あら)” の例文
それでどんなあらえびすでも、虎狼とらおおかみのような猛獣もうじゅうでも、田村麻呂たむらまろ一目ひとめにらまれると、たちまち一縮ひとちぢみにちぢみあがるというほどでした。
田村将軍 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
モミの木は、ちょっとあらっぽくゆかに投げだされましたが、すぐに下男が、お日さまの照っている、階段の方へ引きずっていきました。
そも/\くま和獣わじうの王、たけくしてる。菓木このみ皮虫かはむしのるゐをしよくとして同類どうるゐけものくらはず、田圃たはたあらさず、まれあらすはしよくつきたる時也。
(今度は悠然ゆうぜんとしてきざはしくだる。人々は左右に開く)あらび、すさみ、濁り汚れ、ねじけ、曲れる、妬婦ねたみおんなめ、われは、先ず何処いずこのものじゃ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
両者の距離はたちまちつまった。宮のお伴鬼佐渡、あら土佐、刑部俊秀必死に防ぎ戦ううち次々と討死、一本の矢が宮の脇腹を射抜いた。
女を待ちうけている仁右衛門にとっては、この邪魔者の長居しているのがいまいましいので、言葉も仕打ちも段々あららかになった。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
身動きもせぬ人々のその影は、いまにも沸き起こる悪魔のあらびの一瞬前の静寂しずけさのように、神秘とも凄惨とも云おうようなく見えました。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
わたしはお稻荷いなりさまの使つかひですよ。このやしろ番人ばんにんですよ。わたしもこれでわか時分じぶんには隨分ずゐぶんいたずらなきつねでして、諸方はう/″\はたけあらしました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
この宇陀には、兄宇迦斯えうかし弟宇迦斯おとうかしというきょうだいのあらくれ者がおりました。命はその二人のところへ八咫烏やたがらすを使いにお出しになって
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
かれその横刀たちを受け取りたまふ時に、その熊野の山のあらぶる神おのづからみな切りたふさえき。ここにそのをえ伏せる御軍悉に寤め起ちき。
さかなや、また底深そこぶかうみなかんでいる、あらい、いろいろな獣物けものなどとくらべたら、どれほど人間にんげんのほうに、こころ姿すがたているかしれない。
赤いろうそくと人魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
が、くさたけ落葉おちばは、一めんあらされてりましたから、きつとあのをとこころされるまへに、餘程よほど手痛ていたはたらきでもいたしたのにちがひございません。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そのぞうがまた、平素へいそはごくあらっぽいのに、その時ばかりは、王子をにのせたまま、おとなしくのそりのそりと歩いているのではありませんか。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「ここら、岩もやわらかいようだな。」と云いながらすなおに私たちに貸し、自分はまた上流じょうりゅうなみあらいところにあつまっている子供こどもらの方へ行きました。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
吾子わこよ。吾子の為了しをふなんだあらび心で、吾子よりももつと深い猛び心を持つた者の、大和に来向ふのを、待ち押へ、塞へ防いで居ろと仰せられた。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
といって、あれほどご執心では、生仲なことではおひきにはなるまいし、あらけた話をして喧嘩にしてしまうのも困る。
姦(かしまし) (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それに、一方が、御承知のあらくれでございます。わたくしどもの前でさへ、ずゐぶん眼にあまることもございました。
(新字旧仮名) / 岸田国士(著)
待てしばし、るにても立波たつなみあら大海わたつみの下にも、人知らぬ眞珠またまの光あり、よそには見えぬ木影こかげにも、なさけの露の宿するためし
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
われと籠を作って籠の中の鳥になって居るのが可笑おかしくもある。但花や果物を無暗にあらされたり、無遠慮なお客様にわずらわさるゝよりまだ可と思うて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しずかにかたをかけたが、いつもと様子ようすちがったおせんは、はははらうようにして、そのままたたみざわりもあらく、おのが居間いまんでった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
いま支那海シナかい波濤はたうつて進航しんかうしてるから、よし此後このゝちなみたかくとも、かぜあらくとも、二せん諸君しよくん面前めんぜんあらはれるのは最早もはとほことではあるまいとおもふ。
その最もはなはだしい時に、自分は悪いくせで、女だてらに、少しガサツなところの有る性分しょうぶんか知らぬが、ツイあらい物言いもするが、夫はいよいよおこるとなると
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ころ勘次かんじにはくりこずゑも、それへ繁殖はんしよくして残酷ざんこくあら栗毛蟲くりけむしのやうな毒々どく/\しいはなやうやしろつて
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
障子の内で聞く鹽原角右衞門も堪え兼る親子の情合じょうあい、思わず膝へはら/\と涙を落しましたが、流石さすがに武家魂は違ったもの、きっと思い返して声をあららげ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
鉱石庫かなぐらの外やうちではたらいていたあらくれ男は、その山笛をきくと持っているつち天秤てんびんもほうりなげて、ワラワラと熊蔵のいる土手どての下へあつまってきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんなふう薪炭用しんたんよう建築土木用けんちくどぼくよう木纎維用等もくせんいようなどのために森林しんりんはどん/\たふされ、ふかやま、ふかい谷底たにぞこ森林しんりんまでがだん/\にあらされるようになりました。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
