トップ
>
拍子
>
ひやうし
ふりがな文庫
“
拍子
(
ひやうし
)” の例文
犬は、ぱつと
駈
(
か
)
けだして逃げる、と思ひのほか、同じ場所に首を
垂
(
た
)
れてじつとしてゐるのでした。鳥右ヱ門は
拍子
(
ひやうし
)
ぬけがしました。
鳥右ヱ門諸国をめぐる
(新字旧仮名)
/
新美南吉
(著)
關取
(
せきとり
)
、ばんどり、おねばとり、と
拍子
(
ひやうし
)
にかゝつた
言
(
ことば
)
あり。
負
(
ま
)
けずまふは、
大雨
(
おほあめ
)
にて、
重湯
(
おもゆ
)
のやうに
腰
(
こし
)
が
立
(
た
)
たぬと
云
(
い
)
ふ
後言
(
しりうごと
)
なるべし。
寸情風土記
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
所がその内にどう云ふ
拍子
(
ひやうし
)
か、彼のついた
金羽根
(
きんばね
)
が、
長押
(
なげ
)
しの
溝
(
みぞ
)
に落ちこんでしまつた。彼は
早速
(
さつそく
)
勝手から、大きな踏み台を運んで来た。
点心
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
こゝを
先途
(
せんど
)
とまづ
貯
(
たくは
)
へたまひけるが、何れの武官にやそゝくさ此方へ来らるゝ
拍子
(
ひやうし
)
に清人の手にせし皿を
斜
(
なゝめ
)
めにし、鳥飛んで空にあり、魚
床
(
ゆか
)
に躍り
燕尾服着初めの記
(新字旧仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
私
(
わたし
)
にも
生
(
うま
)
れた
家
(
いゑ
)
が
御座
(
ござ
)
んするとて
威丈高
(
いたけたか
)
になるに
男
(
をとこ
)
も
堪
(
こら
)
えず
箒
(
はふき
)
を
振廻
(
ふりまわ
)
して、さあ
出
(
で
)
て
行
(
い
)
けと
時
(
とき
)
の
拍子
(
ひやうし
)
危
(
あや
)
ふくなれば、
流石
(
さすが
)
に
女氣
(
おんなぎ
)
の
悲
(
かな
)
しき
事
(
こと
)
胸
(
むね
)
に
迫
(
せま
)
りて
われから
(旧字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
▼ もっと見る
上
(
あ
)
がらうとする
拍子
(
ひやうし
)
に、
小六
(
ころく
)
の
脱
(
ぬ
)
ぎ
棄
(
す
)
てた
下駄
(
げた
)
の
上
(
うへ
)
へ、
氣
(
き
)
が
付
(
つ
)
かずに
足
(
あし
)
を
乘
(
の
)
せた。
曲
(
こゞ
)
んで
位置
(
ゐち
)
を
調
(
とゝの
)
へてゐる
所
(
ところ
)
へ
小六
(
ころく
)
が
出
(
で
)
て
來
(
き
)
た。
臺所
(
だいどころ
)
の
方
(
はう
)
で、
御米
(
およね
)
が
門
(旧字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
「おゝ
痒
(
かい
)
い」とぴしやり
手
(
て
)
で
蚊
(
か
)
を
叩
(
たゝ
)
いた。
彼
(
かれ
)
の
唄
(
うた
)
に
連
(
つれ
)
て
各自
(
めいめい
)
が
更
(
さら
)
に
唄
(
うた
)
つた。
皆
(
みな
)
箸
(
はし
)
で
茶碗
(
ちやわん
)
を
叩
(
たゝ
)
いて
拍子
(
ひやうし
)
を
合
(
あは
)
せた。さういふ
騷
(
さわ
)
ぎに
成
(
な
)
つてから
酒
(
さけ
)
は
減
(
へ
)
らなかつた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
ところが、ふとした
拍子
(
ひやうし
)
で此樣な
死態
(
しにざま
)
をするやうになツた……そりや偶然さ。いや、
屹度
(
きつと
)
偶然だツたらう。
解剖室
(旧字旧仮名)
/
三島霜川
(著)
との一心と云其上
拍子
(
ひやうし
)
の間も
宜
(
よく
)
殊
(
こと
)
に古今の
美
(
び
)
音なれば太夫も始めは
戲談
(
じようだん
)
の樣に教へしが今は
乘氣
(
のりき
)
が來て
此奴
(
こやつ
)
は物に成さうだと心を入て教へける故天晴
舊來
(
ふるき
)
弟子
(
でし
