わた)” の例文
四国しこくしまわたって、うみばたのむら托鉢たくはつしてあるいているうちに、ある日いつどこでみち間違まちがえたか、山の中へまよんでしまいました。
人馬 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
入り江の海をみずうみのような形にみせる役をしている細長いみさきの、そのとっぱなにあったので、対岸の町や村へゆくには小舟でわたったり
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
わたし其時分そのじぶんなんにもらないでたけれども、母様おつかさん二人ふたりぐらしは、この橋銭はしせんつてつたので、一人前ひとりまへ幾于宛いくらかづゝつてわたしました。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かがやいて、あたたかなかぜが、やわらかなくさうえわたるときは、ふえうたこえは、もつれあって、あかるいみなみうみほうながれてゆきました。
港に着いた黒んぼ (新字新仮名) / 小川未明(著)
白髯しらひげわたし。……隅田川に残っているたった一つの渡しである……といっても、それとて、むかしのまんま残ってはいないのである。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
しかしわたくしは三かわらしいものをわたったおぼえはない……閻魔様えんまさまらしいものにった様子ようすもない……なになにやらさっぱりちない。
「よろしゅうございます。南十字サウザンクロスきますのは、つぎだい三時ころになります」車掌しゃしょうは紙をジョバンニにわたしてこうへ行きました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
出合頭であいがしらに突当ろうとしたのは、やはり二人づれの酔どれ、どこぞの部屋のわた仲間ちゅうげんと見える。よくない相手にとっつかまった兵馬は
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
両岸から鉄線はりがねったあぶなげな仮橋が川をまたげて居る。橋の口に立札がある。文言もんごんを読めば、曰く、五人以上同時にわたる可からず。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
わたりや繁殖の状態を調べるために、春は富士の裾野すその、夏は蓼科たでしなという工合に、年じゅう小鳥のあとばかり追っかけてあるいている。
キャラコさん:06 ぬすびと (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
これ政府せいふ指導しだうまた消費節約せうひせつやく奬勵しやうれいわたつたとふよりも、むし國民自體こくみんじたい事柄ことがら必要ひつえうかんじてつたからだとおもふのである。
金解禁前後の経済事情 (旧字旧仮名) / 井上準之助(著)
それは、しろ公を、れいの「さっぱ船」にのせ、自分が船をこいで、とうとうおっかさんのおさとまで、入江いりえわたってしまったのです。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
そこで天皇てんのう大勢おほぜい家來けらいたちをおつれになりそのながい/\丸木橋まるきばしうへをおわたりになつたといふことが、日本書紀につぽんしよきといふほんてゐます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
「片言もってごくさだむべきものは、それゆうか」などという孔子の推奨すいしょうの辞までが、大袈裟おおげさ尾鰭おひれをつけてあまねく知れわたっていたのである。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ぼくも臆面おくめんなく——かにかくにオリムピックのおもとなりにし人と土地のことかな、——と書きなぐり、中村嬢にわたしておきました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「おいこれ一寸ちよつと其所そこいてれ」とわたすと、きよめうかほをして、不思議ふしぎさうにそれを受取うけとつた。御米およねおく座敷ざしき拂塵はたきけてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「では、われわれと大久保家おおくぼけしんと、武技をたたかわせたうえに、その勝ったるほうへ、咲耶子さくやこわたしてくださるというのですな」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それからふたりは、若い者たちに、スカンポの森をみんなゆずりわたして、しょっちゅう口にしていることを、言い聞かせました。
それでは引導いんだうわたしてげよう。グワン/\とかね打鳴うちならし、和「南無喝囉怛那なむからたんの哆羅夜耶とらやや南無阿唎耶なむおりや婆慮羯諦爍鉢羅耶ばりよぎやていしふふらや菩提薩※婆耶ふちさとばや。 ...
