やす)” の例文
自然界しぜんかい法則ほうそくがあれば、人間界にんげんかいにも法則ほうそくがある。どのほしても、ほこらしげに、またやすらけくかがやくのは、天体てんたい法則ほうそくまもるからだ。
アパートで聞いた話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
別に好い声ではないが、円みのある、落着いた温かい声である。『——しゆウのー手エにーすーがーれエるー、身イはーやすウけエしー』
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
もう十日も前から婆あやにもやすにも逢わないもんですから、わたくしはあなたがどっかへ越しておしまいなさりはしないかと思ってよ
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
來年らいねんになれば、やすさんのはううか都合つがふしてあげるつて受合うけあつてくだすつたんぢやなくつて」といた。小六ころく其時そのとき不慥ふたしか表情へうじやうをして
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
なに蝙蝠こうもりの形に似て居ますって? 私の名は「やす」ではありませんよ。玄冶店げんやだな妾宅しょうたくに比べるとちとこの法医学教室は殺風景過ぎます。
三つの痣 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
いま敵國てきこくふかをかして、邦内はうない騷動さうどうし、士卒しそつさかひ(一七)暴露ばくろす。きみねてせきやすんぜず、くらうてあぢはひあましとせず。百せいめいみなきみかる。
あるいは藝術が凡人の職業であっても一向差支えないかも知れないが、おれはどうしても藝術の位置を、そんなにやすっぽく見たくなかった。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
安子穴やすこあなというのがあった。白狗はくぐ白馬はくばとの天正時代の伝説がある。のち、おやすという女人が零落れいらくしてここに玉のような童子を育てた。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
が、おもだけおもし、きたいだけきつくしたときに、あとにはなんともいえぬしんみりとやすらかな気分きぶんわたくし見舞みまってくれました。
だまし討になし其金をうばとりそれ而已成のみならず文妹富をあざむきて遊女に賣渡し同人の身の代金三十兩をかすとり其後十兵衞後家ごけやすを己れが惡事露顯ろけん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
毎日まいにちる、ひと毎日まいにちはたらけ。さうすれば毎晩まいばんやすらかにねむられる、さうすれば、其翌日そのよくじつまたあたらしいをがむことが出來できる。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
子弟を学塾に入れ或は他国に遊学せしむる者ありて、文武の風儀ふうぎにわかに面目めんもくを改め、また先きの算筆のみにやすんぜざる者多し。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ちょうど糟谷かすやが遊んでおったをさいわいに、その主任獣医しゅにんじゅういとなった。糟谷は以来栄達えいたつのぞみをたち、ろくろくたる生活にやすんじてしまった。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
新政府にし、維新功臣の末班まっぱんに列して爵位しゃくいの高きにり、俸禄ほうろくゆたかなるにやすんじ、得々とくとくとして貴顕きけん栄華えいが新地位しんちいを占めたるは
彼は世を教へんとて、世を救はんとて著作をなせり、然れども著作の真意すでに誤りたれば、世の人はさておき、己れをやすむるのかうもあらず。
トルストイ伯 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
そんな無意な生涯なら動物どうぶつでもおくツてゐる。如何いかに何んでも、僕は動物となツてまでもやすさをむさぼらうとは思はないからな!
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「なにがたけえものか。ときによったら、やすいくらいのもんだ。——だがきょうはたところ、一しゅはおろか、財布さいふそこにゃ十もんもなさそうだの」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
くと三圓九十錢さんゑんきうじつせんで、まあ、それはせんのよりはやすい。が、此奴こいつきなり女房かみさんは、十錢じつせん値切ねぎつて、三圓八十錢さんゑんはちじつせんにおけなさいとつたんです。
廓そだち (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
やすんじけりさるにてもいぶかしきは松澤夫婦まつざはふうふうへにこそ芳之助よしのすけ在世ざいせときだに引窓ひきまどけぶりたえ/″\なりしをいまはたいかに其日そのひ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
この大漁獲だいりようがあつたので、明日あすからは餓死うゑじに心配しんぱいはないとおもふと、人間にんげん正直せうじきなもので、そのゆめはいとやすく、あさ寢醒ねざめ何時いつになくむねおだやかであつた。
「京都にも三輪君のような人がいて、『安全地帯』を『帯地おびじまったやすし』と読んだそうだが、此処で田鶴子にそんな読み方をされるとことだからね」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
寺も移らねばなるまい。墓地も移らずばなるまい。然しながら死にたるほねは、死にたるやすんずべきではあるまい乎。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そこで、わたしのきな子供こどもたちよ。おぢさんはみんなとお約束やくそくしよう。このつぎすおぢさんのほんは、きつといいほんで、もつとやすくすること、を。
赤い旗 (旧字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
ところが誰でも少し油断すると小成しょうせいやすんじ、これでよいという気になりやすく、しからざればなにごとについてもいたずらに不満の声を高くして
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
誰に案内されるともなく入ってみると、すっかり息の絶えた遠州屋のお内儀かみやすの死体は、奥の一間に運び込まれて、血汐を拭ききよめられております。