)
を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
ふとした
拍子
(
ひやうし
)
に、
縁側
(
ゑんがは
)
の
障子
(
しやうじ
)
の
硝子戸
(
ガラスど
)
ごしに
見
(
み
)
えた
竹村
(
たけむら
)
の
幼児
(
えうじ
)
に、
奈美子
(
なみこ
)
はふと
微笑
(
ほゝゑ
)
みかけた。
彼女の周囲
(新字旧仮名)
/
徳田秋声
(著)
拍子
(
ひやうし
)
の悪いことには梅子さんの
三歳
(
みつ
)
の時に奥様がお
亡
(
なくなり
)
になる、それから今の奥様をお貰ひになつたのですが、
貴様
(
あなた
)
、梅子さんも今の奥様には随分
酷
(
ひど
)
い目にお逢ひなさいましたよ
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
その蜻蛉は微風に乗つて、しばらくの間は彼等と同じ方向へ彼等と同じほどの速さで、一行を追ふやうに従うて居たが、何かの
拍子
(
ひやうし
)
についと空ざまに高く舞ひ上つた。彼は水を見、また空を見た。
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
上から、下から、右から、左から、
拍子
(
ひやうし
)
をつけて叩いて見ましたが、箱は思ひのほか嚴重に出來てゐて何處も開けられさうはなく、その
癖
(
くせ
)
中
(
なか
)
では、思はせ振りにカラカラと金が鳴つてゐるのです。
銭形平次捕物控:311 鬼女
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
乃
(
そこ
)
で
彼等
(
かれら
)
は
正式
(
せいしき
)
に
愛
(
あい
)
ちやんの
周
(
まは
)
りをぐる/\
踊
(
をど
)
り
廻
(
まは
)
りました、
餘
(
あま
)
り
近
(
ちか
)
づき
過
(
す
)
ぎて
時々
(
とき/″\
)
その
趾
(
あしゆび
)
を
踏
(
ふ
)
んだり、
拍子
(
ひやうし
)
を
取
(
と
)
るために
前足
(
まへあし
)
を
振
(
ふ
)
つたりして、
其
(
そ
)
の
間
(
あひだ
)
海龜
(
うみがめ
)
は
極
(
ご
)
く
徐
(
しづ
)
かに
又
(
また
)
悲
(
かな
)
しげに
斯
(
か
)
う
歌
(
うた
)
ひました
愛ちやんの夢物語
(旧字旧仮名)
/
ルイス・キャロル
(著)
いづれも
小笠
(
をがさ
)
のひさしをすゑ、
脚半
(
きやはん
)
を
輕
(
かる
)
く、しつとりと、
拍子
(
ひやうし
)
をふむやうにしつゝ
聲
(
こゑ
)
にあやを
打
(
う
)
つてうたつたが……うたつたといひたい。
木菟俗見
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
が、その
拍子
(
ひやうし
)
に婆さんが、
鴉
(
からす
)
の啼くやうな声を立てたかと思ふと、まるで電気に打たれたやうに、ピストルは手から落ちてしまひました。
アグニの神
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
女
(
をんな
)
は
五月繩
(
うるさ
)
い
時
(
とき
)
には
一時
(
ちよつと
)
踊
(
をどり
)
の
手
(
て
)
を
止
(
や
)
めて
對手
(
あひて
)
を
叱
(
しか
)
つたり
叩
(
たゝ
)
いたり、
然
(
しか
)
も
其
(
その
)
特性
(
とくせい
)
のつゝましさを
保
(
たも
)
つて
拍子
(
ひやうし
)
を
合
(
あは
)
せ
乍
(
なが
)
ら
多勢
(
おほぜい
)
の
間
(
あひだ
)
に
揉
(
も
)
まれつゝ
同
(
どう
)
一
線
(
せん
)
を
反覆
(
はんぷく
)
しつゝ
踊
(
をど
)
る。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
室が
寂然
(
ひつそり
)
してゐるので、
時計
(
とけい
)
の時を
刻
(
きざ
)
む
音
(
おと
)
が自分の
脈膊
(
みやくはく
)
と
巧
(
うま
)
く
拍子
(
ひやうし
)
を取つてハツキリ胸に通ふ。
平民の娘
(旧字旧仮名)
/
三島霜川
(著)
「いゝえ、
無
(
な
)
いの」と
正直