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
仕方しかたがない矢張やつぱわたし丸木橋まるきばしをばわたらずはなるまい、とゝさんもふみかへしておちてお仕舞しまいなされ、祖父おぢいさんもおなことであつたといふ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
わたしは、つんつるてんの短い上着を着たまま、じっとそこにって、死刑しけいを言いわたされた囚人しゅうじんよろしくのていでゆかを見つめていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
それも思えば一家の貧窮がKの心にわたったしるしだった。君はひとりになると、だんだん暗い心になりまさるばかりだった。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
前年さきのとし江戸にありし時右の事をさき山東翁さんとうをうにかたりしに、をういはく世路せいろなだ総滝そたきよりも危からん、世はあしもとを見てわたるべきにやとてわらへり。
がたおそろしさはいなづまごとこころうちひらめわたって、二十有余年ゆうよねんあいだ、どうして自分じぶんはこれをらざりしか、らんとはせざりしか。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
この天皇の御代みよには、新羅しらぎの国の人がどっさりわたって来ました。武内宿禰たけのうちのすくねはその人々を使って、方々に田へ水を取る池などをりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
女はたちまち帰り来りしが、前掛まえかけの下より現われて膳にのぼせし小鉢こばちには蜜漬みつづけ辣薑らっきょう少しられて、その臭気においはげしくわたれり。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
よくもしらべずわたしたもので、引取人の乙吉が生れつきの粗忽者であることを知らなかったせいであると、当直とうちょくは断定した。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「……それじゃけに……引導をば……わたいてくれたとぞ……貴様を……ころいたとは……このオレサマぞ……アハ……アハ……」
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
おつぎは二ちやうばかり上流じやうりう板橋いたばしわたつてつて、やうやくのことでえだげてそのはりをとつた。さうしてまた與吉よきちぼうけてやつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
お馬のジヤンコジヤンコもおもしろいでせう。それにまた、「そりやまだわかい。若船わかぶねつて、からまでわたれ。」(紀伊)といふのもあります。
お月さまいくつ (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ミシンや裁台たちだいなどの据えつけに、それでもなお足りない分を、お島の顔でやっと工面ができたところで、二人のわた職人しょくにんと小僧とを傭い入れると
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
四十もんにてかひ炮烙はうろくにて是をいり金紙きんがみに包み鄭重たいそうらしくしておつねに密とわたしければお常はよろこ金子きんすを玄柳につかはしおくま倶々とも/″\あつく禮を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
此後こののち杉村氏すぎむらしは、東京朝日とうきやうあさひ世界せかいしう會員くわいゐんともに、米國べいこくわたり、ボストンにてはからずモールス面會めんくわいし、余等よらとも大森貝塚發掘おほもりかひづかはつくつことかた
あまわたる梶の葉に思ふこと書く頃も過ぎ、何時いつしか秋風の哀れを送る夕まぐれ、露を命の蟲の音の葉末にすだく聲悲し。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
それから半年ほどたつたとき、ちの一万二千三百七十五がうの△△債劵さいけん仲買なかがひ人をて、ある田なかの大地主ぢぬしわたつてゐた。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
和歌わかうらしほがさしてると、遠淺とほあさうみ干潟ひがたがなくなるために、ずっと海岸かいがんちかくにあしえてゐるところをめがけて、つるいてわたつてる。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
大佐たいさきた! 大佐たいさきたる! 櫻木大佐さくらぎたいさ電光艇でんくわうていきたる※。』とさけひゞき砲聲ほうせい絶間たえま全艦ぜんかんわたると、軍艦ぐんかん」の士官しくわん水兵すいへい一時いちじ動搖どよめき。
おれの祖先は、わたり者かも知れない。魚をってカツカツ食って行ったのであろう」そういいながらも、貧乏びんぼうをして何日も飯が食えぬと私を叩き
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
月島つきしま埋立工事うめたてこうじが出来上ると共に、築地つきぢの海岸からはあらた曳船ひきふねの渡しが出来た。向島むかうじまには人の知る竹屋たけやわたしがあり、橋場はしばには橋場はしばわたしがある。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それらは當時とうじ支那しなからわたつた石材せきざいせて、つくつたものとおもはれます。またこのうつくしい楕圓形だえんけいいし眞中まんなかに、あなのあるものなどもあります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
それから、わたもりが年がら年じゅういったりきたりして、ひとをわたしているのに、かわりの人がさっぱりこないというのは、どうしてなんですか。
「さようでございますか。そこで、富士見の馬場へ飛びこんでみますと、大分の人数がわたっておりますので……」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
結局お辰はいい負けて、素手では帰せぬ羽目になり、五十銭か一円だけ身を切られるおもいでわたさねばならなかった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「メモ用の紙が一枚、机の足のところにおちていたのを、来るとすぐひろいあげて、ぼくにわたしてくれたんです。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
しかし一度発覚され、知れわたった限りは、役目として、それを取調べなければならなかった。犯人をせんさくし出さなければ、役目がつとまらなかった。
(新字新仮名) / 黒島伝治(著)
岡町をかまち中食ちうじきをして、三國みくにから十三じふそわたしにしかゝつたときは、もうなゝごろであつた。渡船とせんつてゐるので、玄竹げんちくみち片脇かたわきつて、つてゐた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
そのころは、わたり鳥たちはよその国へいってしまい、ネズミたちはこおった地面の下にかくれ、ニワトリたちは小屋の中にとじこめられていたのですから。
数旬をやまいいえ退院たいいんせんとする時、その諸費をはらわんとせしに院吏いんりいう、君の諸入費しょにゅうひ悉皆しっかい福沢氏よりはらわたされたれば、もはやその事に及ばずとなり。
さて我楽多文庫がらくたぶんこの名がやうや書生間しよせいかんに知れわたつて来たので、四方しはうから入会を申込まをしこむ、社運隆盛といふことば石橋いしばし口癖くちぐせのやうに言つてよろこんでたのは此頃このころでした
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
たけなかからひろつてこの年月としつき大事だいじそだてたわがを、だれむかへにようともわたすものではない。もしつてかれようものなら、わしこそんでしまひませう
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)