ふで)” の例文
ふでの進みをさまたげたことであらう? この時ばかりはいろいろな病苦に慣らされた私も自分の病弱を恨み悲しまずにはゐられなかつた。
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
そしてあの少年しょうねんっていたようなふでがあったら、自分じぶんにもきっと、あのようにいきいきとけるのであろうとおもいました。
どこで笛吹く (新字新仮名) / 小川未明(著)
可笑をかしき可憐あはれなる事可怖おそろしき事種々しゆ/″\さま/″\ふでつくしがたし。やう/\東雲しのゝめころいたりて、水もおちたりとて諸人しよにん安堵あんどのおもひをなしぬ。
したがつて其方そのはう談判だんぱんは、はじめからいまかつふでにしたことがなかつた。小六ころくからは時々とき/″\手紙てがみたが、きはめてみじかい形式的けいしきてきのものがおほかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さしもになかよしなりけれど正太しようたとさへにしたしまず、いつもはづかしかほのみあかめてふでやのみせ手踊てをどり活溌かつぱつさはふたゝるにかたなりける
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
原稿げんかうく、もちよくふではこぶので夢中むちうになつた、その夢中むちうましたこゑねこである、あら座蒲團ざぶとんすはつて、すましてゐる。
ねこ (旧字旧仮名) / 北村兼子(著)
それより、わたくし武村兵曹たけむらへいそうとは、艦中かんちう一同いちどうからふでにもことばにもつくされぬ優待いうたいけて、印度洋インドやう波濤はたうつて、コロンボのみなとへとすゝんでく。
番頭のやつはてれ隠しに、若え者を叱りながら、そこそこ帳場の格子かうしの中へ這入ると、仔細しさいらしくくはふでで算盤をぱちぱちやり出しやがつた。
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ふで申上參せ候扨々思ひ掛なく九しるし出拔だしぬけに歸國致し途方に暮參せ候豫々夫婦になり度いのり居候へども此の後は寛々ゆる/\御げんもじも心元こゝろもとなくぞんじ參せ候
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
うっかりけると、やぶれそうにまだれている墨色すみいろで、それは少年のふでらしく、まことに稚拙ちせつな走りがき。読みくだしてみると、その文言もんごんは——。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「笑はなきや言ひますがね、天地紅てんちべに半切はんきれに、綺麗な假名文字かなもじで、——一とふでしめし上げまゐらせさふらふ——と來ましたね、これならあつしだつて讀めますよ」
「里のしょあけのほだされやすくたれにひとふでかりのって、そのかりいので、へっへ、ぶつりとね、へえ、雷門の糸が——どうも嫌な顔をしましてな」
助五郎余罪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
といってことわりましたけれど、みんなはどうしてもきませんでした。そこでわるびれもしず、はちかつぎはふでって
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
かくてやうや明日あすの朝薩摩富士の見ゆべしと云ふ海にきたさふらふ。これにて船中せんちゆうふでとどめ申しさふらふ。かしこ。(十月廿七日)
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
まず以上で花と実との概説がいせつえた。これは一気呵成いっきかせいふでにまかせて書いたものであるから、まずい点もそこここにあるであろうことを恐縮している。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
半蔵はその足で二階の梯子段はしごだんを登った。三郎や益穂をも呼んで、すずりふでの類を取り出し、紙をひろげることなぞ手伝わせた。墨も二人の弟子にらせた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
しかしさいは美術びじゆつ自然科學しぜんかがくのおはなしは、べつ諸先生しよせんせいふでられてゐることゝおもひますから、わたし博物館はくぶつかんのうち考古學こうこがく博物館はくぶつかんのことだけをくことにし
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
見るとその三四の郵便物の中の一番上になっている一封の文字は、先輩せんぱい某氏ぼうしふでであることは明らかであった。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
著名ちょめいの学者のふでになる「はえにくむの」が現代的科学的修辞しゅうじかざられて、しばしばジャーナリズムをにぎわした。
蛆の効用 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
下人 こゝに名前なまへいてある人達ひとたち見附みつけい! えゝと、靴屋くつやものさしかせげか、裁縫師したてや足型あしかたかせげ、漁夫れふしふでかせげ、畫工ゑかきあみかせげといてあるわい。
一同みんなふでかみすみの用意して愡掛そうがかりだと云た所でここに一つ困る事には、大切な黒田様の蔵書をこわすことが出来ない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
と云ふにふでを止めて置いた。そして散歩さんぽにでも出るやうに、ぶらりと勝見家の門を出て了ツた。畫室などはそツくり其のまゝにして置いて、何一つ持出さなかツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
藤吉とうきちは、万年青おもとから掃除そうじふではなすと、そのままはぎすそまわって、小走こばしりにおもてへった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
こればかりは実地じっちってるよりほかに、えがくべきふでも、かたるべき言葉ことばもあるまいとかんがえられます。
其意味そのいみつながらぬ、辻妻つじつまはぬはなしは、所詮しよせんふでにすること出來できぬのであるが、かれところつまんでへば、人間にんげん卑劣ひれつなること、壓制あつせいりて正義せいぎ蹂躙じうりんされてゐること