(
しやうぢき
)
に
答
(
こた
)
へたが、
思
(
おも
)
ひ
出
(
だ
)
した
樣
(
やう
)
に、「
待
(
ま
)
つて
頂戴
(
ちやうだい
)
、
有
(
あ
)
るかも
知
(
し
)
れないわ」と
云
(
い
)
ひながら
立
(
た
)
ち
上
(
あ
)
がる
拍子
(
ひやうし
)
に、
横
(
よこ
)
にあつた
炭取
(
すみとり
)
を
取
(
と
)
り
退
(
の
)
けて、
袋戸棚
(
ふくろとだな
)
を
開
(
あ
)
けた。
門
(旧字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
學校
(
がくかう
)
の
唱歌
(
しようか
)
にもぎつちよんちよんと
拍子
(
ひやうし
)
を
取
(
と
)
りて、
運動會
(
うんどうくわい
)
に
木
(
き
)
やり
音頭
(
おんど
)
もなしかねまじき
風情
(
ふぜい
)
、さらでも
教育
(
きやういく
)
はむづかしきに
教師
(
きやうし
)
の
苦心
(
くしん
)
さこそと
思
(
おも
)
はるゝ
入谷
(
いりや
)
ぢかくに
育英舍
(
いくえいしや
)
とて
たけくらべ
(旧字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
何
(
なに
)
かの
拍子
(
ひやうし
)
に、
妻
(
つま
)
は
其
(
そ
)
の
無邪気
(
むじやき
)
な
顔
(
かほ
)
を、
少
(
すこ
)
し
曇
(
くも
)
らして
背負揚
(新字旧仮名)
/
徳田秋声
(著)
その途端にどう云ふ
拍子
(
ひやうし
)
か、釘に懸つてゐた十字架がはづれて、かすかな金属の音を立てながら、足もとの敷石の上に落ちた。
南京の基督
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
呀
(
や
)
!
西瓜
(
すゐくわ
)
は
投
(
な
)
げぬが、がつくり
動
(
うご
)
いて、ベツカツコ、と
目
(
め
)
を
剥
(
む
)
く
拍子
(
ひやうし
)
に、
前
(
まへ
)
へのめらうとした
黒人
(
くろんぼ
)
の
其
(
そ
)
の
土人形
(
つちにんぎやう
)
が、
勢餘
(
いきほひあま
)
つて、どたりと
仰状
(
のけざま
)
。
印度更紗
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
と
馬
(
うま
)
への
掛聲
(
かけごゑ
)
を
尤
(
もつと
)
もらしくした。
茶碗
(
ちやわん
)
の
拍子
(
ひやうし
)
に
連
(
つ
)
れて一
同
(
どう
)
はぴつたり
靜
(
しづ
)
かに
成
(
な
)
つた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
時計
(
とけい
)
よりは
寧
(
むし
)
ろ
宗助
(
そうすけ
)
の
叙述
(
じよじゆつ
)
の
方
(
はう
)
に
多
(
おほ
)
くの
興味
(
きようみ
)
を
有
(
も
)
つて、
泥棒
(
どろぼう
)
が
果
(
はた
)
して
崖
(
がけ
)
を
傳
(
つた
)
つて
裏
(
うら
)
から
逃
(
にげ
)
げる
積
(
つもり
)
だつたらうか、
又
(
また
)
は
逃
(
に
)
げる
拍子
(
ひやうし
)
に、
崖
(
がけ
)
から
落
(
お
)
ちたものだらうかと
云
(
い
)
ふ
樣
(
やう
)
な
質問
(
しつもん
)
を
掛
(
か
)
けた。
門
(旧字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
「え、何うせ然うなんですよ。
憎
(
にく
)
らしい!………」と眼に險を見せ、些と顎をしやくツて、づいと顏を突出す。其の
拍子
(
ひやうし
)
に、何か眼に入ツたのか、お房は急に
肝々
(
きよと/\
)
して、
甚
(
ひど
)
く
面喰
(
めんく
)
ツた
髓
(
てい
)
となる。
平民の娘
(旧字旧仮名)
/
三島霜川
(著)
尤
(
もつと
)
も僕等が何かの
拍子
(
ひやうし
)
に
四
(
よ
)
つ
這
(
ば
)
ひになつて見たいやうに、
未
(
いま
)
だ生まれざる大詩人も何かの
拍子
(
ひやうし
)
に短歌の形式を用ふる気もちになるかも知れぬ。
又一説?
