うづ)” の例文
車夫のかく答へし後はことば絶えて、車は驀直ましぐらに走れり、紳士は二重外套にじゆうがいとうそでひし掻合かきあはせて、かはうそ衿皮えりかはの内に耳より深くおもてうづめたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
わづかに六畳と二畳とに過ぎない部屋は三面の鏡、二脚の椅子、芝居の衣裳、かつら、小道具、それから青れた沢山たくさん花環はなわとでうづまつて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
うむを見て男魚をなおのれ白䱊しらこ弾着ひりつけすぐ女魚めな男魚をなほりのけたる沙石しやせきを左右より尾鰭をひれにてすくひかけてうづむ。一つぶながさるゝ事をせず。
たゞ沙漠のすなけてゐるやうに、頭がほてツてゐるばかりだ。そして何時颶風はやてが起ツて、此の體も魂もうづめられてしまうか知れないんだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
それはかんなか空氣くうき侵入しんにゆうしてくさやすいが、直接ちよくせつ土中どちゆううづめるとき空氣くうきにくいので、かへってよく保存ほぞんされるのであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
竪穴は風雨の作用塵埃ぢんあい堆積たいせきの爲、自然に埋まる事も有るべく、開墾かいこん及び諸種の土木工事の爲、人爲を以てうづむる事も有るべきものなり。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
職員四人分のつくゑや椅子、書類入の戸棚などを並べて、さらでだに狭くなつてゐる室は、其等の人数にんずうづめられて、身動みじろぎも出来ぬ程である。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
わがやどりて影をうつせる身のうづもるゝ處にてははやゆふなり、この身ナポリにあり、ブランディツィオより移されき 二五—二七
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
輝かしき凡人にてはあらざりけり元暦げんりやく元年の春の雪粟津あはづの原に消えたれど首は六條の河原にさらされかばねは原にうづめたれど名は末代に殘りけり
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
その灰でそこらはすつかりうづまりました。このまつ黒な巨きな巌も、やつぱり山からはね飛ばされて、今のところに落ちて来たのださうです。
狼森と笊森、盗森 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
てつづくりのもんはしらの、やがて平地へいちおなじにうづまつた眞中まんなかを、いぬやまるやうにはひります。わたしさかすやうにつゞきました。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
積み上げた記録レコードも、研究も、智識も多くは利用されずに、新しい人、乃至新しい現代にうづめられたまゝに引継がれて行く。
現代と旋廻軸 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
水車すゐしや毎日まいにちうごいてるどころか、きつけるゆきうづめられまして、まるでくるままはらなくなつてしまつたこともりました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
麦秋むぎあきである。「富士一つうづみ残して青葉あをばかな」其青葉の青闇あおぐらい間々を、れた麦が一面日のの様に明るくする。陽暦六月は「農攻のうこう五月ごげつ急於弦げんよりもきゅうなり
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
きり小半道程傍なるをかの小松の根へかくうづおき扨惣内夫婦切害に逢たる旨領主の郡奉行へ訴へ出二十兩餘の賄賂まいないつかひ九助を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
彼等かれらあじはふのではなくてえうするに咽喉のどあなうづめるのである。冷水れいすゐそゝいでのぼろ/\な麥飯むぎめしとき彼等かれら一人ひとりでも咀嚼そしやくするものはない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
すでぼつした。イワン、デミトリチはかほまくらうづめて寐臺ねだいうへよこになつてゐる。中風患者ちゆうぶくわんじやなにかなしさうにしづかきながら、くちびるうごかしてゐる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
うち新聞記者しんぶんきしやる、出迎人でむかへにんる。汽船会社きせんぐわいしや雇人やとひにんる。甲板かんぱん上中下じやうちうげともぎツしりひとうづまつてしまつた。
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
その時私の作品集は、うづだかほこりうづもれて、神田かんだあたりの古本屋のたなの隅に、むなしく読者を待つてゐる事であらう。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
り込んで見ると、だれも居なかつた。くろ着物きものた車掌と運転手のあひだはさまれて、一種のおとうづまつてうごいて行くと、うごいてゐるくるまそと真暗まつくらである。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いまうへにはにくくし剛慾がうよくもの事情じじやうあくまでりぬきながららずがほ烟草たばこふか/\あやまりあればこそたゝみひたひほりうづめて歎願たんぐわん吹出ふきいだすけむりして
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
し又すべての文学者ぶんがくしや一時いちじ殺戮さつりくすれば其死屍しゝは以て日本海につぽんかいうづむべく其は以て太平洋たいへいよう変色へんしよくせしむべし。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
平次が帳場格子の前にしやがむと、品吉はうづみ火の煙草盆を押しやつて、自分も眞鍮しんちうの煙管を取上げました。
是にいて、使者還り来て曰く、墓所に到りて視れば、かためうづめるところ動かず。すなはち開きて屍骨かばねを見れば、既にむなしくなりたり。衣物きもの畳みてひつぎの上に置けり。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
