いた)” の例文
二人はまた同時に車夫に帰つて、私のうちの父や番頭の大阪行を引いて来たあとを、銀場ぎんばいたで向ひ合つて食事などをして居ました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
いたにはあまり人がりませぬで、四五にんりました。此湯このゆ昔風むかしふう柘榴口ざくろぐちではないけれども、はいるところ一寸ちよつと薄暗うすぐらくなつてります。
年始まはり (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
雲のしまうす琥珀こはくいたのようにうるみ、かすかなかすかな日光がって来ましたので、本線シグナルつきの電信柱はうれしがって
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
木曾きそ檜木ひのき名所めいしよですから、あのうすいたけづりまして、かさんでかぶります。そのかさあたらしいのは、檜木ひのき香氣にほひがします。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
下女げぢよは「左樣さやう御座ございましたか、どうも」と簡單かんたんれいべて、文庫ぶんこつたまゝいた仕切しきりまでつて、仲働なかばたらきらしいをんなした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しばらくしてあをけむり滿ちたいへうちにはしんらぬランプがるされて、いたには一どうぞろつと胡坐あぐらいてまるかたちづくられた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
異様いような、帆船はんせん姿すがたが、ありありといたおもてえたかとおもうと、また、その姿すがたは、けむりのごとく、しだいにうすれてえてしまった。
びんの中の世界 (新字新仮名) / 小川未明(著)
やがて人通りの餘りない、片側に工場の黒いた塀がつゞき、片側は畑を間にさしはさんで住宅じうたくが數けんならんでゐる、町で一番長い坂道の上に出た。
坂道 (旧字旧仮名) / 新美南吉(著)
屋根やねいても、いたつても、一雨ひとあめつよくかゝつて、水嵩みづかさすと、一堪ひとたまりもなく押流おしながすさうで、いつもうしたあからさまなていだとふ。——
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
らつしやいまし。」とわか女中ぢよちゆうあがぐちいたひざをつき、してあるスリツパをそろへ、「どうぞ、お二かいへ。突当つきあたりがいてゐます。」
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
やがて、ハッと気がつきますと、ハタハタと、いたを歩く音がして、誰かが落し戸の方へ近づいて参るのでございます。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかも、京都きょうと天皇てんのうのがわは、くにをひらきたくないかんがえだったので、幕府ばくふは、外国がいこくとのいたばさみになったかっこうでした。
翠色すゐしよくしたヽるまつにまじりて紅葉もみぢのあるおやしきへば、なかはしのはしいたとヾろくばかり、さてひとるはそれのみならで、一重ひとへばるヽ令孃ひめ美色びしよく
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
なにぶんうすてついたでつくり、これをかはひもむすあはせたものでありますから、いまではぼろ/\にこはれて、完全かんぜんのこつてゐるものはまれであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
うす暗い玄関の階段の下のいたに、老妻が小さくぺたんと坐ったまま、ぼんやり嘉七の姿を眺めていて、それは嘉七の貴い秘密のひとつになった。
姥捨 (新字新仮名) / 太宰治(著)
私は二階のいたに寝台を持ち出して寝ている。寝ていると月が体に降りそそぐように明るんで、灯を消していると虫になったような気がして来る。
落合町山川記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
おどろいたことには、こまかいことまで、とてもはっきりと、かんできたのです。わたしは、きゅうにはっとして、いた寝床ねどこの上に起きなおりました。
くまと自分ははじめと同じ位置いちにもどったわけだ。すみのかべいた背中せなかをこすりつけて、立ったくまは、まるでまねきねこみたいなかっこうだった。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
彼等は室外に出ると、只ならぬあたりの光景に気づいて、一せいにうむとうなった。いつも見なれてきた平らな甲板は、今は立ていたのように傾いている。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
はぬいて自分のこしにはさみ、神額しんがくいたは、人の気づかぬような雑木帯ぞうきたいがけへ目がけて力まかせにほうりすてた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かみなびの神よりいたにする杉のおもひもすぎず恋のしげきに、という万葉巻九の歌によっても知られるが、後にも「琴の板」というものが杉で造られてあって
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
白壁町しろかべちょう春信はるのぶ住居すまいでは、いましも春信はるのぶ彫師ほりしまつろう相手あいてに、今度こんど鶴仙堂かくせんどうからいたおろしをする「鷺娘さぎむすめ」の下絵したえまえにして、しきりに色合いろあわせの相談中そうだんちゅうであったが
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
その三にんせきからは、はるかにしたほうがったいたに、やぶだたみをしいて、はちかつぎをそこへすわらせ、みんなではじをかかせようとおもってちかまえていました。
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
はりいたをふみたてる牛の足音がバタバタ混合こんごうして聞こえる。主人も牛舎ぎゅうしゃへでた。乳牛にゅうぎゅうはそれぞれ馬塞ませにはいって、ひとりは掃除そうじにかかる、ひとりはにかかる。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
今日けふなにやらあわてゝいたおとをたてながら、いそ/\とはゝむかへに入口いりくちまでた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
