-
トップ
>
-
旅鞄
遂に彼はこの
苦を両親に訴へしにやあらん、
一日母と娘とは
遽に身支度して、
忙々く車に乗りて出でぬ。彼等は
小からぬ
一個の
旅鞄を携へたり。
下坂は、
動が
取れると、一
名の
車夫は
空車を
曳いて、
直ぐに
引返す
事になり、
梶棒を
取つて
居たのが、
旅鞄を
一個背負つて、
之が
路案内で
峠まで
供をすることになつた。
車のあとより車の多くは
旅鞄と客とを載せて、一里先なる
停車場を指して走りぬ。
膳の通い茶の通いに、久しく
馴れ
睦みたる
婢どもは、さすがに後影を見送りてしばし
佇立めり。