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
と
思
(
おも
)
ひながら、
絶
(
た
)
えず
拍子
(
ひやうし
)
にかゝつて、
伸縮
(
のびちゞみ
)
に
身體
(
からだ
)
の
調子
(
てうし
)
を
取
(
と
)
つて、
手
(
て
)
を
働
(
はたら
)
かす、
鋸
(
のこぎり
)
が
上下
(
じやうげ
)
して、
木屑
(
きくづ
)
がまた
溢
(
こぼ
)
れて
來
(
く
)
る。
三尺角
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
ああ云ふ長靴をはいた時には、長靴をはいたと云ふよりも、何かの
拍子
(
ひやうし
)
に長靴の中へ落つこつたやうな気がするだらうなあ。
続野人生計事
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
面啖
(
めんくら
)
つて、へどもどしながら、そんな
中
(
なか
)
でも
其
(
それ
)
でも、
何
(
なん
)
の
拍子
(
ひやうし
)
だか、
髮
(
かみ
)
の
長
(
なが
)
い
工合
(
ぐあひ
)
と
云
(
い
)
ひ、
股
(
また
)
の
締
(
しま
)
らないだらけた
風
(
ふう
)
が、
朝鮮
(
てうせん
)
か
支那
(
しな
)
の
留學生
(
りうがくせい
)
か
知
(
し
)
ら。
艶書
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
わたしは
昨日
(
きのふ
)
の
午
(
ひる
)
少
(
すこ
)
し
過
(
す
)
ぎ、あの
夫婦
(
ふうふ
)
に
出會
(
であ
)
ひました。その
時
(
とき
)
風
(
かぜ
)
の
吹
(
ふ
)
いた
拍子
(
ひやうし
)
に、
牟子
(
むし
)
の
垂絹
(
たれぎぬ
)
が
上
(
あが
)
つたものですから、ちらりと
女
(
をんな
)
の
顏
(
かほ
)
が
見
(
み
)
えたのです。
藪の中
(旧字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
其
(
その
)
まゝ
其
(
そ
)
の
俯向
(
うつむ
)
いた
拍子
(
ひやうし
)
に
筋
(
すぢ
)
が
抜
(
ぬ
)
けたらしい、
横
(
よこ
)
に
流
(
なが
)
れやうとするのを、
婦人
(
をんな
)
は
優
(
やさ
)
しう
扶
(
たす
)
け
起
(
おこ
)
して
高野聖
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
しないばかりなら、よかつたんだが、何かの
拍子
(
ひやうし
)
に「
市兵衛
(
いちべゑ
)
さんお前
妾
(
わちき
)
に
惚
(
ほ
)
れるなら、命がけで惚れなまし」
南瓜
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
眞夏
(
まなつ
)
、
三宅坂
(
みやけざか
)
をぐん/\
上
(
あが
)
らうとして、
車夫
(
わかいしゆ
)
が
膝
(
ひざ
)
をトンと
支
(
つ
)
くと
蹴込
(
けこ
)
みを
辷
(
すべ
)
つて、ハツと
思
(
おも
)
ふ
拍子
(
ひやうし
)
に、
車夫
(
わかいしゆ
)
の
背中
(
せなか
)
を
跨
(
また
)
いで
馬乘
(
うまの
)
りに
留
(
と
)
まつて「
怪我
(
けが
)
をしないかね。」は
出來
(
でき
)
が
可
(
い
)
い。
麻を刈る
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
その親戚は
三遊派
(
さんゆうは
)
の「
五
(
ご
)
りん」とかいふもののお
上
(
かみ
)
さんだつた。僕の
家
(
うち
)
へ何かの
拍子
(
ひやうし
)
に
円朝