日夜いた一枚の命懸けの仕事する者どもゆえ、朝夕身の安全を蛭子えびす命に祷り、漁に打ち立つ時獲物あるごとに必ずこれに拝詣し報賽ほうさいし、海に人落ち込みし時は必ずその人の罪を祓除ふつじょ
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
明かに知る由しと雖も製法の大畧たいりやくは先づいたごとく扁平なる石片せきへんりて之を適宜のはばるか、又は自然しぜんに細長き石を周圍しうゐより缺き减らし磨り减らしして適宜てきぎふとさにするかして
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
踏掛ふみかけ漸々としてつひに天井へ昇り其跡をいたにて元の如く差塞さしふさぎ先是では氣遣きづかひ無しと大いに安堵あんどなし息をこらして隱れ居たり斯る惡人なれども未だ命數めいすうつきざる所にや僧のなさけに依て危き命を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
此頃はいまだはた平一面ひらいちめんの雪の上なれば、たはたの上をさらし場とするもあり、日の内にさらしふみへしたる処あれば、手頃てごろいたをつけたる物にて雪の上をたひらかにならしおく也。
はじめ、足をかけたいたが下へしのったとき、左膳はギョッとしたのだったが、もうおそかった。板が割れると同時に、左膳のからだは直立の姿勢のまま、一直線に地の底へ落ちたのである。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あとしてみると、いづれもいたのようにつぶされてゐたといふ。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
いたたたいて「番頭さん熱いよ」とうめ湯をたのんだり、小唄こうたをうたったりすると、どうしても洗湯おゆやの隣りに住んでる気がしたり、赤児こどもが生れる泣声に驚かされたりしたと祖母がはなしてくれた。
その室の右にも左にも微暗うすくらいたがあって、そのさき梯子はしごの階段が見えていた。謙作は右の板の間のはしについた棕櫚しゅろの毛の泥拭どろぬぐいで靴の泥を念入りに拭ってからゆっくりと階段をあがって往った。
港の妖婦 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
パイというお菓子は素人しろうとにむずかしいものですが饂飩うどんやお蕎麦そばを打つ人にはきに覚えられます。やっぱり木鉢きばちいたと展し棒を使うので、上等にすると石の展し板が熱を持たないで良いのです。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
町立病院ちやうりつびやうゐんにはうち牛蒡ごばう蕁草いらぐさ野麻のあさなどのむらがしげつてるあたりに、さゝやかなる別室べつしつの一むねがある。屋根やねのブリキいたびて、烟突えんとつなかばこはれ、玄關げんくわん階段かいだん紛堊しつくひがれて、ちて、雜草ざつさうさへのび/\と。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
荒寺あれでらの柱をつたふ雨の音いたたたくにも心くだけぬ
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
白雨ゆうだちの滝にうたすやそくいた 孟遠
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
きしきしと寒さに踏めばいたきし
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
色あかき硝子がらすいたを。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
とうさんが玄關げんくわんひろいたて、そのをさおときながらあそんでりますと、そこへもよくめづらしいものきのすずめのぞきにました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
湯からあがつて、二人ふたりが、いたに据ゑてある器械のうへつて、身長たけはかつて見た。広田先生は五尺六寸ある。三四郎は四寸五分しかない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
すすけた湯沸ゆわかしは、お勝手かってもとのつめたいいたかれたときに、おたけはその湯沸ゆわかしをて、かわいそうになりました。
人間と湯沸かし (新字新仮名) / 小川未明(著)
やがて彼等かれらいた藁屑わらくづ土間どまきおろしてそれから交代かうたい風呂ふろ這入はひつた。おしなはそれをながらだまつてつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
その証拠しょうこには、第一にその泥岩は、東の北上山地のへりから、西の中央分水嶺ちゅうおうぶんすいれいふもとまで、一まいいたのようになってずうっとひろがっていました。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ともさぎほのほえて、ふねいたは、ばらりとひらいた。ひとひとつ、幅広はゞひろけむりてゝ、地獄ぢごくそらえてく、くろのやう、——をんなざうかげせた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
これによつても、この時分じぶんからすでにいろがらすがつくられたことがよくわかりますが、無色透明むしよくとうめいいたがらすはまだ世界中せかいじゆうどこにもありませんでした。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
そこには夫のと、人形のと、二つのむくろが折り重なって、いた血潮ちしおの海、二人のそばに家重代いえじゅうだいの名刀が、血をすすってころがっているのでございます。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
やがて、手にいききかけて、かじかんだゆびあたためると、いきなり、寝床ねどこいたの上にあった自分の帽子ぼうしをつかんで、そっと手さぐりで、地下室ちかしつからぬけだした。
むにめたきいた引裾ひきすそながくゑんがはにでゝ、用心口ようじんぐちよりかほさしいだし、たまよ、たまよ、と二タこゑばかりんで、こひくるひてあくがるゝ主人しゆじんこゑ聞分きくわけぬ。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そういう兼吉かねきちは、もはやをすませて、おぼれいた掃除そうじにかかったのだ。うまやぼうきに力を入れ、糞尿ふんにょう相混あいこんじた汚物おぶつを下へ下へとはきおろしてきたのである。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)