ねん)” の例文
戦争せんそうが、はじまって、純吉じゅんきち出征しゅっせい召集しょうしゅうされたとき、父親ちちおやは、ただ息子むすこが、むらからともだちにけをらぬことをねんじたのでした。
からす (新字新仮名) / 小川未明(著)
わしはその前刻さつきからなんとなくこの婦人をんな畏敬ゐけいねんしやうじてぜんあくか、みち命令めいれいされるやうに心得こゝろえたから、いはるゝままに草履ざうり穿いた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
文庫ぶんこ御宅おたくのでせうね。いんでせうね」とねんして、にもらない下女げぢよどくがらしてゐるところへ、最前さいぜん仲働なかばたらき
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あとではむしいるまでも羞恥はぢ恐怖おそれとそれから勘次かんじはゞかることからつてきた抑制よくせいねんとがあわてゝもきらせるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
言はれて内室ないしつはひつて見ると成程なるほど石は何時いつにか紫檀したんだいかへつて居たので益々ます/\畏敬ゐけいねんたかめ、うや/\しく老叟をあふぎ見ると、老叟
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
よび右の話をなしたるに上方の衆は關東者とちがねんいれ候へば物をかたくする心ならんとて松葉屋桐屋共に立出たちいで對面たいめんに及びしかば大金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
故に慾心と云ふもの仰山ぎようさん起り來て、天理と云ふことをさとることなし。天理と云ふことがたしかわかつたらば、壽殀何ぞねんとすることあらんや。
遺教 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
当時、諭吉はきゅう中津藩なかつはんの士族にして、つと洋学ようがくに志し江戸に来て藩邸内はんていないに在りしが、軍艦の遠洋航海えんようこうかいを聞き、外行がいこうねんみずから禁ずるあたわず。
おや/\とおもひながら、なほねんれてつちつてると、把手とつての一のみけて完全くわんぜんなる土瓶どびんであつた。(第三圖イ參照)
「だがおまえさんは、そのチビさんがあした家に帰ると、受けあってくれるでしょうね。」と、隊長はねんをおして言いました。
あいちやんはねんすやうにはれたのを面白おもしろからずおもつて、なにほか話題はなしはじめやうとして、れかれかとかんがへてました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
君等きみら其時そのとき擧動ふるまひ賞讃しようさんするのをるにつけても、じつ斷膓だんちやうねんえなかつたです——なに、あの卑劣ひれつなる船長等せんちやうら如何どうしたとはるゝか。
ねんのために表二階に寢て居る兄さん(捨吉)の樣子を見に行きましたが、御手洗場へ行つた樣子で、とこの中には見えません。
忍剣にんけんは、この方角とにらんだ道を、一ねんこめて、さがしていくと、やがて、ゆくてにあたって、一の六角堂が目についた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すゝめもなさずるものは日々ひゞうとしの俚諺ことわざもありをだにれば芳之助よしのすけ追慕つゐぼねんうすらぐは必定ひつぢやうなるべしこゝろながくとき
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
太郎冠者たろうかじゃあるか。おん前に。ねんのう早かった。頼うだ人はきょうもまた、恋のやっこのお使いか、返事待つ恋、忍ぶ恋……」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私はそれをまた洋封筒の中にしまって、それから、ねんのために——全く念のために、伯父の手紙をもう一度読んでみた。幾度読んでも同じだった。
未来の天才 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
俺は若い時分に小松宮こまつのみやさまの御風采ごふうさいが大層およろしいと思って、殿下のように髪を分けたいものだとねんがけていました。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ここでねんめに申上もうしあげてきますが、わたくし指導しどうしてくだすった神様かみさまは、お姿すがた普通ただ老人としより姿すがたってられますが、じつ人間にんげんではございませぬ。
が、おせんのむねそこにひそんでいる、思慕しぼねんは、それらのうわさには一さいおかまいなしに日毎ひごとにつのってゆくばかりだった。それもそのはずであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
乍去さりながら日本人にほんじん從來じゆうらい習慣しふくわんでありませうが、斯樣かやうことめて無頓着むとんちやくおほい。責任せきにんおもんずるのねんとぼしい。獨立どくりつしてものをさめてくといふことすこしもい。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
そのとき彼は、不審ふしんねんにうたれた。「ラツールさんの姿が見えないが、どこへ行ったんだろうか。斜面をすっかりのぼって、崖の上へ出たのかしらん」
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わがくにおいては餘震よしん恐怖きようふするねんとくつよいが、それはみぎ言葉上ことばじようあやまりによりても培養ばいようせられてゐるのである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
その楽譜がくふは、老人ろうじんの太い書体しょたいで特別にねんをいれて書いてあった。最初さいしょのところには輪や花形はながたかざりがついていた。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
それにきかへて日光につこうにある徳川氏とくがはしびようがあのとほり立派りつぱなのをて、蒲生君平がまうくんぺいなどが憤慨ふんがいして尊王そんのうねんおこしたので、まことにむりのないことであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
