すくな)” の例文
離婚をして双方幸福の生涯に入った人もすくなくないと存じます。そういう場合には社会はその人たちの離婚を賀してもよろしいでしょう。
離婚について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
卯平うへい何時いつたれがさうしたのかむしろうへよこたへられてあつた。かれすくな白髮しらがはらつていた火傷やけどのあたりをうてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
奔放ほんぽうは廃徳な心状を以てなす芸術に於て自己を完成しても——すくなくともその当人はそう自信して居る場合、それは自己完成と云え様か。
大いなるもの (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
下町したまちはうらない。江戸えどのむかしよりして、これを東京とうきやうひる時鳥ほとゝぎすともいひたい、その苗賣なへうりこゑは、近頃ちかごろくことがすくなくなつた。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
貝層かひそうきはめてあさいが、其下そのした燒土やけつちそうつて、其中そのなかすくなからず破片はへんがある。幻翁げんおうげんると、香爐形こうろがたさう同一どういつだといふ。
西遊記さいゆうきに似て、しかも其の誇誕こたんは少しくゆずり、水滸伝に近くして、而もの豪快は及ばず、三国志のごとくして、而も其の殺伐はやゝすくなし。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
さうして此後このご大凡おほよそこんな状勢じやうせいすゝむからしてしたがつすくなくも是迄これまでいやうへえて國債こくさい總額そうがくふやさずにまし次第しだいである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
しかし、多く言わずすくなく言う文芸である。少く言いて多くの意を運ぶ文芸である。叙写はすくなくって多くの感銘を人に与える文芸である。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
きたる七月十四日、ジロ楽園カーニバルさいの当夜、殺人遊戯の大団円が来るのだ。その夜残りすくなのメンバー達は、みなごろしになる。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
巴里パリイの小包は一日平均七千個だと云ふから、これし郵便局で配達するとすれば係員の多くを要し事務の繁雑な割に利する所はすくないが
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
このせつ敷衍ふえんして日本美術史にほんびじゆつし劈頭へきとうにこれを高唱かうしやうしたものであるが今日こんにちにおいても、なほこのせつしんずるひとすくなくないかとおもふ。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
道に迷って踏込ふみこんだ者が、殺生谷の泥深い底無し沼へはまりこんで、惨めな死を遂げる事もすくなくはない、——村の人たちは是を
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
すくなくとも、美奈子の態度は一日ごとに丹波丹六に近づき、父親の社長皆川敬吉も、二人の接近するのを奨励するように見えました。
第一、麓という語いかがや、「心あてに見し」ところはすくなくも半腹はんぷくくらいの高さなるべきを、それを麓というべきや疑わしく候。
歌よみに与ふる書 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
敢て此山ばかりではない、行く先々の名称不明の地点に対しても、便宜の為に縁のありそうな名前を勝手に付けたものがすくなくない。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
それらの器物きぶつ今日こんにちではたいていつちうづもれてえなくなつたり、こはれてなくなつてしまつて、のこつてゐるものははなはすくないのであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
かくこんな具合ぐあいで、敦子あつこさまは人妻ひとづまとなり、やがて一人ひとりおとこうまれて、すくなくとも表面うわべにはたいそう幸福こうふくらしい生活せいかつおくっていました。
世の中には怪物ばけものが沢山居る、学問が進んで怪物ばけものの数がすくなくなったと云うがそれはいい加減なことでかえってえたかも知れない
大きな怪物 (新字新仮名) / 平井金三(著)
玄関番げんくわんばん書生しよせい不作法ぶさはふ取扱とりあつかひけると、其処そこ主人迄しゆじんまでがいやになる。著米ちやくべい早々さう/\始末しまつは、すくなからず僕等ぼくら不快ふくわいあたへた。(四月三日)
検疫と荷物検査 (新字旧仮名) / 杉村楚人冠(著)
著者みずから書中に記す如き大苦難に会わずとするも、すくなくもこれに似たる苦難に逢いてその実験の上にこの書を著したものと見ねばならぬ。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
すでに衣服とするに足る織り物有り、土偶又織り物の痕を有す、余はすくなくともコロボツクルの衣服の或る物は織り物を以てつくりたりと確信かくしんす。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
こうして急流は変じて深潭しんたんとなり、山峡の湖水となり、岩はその根を没して重畳ちょうじょう奇峭きしょうおもむきすくなからず減じてしまったと聞いた。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
かゝる誤りは萬朝報よろづてうはうに最もすくなかつたのだが、先頃さきごろほかならぬ言論欄に辻待つぢまち車夫しやふ一切いつせつ朧朧もうろうせうするなど、大分だいぶ耳目じもくに遠いのがあらはれて来た。
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
凍る身体にむち打ちつつ、人にも知られずむくいられることもすくないこういう仕事に黙々と従事するのもまた男子の本懐であろう。
満洲通信 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
夜風よかぜやぶ屏風びやうぶうち心配しんぱいになりてしぼつてかへるから車財布ぐるまざいふのものゝすくなほど苦勞くらうのたかのおほくなりてまたぐ我家わがやしきゐたか
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
勿論もちろん個個ここあそたのしんでゐた人達ひとたちほかにもあつたらうが、すくなくとも麻雀戲マアジヤンぎ世間的せけんてきらせたのはどうもあすこだつたやうにおもはれる。
