生涯しやうがい)” の例文
私は二十はたちになつた今日までの生涯しやうがいにこれぞといつて人さまにお話し申す大事件もなく、父母の膝下しつかに穏やかな年月を送つて参りましたが
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
駅へついてみて、私は長野か小諸こもろか、どこかあの辺を通過してゐる夜中よなかに、姉は彼女の七十年の生涯しやうがいに終りを告げたことを知つた。
町の踊り場 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
何より心苦く思ふのでネ、——どうぞ貧乏町に住まつて、あの人達と同じ様に暮らして、生涯しやうがい其の御友達になりたいと祈つて居るのです
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
丑松は敬之進のことを思出して、つく/″\落魄らくはく生涯しやうがいを憐むと同時に、の人を注意して見るといふ気にも成つたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その代金は御二人が生涯しやうがいたのしく、お楽に暮していかれるだけはございます。どうぞ随分とお身体からだをお大事に、いのち長くお暮しなさい。
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
親分、待つて下さい、私も何んかう夢のさめたやうな氣がします。『貸した金を取るのが何が惡い』と思つた生涯しやうがいが淺ましくなりました。
とんことさ。』と、ミハイル、アウエリヤヌヰチは聽入きゝいれぬ。『ワルシヤワこそきみせにやならん、ぼくが五ねん幸福かうふく生涯しやうがいおくつたところだ。』
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そして軈ては、藝術家が最も自己を發揮するに適するからといふ理由りいうで、生涯しやうがい繪畫くわいぐわ研究けんきうゆだねるからと切込まれた。勝見子爵はがツかりした。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
生涯しやうがい、その子供に逢ふ事もないだらうと思ふにつけて、富岡のさびた気持ちのなかに、その思ひ出は、郷愁きやうしうをそそつた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
忘れぬ心にて生涯しやうがいかしらに頂かんと思ふが故に賣殘しぬ然るを先日おとして後を種々いろ/\さがし求めて居しなり偖々嬉しき事哉と幾度となく押戴おしいたゞ喜悦よろこぶさま
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
自分など、今までの生涯しやうがいを振返つて楽しかつた記憶はないが、ひて取り出せば高等学校時代の印象がさうだ。その頃、自分ははじめて恋愛した。
現代詩 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
自分は平生へいぜい誰でも顔の中に其人の生涯しやうがいあらはれて見えると信じて居る一人で、悲惨な歴史の織り込まれた顔を見る程心を動かす事は無いのであるが
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
いや、やみわすれまい。ぬまなかあてきやうませて、斎非時ときひじにとておよばぬが、渋茶しぶちやひと振舞ふるまはず、すんでのことわし生涯しやうがい坊主ばうず水車みづぐるまらうとした。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
雪国の人は春にして春をしらざるをもつて生涯しやうがいをはる。これをおもへば繁栄豊腴はんえいほういゆ大都会たいとくわいすみ年々ねん/\歳々せい/\梅柳ばいりう媆色ぜんしよくの春をたのしむ事じつ天幸てんかうの人といふべし。
熟々つら/\かんがふるにてんとんびありて油揚あぶらげをさらひ土鼠もぐらもちありて蚯蚓みゝずくら目出度めでたなか人間にんげん一日いちにちあくせくとはたらきてひかぬるが今日けふ此頃このごろ世智辛せちがら生涯しやうがいなり。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
そのかたが、自分達じぶんたちさみしい生涯しやうがいを、多少たせうみづかたしなめるやうにが調子てうしを、御米およねみゝつたへたので、御米およねおぼえずひざうへ反物たんものからはなしてをつとかほた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ういふお慈悲なさけぶか旦那様だんなさまがおありなさるから、八百膳やほぜん料理れうり無宿者やどなしくだされるのだ、おれいまうしていたゞけよ、おぜんいたゞくことは、きさま生涯しやうがい出来できないぞ。
彼の女は身の上ばなしを初めてはよく泣いた。お絹はいろいろな生涯しやうがいを経てこの村へ流れて来た女であつた。
さりながら徃日いつぞや御詞おんことばいつはりなりしか、そちさへに見捨みすてずば生涯しやうがい幸福かうふくぞと、かたじけなきおほうけたまはりてよりいとゞくるこゝろとめがたく、くちにするは今日けふはじめてなれど
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
どもたちをおもひあいすることによつて、わたしはわたしの苦惱くるしみにみちみてる生涯しやうがいきよく、そしてうつくしい日々ひゞとしてすごすでせう。これはおほきな感謝かんしやであります。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
けれどしようことなしにねむるのはあたら一生涯しやうがいの一部分ぶゝんをたゞでくすやうな氣がしてすこぶ不愉快ふゆくわいかんずる、ところいま場合ばあひ如何いかんともがたい、とづるにかしていた。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
月日は百代はくたい過客くわかくにして、行きかふ年も又旅人なり。船の上に生涯しやうがいをうかべ、馬の口とらへておいをむかふる者は、日々旅にして、旅をすみかとす。古人も多く旅に死せるあり。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
こんな風では、わしが生涯しやうがいをかけても、家一軒は愚か、牛小屋も出来ないことが、わかりましたぢや。それにもう一つ、大きな声では、いはれない障害のあることが解りました。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
みづから一の目的もくてきさだめ、万障ばんしやうはいし、終生しうせいてつその目的点もくてきてんたつせんとつとむるが如きは不信仰ふしんこう時代じだい行為こうゐなりき、しゆめいしたがひ、今日こんにち今日こんにちげふす、今日こんにち生涯しやうがいなり
問答二三 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
