けん)” の例文
いたずらに自尊の念と固陋ころうけんり合せたるごとき没分暁ぼつぶんぎょうむちを振って学生を精根のつづく限りたたいたなら、見じめなのは学生である。
作物の批評 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
身は一けん独立のごとくして、心は娼妓しょうぎよりもなお独立なく他人に依頼し、しかも他人の愛憎あいぞうによりその日を送れるものが多々たたありはせぬか。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
と、一けんただの山家にすぎない垣の枝折しおりを指さしたが、内には人の気配もなく、そこから呼んでも叩いてみても、おうといういらえはなかった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしこころ苦痛くつうにてかれかおいんせられた緻密ちみつ徴候ちょうこうは、一けんして智慧ちえありそうな、教育きょういくありそうなふうおもわしめた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
自分じぶん少年せうねんとは四五十けんへだたつてたが自分じぶんは一けんして志村しむらであることをつた。かれは一しんになつてるので自分じぶんちかづいたのにもつかぬらしかつた。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
綾之助は芸にも自家じかけんを立てているように、子女の教育の上にも一家の見識を持っている。娘たちの長所短所を見分けて、学ぶところを選ませている。
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
今更体面を、顧慮する如きは、姑息こそくけんであると云う。——二人は、各々、自説を固守して、極力論駁ろんばくを試みた。
煙管 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
吾人ははたしてしかるや否やを知らず。しかれども目今の現状よりこれを見ればあえてことごとく揣摩しまけんというべからざるがごとしといわざるべからず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
哲學研究者は獨創のけんに乏しい現代に於いて、文藝と哲學とを合致がふちする義雄自身の新哲理、新情調を發表するのは、どちらにも分らないといふ困難があること。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
制服せいふくけてたので一けん歩兵ほへいふことがわかりましたが、さもなければ、たゞ其顏そのかほだけで判斷はんだんしたなら
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
右のかゝりに鼠色のペンキで塗つたいつぐらゐ平家ひらやがある。硝子がらす窓が広くけられて入口に石膏の白い粉がちらばつて居るので、一けん製作室アトリエである事を自分達は知つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
およ施為しい命令謀図言義を論ぜず、其の人情に遠きことはなはだしきものは、意は善なるも、理は正しきも、けいあたるも、けんは徹するも、必らず弊にし凶を招くものなり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
其後そののち帝室博物館ていしつはくぶつくわんつて陳列品ちんれつひんを一けんし、それから水谷氏みづたにし交際かうさいむすやうになり、採集品さいしふひんを一けんし、個人こじんちからもつ帝室博物館ていしつはくぶつくわん以上いじやう採集さいしふことり。
先生咸臨丸かんりんまる米行べいこうきょありと聞て、予が親戚しんせき医官いかん桂川氏かつらがわしかいしてその随行ずいこうたらんことを求められしに、予はこれさいわいの事なりと思い、ただちにこれをがえんじ、一けんきゅうのごとし。
……九時五十分くじごじつぷんかの終汽車しまひぎしやで、東京とうきやうるんです。……靜岡しづをかへ、ちやうど、あけにきますから。それだと、どつちをけんぶつしても、のうちに修善寺しゆぜんじまゐられますよ。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
専門たるりつれきえきのほかに道家どうかの教えにくわしくまたひろじゅぼくほうめい諸家しょかの説にも通じていたが、それらをすべて一家のけんをもってべて自己のものとしていた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
されどわが嘗て受けし教と、げんいだけるけんとは、俘囚とりこたるにあらずして、君等が間に伍すべきやうなし。これを聞きて、我を伴ひ來し男の顏は、忽ちおごそかなる色を見せたり。
何れも面部の周圍しうゐ沿そふて横長き橢圓形だえんけいの隆まり有り。且つ額の部には輪廓の上縁より多少たせうしたの方に向ひてのびたる隆まり有り。一けんはなの如くなれど其位置そのゐち上部じやうぶに寄り過ぎたり。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
求めて九州へおもふかんと大坂にて兩三日逗留とうりうし所々を見物けんぶつ藝州迄げいしうまで便船びんせんあるを聞出きゝだして此を頼み乘しが順風じゆんぷうなれば日ならずして廣島の地にちやくせしかば先廣島を一けんせんと上陸じやうりく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
実家さとにありけるころより継母のまつりごとを傍観しつつ、ひそかに自家のけんをいだきて、自ら一家の女主あるじになりたらん日には、みごと家をととのえんものと思えるは、一日にあらざりき。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
そうして、百ぶんは一けんにしかず、ということわざのとおりだと、つくづくかんじました。
事件じけん如此かくのごとくにして一けんめうしかもつと普通ふつう方法はうはふんで終局しうきよくげられた。被害者ひがいしや損害そんがいたいする賠償ばいしやうわづかであるとはいひながら一主人しゆじんからてそれが被害者ひがいしやわたされた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
まだ四十をしていくつにもならないというのが、一けん五十四五にえる。まげ白髪しらがもおかまいなし、床屋とこや鴨居かもいは、もう二つきくぐったことがないほどの、あかにまみれたうすぎたなさ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
その父母兄弟の政を行う者は、その信ずるところ、おのずから愚夫愚婦のけんと同じからず。
教門論疑問 (新字新仮名) / 柏原孝章(著)
「見えないことはありませんよ。しばらくじっと見ておいでになると、島の輪廓りんかくがありありと見えてきます。わしらには肉眼にくがんでちゃんと見えているんですからねえ。このけんとうですよ」
