意識いしき)” の例文
そのうちに、だんだん意識いしきがはっきりしてきました。はじめは、どこにいるのかも、何を見ているのかも、さっぱりわかりませんでした。
あえて意識いしきしない共和きょうわと、たがいの援護えんごがそこに生まれた。すそをあおるほのお熱風ねっぷうよりは、もっと、もっと、つよい愛を渾力こんりきで投げあった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、そのあひだ勿論もちろんあの小娘こむすめが、あたか卑俗ひぞく現實げんじつ人間にんげんにしたやうなおももちで、わたくしまへすわつてゐることえず意識いしきせずにはゐられなかつた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
おそらくかれには確信という意識いしきはないにちがいない。確信も意識もないにしても、かれの実行動じつこうどう緊張きんちょうした精神をもって毅然直行きぜんちょっこうしている。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
倦怠けんたい彼等かれら意識いしきねむりやうまくけて、二人ふたりあいをうつとりかすますことはあつた。けれどもさゝら神經しんけいあらはれる不安ふあんけつしておこなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
瞬間しゆんかん處々ところ/″\くぼんでやつれた屋根やねまつたつゝんでしまつた。卯平うへい數分時すうふんじまへ豫期よきしなかつた變事へんじ意識いしきしたときほとんど喪心さうしんしてにはたふれた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
からだはエレベーターのやうに、地下ちか地下ちかへと降下かうかしてゆくやうな氣持きもちだつた。そしてつひ彼女かのぢよ意識いしきうしなつてしまつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
やがて青木さんはその冷やかな現実げんじつ意識いしきのがれようとするやうに、あらたな空さうをゑがきながら、おくさんを振返ふるかへつた。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
こういった、彼女かのじょなかには、いつかなみだがわきました。しかし、少年しょうねん意識いしきがないのか、返事へんじがなかったのです。
波荒くとも (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかし、子供の変化を知覚ちかくするごとに、父親であるという意識いしきがひとりでに伸びあがってくるから不思議である。
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
アンドレイ、エヒミチはやつと一人ひとりになつて、長椅子ながいすうへにのろ/\と落着おちついてよこになる。室内しつない自分じぶん唯一人たゞひとり、と意識いしきするのは如何いか愉快ゆくわいつたらう。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
はは帰幽後きゆうごもなく意識いしきりもどし、わたくしとは幾度いくたび幾度いくたびって、いろいろかた物語ものがたりふけりました。
明かりを見ると、はたしてかれらはやっと意識いしきをとりもどしたらしかった。わたしはかれらのために水を取りに行った。もういつかしら水はずんずん引いていた。
けれども間もなくまったくの夜になりました。空のあっちでもこっちでも、かなみり素敵すてきに大きな咆哮ほうこうをやり、電光のせわしいことはまるで夜の大空の意識いしき明滅めいめつのようでした。
ガドルフの百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
わたし勿論もちろんどつちが危険きけんだかといふ明白めいはく意識いしきなくして、たゞ漠然ばくぜんなかば謙遜けんそん気持きもちつたのであつたが、S、Hがまたさうふう謙遜けんそん意味いみこたへたのに出会であつて
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
こういう意識いしきが、運動会のおわるまで、春吉君の中でつづく。ちょっとでも、じぶんたちのふていさいなことをわらわれたりすると、春吉君はつきとばされたように感じる。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
主人三右衞門は、幸ひ翌る日あたりから、少しづつ意識いしきを恢復して、お品が行つてから三日目には、お町の居ないのを不思議さうに物問ひたげな顏をすることもありました。
個々の仕事なら、それでよいかも知らぬが、人世の目的という大きな考えは、決して意識いしきなく機械的に動くばかりでは、その目的を達し得ぬ。価値あたいなき仕事に目をつけねばならぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
地震ぢしん出會であつてそれが非常ひじよう地震ぢしんであることを意識いしきしたものは、餘程よほど修養しゆうようんだひとでないかぎり、たとひ耐震家屋内たいしんかおくないにゐても、また屋外避難おくがいひなん不利益ふりえき場合ばあひでも、しかせんとつとめるであらう。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
いや、注意が行ったというまでのことはなくても、つとその人々の動きが造酒の意識いしきに入って来た。と思うと、魚心堂が、ぱアッ! 投網とあみを下ろすように全身を躍らして竿をしごいたのだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
天狗てんぐ——など意識いしきしましたのは、のせゐかもれません。たゞしこれ目標めじるし出來できたためか、えたやうにつて、たふれてゆきをか飛移とびうつるやうなおもひはなくなりました。
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼等かれら勞働らうどうから空腹くうふく意識いしきするとき一寸いつすんうごくことの出來できないほどにはか疲勞ひらうかんずることさへある。什麽どんな麁末そまつものでも彼等かれらくちには問題もんだいではない。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
宗助そうすけ自分じぶん坂井さかゐ崖下がけしたくら部屋へやてゐたのでないと意識いしきするやいなや、すぐがつた。えんると、軒端のきばたか大霸王樹おほさぼてんかげうつつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
これを見ると、下人ははじめて明白にこの老婆の生死が、全然、自分の意志いしに支配されてゐると云ふ事を意識いしきした。
羅生門 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
なんとなれば、無智むちには幾分いくぶんか、意識いしき意旨いしとがある。が、作用さようにはなにもない。たいして恐怖きょうふいだ臆病者おくびょうものは、のことをもっ自分じぶんなぐさめることが出来できる。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