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
僕等ぼくらはもう廣小路ひろこうぢの「常盤ときわ」にあのわんになみなみとつた「おきな」をあぢはふことは出來できない。これは僕等ぼくら下戸仲間げこなかまためにはすくなからぬ損失そんしつである。
しるこ (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
してみるとこの一種のソナータ的とも言うべき構成は、チェーホフの愛用した形式のうちのすくなくとも一つをなすものと看做みなしてよいであろうか。
チェーホフの短篇に就いて (新字新仮名) / 神西清(著)
かういふ種類しゆるい建物たてもの設計せつけい施工しこうによつて地震ぢしんいためられる模樣もようかはるけれども、おほくの場合ばあひ地上階ちじようかい比較的ひかくてき丈夫じようぶ出來できてゐるため被害ひがいすくな
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
この温泉をんせんはたして物質的ぶつしつてきぼく健康けんかう效能かうのうがあるかいか、そんなことわからないがなにしろ温泉をんせんわるくない。すくなくとも此處こゝの、此家このや温泉をんせんわるくない。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
現代ではすべての文筆家が多かれすくなかれ何らかの条件乃至ないしは制限を加えられて書くことを要求されるのである。る作家はこういう註文をうける。
童話における物語性の喪失 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
住吉すみよし移奉うつしまつ佃島つくだじまも岸の姫松のすくなきに反橋そりばしのたゆみをかしからず宰府さいふあがたてまつる名のみにして染川そめかわの色に合羽かっぱほしわたし思河おもいかわのよるべにあくたうずむ。
弘化二年から嘉水元年までの間、抽斎が四十一歳から四十四歳までの間には、渋江氏の家庭に特筆すべき事がすくなかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「心の奥底に、全く自分の意力の及ばない別な構造の深い/\井戸のようなものがあって、それがにわかにふたけた」など、作者の説明がすくなくない。
武州公秘話:02 跋 (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
殊に此地は水清く、南に平原ありて沙地すなちなり。北には緑葉りょくようの密に針葉樹多く、其奥に高山ありて、為めに小虫はすくなし。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
「心の奥底に、全く自分の意力の及ばない別な構造の深い/\井戸のようなものがあって、それがにわかにふたけた」など、作者の説明がすくなくない。
哲学者は言葉すくなに、友達と向き合つた儘、幾皿かの料理を平げてしまふと、先刻さつき卓子テーブルに置いた儘の金貨を取上げて、又懐中ふところにしまひ込んでしまつた。
何しろうでぱいのところを見せて、すくなくとも日本の洋畫界やうぐわかいに一生面せいめんひらかうといふ野心やしんであツたから、其の用意、其の苦心くしん、實にさん憺たるものであツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
くはしくいふと森林しんりんなか比較的ひかくてき濕氣しつきおほく、温度おんどひくく、しげつてゐますから、水分すいぶん蒸發じようはつすることもすくない。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
その活事実を捉えきたりて直ちに学問の材料と為したるが如き、時勢のしからしむる所とはいえ、その活ける精神を人に鼓吹したるもの、豈にすくなしとせんや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
近所きんじよおほきな芥子菜からしな鑛山くわうざんがある。それで、れの徳義とくぎは——「わたしのがおほければおほいだけおまへのがすくない」』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
全體ぜんたいからつて、すくなくとも從來じゆうらいの四ぶんの一の手數てかずがなくなるてんからても、前途ぜんと非常ひじやう有望いうばう事業じげふであると、小六ころくまた安之助やすのすけはなしたとほりをかへした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
しかし南部椀と呼ばれるものの系統は、細々ながらも雑器のうちに伝っております。二戸にのへ郡の荒沢から荒屋新町にかけてうるしの業に従うものがすくなくありません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
これよりはわが大日本帝國だいにつぽんていこく領地りようちであること表示ひやうしするために、幾本いくほん日章旗につしようき海岸かいがんひるがへしていても、一朝いつてう此處こゝ立去たちさつたあとことは、すくなからず氣遣きづかはれるのである。
俺が百万円を積んだところで、昔の宮はられんのだ! 思へばかねもつまらん。すくないながらも今のかねが熱海へ追つて行つた時のかばんの中に在つたなら……ええ‼
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
牛豚肉は滅多めったに食わず、川魚はすくなし、まれいたちに吸われたとりでも食えばほねまでたゝいて食い、土の物の外は大抵塩鮭しおざけ、めざし、棒鱈にのみ海の恩恵を知る農家も
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
わたくしかんがへではこれそも/\生活せいくわつづくべきものだらうと。また有機體いうきたい下等かとうればけ、よりすくなものかんずるのでらうと、其故それゆゑによりよわ刺戟しげきこたへるのである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
依頼心いらいしんおほくて、憤發心ふんぱつしんすくなくて、秩序ちつぢよとか整理せいりとかいふ觀念くわんねんとぼしくて、どうして複雜ふくざつ社會しやくわいつていへをさめてくことが出來できやうかとおもくらゐであります。
女教邇言 (旧字旧仮名) / 津田梅子(著)
鹿しかすくなくても五六ぴき湿しめつぽいはなづらをずうつとばして、しづかにあるいてゐるらしいのでした。
鹿踊りのはじまり (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
畠はその三倍もあって大凡おおよそ一万坪の広い地面だけあるが、自分の代となってからは家族もすくなし、手も届きかねて、荒れたままに成っているところも有る、とのことだ。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)