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ほとんど見たままで、別に烹煉ほうれんを加うるということをせずに、無造作にその物その事の見解を作ッてしまうから、おのずから真相を看破あきらめるというには至らずして、ややもすれば浅膚せんぷけんに陥いる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
〔譯〕獨得どくとくけんわたくしに似る、人其の驟至しうしおどろく。平凡へいぼんは公に似る、世其の狃聞ぢうぶんに安んず。凡そ人の言をくは、宜しく虚懷きよくわいにして之をむかふべし。狃聞ぢうぶん苟安こうあんすることなくんば可なり。
しかしてかくごとく偶然の機會よりして偶然の殺戮を見得るが故に、一けんして淺薄せんはくにして原因げんいんもなきものゝたねなる、このしよ眞價しんかじつみぎべたる魔力まりよく所業しよげふ妙寫みようしやしたるにおいて存するのみ。
「罪と罰」の殺人罪 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
外人ぐわいじん地震説ぢしんせつは一けんはなは適切てきせつであるがごとくであるが、えうするにそは、今日こんにち世態せたいをもつて、いにしへの世態せたいりつせんとするもので、いはゆる自家じかちからもつ自家じか強壓けうあつするものであるとおもふ。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
またこれに驚くも至当の事なれども、論者はこれを憂い、これに驚きて、これをいにしえに復せんと欲するか。すなわち元禄年間の士人とけんを同じゅうして、元禄の忠孝世界に復古せんと欲するか。
徳育如何 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
妻の登子とうこ、そう三名の分骨がおさまっている山陰やまかげの位牌堂へ行く——一けん、健吉さんが「書斎しょさいにいいなあ」と感嘆したほど、閑素で清潔な小堂だった。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかこゝろ苦痛くつうにてかれかほいんせられた緻密ちみつ徴候ちようこうは、一けんして智慧ちゑありさうな、教育けういくありさうなふうおもはしめた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
さらに云いけるは、「悪魔にしてたとい、人間と異るものにあらずとするも、そはただ、皮相のけんに止るのみ。汝が心には、恐しき七つの罪、さそりの如くにわだかまらん、」
るしへる (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
權勢家けんせいかなにがしといふが居てこの靈妙れいめうつたき、一けんもとめた、雲飛うんぴ大得意だいとくいでこれをとほして石を見せると、なにがしも大に感服かんぷくしてながめて居たがきふぼくめいじて石をかつがせ
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
かく既發見きはつけん遺物いぶつだけそと持出もちだし、あと明日あすまで封鎖ふうさするがからうと、一けつし、各新聞記者かくしんぶんきしやおよ少數せうすうひと窟内くつないを一けんさしたのち余等よらにんあなからことにした。
ただし煙草たばこをのませない都会の劇の義理けんぶつに切符をおしつけられたような気味の悪いものではない。出来秋できあきの村芝居とおなじ野趣に対して、私も少からず興味を感ずる。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ベルナルドオは何事につけても、人に殊なるけんを立て、これを同學のものに説き聞かせて、その聽かざるものをば、拳もて制しつれば、いつも級中にて、出色の人物ともてはやされき。
れ正学先生の詩にけるのけんなり。しりぞじつたっとび、雅を愛しいんにくむ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
遂に成覚のけんを養ひし事なし、知らず、人間の運命つひにいかならむ。
最後の勝利者は誰ぞ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
女同士をんなどうしには姿すがたへんじた踊子をどりこみなけんして了解れうかいされるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「それは婦女子のけんで、大丈夫の採るところでない。この山低しといえど、三方は絶地の断崖。もし魏の勢来らば、引き寄せて討つには持ってこいの天嶮だ」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けん自分じぶん荒膽あらぎもかれてしまつた。志村しむら畫題ぐわだいはコロンブスの肖像せうざうならんとは! しかもチヨークでいてある。元來ぐわんらい學校がくかうでは鉛筆畫えんぴつぐわばかりで、チヨークぐわをしへない。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ブウシエをわらつて俗漢とす。あにあへて難しとせんや。遮莫さもあらばあれ千年ののち、天下靡然びぜんとしてブウシエのけんおもむく事無しと云ふ可らず。白眼はくがん当世におごり、長嘯ちやうせう後代を待つ、またこれ鬼窟裡きくつりの生計のみ。
(もとに立戻たちもどりて、又すすきの中より、此のたびは一領の天幕テントを引出し、卓子テエブルおおうて建廻たてまはす。三羽の烏、左右より此を手伝ふ。天幕テントうちは、けんぶつ席より見えざるあつらへ。)おたのしみだわね。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
くして四ごろ發掘はつくつめ、同邸どうていし、公爵こうしやく汽車きしやにて歸京ききやうせられ、博士はかせ水谷氏みづたにしとは、とも權現臺ごんげんだい遺跡ゐせきまはり、それから、わが太古遺物陳列所たいこゐぶつちんれつじよ立寄たちよつて、飯田氏いひだし採集品さいしふひんを一けん
乱入者らんにゅうしゃのそうどうのほうも気にかかるが、これまた意外いがいあまくだりの状筥じょうばこ、とにかく一けんしようと、長安ながやすはあたふたと居間いまへはいり、ともしびをかき立ててなかをひらく。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのうへならず、うまあたま髭髯しぜんめんおほ堂々だう/\たるコロンブスの肖像せうざうとは、一けんまるでくらものにならんのである。鉛筆えんぴついろはどんなにたくみにいても到底たうていチヨークのいろにはおよばない。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
きやう金閣寺きんかくじをごらうじましたか、でけんぶつをしたばかり。
鳥影 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
老臣ろうしんの伊東十兵衛も、わたされた早文の走りがきを一けんして、仰天ぎょうてんしながら
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「不思議なところで、と言ひたいわね。けんぶつかい。」
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)