうじ小間こまからドンとた、もつとうたくはへたまゝで、ののち二日ふつかばかりかげせぬ。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かれなにをする目的めあてもなくへやなかがつた。障子しやうじけておもてて、門前もんぜんをぐる/\まはつてあるきたくなつた。はしんとしてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
むかしの主人を憐んで、助け起すやうにして、暗い障子しやうじの蔭へ押隠した。其時、口笛を吹き乍ら、入つて来たのは省吾である。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
出窓の前の青桐あをぎりとほして屋根庇やねひさしの陰に、下座敷のひつそりした障子しやうじの腰だけが見えた。其処そこからは時々若夫人の声が響いて、すぐに消えるのだつた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
彼は一時間ばかりたつうちに、文字もじ通り泥酔でいすゐした。その結果、ほとんど座に堪へられなくなつたから、ふらふらする足を踏みしめてそつと障子しやうじの外へ出た。
東京小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
をしまず大工だいく泥工さくわんを雇ひ俄に假玄關かりげんくわんを拵らへ晝夜の別なく急ぎ修復しゆふくを加へ障子しやうじ唐紙からかみたゝみまで出來に及べば此旨このむね飛脚ひきやく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
村落むらもの段々だん/\瞽女ごぜとまつた小店こみせちかくへあつまつて戸口とぐちちかつた。こと/″\開放あけはなつて障子しやうじはづしてある。瞽女ごぜ各自かくじ晩餐ばんさんもとめてつたあとであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
これ、たれたよ……だれだ、其処そこあなけたのは、けしからん人だな、張立はりたて障子しやうじへぽつ/\あなけて乱暴らんばう真似まねをする、だれだな、のぞいちやアいかん、だれだ。
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
ひとゝせ是を風入れするためみせにつゞきたるしきの障子しやうじをひらき、年賀の帖をひらならべおきたる所へ友人いうじん来り、年賀の作意さくい書画のひやうなどかたりゐたるをりしも
をんなまど障子しやうじひらきて外面そともわたせば、むかひののきばにつきのぼりて、此處こゝにさしかげはいとしろく、しもひき身内みうちもふるへて、寒氣かんきはだはりさすやうなるを
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
障子しやうじを二三枚ハネ飛ばして、椽側から飛び降りると、まつしぐらに曲者の跡を追つかけたのです。
あたゝかおだやか午後ひるすぎの日光が一面にさし込むおもての窓の障子しやうじには、折々をり/\のきかすめる小鳥の影がひらめき、茶のすみ薄暗うすぐら仏壇ぶつだんの奥までがあかるく見え、とこの梅がもう散りはじめた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
竪矢たてやあかいろが、ひろ疊廊下たゝみらうかから、黒棧腰高くろさんこしだか障子しやうじかげえようとしたとき
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ひかりいま頑固かたくなあさこゝろいて、そのはれやかな笑顏ゑがほのうちに何物なにものをもきずりまないではかないやうに、こゝをけよとばかりぢられた障子しやうじそとかゞやきをもつてつてゐる。
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
口三味線くちさみせん浄瑠璃じやうるりには飛石とびいしづたひにちかづいてくるのを、すぐわたしどもはきヽつけました。五十三つぎ絵双六ゑすごろくをなげだして、障子しやうじ細目ほそめにあけたあねたもとのしたからそつと外面とのもをみました。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
「イヽエ、先生どう致しまして」と老女は縁の障子しやうじを開けぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
へや障子しやうじをはりかへぬ
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
やなぎみどりかして、障子しやうじかみあたらしくしろいが、あきちかいから、やぶれてすゝけたのを貼替はりかへたので、新規しんき出來できみせではない。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼等かれら障子しやうじ美濃紙みのがみふのにさへ氣兼きがねをしやしまいかとおもはれるほど小六ころくからると、消極的せうきよくてきくらかたをしてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
祖父おぢいさんの書院しよゐんまへには、しろおほきなはな牡丹ぼたんがあり、ふるまつもありました。つきのいゝばんなぞにはまつかげ部屋へや障子しやうじうつりました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
当時の日夏君の八畳の座敷は御同様借家しやくやに住んでゐた為、すつかり障子しやうじをしめ切つたあとでも、とこの壁から陣々の風の吹きこんで来たのは滑稽こつけいである。
「仮面」の人々 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
障子しやうじもないすゝつた佛壇ぶつだんはおつぎを使つかつて佛器ぶつきその掃除さうぢをして、さいきざんだ茄子なすつたいもと、さびしいみそはぎみじかちひさな花束はなたばとをそなへた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
受取屏風圍びやうぶかこひの内へひかへさせおき平民の分は白洲しらすたまりへ控へたり時に案内に隨ひ各自おの/\吟味の席にまかり出れば白洲には雨障子しやうじを高く掛渡かけわたし御座敷むき的歴きらびやかなる事まことに目を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
甚樣じんさまわたしの部屋へやへもおいでなされ、玉突たまつきしてあそびますほどに、と面白おもしろげにさそひて姉君あねきみはやねがしにはたはたと障子しやうじてヽ、姉樣ねえさまこれ、と懷中ふところよりなか
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いんきんだむしの附着くつゝいてる箱は川原崎かはらさきごんらういたてえ……えゝすべつてころんだので忘れちまつた、醋吸すすひの三せい格子かうし障子しやうじに……すだれアハヽヽヽ、おいうした、しつかりしねえ。
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「それから、お萬と來ちやいか物喰ひで大變な女で、宅の市と親しくなつて、伊八との間に喧嘩が絶えなかつたさうですよ。伊八が毆つて、眼の障子しやうじを落したのも、あやまちの功名こうみやうで」