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ふで申上まいらせ候。その後は御ぶさた致し候て、何とも申わけ無之これなく御免下されたく候。私事これまでの住居すまい誠に手ぜまに付このじゅう右のところへしき移り候ままおん知らせ申上候。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ふでさきにてたがやたる收入しふにふきはめて僅少きんせうにして、みづかひ、みづかるにいまらざれども、らざるうちにもそれをたくはへて、もつ子孫しそんつたへるといふ、其子そのこいまいのである。
ようやく硯箱を取寄せて、かみふでらせましても、お照は紙の上に涙をぽろ/\こぼしますから、墨がにじみ幾度も書損かきそこない、よう/\重二郎の云う儘に書終り、封を固く致しました。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
人と成って後確堂公かくどうこうと呼ばれたのはこの人で、成島柳北なるしまりゅうほくの碑の篆額てんがくはそのふでである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
此書これ有名いうめいなレウィス、キァロルとひとふでつた『アリス、アドヴェンチュアス、イン、ワンダーランド』をやくしたものです。邪氣あどけなき一少女せうぢよ夢物語ゆめものがたり滑稽こつけいうちおのづか教訓けうくんあり。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
のち商業学校せうげふがくかうてんじて、中途ちうとから全然すつかりふでたうじて、いまでは高田商会たかだせうくわいに出てりますが、硯友社けんいうしやためにはをしい人をころしてしまつたのです、もつとも本人の御為おためには其方そのはう結搆けつかうであつたのでせう
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
湯原ゆがはら温泉宿をんせんやど中西屋なかにしや女中ぢよちゆうである! いまぼくふでつてうち女中ぢよちゆうである! 田舍ゐなか百姓ひやくしやうむすめである! 小田原をだはら大都會だいとくわい心得こゝろえ田舍娘ゐなかむすめ! このむすめぼくつたのは昨年さくねんなつ
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
所で、この尾彦楼の寮には、主人夫婦はたまさかしか姿を見せず、一人娘の十五になる光子と、その家庭教師の工阪杉江の外に、まだもう一人、当主には養母に当るおふでの三人が住んでいた。
絶景万国博覧会 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
うち休息員きうそくゐん帳簿ちやうぼぢて、ふで片手かたてつたまゝで、をあけて
迷子 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
右手の筋肉のふでとるにふるへるのほかたえて平和ならざるなし
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
たのしみは、わらはすみするかたはらに、ふではこびをおもひをるとき
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
隠元いんげんの八十一歳のふでといふ老いしひじりおもしおもほゆ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ふで禿びて返り咲くべき花もなし
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
ふで書くんだ……。
二郎じろうは、自分じぶんをそのきゅうりにきました。きゅうりのあおいつやつやとしたはだは、二郎じろうこうとするふでさきすみをはじきました。
遠くで鳴る雷 (新字新仮名) / 小川未明(著)
(あたゝかなるやうに土中にうづめ又はわらにつゝみ桶に入れてこほらざらしむ)其外雪の用意ようい種々しゆ/″\造作ざうさをなす事ふでつくしがたし。
或る朝は偏頭痛へんとうつうを感じてふでる氣力もなく、苛苛いらいらしい時を過した。それ等は私にとつては恐らく一生忘れがたところの、産みの苦しみだつた。
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
おいらのふのはよめさんのことさ、年寄としよりはどうでもいとあるに、れは大失敗おほしくじりだねとふでやの女房にようぼうおもしろづくに御機嫌ごきげんりぬ。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「成程たゞふでが達者な丈ぢや仕様があるまいよ」と代助は別に感服した様子を見せなかつた。すると、平岡はう云つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「若主人の藤吉と、彌惣の伜の彌三郎が、番頭彦三郎の娘のおふでを張り合つて、若主人の方に札が落ちたことから——」
はたけすみ堤燈ちやうちんをぶらさげたやうな酸醤ほゝづきが、とうさんに酸醤ほゝづきれまして、そのしんしてしまつてから、ふるふでぢくいて御覽ごらんをしへてれました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
其頃そのころ歐羅巴エウロツパしよ新聞しんぶんふでそろへて、弦月丸げんげつまる遭難さうなん詳報しやうほうし、かの臆病をくびやうなる船長等せんちやうら振舞ふるまひをばいた攻撃こうげきするとともに『日本人につぽんじんたましひ。』なんかと標題みだしいて
其れから僕の万年ふでをひつたくる様にして、晶子の小さな手帳へ自画像と酒場キヤバレエの別名と自分の名とを書いた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ただ、銀泥色絵ぎんでいいろえふすまのまえには、蒔絵まきえ硯蓋すずりぶたふでが一本落ちてあって、そこにいるはずの咲耶子さくやこのすがたも見えず、お小姓こしょう星川余一ほしかわよいちのかげも見当みあたらなかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ロレ あれはヂョンばうこゑぢゃ。……さてようこそおもどりゃったマンチュアから。してロミオはなん被言おしゃった? ふでものせられたならば、その書面しょめんせやれ