灰屋紹益はひやぜうえきが愛人吉野太夫の亡くなつた時、火葬にした灰を、その儘土にうづめるに忍びないからといつて、酒にひたしてそつくりみ下してしまつたのは名高い話だ。
それから幾日かたつて、魚は岸にうちあげられました、そして白い砂がからだの上に、重たく沢山しだいにかさなり、やがて魚の骨は砂の中にうづもれてしまひました。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
浅草寺境内せんさうじけいだい弁天山べんてんやまの池も既に町家まちやとなり、また赤坂の溜池も跡方あとかたなくうづめつくされた。それによつて私は将来不忍池しのばずのいけまた同様の運命に陥りはせぬかとあやぶむのである。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
死骸葬り得さすべしと仰有之候おほせこれありそろに付、すなはち菩提所傳通院寺中昌林院へうづめ、今猶墳墓あれども、一華を手向たむくる者もなし、僅に番町邊の人一人正忌日にのみ參詣すと云ふ
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
かくて櫻島さくらじま毎回まいかい多量たりよう鎔岩ようがんすのでしまおほきさも次第しだいしてくが、今回こんかい東側ひがしがは鎔岩ようがんつひ瀬戸海峽せとかいきよううづめ、櫻島さくらじまをして大隅おほすみ一半島いちはんとうたらしめるにいたつた。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
パリス おゝ、しまうた!……仁情なさけがあるならべうひらいてヂュリエットと一しょにうづめてくれい。
南木曾なぎその山のましらの聲が詩人の魂を動かしそめたとすれば、淺間大麓の灰砂くわいしやの谿は詩人の聲をうづめたとも言へやう。——島崎氏はこれより散文(小説)に向はれたのである。
新しき声 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
人々ひと/″\同意どういえて一時いちじくちとぢたけれど、其中そのうち二三人にさんにんべつ此問このとひめず、ソフアにうづめてダラリと兩脇りやうわきれ、天井てんじやうながめてほそくしてものもあれば
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
またうみのつよいかぜ濱邊はまべすなばして、砂丘さきゆうつくつたり、その砂丘さきゆうすなをまた方々ほう/″\はこんで、大事だいじはたや、ときによると人家じんかまでもうづめてしまふことがあります。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
シラチブチは其頃そのころから埋まりかけてゐた。東へ掘割を掘つて水を眞下にながすやうになつてから、夏になるたび沿岸えんがんの土が流れ込んで、五寸づつ一尺づつ、だん/\とうづまつて行つた。
筑波ねのほとり (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
ゆうして皆曰く、たとひるるとも其小屋に到達とうたつし、酒樽しあらば之を傾け尽し、戸倉村にかへりて其代価をはらはんのみと、議たちまち一决して沼岸をわたふかももぼつ泥濘でいねいすねうづ
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
そこで大急ぎに石を拾つて打ち殺し、深い穴を掘つて蛇をうづめてしまひました。
原つぱの子供会 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
坪井博士つぼゐはかせは、石田學士いしだがくし大野助手等おほのぢよしゆらともに、かね集合しうがふさしてある赤鉢卷あかはちまき人夫にんぷ三十餘名よめいとくして、いよ/\山頂さんちやう大發掘だいはつくつ取掛とりかゝり、また分隊ぶんたいして、瓢箪山西面ひようたんやませいめんに、なかばうづもれたる横穴よこあな
しかし私の云ひ度いことを口に云ひ現はすのはむつかしい。フアンディンは、あなたも知つてるやうに、物の音などはかすかになつてこだまして消えてしまふやうな深い森にうづもれてゐるのだ。
一一四簀垣すがき朽頽くちくづれたるひまより、をぎすすき高くおひ出でて、朝露うちこぼるるに、袖一一五湿ぢてしぼるばかりなり。壁にはつたくずひかかり、庭はむぐらうづもれて一一六秋ならねども野らなる宿なりけり。
夜露よつゆれたくさが、地上ちじやうあふれさうないきほひで、うづめてゐた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
その空間を全部うづめつくすやうに文字をかいてゐるうちに、縦横の直線と弧の曲線との配分をひとしくするのが、もつとも文字を明確にする所以であることを知らされ、同時に習字とは、要するに
秋艸道人の書について (新字旧仮名) / 吉野秀雄(著)
瑠璃子夫人はと見ると、これらの惑星に囲まれた太陽のやうに、客間の中央に、女王のやうな美しさと威厳とを以て、大きい、彼女の身体をうづめてしまひさうな腕椅子に、ゆつたりと腰を下してゐた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
けだし、日本につぽん臣民しんみん如何いかなる塲合ばあひおいても、そのおもふよりも、くにおもことだいなれば、すくふに良策りようさくなくば、ふ、大義たいぎため吾等われら見捨みすたまへ、吾等われら運命うんめいやすんじて、ほねこの山中さんちううづめん。
こもらひぬ、あらがねいはほとのひまうづもれ。
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
こゝに寝む花の吹雪にうづむまで
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
あぢきなや椿落ちうづむ庭たつみ
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
背広のあやの音楽に首をうづめて
北原白秋氏の肖像 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
薄赤きつるとにうづまれり。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
それらの器物きぶつ今日こんにちではたいていつちうづもれてえなくなつたり、こはれてなくなつてしまつて、のこつてゐるものははなはすくないのであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
うづむ今ま三四年せば卷烟草一本吸ひ盡さぬ間に蝦夷ゑぞ長崎へも到りヱヘンといふ響きのうちに奈良大和へも遊ぶべしいはんや手近の温泉塲などとひ
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)