日頃ひごろ閑卻かんきゃくしている慚愧ざんきと絶望のねんが動き初めるにつれて、自分は一体どうしてここまで堕落する事ができたものかと、我ながら不思議な心持にもなって来る。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
老婆の話が完ると、下人はあざけるやうな聲でねんを押した。さうして、一あしまへへ出ると、不意ふいに、右の手を面皰から離して、老婆の襟上えりがみをつかみながら、かう云つた。
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
つまりこの銀行員たるべき人には、自分が大変想いを寄せている女が一人あって、それを嫁に貰いたいねんは山々であるのだが、その山々なねんそむかなければならない。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
そして、なほも警戒けいかいするやうにねんれるやうにあなのまはりをあるきまはつてゐたが、やがてひよいとあがると、蜘蛛くも死骸しがいをくはへてふたたあなところひもどつてた。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
〔譯〕凡そ事をすには、すべからく天につかふるの心あるをえうすべし。人に示すのねんあるを要せず。
こうこころの中にねんじながら、いまにも山姥やまうばがってくるか、がってくるかとっていました。
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
かねて御相談申し置き候尊攘堂の事、僕はいよいよねんを絶ち候〔既に死を決するが故に〕。この上は足下そっか兄弟の内一人は是非僕が志を成就じょうじゅ致しくれられ候事と頼母たのもしく存じ候。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
兄が此様このやうねんことばを鄭寧にしてものを頼んだ事は無いので、貢さんは気の毒に思つた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
チッバルトは其儘そのまゝたん逃去にげさりましたが、やがてまたってかへすを、いま復讐ふくしうねん滿ちたるロミオがるよりも、電光でんくわうごとってかゝり、引分ひきわけまするひまさへもござらぬうちに
と云うのは私が西洋を信ずるのねんが骨に徹して居たものと見えて、一寸ちょいとも怖いとおもったことがない。れから途中で水が乏しくなったので布哇ハワイに寄るか寄らぬかとう説がおこった。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しかれどもこの癖漢へきかん冷々れい/\たる苦笑くせうおこすのみなることしめし、實際家じつさいかいやしむのねんをあらはし、「でなくば生命いのちてんのみ。運命うんめい服從ふくじゆうし、百事ひやくじ放擲はうてきし」、云々しか/″\はつせしむるにいたる。
罪と罰(内田不知庵訳) (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
いまの現在げんざい位置いちすらも、そろそろゆれだしたような気がする。ものに屈託くったくするなどいうことはとんと知らなかった糟谷も、にわかに悔恨かいこんねんきんじがたく、しばしばられない夜もあった。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ねんのためもうしそえますが、ご主君しゅくんは、ただいま、おしのびの旅をなされていられるのですから、このことは、どのようなことがあっても、いっさいひみつに、だれひとりにも話さぬよう
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
私が夫を迎えたのを見澄みすましてその方の稽古をねんがけて行ったものと存じます。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
しかし僧侶そうりよ道士だうしふものにたいしては、何故なぜふこともなく尊敬そんけいねんつてゐる。自分じぶん會得ゑとくせぬものにたいする、盲目まうもく尊敬そんけいとでもはうか。そこで坊主ばうずいてはうとつたのである。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
博士はくしですっかりよごれたベッドのまわりを、ねんいりにしらべた。
ただねんず、しづかにはたまどやかに
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
瞟眼ひがめにして疑のねん深き事務室
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
どんなつよかぜたってもけぬように、またどんなにあめなみにぬらされても、やぶれぬようにと、ねんねんをいれてつくっていました。
一本の銀の針 (新字新仮名) / 小川未明(著)
おこらねえだ。が、なにもはあ、自分じぶんではらねえちゆうだ。わしも、あれよ、ねんのために、あかりをくわんとあかるくして、らかいてた。」
鑑定 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
專門上せんもんじやう知識ちしきのない小六ころくが、精密せいみつ返答へんたふをしはず無論むろんなかつた。かれはたゞ安之助やすのすけからいたまゝを、おぼえてゐるかぎねんれて説明せつめいした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しか彼等かれらは一ぱういうして矛盾むじゆんした羞耻しうちねんせいせられてえるやうな心情しんじやうからひそか果敢はかないひかりしゆとしてむかつてそゝぐのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
さわがしたるに依て此方へ召捕めしとり置たり但し吟味致すべきなれども亂心にまぎれなき故今日引渡し遣す尤も由緒ゆゐしよも是有家來ならば隨分ずゐぶんねんを入て療治れうぢ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「ゆうべはっくらでわからない。いずれ毒水どくみずんだろう、朝になったらねんのために、生死をたしかめにいこうと思っていたところなので」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)