(
ゑんてう
)
の
息子
(
むすこ
)
の
出入
(
しゆつにふ
)
したりしたのもかういふ親戚のあつた為めであらう。
本所両国
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
と、
大音寺前
(
だいおんじまへ
)
の
姉
(
ねえ
)
さん、
一葉女史
(
いちえふぢよし
)
が、
乃
(
すなは
)
ち
袖
(
そで
)
を
卷
(
ま
)
いて
拍子
(
ひやうし
)
を
取
(
と
)
つた
所以
(
ゆゑん
)
である。
麻を刈る
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
僕は
床柱
(
とこばしら
)
の前に坐り、僕の右には久米正雄、僕の左には菊池寛、——と云ふ順序に坐つてゐたのである。そのうちに僕は何かの
拍子
(
ひやうし
)
に
餉台
(
ちやぶだい
)
の上の
麦酒罎
(
ビイルびん
)
を眺めた。
凶
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
其
(
そ
)
の
雪洞
(
ぼんぼり
)
の
消
(
き
)
えた
拍子
(
ひやうし
)
に、
晃乎
(
きらり
)
と
唯吉
(
たゞきち
)
の
目
(
め
)
に
留
(
とま
)
つたのは、
鬢
(
びんづら
)
を
拔
(
ぬ
)
けて
草
(
くさ
)
に
落
(
お
)
ちた
金簪
(
きんかんざし
)
で……
濕
(
しめ
)
やかな
露
(
つゆ
)
の
中
(
なか
)
に、
尾
(
を
)
を
曳
(
ひ
)
くばかり、
幽
(
かすか
)
な
螢
(
ほたる
)
の
影
(
かげ
)
を
殘
(
のこ
)
したが、ぼう/\と
吹亂
(
ふきみだ
)
れる
可厭
(
いや
)
な
風
(
かぜ
)
に
浅茅生
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
さういふ処を何かの
拍子
(
ひやうし
)
で歩いてゐると、「
鍋焼
(
なべやき
)
だとか「火事」だとかいふ俳句の季題を思ひ出す。
一番気乗のする時
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
と
取留
(
とりと
)
めもなく
笑
(
わら
)
つた
拍子
(
ひやうし
)
に、
草
(
くさ
)
を
踏
(
ふ
)
んだ
爪先下
(
つまさきさが
)
りの
足許
(
あしもと
)
に
力
(
ちから
)
が
抜
(
ぬ
)
けたか、
婦
(
をんな
)
を
肩
(
かた
)
に、
恋
(
こひ
)
の
重荷
(
おもに
)
の
懸
(
かゝ
)
つた
方
(
はう
)
の
片膝
(
かたひざ
)
をはたと
支
(
つ
)
く、トはつと
手
(
て
)
を
離
(
はな
)
すと
同時
(
どうじ
)
に、
婦
(
をんな
)
の
黒髪
(
くろかみ
)
は
頬摺
(
ほゝず
)
れにづるりと
落
(
お
)
ちて
神鑿
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
僕はバタの
罐
(
くわん
)
をあけながら、
軽井沢
(
かるゐざは
)
の夏を思ひ出した。その
拍子
(
ひやうし
)
に
頸
(
くび
)
すぢがちくりとした。僕は驚いてふり返つた。すると軽井沢に
沢山
(
たくさん
)
ゐる
馬蝿
(
うまばへ
)
が一匹飛んで行つた。
鵠沼雑記
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
が、その祝宴が開かれた時、鴉は白鳥と舞踏する
拍子
(
ひやうし
)
に
折角
(
せつかく
)
の羽根を残らず落してしまつた。
翻訳小品
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
序
(
ついで
)
にもう一つ例を挙げると、ウエルスが始めて書いたとか云ふ第四の空間があつて、何かの
拍子
(