ついうちが出にくいとふだけの事である。長吉ちやうきち直様すぐさま別れたのち生涯しやうがいをこま/″\と書いて送つたが、しかし待ちまうけたやうな、折返をりかへしたおいとの返事はつひに聞く事が出来できなかつたのである。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
不幸ふかう彼女かのぢよぬぐふことの出來できない汚點しみをその生涯しやうがいにとゞめた。さうしてその汚點しみたいするくゐは、彼女かのぢよこれまでを、さうしてまた此先このさきをも、かくて彼女かのぢよの一しやうをいろ/\につゞつてくであらう。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
死刑執行者しけいしつかうしや論據ろんきようでした、それからはなさるべきからだがなければ、あたまることは出來できない、かつてそんなことをしたこともなければ、これからさきとても一生涯しやうがいそんなことらうはづがない。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
勘次かんじこゝろからやうや瘡痍きずいたはつた。かれ平生いつもになくそれを放任うつちやつてけば生涯しやうがい畸形かたわりはしないかといふうれひをすらいだいた。さうしてかれ鬼怒川きぬがはえて醫者いしやもと與吉よきちれてはしつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
われはおのれ生涯しやうがいのあまりきよくないこと心得こゝろえてゐる、みちかたはら菩提樹下ぼだいじゆか誘惑いうわくけたことつてゐる。たま/\われにさけませる会友くわいいうたちの、よく承知しようちしてゐるごとく、さういふもの滅多めつた咽喉のどとほらない。
ただ生涯しやうがいの船がかり、いづれは黄泉よみ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
おそらくは生涯しやうがい妻をむかへじと
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
我が生涯しやうがいはあはれなる夢
誤植 (新字旧仮名) / 生田春月(著)
あらしのやうに渦卷うづまいた生涯しやうがい
太陽の子 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
先生の生涯は実に懴悔の生涯しやうがいさ。空想家と言はれたり、夢想家と言はれたりして、甘んじて其冷笑を受けて居る程の懴悔の生涯さ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
おせいを殺した下手人は自分でありながら、猟師の犬となつた清吉が、囚はれて、あの男は、自分の生涯しやうがいに極刑を選ぶ、馬鹿な道をとつてゐる。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
結びて懷姙くわいにんなしゝ一子なるが民間みんかんに成長して後未見みけん父君ちゝぎみ將軍と成しかば證據ものたづさへて訴へ出たるなればよしお世繼よつぎとせざるまでも登用とりあげてもて生涯しやうがい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
唯娘が土左衞門になつて、この店に擔ぎ込まれた時は、私は扇屋の主人を生涯しやうがいのろつてやらうと思ひ定めましたよ。
雪国の人は春にして春をしらざるをもつて生涯しやうがいをはる。これをおもへば繁栄豊腴はんえいほういゆ大都会たいとくわいすみ年々ねん/\歳々せい/\梅柳ばいりう媆色ぜんしよくの春をたのしむ事じつ天幸てんかうの人といふべし。
るがめてのたのしみなりれはのぞみとてなれば生涯しやうがいこの御奉公ごほうこうしてかたさま朝夕あさゆふ御世話おせわさては嬰子やゝさままれたまひての御抱おだなににもあれこゝろ
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「アヽ、剛さん、——世間からは毒婦と恐れられ、神様からは悪魔といやしめられていや生涯しやうがいを終らねばならんでせうか——私、此の右手を切つててたい様だワ——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
丁度ちやうどわし修行しゆぎやうるのをして孤家ひとつや引返ひきかへして、婦人をんなと一しよ生涯しやうがいおくらうとおもつてところで。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
をとこ砂埃すなほこりでざらつきさうなあかと、けて生涯しやうがいめつこないつよいろつてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
どうも誠に有難ありがたうございます、わたくしう一生涯しやうがい、お薄茶うすぷくでもいたゞけることでないと
恁云かうい學説がくせつは、たゞ種々しゆ/″\學説がくせつあつめて研究けんきうしたり、比較ひかくしたりして、これ自分じぶん生涯しやうがい目的もくてきとしてゐる、きはめて少數せうすう人計ひとばかりにおこなはれて、多數たすうものれを了解れうかいしなかつたのです。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そして、自分の生涯しやうがいをふりかへつて見てはづかしく思ひました。自分は、じつにじつに、何一つ人のためになることをして来てゐませんでした。わがままいつぱいにふるまつて来ました。
鳥右ヱ門諸国をめぐる (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
余に計画けいくわくなる者あることなし、何とあはれむべき(羨むべき)生涯しやうがいならずや。
問答二三 (新字旧仮名) / 内村鑑三(著)
安くしてたのみますと言ふに城富ハイ夫は何寄なにより以て有がたう存じます何卒どうぞお願ひ申ますと是より口移くちうつしに道行の稽古けいこより始めて段々とならひ込んで生涯しやうがいの一藝にせんものを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あるひは、貴方等の目から御覧に成つたらば、吾儕わたしども事業しごと華麗はででせう。成程なるほど表面うはべは華麗です。しかし、これほど表面が華麗で、裏面うらの悲惨な生涯しやうがいは他に有ませうか。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
ところで——ちゝの……危篤きとく……生涯しやうがい一大事いちだいじ電報でんぱうで、とし一月いちぐわつせついまだ大寒たいかんに、故郷こきやう駈戻かけもどつたをりは、汽車きしやをあかして、敦賀つるがから、くるまだつたが、武生たけふまででれた。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「それに、お崎の敵も討つてやり度い。眼は無事だつたが、あの傷は生涯しやうがい殘るかも知れない」