ちひさ)” の例文
寺の扉にはちひさき眞鍮の十字架を打ち付けたりき。その處はおほよそ扉の中程にてわれは僅に手をさし伸べてこれに達することを得き。
六月に氷をみる事江戸の目には最珍いとめづらしければ立よりて熟視よくみれば、深さ五寸ばかりの箱に水をいれその中にちひさ踏石ふみいしほどの雪の氷をおきけり。
円髷まるわげに結ひたる四十ばかりのちひさせて色白き女の、茶微塵ちやみじんの糸織の小袖こそでに黒の奉書紬ほうしよつむぎの紋付の羽織着たるは、この家の内儀ないぎなるべし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
こせ/\とちひさい部屋の多い、薄ぎたない家で、べた/\お白いをつけた不別嬪が四人も五人もゐる。そのうちの一人が出て來て
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
二階へあがつた時今度空いた向ひのちひさい家へ移ることを修さんにふうされた。古尾谷さんに教へて貰つたが今日けふはよく覚えられた。
六日間:(日記) (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
汝の信ずる所正し、そは大いなるもちひさきもすべてこの生をくる者は汝の思ひが未だ成らざるさきに現はるゝかの鏡を見ればなり 六一—六三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
が、さむさはさむし、こたつのあなみづたまりをて、胴震どうぶるひをして、ちひさくなつてかしこまつた。夜具やぐ背負しよはして町内ちやうないをまはらせられないばかりであつた。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まるい月は形が大分だいぶちひさくなつて光があをんで、しづかそびえる裏通うらどほりのくら屋根やねの上、星の多い空の真中まんなかに高く昇つてた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
けれどもぼく故郷くに二萬石にまんごく大名だいみやう城下じやうかで、縣下けんかではほとんどふにらぬちひさまちこと海陸かいりくとも交通かうつう便べんもつとかいますから、純然じゆんぜんたる片田舍かたゐなか
日の出 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
木曾馬きそうまちひさいが、足腰あしこし丈夫ぢやうぶで、よくはたらくとつて、それをひに博勞ばくらう毎年まいねん諸國しよこくからあつまります。博勞ばくらうとはうま賣買うりかひ商賣しやうばいにするひとのことです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
聞て幸ひぎんの松葉のちひさ耳掻みゝかきほししと有る故直段ねだんも安くうり彼是かれこれする中に雨もやみしかば暇乞いとまごひしてかへりけり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
今多く結つて居るまげは毛をちひさく分けて指の先でふうわりと一寸程の高さの輪に巻いてピンを横に差して押さへた、はたを織るの中の管糸巻くだいとまきの様なのを、多いのは二十程
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ちひさい時分から覇気のさかんな、才気に溢れた、一時は東京に出て、まだ二十はたちにも足らぬ齢で著書の一つも出した渠——その頃数少き年少詩人の一人に、千早林鳥ちはやりんてうの名のあつた事は
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
女子をなごどもは何時いつしか枕元まくらもとをはづして四邊あたりにはちゝはゝ正雄まさをのあるばかり、いまいふことわかるともわからぬともおぼえねども兄樣にいさん兄樣にいさんちひさこゑべば、なにようかと氷嚢こほりぶくろ片寄かたよせて傍近そばちかるに
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
漸次ぜんじ人勢にんずえておほきな内側うちがはさらちひさゑがかれた。太鼓たいこ倦怠だれれば
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
鶯の鳴くやちひさき口あけて
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
ちひさい声で
のきばすずめ (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
六月に氷をみる事江戸の目には最珍いとめづらしければ立よりて熟視よくみれば、深さ五寸ばかりの箱に水をいれその中にちひさ踏石ふみいしほどの雪の氷をおきけり。
あるひは飲過ぎし年賀の帰来かへりなるべく、まばらに寄する獅子太鼓ししだいこ遠響とほひびきは、はや今日に尽きぬる三箇日さんがにちを惜むが如く、その哀切あはれさちひさはらわたたたれぬべし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
「学歴は小学校卒業程度の者だつて、十五歳以上の男子つて、まあそんなにちひさくてもいゝのかしら、日給は三十五銭。」
月夜 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
すさまじくいなゝいて前足まへあし両方りやうはう中空なかぞらひるがへしたから、ちひさ親仁おやぢ仰向あふむけにひツくりかへつた、づどんどう、月夜つきよ砂煙すなけぶり𤏋ぱツつ。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
きはめて一直線な石垣いしがきを見せた台の下によごれた水色のぬのが敷いてあつて、うしろかぎ書割かきわりにはちひさ大名屋敷だいみやうやしき練塀ねりべいゑが
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
母上のいかにフラア・マルチノとはかり給ひて、その日とはなりけむ。そはわれ知らでありしに、或る朝母上は、我にちひさき衣を着せ、其上に白衣を打掛け給ひぬ。
暗い部屋の隅の方に影のやうに動くちひさな動物の敏捷はしこさ、人を人とも思はず、長い尻尾を振り乍ら、出たり入つたりする其有様は、憎らしくもあり、をかしくもあり