ひやうし
)
に
其処
(
そこ
)
へはひると、当人はちやんと生きてゐても、この世界の人間には姿が見えない。
近頃の幽霊
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
同時に又若侍はいつかどこかへ見えなくなつてゐた。父は泥まみれになつたまま、僕の
家
(
うち
)
へ帰つて来た。何でも父の刀は
鞘走
(
さやばし
)
つた
拍子
(
ひやうし
)
にさかさまに溝の中に立つたと云ふことである。
本所両国
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
僕の覚えてゐる柳の木は一本も今では残つてゐない。けれどもこの木だけは何かの
拍子
(
ひやうし
)
に火事にも焼かれずに立つてゐるのであらう。僕は
殆
(
ほとん
)
どこの木の幹に手を
触
(
ふ
)
れて見たい誘惑を感じた。
本所両国
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
これは僕自身の話だが、何かの
拍子
(
ひやうし
)
に以前出した短篇集を開いて見ると、
何処
(
どこ
)
か流行に
囚
(
とら
)
はれてゐる。実を云ふと僕にしても、他人の
廡下
(
ぶか
)
には立たぬ位な、
一人前
(
いちにんまへ
)
の
自惚
(
うぬぼ
)
れは持たぬではない。
点心
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
おれの
丈
(
たけ
)
より高い芦が、その
拍子
(
ひやうし
)
に何かしやべり立てた。水が
呟
(
つぶや
)
く。
藻
(
も
)
が身ぶるひをする。あの
蔦葛
(
つたかづら
)
に
掩
(
おほ
)
はれた、
枝蛙
(
えだかはづ
)
の鳴くあたりの木々さへ、一時はさも心配さうに
吐息
(
といき
)
を
洩
(
も
)
らし合つたらしい。
沼
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
僕は電車の動きはじめる
拍子
(
ひやうし
)
に、鴛鴦の
一足
(
ひとあし
)
よろめいたのを見ると、忽ち
如何
(
いか
)
なる
紳士
(
しんし
)
よりも
慇懃
(
いんぎん
)
に鴛鴦へ席を
譲
(
ゆづ
)
つた。同時に彼等の感謝するのを待たず、さつさと
其処
(
そこ
)
から遠ざかつてしまつた。
鷺と鴛鴦
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
同時に何か黒いものが一つ畠の隅へころげ落ちた。Kさんはそちらを見る
拍子
(
ひやうし
)
に「又
庭鳥
(
にはとり
)
がやられたな」と思つた。それは実際黒い
羽根
(
はね
)
に青い
光沢
(
くわうたく
)
を持つてゐるミノルカ
種
(
しゆ
)
の庭鳥にそつくりだつた。
素描三題
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
女は「あなあさまし」と云ふ
拍子
(
ひやうし
)
に大きいおならを一つした。
続野人生計事
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
“拍子”の解説
拍子(ひょうし)は、一般には、拍や拍の連なりのこと。西洋音楽では強拍に連なるいくつかの拍の集まりの繰り返しを言う。日本では「三三七拍子」という言葉でわかるように、この言葉は、西洋音楽の定義の「拍子」とは異なる使われ方をする。アラブ古典音楽のイーカーア(イーカー)やインド古典音楽のターラ(サンスクリット読み)を「何々拍子」と表現することがあるが、これも西洋音楽の定義の「拍子」とは異なる。
以下、本項においては、西洋音楽のそれについて述べる。
(出典:Wikipedia)
拍
常用漢字
中学
部首:⼿
8画
子
常用漢字
小1
部首:⼦
3画
“拍子”で始まる語句
拍子木
拍子抜
拍子木形
拍子合
拍子打
拍子拔
拍子水
拍子舞
拍子詞