と忍剣は、岩につかまって鉄杖てつじょうのさきをのばした。おぼれている者は、まだ多少の意識いしきがあるとみえて、目のまえにだされた鉄杖へシッカリと、両手をかけた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれは、絶体絶命ぜったいぜつめいかんじた。数秒すうびょうのちに、自分じぶんからだが、いくしゃくたかいところから地上ちじょう落下らっかして粉砕ふんさいするのだと意識いしきするや、不思議ふしぎにも、気力きりょくがった。
僕はこれからだ (新字新仮名) / 小川未明(著)
此處ここはどこなのかしら——彼女かのぢよあがらうと意識いしきなかでは藻掻もがいたが、からだ自由じいうにならなかつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
二人の意識いしきの中にはたつた三しかない古びた貸家かしやである自分のいへが、ほんとにねこひたひほどのにはが、やつとのおもひで古道具屋だうぐやからつて※たただ一きやくのトイスが、いや
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
やっと父親の存在を意識いしきしてきたらしく、ある晩、東京から久しぶりでたずねてきた友人と街で飲みあかし、あくる朝、帰ってくると、すぐ胃が痛みだし、嘔気はきけを催したので
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
かの女が意識いしきを取り返したときには、夫は死んでいたし、赤子はいなくなっていた。
普通にいう夢とは、自己の意識いしきの行われぬときに心にるる現象である。しかして意志の行われぬときは、普通ならば睡眠すいみん中である。ゆえに睡眠中に起こったことを夢と称している。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ようするに、自分をつよ意識いしきするのがわるいのだ。自分を強く意識いしきするから、世の中がきゅうくつになる。主人はこんな結論けつろんをこしらえてみたけれど、すぐあとからあやふやになってしまった。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
だれかが枕辺まくらべいたり、さけんだりするときにはちょっと意識いしきもどりかけますが、それとてホンの一しゅんあいだで、やがてなにすこしもわからない、ふかふか無意識むいしき雲霧もやなかへとくぐりんでしまうのです。
以上いじやう……滋養じやう灌腸くわんちやうなぞは、絶対ぜつたいきらひますから、湯水ゆみづとほらないくらゐですのに、意識いしき明瞭めいれうで、今朝こんてう午前ごぜんいき引取ひきとりました一寸前ちよつとぜんにも、種々しゆ/″\細々こま/″\と、わたしひざかほをのせてはなしをしまして。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
が、わたくしこころうへには、せつないほどはつきりと、この光景くわうけいきつけられた。さうしてそこから、ある得體えたいれないほがらかこころもちがあがつてるのを意識いしきした。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
アンドレイ、エヒミチはやっと一人ひとりになって、長椅子ながいすうえにのろのろと落着おちついてよこになる。室内しつない自分じぶんただ一人ひとり、と意識いしきするのは如何いか愉快ゆかいであったろう。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
宗助そうすけ心配しんぱいした。役所やくしよてゐても御米およねことかゝつて、よう邪魔じやまになるのを意識いしきするときもあつた。ところがあるかへりがけに突然とつぜん電車でんしやなかひざつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それでもしばらくすると病人びやうにん意識いしき恢復くわいふくして、びり/\と身體からだふるはせて、ふとなはでぐつとつるされたかとおもふやうにうしろそりかへつて、その劇烈げきれつ痙攣けいれんくるしめられた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
嵐か、旋風つむじか、伊那丸は、なんということをも意識いしきしなかった。ただ五人の敵! それに一念であるため、立つよりはやく、そばにたおれていたひとりを、斬りふせた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おい河野かうの‥‥」と、わたしへん心細こころほそさとさびしさを意識いしきして、右手みぎていてことばけたが、河野かうのこたへなかつた。くびをダラリとまへげて、かれねむりながらあるいてゐた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
があってこそせいということがあるのだ。きているという意識いしきは、おそれをふかるものにだけ、それだけありがたいのだ。よるがなかったら、太陽たいようかがやきはわかるまい。
死と話した人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
自分と花前との差別さべつはどう考えても、意識いしきがあるのとないのとのほかない。自分に意識がなければ自分はこのままでもすぐ花前になることができるとすれば、花前はけっしてうらやむべきでないのだ。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
もうわたしの正気はうしなわれかけていた。ちょうどきわどいところであった。けれどまだ運ばれて行くという意識いしきだけはあった。わたしは救助員きゅうじょいんたちが水をくぐって出て行ったあとで、毛布もうふつつまれた。
そうするうちわたくし意識いしきすこしづつ回復かいふくしてまいりました。
おも背嚢はいなうけられるかたじうささへた右手みぎてゆびあしかかと——その處處ところどころにヅキヅキするやうないたみをかんじながら、それを自分じぶんからだいたみとはつきり意識いしきするちからさへもなかつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
しかしながら不死ふし代替だいたいもつて、自分じぶんなぐさむるとこと臆病おくびやうではなからうか。自然しぜんおいおこところ無意識むいしきなる作用さようは、人間にんげん無智むちにもおとつてゐる。なんとなれば、無智むちには幾分いくぶんか、意識いしき意旨いしとがある。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
不意ふいにうるんだつまひとみ刹那せつな意識いしきしながら、をつとはわざとげつけるやうにつた。なにおもいものがむねた。そして、をつと壁掛かべかけると、いそあしにアトリエのはうつてつた。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
そして、ふらふらしながらあるつづけてゐるうち現實的げんじつてき意識いしきほとんえて、へんにぼやけたあたまなか祖母そぼ友達ともだちかほうかあがつたり、三四日前かまへにKくわん活動寫眞くわつどうしやしん場面ばめんはしつたりした。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)