かべ)” の例文
つまり河流かりゆう上汐あげしほとが河口かこう暫時ざんじたゝかつて、つひ上汐あげしほかちめ、海水かいすいかべきづきながらそれが上流じようりゆうむかつていきほひよく進行しんこうするのである。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
白樺しらかばの皮をかべにした殖民地式の小屋だが、内は可なりひろくて、たたみを敷き、奥に箪笥たんす柳行李やなぎごうりなどならべてある。妻君かみさんい顔をして居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
りたてのかべ狹苦せまくるしい小屋こや内側うちがはしめつぽくかつくらくした。かべつち段々だん/\かわくのが待遠まちどほ卯平うへい毎日まいにちゆかうへむしろすわつてたいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
つづいて、おとうさんの鉄砲てっぽうを見あげました。これは、かべにかかっているデンマークの国王と皇后こうごう肖像画しょうぞうがのそばにかけてありました。
第二十四圖だいにじゆうしずかべかゝつてゐるうしうま鹿しかなどのはかれ洞穴ほらあななか石壁いしかべりつけたり、またいたりしたうつしであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
天井は思切ツてすゝけてゐて、而も低い。かべは、古い粘土色へなつちいろの紙を張りつめてあツたが、處々ところ/\やぶれて壁土かべはみ出て、鼠の穴も出來ている。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
せんと思ふ所にかくの如く住持ぢうぢなさけ深く教へてくれける故大いに悦び拜々有難う御座りますといひつゝ彼の位牌壇よりかべに有る足溜あしだまりへ足を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ある日も、王子は芝生しばふの上にころんで、むこうの高いかべをぼんやりながめていました。かべむこうには、青々とした山のいただきのぞいていました。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ひのきの一杯いっぱいにしげっている谷の底に、五つ六つ、白いかべが見えその谷には海が峡湾きょうわんのような風にまっさおに入りんでいました。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
しばらまつててゐるうちに、いしかべ沿うてつくけてあるつくゑうへ大勢おほぜいそうめしさいしる鍋釜なべかまからうつしてゐるのがえてた。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
舞台ぶたいはまだ昔のままになっていました。かべった側面と、背景に二つのアーチがあって、そこから以前の時代と同じ装飾そうしょくが見えました。
そして、仕立屋さんは腹だちまぎれに、かべからものさしをとって、むすこをピシピシうって、家からいだしてしまいました。
ねむくはないので、ぱちくり/\いてても、ものまぼろしえるやうになつて、天井てんじやうかべ卓子テエブルあし段々だん/\えて心細こゝろぼそさ。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
むかしのまゝ練壁ねりかべ處々ところ/″\くづちて、かはら完全くわんぜんなのは見當みあたらくらゐそれに葛蔓かづらのぼつてますから、一見いつけん廢寺ふるでらかべるやうです。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
かべ衣紋竹えもんだけには、紫紺がかった派手な色の新調のの羽織がかかっている。それが明日の晩着て出る羽織だ。そして幸福な帰郷を飾る羽織だ。
遁走 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
かたや胸の歯形をたのしむようなマゾヒズムの傾向けいこうもあった。かべ一重の隣家をはばかって、蹴上けあげの旅館へ寺田を連れて行ったりした。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
更にヨリ一層椿岳の個性を発揮したのは、モウ二十年も前にこぼたれたが、この室に続く三方さんぼうかべの明り窓のない部屋であった。
おかあさんのかおにさわってみて、少年はどきりとした。おかあさんは、ぴくりとも動かない。おまけに、まるでかべみたいにつめたくなっている。
にんは、うすぐらい、建物たてものかべにそってあるいていました。そこの電信柱でんしんばしらしたにも、なが機械きかいのねているように、おおきな鉄管てっかんころがっていたのです。
石段に鉄管 (新字新仮名) / 小川未明(著)
屋根やねあり、天井てんじやうあり、かべのあるとふばかり、野宿のじゆくつゆあはれさにまさつて、それはつめたいなさけない、こぼれるなみだこほらぬが不思議ふしぎ御座ござります。
この子 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かべの小さい柱鏡につかれた僕の顔と、ほおのふくれた彼女の顔が並んだ。僕は沁々しみじみとした気持ちで彼女の抜きえりを女学生のようにめさせてやった。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
かべとなり左官夫婦さかんふうふが、朝飯あさめしぜんをはさんで、きこえよがしのいやがらせも、春重はるしげみみへは、あきはえばたきほどにも這入はいらなかったのであろう。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
その頂上てうじやうにはふるむかしから、大理石だいりせきのやうにかたくて真白ましろゆきこほりついてゐて、かべのやうにそゝりつ、そこまで、まだ誰一人だれひとりのぼつたものがない。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
数日後ニネヴェ・アルベラの地方をおそった大地震だいじしんの時、博士は、たまたま自家の書庫の中にいた。彼の家は古かったので、かべくず書架しょかたおれた。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
が目ざめてのち、ぼくはあのひとのまぼろしだけとともに、まわりはつめたい鉄のかべにとりかこまれようやく生きている気がする。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