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
淡い焔がメラ/\と立つかと見ると、直ぐ消えて了ふ。と、渠は不揃な火箸を取つて、白くなつてちひさく残つてゐる其灰をつつく。突いて、突いて、そして上げた顔は平然けろりとしてゐる。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
舟の進むにつれて此ちひさな港の聲が次第に聞えだした。
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
もらひ持參せし由其酒にて醉伏ゑひふし相果あひはて候事と存じられ候と聞より彌々いよ/\不審いぶかしく思ひ次右衞門申樣右寶澤の顏立かほだち下唇したくちびるちひさ黒痣ほくろ一ツ又左の耳の下に大なる黒痣ほくろ有しやと聞に如何にも有候とこたへるにぞ然ば天一坊は其寶澤に相違さうゐなしと兩士は郡奉行遠藤喜助にむかひ其寶澤の衣類等いるゐとう御座候はゞ證據しようこにも相成るべく存じ候へば申受度と云に喜助きすけ申樣夫は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
つひに彼はこのくるしみを両親に訴へしにやあらん、一日あるひ母と娘とはにはかに身支度して、忙々いそがはしく車に乗りて出でぬ。彼等はちひさからぬ一個ひとつ旅鞄たびかばんを携へたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
もすそ濡縁ぬれえんに、瑠璃るりそらか、二三輪にさんりん朝顏あさがほちひさあはく、いろしろひとわきあけのぞきて、おび新涼しんりやうあゐゑがく。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
洋服などはちひさくなるのですから下へ譲つてかなければならないではありませんか、さうした物質的のことで親の愛の尺度は解るものではありません。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
こやしをのする輴哥そりあり、これをのするほどにちひさく作りたる物なり。二三月のころも地として雪ならざるはなく、渺々びやう/\として田圃たはた是下このしたりて持分もちぶんさかひもさらにわかちがたし。
片側かたかは朝日あさひがさし込んでるので路地ろぢうち突当つきあたりまで見透みとほされた。格子戸かうしどづくりのちひさうちばかりでない。昼間ひるま見ると意外に屋根やねの高いくらもある。忍返しのびがへしをつけた板塀いたべいもある。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
山影やまかげながらさつ野分のわきして、芙蓉ふようむせなみ繁吹しぶきに、ちひさりんにじつ——あら、綺麗きれいだこと——それどころかい、馬鹿ばかへ——をとこむねたらひ引添ひきそひておよぐにこそ。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
こやしをのする輴哥そりあり、これをのするほどにちひさく作りたる物なり。二三月のころも地として雪ならざるはなく、渺々びやう/\として田圃たはた是下このしたりて持分もちぶんさかひもさらにわかちがたし。
初秋はつあきちひさ篳篥ひちりきを吹くすいつちよよ。
そぞろごと (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
蟋蟀こほろぎでさへ、むしは、宛然まるで夕顏ゆふがほたねひとつこぼれたくらゐちひさくつて、なか/\見着みつかりませんし、……うしてつかまりつこはないさうです……貴女あなたがなさいますやうに
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
くだんの亀の化石、本草家の鑒定かんてい秦亀しんきならば一そうちんますべし。山にてほりたりとあれば秦亀しんきにちかきやうなり。化石といふものあまた見しに、多はちひさきものにてあるひはまたかたちまつたきまれなり。
ちひさく憎き吸血魔
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
戀々れん/\として、彽徊ていくわいし、やうやくにしてさとくだれば、屋根やねひさし時雨しぐれ晴間はれまを、ちら/\とひるひともちひさむしあり、小橋こばし稚子等うなゐらうたふをけ。(おほわた)い、い、まゝはしよ。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
くだんの亀の化石、本草家の鑒定かんてい秦亀しんきならば一そうちんますべし。山にてほりたりとあれば秦亀しんきにちかきやうなり。化石といふものあまた見しに、多はちひさきものにてあるひはまたかたちまつたきまれなり。
おどろいて、じつとれば、おりうげた卷煙草まきたばこそれではなく、もやか、きりか、朦朧もうろうとした、灰色はひいろ溜池ためいけに、いろやゝく、いかだえて、天窓あたままるちひさかたち一個ひとつつてしやがむでたが
三尺角拾遺:(木精) (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
糠雨ぬかあめ朧夜おぼろよに、ちひさ山廓さんかくほこらまへやぶみののしよぼ/\した渠等かれら風躰ふうてい、……ところが、お年貢ねんぐ、お年貢ねんぐ、ときこえて、未進みしん科条くわでう水牢みづらうんだ亡者もうじやか、百姓一揆ひやくしやういつき怨霊おんりやうか、とおもく。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あたりは眞暗まつくらところに、むしよりもちひさ身體からだで、この大木たいぼくあたか注連繩しめなはしたあたりにのこぎりつきさしてるのに心着こゝろづいて、恍惚うつとりとしてみはつたが、とほくなるやうだから、のこぎりかうとすると
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あたり公園こうゑんひろいけあり。ときよし、かぜよしとて、町々まち/\より納涼すゞみひとつどふ。わらべたち酸漿提灯ほゝづきぢやうちんかざしもしつ。みづともしびうつくしきよるありき。みぎはちひさふねうかべて、水茶屋みづぢやや小奴こやつこ莞爾にこやかに竹棹たけざをかまへたり。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)