次第次第に霞が浦の水の上に響いて行く時は、わかさぎを漁して戻る島のあらも身震いしてかじをとどめた。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
その室のかべというのは新しいあらけずりの松板でヴァニスをかけただけですから、節がよく見えていました。
きることもそうだが、土が見られないのと、土のうつくしさがあらされることもおもな原因だった。そこで彼の命令によって民さんは篠竹の株を起しはじめた。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
漸々やう/\ふかくならんとす人影ひとかげちらほらとまれになるをゆきはこゝ一段いちだんいきほひをましてりにれどかくれぬものは鍋燒饂飩なべやきうどんほそあはれなるこゑおろ商家しやうかあらたかおと
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
むかしちがつて気があらくなつてこまるわ」と云つて、三千代みちよは暗に同情を求める様子であつた。代助はだまつてゐた。下女がかへつてて、勝手ぐちでがた/\おとをさせた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
や八畝はあらすともままよと覚悟して、しばらく捨ておき、草少なく手軽なるところより片付くべし。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
翌日になると、村人がおどろいたが、その石を動かすには百人ばかりの人足が必要である。その上、そんな多人数を入れたのでは、田が滅茶滅茶めちゃめちゃあらされてしまう。
大力物語 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
かうして鎔岩ようがんあらされた損害そんがいおほきいが、それよりも火山灰かざんばひのために荒廢こうはいした土地とち損害そんがい地盤沈下じばんちんかによつてうしなはれた附近ふきん水田すいでんあるひ鹽田えんでん損害そんがいはそれ以上いじようであつて
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
はじめから気質きしつはない家族かぞくとの折合をりあひふにしたがつて円滑ゑんくわつにはかなくなり、なにかにつけておたがひかほあからめ言葉ことばあらくするやうなこと毎日まいにちのやうになつてたので
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
父の声はいつになくあらかった、芳輔は上目うわめ使いに両親の顔をぬすみ見しながら、からだをもじりもじり座敷ざしきのすみへすわった。すわったかとするともうよそ見をしてる。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「それだけあらっぽいです。えんりょってことがありません。いったいあれはだれの家来ですか?」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ゴト/\とゆかおと、そしてり/\ふゆちまたあら北風きたかぜまどガラスをかすめるひゞきである。
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
元々人気じんきあらい土地で、かつて子路自身も孔子に従ってこの地で暴民に襲われたことがある。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「興奮し過ぎた頭のせゐです——きつとさうだ。私はあなたを、私の寶を守らなくてはならぬ。あなたみたいな神經の人はあらつぽい扱ひ方をするやうには出來てゐないのだ。」
はなはだしきに至りては彼の病中余の援助を乞うにあたって——たとい数月間の看護のために余の身も精神も疲れたるにもせよ——あららかなる言語ことばを以てこれに応ぜざりし事ありたり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
周三はえず此の事に就いて考えてゐた。雖然周三とてもさすがに世の中のなみあらいことを知つてゐた。で熱する頭を押へて、愼重しんちよう詮議せんぎする積で、今日けふまで躊躇ぐづ/″\してゐたのであつた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
それをあらまし分類してみたうえでないと、是にって種族の親近を説くことは危ない。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
一度昼時分意地悪の職人が娘を片蔭へ呼んで何か声をあららげて言つてゐた事がある。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
それからまた石斧せきふうちに、みがいてつくらずして、たゞいしちわつてつくつたごくあら粗末そまつをのがあります。それには細長ほそなが短册型たんざくがたのものもありますが、ときには分銅型ふんどうがたのものもあります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
これだけあらした權現臺ごんげんだいは、其後そののち幾變遷いくへんせんして、以前もとさまられぬ。四十一ねんなつつてると、鷄屋とりやさへくなつてしまつてる。幻花子げんくわし鷄屋とりや出來できまへからつてるのだ。
潮騒しほさゐ伊良虞いらご島辺しまべふねいもるらむかあら島回しまみを 〔巻一・四二〕 柿本人麿
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
この苛酷かこくなる判決をけるために、げんたくみにしいろくせんとする者も、つとめてあらあらしくするふうがある。心の内と外の風采ふうさいと一致せぬことは、西洋よりも日本において最もはげしい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
うめいて、紫色むらさきいろ雑木林ざふきばやしこずゑが、湿味うるみつたあをそらにスク/\けてえ、やなぎがまだあら初東風はつこちなやまされて時分じぶんは、むやみと三きやく持出もちだして、郊外かうぐわい景色けしきあさつてあるくのであるが
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
きるように、楽しく生きるように頑固がんこに出来上ってる、丈夫じょうぶ騒々そうぞうしいあらっぽいクラフトの人たちの間にあって、いわば人生の外側そとがわはしっこにうち捨てられてるこの弱い善良ぜんりょう二人ふたり
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)