それから、又ぽかんとしてかべながめた。が、最後さいごに、自分を此薄弱な生活から救ひ得る方法は、たゞ一つあると考へた。さうしてくちうちで云つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それは、ご飯を家じゅう三人でたべるとき、お嫁さんがいつも、顔を横にむけてかべの方を見ていることでありました。
和太郎さんと牛 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
まずクック氏は、蛇類は建築物や著しき廃址に寓し、いけかべ周囲ぐるりい、不思議に地下へ消え去るので、鳥獣と別段に気味悪く人の注意をいた。
ほりの向こうはなまこかべ築地ついじはしのあるところに巨大きょだいな石門がみえ土手芝どてしばの上には巨松きょしょうがおどりわだかまっている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かべさん、かべさん、あなたはの中でいちばんえらいおかたです。どうぞうちのむすめをおよめにもらってくださいまし。」
ねずみの嫁入り (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
金魚鉢きんぎょばち位置いちから、にわかえでがくれではあるが、島本医院しまもといいん白壁しらかべえていて、もしそのかべあながあると、こつちをおろすこともできるはずである。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
となりたか石垣いしがきしろかべなぞがそこへくとよくえました。くは時分じぶんにはとうさんはくはそばつて
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
おれはこんど乗っていく船や、ゆく先のみなとのことをかんがえて歩いていた。その時、どういうきっかけだったかわからないが、ひょいとよこのかべに目をやった
同じように黒ずんだかべ、同じような窓枠まどわく、その古い額縁がくぶちの中にはいって来る同じような庭、同じような植込み
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「一と坪のかべへ、これを一枚ならべに塗り込んだとしたら、何枚竝ぶだらう、——慶長小判は横一寸三分の縱二寸三分五厘だ、壁の廣さは五尺七寸四方として」
外のいろが、内のくらさを征服せいふくした。私は北にらなる頑固ぐわんこかべらずしらずの間に頭の中からわすれ出した。
美しい家 (新字旧仮名) / 横光利一(著)
よく見ると、それは透明碗のかべが、どうしたわけかうす紫色に着色したのである。なおよく見ると、それはしまになっている。そして縞がこまかくふるえている。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
みぎ御鏡みかがみ早速さっそく岩屋いわやおくの、ほどよきたかさのかべ凹所くぼみえられ、わたくし礼拝らいはいもっと神聖しんせい目標もくひょうとなりました。
一日あるひ左門同じ里の何某なにがしもととぶらひて、いにしへ今の物がたりして興ある時に、かべへだてて人の痛楚くるしむ声いともあはれに聞えければ、あるじに尋ぬるに、あるじ答ふ。
光吉こうきちは、学校にいたときのままのやぶれズボンのひざをだいて、くったくそうにかべによりかかっていた。
美しき元旦 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
ゴロリ手枕てまくらかべに貼った十七人の名前を見上げて、つぎの犠牲者とその襲撃法しゅうげきほうでも考えているところだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
運動場の見わたせる土手どてやなぎの下に立つと、竹一は見あたらず、まっさきにとらえたのは松江だった。松江はなぜかひとり校舎のかべにもたれてしょんぼりしていた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
部屋へやの中は、障子しょうじも、かべも、とこも、ちがいだなも、昼間のように明るくなっていた。おばあさまの影法師かげぼうしが大きくそれにうつって、怪物ばけものか何かのように動いていた。
火事とポチ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
公爵夫人の横には、窓と窓の間のかべをほとんど全部ふさいで、薄色の髪の毛をうずまかせた立派な青年の立っているのが、逆光線の中に、だんだんはっきり見えてきた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
つら/\此住居すまゐを見るに、いしずえもすえず掘立ほりたてたるはしらぬきをば藤蔓ふぢづるにてくゝりつけ、すげをあみかけてかべとし小きまどあり、戸口は大木のかはの一まいなるをひらめてよこ木をわたし
ドアがどしんとかべにぶっつかって、だれやらあかい顔をしてにこにこ笑っている子供こどもがはいってた。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
診察しんさつとき患者くわんじや臆病おくびやうわけわからぬこと、代診だいしんそばにゐること、かべかゝつてる畫像ぐわざう、二十ねん以上いじやう相變あひかはらずにけてゐる質問しつもん是等これら院長ゐんちやうをしてすくなからず退屈たいくつせしめて
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それが白いかべを背景にして、ふわりと宙にういているのが哀れで痛ましく、急いで便所の電燈のスイッチをひねり、ドアをあけると、そこに、いつも見馴れた俵的の小さい
親馬鹿入堂記 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
富士男はトンネルの奥で、しきりにかべをほっていると、どこやらに奇妙きみょうなうなり声をきいた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
かべにかかっている西洋の名画、外国からわざわざ取りよせた、名人のこしらえたイスやテーブル、ほりものの美しいかざりだな、ペルシャ製のじゅうたんなど、こりにこった
大金塊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)