怜悧れいり快活くわいくわつな、おほきいつてゐたうつくしい彼女かのぢよいま一人ひとりをんなとして力限ちからかぎたゝかつた。そしてつひやすらかにねむつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
「何だい、この狂言は。いやだねえ。お前はおやすじゃないか。間違いだなんて、いわせはしないよ。お前だって、わたしの顔をお忘れじゃああるまい」
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ひどやすくなつちやつたな、さむつちや保存もちがえゝのにけえつやすいつちうんだからまる反對あべこべになつちやつたんだな」勘次かんじ青菜あをなをけならべつゝいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
いくらまづくともつまらなくとも、『としのうちに』のほうには、多少たしよう意味いみ以外いがいやすらかな、そしてどもらしい氣持きもちになつておこした氣分きぶんてゐます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
かようなおほきいかはら屋根やねくにはおもすぎるので、のちにはかるかはらつくるようになつたことゝ、瓦師かはらしもなるだけやすいものをたくさんにつくらうとしたので
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
鐘供養かねくようがすんで、庭師にわしやすさんたちが、またごんごろがねりあげると、そのした和太郎わたろうさんが牛車ぎゅうしゃをひきこんで、うまいぐあいに、牛車ぎゅうしゃうえにのせた。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
甲斐かいざかいの憂惧うれいがされば、これで心をやすらかにして、はた中原ちゅうげんにこころざすことができるというもの。家康いえやすにとって、伊那丸はおそろしいがんであった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もしたいした地震ぢしんでないといふ見込みこみがついたならば、こゝろ自然しぜんやすらかなはずであるから過失かしつおこりようもない。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
やす贈物おくりものだ!』とあいちやんはおもひました。『わたし誕生日たんじやうび此麽こんなけち贈物おくりものをしてもらひたくない!』しかあいちやんはあへてそれをこゑしてひませんでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
で、ぐつとやすく——三十錢位で見せてもらはなければ、國立劇場が出來ても仕樣がない、とあたしは言つた。
むぐらの吐息 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
まず父母のやすきを問い、四方山よもやまの話相手にもなり、とくに親孝行といわれるほどの人は、二十四孝にじゅうしこうの芝居でみるように、肩をもみ腰をなで、洗足せんそくの湯をとり
親子の愛の完成 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
乙「こん畜生ちきしょう、やい何処どっから出やアがッた、ヤアやすおきろよ、やい、手前てめえ何処から出やアがッた此ん畜生」
しかれども命運の鬼は、彼をしてここにやすんずるを許さず、井伊、間部の共謀に出でたる大獄は、瓜蔓葛藟かまんかつるい以て松陰に及び、安政六年五月十四日その兄の口より
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
するとそこのうちの人たちは、なるほどそれはがたいが、やするといってもさしあたりおかねがない。
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
駄目ぢや、なア——社長はこの頃禿やすに周旋さした方の口から矢の如く催促を受けてをる。そんな筈ぢやなかつたと云うて、周旋者の禿げ安を探しまわつてをる。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
やすらかに、おまへのしろ御主おんあるじもとけ、さうして、あたしをおわすれになつたかと申上まをしあげてれよ。
ときにはまた、あのおそるべき打撃だげきのために、かへつ獨立どくりつ意志いし鞏固きようこになつたといふことのために、彼女かのぢよくゐふたゝ假面かめんをかぶつてみづかやすんじようとこゝろみることもあつた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
一方にはやす川原かわらあめ長田おさだという類の、地名らしきものも生まれているが、こちらは山か空か、どの辺にあるのかも考えられず、そうしてまた語義も明らかでない。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それから三千ねんぜん往古わうこかんがへながら、しんくと、不平ふへい煩悶はんもん何等なんら小感情せうかんじやううかぶなく、われ太古たいこたみなるなからんやとうたがはれるほどに、やすらけきゆめるのである。
ハヤやヤマベの蚊針釣りをしているそのやす蚊針に、二、三寸までの若アユが五、六尾必ずかかるので、嬉しいような恐ろしいような、複雑な気持ちになったことがある。
江戸前の釣り (新字新仮名) / 三遊亭金馬(著)
大抵たいていのひとが出て来ないほど、船が、すさまじくロオリングするなか、ぼくはさかんに、牛飲馬食、二番のとらさんや、水泳のやすさんなんかと一緒いっしょに、殆ど、最後まで残って
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
あしひきの山路やまぢえむとするきみこころちてやすけくもなし 〔巻十五・三七二三〕 狭野茅上娘子
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
丁度四歳の初冬の或る夕方ゆうかた、私は松や蘇鉄そてつ芭蕉ばしょうなぞに其の年の霜よけをし終えた植木屋のやすが、一面に白く乾いたきのこび着いている井戸側いどがわ取破とりこわしているのを見た。
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
〔譯〕賢者はぼつするにのぞみ、まさに然るべきを見て、以てぶんと爲し、死をおそるゝをぢて、死をやすんずるをこひねがふ、故に神氣しんきみだれず。又遺訓いくんあり、以てちやうそびやかすに足る。
しかしつぎかた、おれはかへりゆく労働者らうどうしやのすべてのこぶしのうちにぎめられたビラのはし電柱でんちうまへに、倉庫さうこよこに、かぜにはためく伝単でんたんた、同志どうしやすんぜよ